Tuesday 23 August 2016

ドラマ 受験のシンデレラ

2016年 NHK 原作:和田秀樹『受験のシンデレラ』(2008年小学館)

分数 三角関数 積分 実数 直円錐

人気塾講師五十嵐透が貧しい高校生遠藤真紀を東大に合格させようとする話です.1/2+1/3=2/5と答えた真紀に対し,お好み焼きを6等分して1/2+1/3=5/6を説明していました.

第3話
オープニングクレジット(Opening credits)にいくつかの問題が一瞬だけ表示されます.

①sinθ-cosθ=14となるとき,sinθcosθの値を求めよ.
この問題は,第4話から「sinθ-cosθ=1/4となるとき」に訂正されていました.高校数学Ⅱの三角関数の合成を習うと,sinθ-cosθ=√2sin(θ-π/4)と変形でき,この値の絶対値は√2より小さいことが分かりますから,sinθ-cosθ=14はあり得ません.たぶん,視聴者からの指摘があって訂正したのではないかと思われます.訂正された問題の正解は15/32になります.解いてみてください.
第4話

他にもかすかに問題が読み取れました.

②曲線y=x^2+x+2-2xと直線y=2mx+2で囲まれる部分の面積が最小値となる定数mを求めよ.
この曲線の式は同類項xと-2xがまとめられていないのが既におかしいですね.まとめると曲線y=x^2-x+2となりますが,このまま解くと面積の最小値が0(このときm=-1/2)になってしまって,間違いではないですが少しおかしな問題になります.

③実数t,x,y,zが下の条件を満たす.x,y,zのうち,2つが等しい値となるときのtの値を求めよ.
x+y+z=t
x^2+y^2+z^2=t^2-t+10
x^3+y^3+z^3=t^3-3t^2+4t+12
いろいろやってみましたが,すっきりした値が出ないので,zをyに置き換えてWolframAlphaに
solve x+2y=t,x^2+2y^2=t^2-t+10,x^3+2y^3=t^3-3t^2+4t+12
と入力してみたら,有効数字6桁のtの値が5つ出てきました.問題のどこかが間違っているような気がします.

④直円錐の頂点をP,底面の直径の両端をA,B,線分APの中点をQとする.このとき,点BからQに至る最短距離を求めよ.
これは具体的な値が与えれていないので,文字だけで計算することになります.母線APの長さをR,底面の半径をrとして,展開図の側面の扇形を考え,線分BQの長さを求めればいいですね.側面の扇形の中心角をθとすれば,θ=2πr/Rなので,△PQBの∠P=θ/2=πr/Rとなり,PB=R, PQ=R/2なので,余弦定理より
$BQ^2=R^2+\left(\frac{R}{2}\right)^2-2\cdot R\cdot\frac{R}{2}cos\frac{\pi r}{R}$
よって,BQの長さは次式になります.
$BQ=R\sqrt{\frac{5}{4}-cos\frac{\pi r}{R}}=\frac{R}{2}\sqrt{5-4cos\frac{\pi r}{R}}$

このドラマの原作者は東大卒の精神科医で,大学受験対策本や啓蒙書も多数執筆されていて,中には「なぜ数学が得意な人がエグゼクティブになるのか」とか「数学は暗記だ!」など,ちょっと気になる本も出されています.

(2017年1月3日追記)
最終回(2016年8月28日放送)の中で2017年1月15日センター試験「数学Ⅰ・数学A」の問題が少しだけ映っていました.もちろんフィクションなので本物ではありません.実際は,第1問から第3問が必答で,第4問~第6問から2問選択ですが,ドラマでは必答にすべき2次関数の問題が選択になっていました.読み取った問題を掲載しますので解いてみてください.

(ドラマの中の問題)
数学Ⅰ・数学A
第5問(選択問題)(配点 20)
2次関数
      y=-x^2+2x+1  …①
のグラフの頂点の座標は(ア,イ)である.また
      y=f(x)
はxの2次関数で,そのグラフは,①のグラフをx軸方向にp,y軸方向にqだけ平行移動したものであるとする.
(1) 下の(ウ)(オ)には次の⓪~④のうちから当てはまるものを一つずつ選べ.ただし,同じものを繰り返し選んでもよい.
      ⓪> ①< ②≧ ③≦ ④≠
2≦x≦4におけるf(x)の最大値がf(2)になるようなpの値の範囲は
      p(ウ)(エ)
であり,最小値がf(2)になるようなpの値の範囲は
      p(オ)(カ)
である.
(2) 2次不等式f(x)>0の解が-1≦x≦5になるのは
      p=(キ) q=(ク)
のときである.
(3) 2次不等式f(x)>1の解が-1≦x≦5になるのは
      p=(ケ) q=(コ)
のときである.

二次関数の最大値/最小値を求めたり,二次不等式を解くだけなら易しいのですが,このように,解が先に分かっていて元の関数の式を決定する問題は少し難しくなります.ドラマの中での主人公の解答は(カ)と(コ)が間違っていましたが,全科目900点満点中728得点だったので良かったですね.

(正解)
(1) (ア,イ)(1, 2)   (ウエ)≦1   (オカ)≧2
(2) (キ)1   (ク)7   (ケ)1   (コ)8

GeoGebraで正解を確認できるものを作ってみました.pとqの値を変えてみてください.
https://www.geogebra.org/m/CT4gKJvV

Monday 22 August 2016

映画 Hidden Figures (予告編)

2016年 米国 Directed by Theodore Melfi, Distributed by 20th Century Fox

等辺 台形 二等辺 正四面体 4次方程式

まだ人種差別法が存在していた1960年代、NASA(アメリカ航空宇宙局)でマーキュリー計画に数学で貢献した実在のアフリカ系アメリカ人女性Katherine Johnsonたちを描いた映画です.2016年8月現在,まだ公開されていないので,予告編を見ただけでこれを書いています.
▼Katherine "equilateral, trapezoid, isosceles, tetrahedlon,....."
Teacher "I've never seen a mind like the one your daughter has."
最初の4語は,等辺,台形,二等辺,正四面体です.equilateral triangleなら正三角形,equilateral quadrilateralなら等辺四角形すなわちrhombus(菱形),isosceles triangleなら二等辺三角形になります.その次が,小学生の時の先生が両親にKatherineの才能について話した台詞です.飛び級していたのでしょうか,Katherineが高校生のクラスで,2次式×2次式=0という4次方程式を解く場面がありました.

$(x^2+6x-7)(2x^2-5x-3)=0$
$(x+7)(x-1)(2x+1)(x-3)=0$
$x=-7,\quad  1,\quad  -1/2,\quad  3$

日本語のタイトルは何だろうと思って探しましたが見つからないので機械翻訳してみると,「隠された数」「隠された図」などが出てきたのですが,figureには人物の意味もあり,栄光の陰で支えた人たちを描いているので,「陰で活躍した人たち」がいいのではないかと思います(検索したら中国語のサイトには「隐藏人物」と出てきました).

Tuesday 9 August 2016

アニメ 山田君と7人の魔女 第1話

2014年 原作:吉河美希 製作:講談社(OAD)

ベクトル 微分積分

身体を入れ替ることができる不良生徒山田竜と優等生白石うらら,他に数名が超常現象研究部をつくって,同じ高校にいる7人の魔女探しをするという話です.冒頭でいきなり数学Ⅱの小テストの答案が現れ,できなかった山田竜を先生が叱っている場面から始まります.
▼先生「君は学校を何だと思っているのかね.この私立の名門,朱雀高校開校以来初めてだよ.毎日のように遅刻・早退を繰り返し,あちこちで喧嘩三昧,揚句,授業中に居眠りだと!? 山田竜!」
この小テスト,変なところががいくつかありました.
・小テストなのにやたら問題数が多い.
・「解答」と書くべきところがすべて「回答」となっている.
・どの解答欄も極端に狭い.
・なぜか横に緑茶の入った湯呑がある.
・数学Ⅱなのに数学Bや数学Ⅲの範囲の問題が出ている.
・しかも小テストにしてはけっこう計算の面倒な問題がある.例えば,
「次の曲線や直線で囲まれた部分の面積を求めよ」
(1) y=(x-e)logx, y=0
(2) (3) 略
(4) y=sinx, y=sin2x (0≦x≦π)
解いてみたらこうなりました.
(1) -1/4e^2+e-1/4(≒0.621)
(4) 5/2(=2.5)
(数学Ⅲを既習の人は確かめてみてください)
それにしても数学Ⅱの小テストなのですから,生徒の立場からすれば,出題範囲を越境しないでほしいですね.


Monday 8 August 2016

小説 ラプラスの魔女

2015年 東野圭吾  (著) 角川書店

素数 ナビエ–ストークス方程式 ラプラスの悪魔
▼桐宮玲「もし,この世に存在するすべての原子の現在位置と運動量を把握する知性が存在するならば,その存在は,物理学を用いることでこれらの原子の時間的変化を計算できるだろうから,未来の状態を完全に予知できる――」
「ラプラスは,このような仮説を立てました.その存在のことは後年,ラプラスの悪魔と呼ばれるようになります.」
「ラプラスの悪魔」と呼ばれる知性を持つという主人公が女の子なので,このタイトルになったようです.数学では,ある物体の「現在位置と運動量を把握する」ということは「任意の点で導関数が満たす微分方程式を作る」ということを意味し,この微分方程式を解くことで,ある関数が求められ,それによってその物体の過去や未来の位置が計算できるようになります.

ナビエ–ストークス方程式は,流体(液体や気体など)の運動を表す非常に複雑な2階非線型偏微分方程式です.「2階」は第2次導関数まで式の中にあるという意味で,「非線型」は「線型」でない,すなわち次の条件を満たさないという意味です.
        加法性: 任意のx,yに対してf(x+y)=f(x)+f(y)
        斉次性: 任意のx,αに対してf(αx)=αf(x)
「偏微分方程式」は2変数以上の関数において,ある1つの変数について微分して得られる導関数を含んだ方程式という意味です.例えば,y=f(x)のとき,$\frac{dy}{dx}$はyをxで微分したもの,z=f(x,y)のとき,$\frac{∂z}{∂x}$はzを(x以外は定数と見做して)xだけで微分したものという意味です(∂は「ラウンド」とか「デー」などいくつか読み方があります).ナビエ–ストークス方程式は,難しすぎて未だに解決されず,クレイ研究所が「解けたら100万ドル」を贈るという懸賞付きの問題のひとつです.

ところで,$\frac{dy}{dx}$をもう一度微分すると,$\frac{d^2y}{dx^2}$になります.なぜ$\frac{dy^2}{dx^2}$ではなく,分子は$d^2y$で分母が$dx^2$と書くのかというと,$\frac{dy}{dx}$は$\frac{d}{dx}y$とも書けるので,$\frac{dy}{dx}$をもう一度微分すると,$\frac{d}{dx}\left ( \frac{dy}{dx}\right )$となり,分子はdが2個でyが1個,分母はdxが2個になるからです.(注)$(dx)^2$は$dx^2$とも書きます.$(AB)^2$を$AB^2$と書くのと同様です.

Sunday 31 July 2016

小説 未来方程式 -fate equation-

2011年 講談社BOX 単行本 神世希(著), mebae (イラスト)

英数字 三次元空間座標 緯度 経度

予知能力があるとされる少女初音未来を中心に起こる数々の事件が描かれた話です.
▼皇(すめらぎ)警部 「違う……そもそも8桁のパスワードが適当に打って当たるハズがないだろう.全部で218兆3401億0558万4896通りあるんだぞ」
波多野巡査 「そんなにあるんすか!?」
英数字(alphanumeric)8桁ということは,英字(alphabetic)26文字と数字(numeric)10文字で合計36文字が8桁なので,重複順列36Π8=36^8=2兆8211億0990万7456通りのはずです.しかし値が違うので,逆に218兆3401億0558万4896の8乗根を計算してみると62になりました.62=26×2+10なので,ここでは大文字と小文字を区別しているということが分かりました.それにしてもこんな数字を覚えているはずがないのにすらすらと言えるのが不思議ですね.
▼所長 「20XX年に打ち上げられた人工衛星"おまわり参号(仮称)"は,明日―――世界時において6月6日正午には,地球を中心とする3次元空間上の座標,(x,y,z)=(171,1789,6841).緯度経度では,北緯75.3度,東経146.1度の,高度およそ7000メートルに存在することになる.これも立派な未来情報の一つだ」
この座標で実際に計算してみましたが一部一致しませんでした.原点をO,点(171,0,0)をX0,点(171,1789,0)をP0,点(171,1789,6841)をPとすると,東経はarctan(X0P0/OX0)=arctan(1789/171)≒84.5度になって一致しません.一方,OP0=√(171^2+1789^2)≒1797なので,北緯はarctan(P0P/OP0)=arctan(6841/1797)≒75.3度で一致しました.このときOP=√(171^2+1789^2+6841^2)≒7073だから,地球の半径約6378kmを引くと695kmなので,高度およそ700kmということになります.国際線の飛行機の平均高度が約10000mなので,「高度およそ7000メートル」だと人工衛星が飛行機より低いということになってしまいます.

因みに人工衛星の高度,速度,周期を調べてみたところ,重力加速度をg,地球の赤道半径をRとし,高度h(km)で回っている円軌道の場合,その速度v(km/sec)は次の式で計算できることがわかりました.
$$v=\sqrt{\frac{gR^2}{R+h}}$$
従って人工衛星の速度は、高度だけで決まり,高いところほど遅いということになります.この速度vで軌道の円周2π(R+h)を割れば周期t(秒)が計算できます.
$$t=\frac{2\pi(R+h)}{v}$$

高度 速度 周期
200km 7.8km/sec 1時間28分
500km 7.6km/sec 1時間34分
1,000km 7.4km/sec 1時間45分
36,000km 3.1km/sec 23時間56分 (静止軌道)
380,000km 約1.0km/sec 約27日間

問題
上に出てきた高度700kmの人工衛星の速度,周期を求めよ.

(答)約7.5km/sec, 約1時間39分

参考
「人工衛星の高度と速度」宇宙航空研究開発機構(JAXA)

Saturday 23 July 2016

小説 数学的帰納の殺人

2009年 ハヤカワ・ミステリワールド 単行本 発行 草上 仁 (著)

ピタゴラス 完全数 フィボナッチ数列 嘘つき村 ガロア カルダン・グリル ステヴィン 懸垂線(カテナリー) ワイルズ メルセンヌ素数 フェルマーの最終定理 谷山・志村予想 楕円関数 円周率 モンティ・ホール問題 虚点

フォト・ジャーナリストの女性と大学教授の男性が,カルト教団による殺人連鎖の謎を追う話です.この殺人連鎖を数学的帰納法に例えてこのタイトルにしたようです.

2段組みで400頁を越える長編の随所に数学の話題が多数登場します.中には話の流れに乗らない余分な感じのするところもありましたが,謎解きは面白く,最後も少し驚かされたりして,けっこう楽しめました.

作品中に少し気になった点やもっと説明のほしいところがありました.
▼「三角形の下にぶら下がる球はロゴでは半円形に見えるが,実際には懸垂線つまりカテナリー曲線を描く.式にするとy=acosh(x/a)だね.この双曲線はバランス的に中立だから…(以下略)」
双曲線は反比例などの2つの同じ形をした曲線をいいます.懸垂線は双曲線関数(hyperbolic function)のひとつですが,双曲線関数は双曲線の媒介変数表示に使うからそう呼ぶのであって,形は双曲線ではありません.円関数(三角関数)は円の媒介変数表示に使いますが,形は円ではないというのと同様です.従ってここは「この双曲線は」ではなく,「この曲線は」でいいと思います.

懸垂線がなぜこの式になるかこちらにまとめてみました。
▼「二つの円は,常に四点で交わる.体験的にわかるのは二点までだ.しかし体系を普遍化していくと,そちらのほうが特殊な例であることがわかる.より一般的には,見えない二点――虚点を想定したほうが,多くの場合に成り立つのだ.」
2つの図形を表す連立方程式が実数解を持たない場合はxy平面上では交わりませんが,複素平面上で虚数解を座標とする点(虚点)で交わると見なすことができます.例えば,y=x^2とy=2x-5は実数解を持たないのでxy平面上では交わりませんが,複素平面上の虚点(1±2i, -3±4i)で交わると考えることができます.2つの円の場合はx^2とy^2の係数が等しいので,連立させるとx^2とy^2の項が消えてしまい,交点が2つしか出てきません.従って複素平面上で考慮しても4つの交点はないのですが,さらに無限遠点を含む射影平面上で考えれば,平行な直線でも1点で交わり,どんな2つの円も4点で交わると見なすことができます.これをベズーの定理(Bézout's theorem)といいます.

Tuesday 3 May 2016

映画 落ちこぼれの天使たち Stand and Deliver

1987年 米国

部分積分

荒れた高校の生徒たちと,そこへ赴任してきた教師がだんだん信頼し合っていくという話です.1987年の映画ですが,部分積分が登場することを最近知りました.生徒が黒板に書いた数式は,
$\int{x^2 \sin x}dx$
$u=\sin x$           $dv=x^2dx$
$du=\cos xdx$     $v=\frac{1}{3}x^3$
$\frac{1}{3}x^3\sin x-\int{\frac{1}{3}x^3\cos x}dx$

生徒は$du=\sin xdx$,$v=x^2$にすれば良かったのですが,逆にしてしまいました.教師が書いた解き方は,日本ではあまり見ない方法です.

これは表を使う方法(tabuler method)で解いています.この方法を使うと,繰り返しの必要な部分積分の計算が速くできます.

表をじっくり見てみましょう.左の列は$x^2$を次々に微分したもの,中央の列は$\sin x$を次々に積分したもの,右の列は符号です.折れ線でつながるものを与式の右辺に書き出せば正解が得られます.$$\int{x^2 \sin x}dx=-x^2 \cos x+2x \sin x+2 \cos x+C$$


Saturday 9 January 2016

漫画 和算に恋した少女 第2巻

天元術 算額

▼ 「はああ…… 天元術かあ……」
 「ごらん律,これが算額だ.自分で考えた問題を額にして神社に奉納するんだよ.父さんの算額はこれだ.答えが書いてないのは『遺題』といってね,『誰か解ける人はいるかい?』って訪ねているんだよ」
 「じゃあ,あたしが解く!」
 「うん,そうしたらおまえの答えを算額にしてこの隣に掲げなさい.」

江戸時代の数学を和算といいます.天元術とは一言でいうと方程式で問題を解く方法です.これまでに解いた算額の問題は三平方の定理を用いて円の半径などを求める問題が多かったので,この「父さんの算額」の問題も同じように解けると思ったらこれはかなりの難問でした.

他サイトで類題があり,①デカルトの円定理を使った解答 ②反転法を使った解答 が見つかったのですが,どちらも証明なしで定理を使っているので,いまいちすっきりしませんでした.なのでそれらを使わずに解く方法を考えてみました.

計算を簡単にするため,図のように大円$O$の中心を原点,半径を$6$として,円$C$の中心を$(3, 0)$,円$C_0$の中心$(a_0, b_0)=(-3, 0)$とすれば,円$C_0$の半径$r_0=3$となります.それ以外の円${C_n}$の中心を$(a_n, b_n)$,半径を$r_n$としましょう.
$C_{n-1}C_n$を斜辺とする直角三角形で三平方の定理より$$(a_{n-1}-a_n)^2+(b_{n-1}-b_n)^2=(r_{n-1}+r_n)^2\tag{1-n}$$ $OC_n$を斜辺とする直角三角形で三平方の定理より$$a_n^2+b_n^2=(6-r_n)^2\tag{2}$$ $CC_n$を斜辺とする直角三角形で三平方の定理より$$(a_n-3)^2+b_n^2=(3+r_n)^2\tag{3}$$ 以上の式を使って$r_n$をいくつか求めます

■まず$r_1$を求めましょう.この場だけ円$C_1$の中心$(a_1, b_1)=(a,b)$,半径$r_1=r$として計算します.式(1-n)でn=1とすると$$(-3-a)^2+(0-b)^2=(3+r)^2\tag{1-1}$$ 式(2)より$$a^2+b^2=(6-r)^2\tag{2}$$ 式(3)より$$(a-3)^2+b^2=(3+r)^2\tag{3}$$ まず(2)(3)から$a$と$b$を$r$で表すと$$a=6-3r,\quad b^2=24r-8r^2\tag{4}$$ (4)を式(1-1)に代入して$r$についての方程式を解くと$r=2$.これを(4)に代入して$(a, b)=(0, 4)$.すなわち,円$C_1$の半径と中心は次式になります.$$r_1=2,\quad (a_1, b_1)=(0, 4)$$ ■次に$r_2$を求めましょう.計算を簡単にするためにまた同じ文字を使います.この場だけ円$C_2$の中心$(a_2, b_2)=(a,b)$,半径$r_2=r$として計算します.式(1-n)でn=2とすると$$(0-a)^2+(4-b)^2=(2+r)^2\tag{1-2}$$ 同様に(4)を(1-2)に代入して$r$についての方程式を解くと$r=1, r=3$となりますが,$r$は$2$より小さいので$r=1$.式(1-2)が$r_2$の前後の$r$を求められる式になっているので,もうひとつの解である$3$は$r_0$の値になっています.$r=1$を(4)に代入して$(a, b)=(3, 4)$.すなわち,円$C_2$の半径と中心は次式になります.$$r_2=1,\quad (a_2, b_2)=(3, 4)$$ ■次に$r_3$を求めましょう.計算を簡単にするためにまた同じ文字を使います.この場だけ円$C_3$の中心$(a_3, b_3)=(a,b)$,半径$r_3=r$として計算します.式(1-n)でn=3とすると$$(3-a)^2+(4-b)^2=(1+r)^2\tag{1-3}$$ 同様に(4)を(1-3)に代入して$r$についての方程式を解きましょう.
$(3r-3)^2+(4-\sqrt{24r-8r^2})^2=(r+2)^2$
$9r^2-18r+9+16-8\sqrt{24r-8r^2}+24r-8r^2=r^2+2r+1$
$4r+24=8\sqrt{24r-8r^2}$
$r+6=2\sqrt{24r-8r^2}$
$r^2+12r+36=4(24r-8r^2)$
$33r^2-84r+36=0$
$11r^2-28r+12=0$
$(11r-6)(r-2)=0$
$r=\frac{6}{11}, r=2$
となりますが,$r$は$1$より小さいので$r=\frac{6}{11}$.$r=\frac{6}{11}$を(4)に代入して$(a, b)=\left(\frac{48}{11}, \frac{36}{11}\right)$.すなわち,円$C_3$の半径と中心は次式になります.$$r_3=\frac{6}{11},\quad (a_3, b_3)=\left(\frac{48}{11}, \frac{36}{11}\right)$$ ■次に$r_4$を求めましょう.計算を簡単にするためにまた同じ文字を使います.この場だけ円$C_4$の中心$(a_4, b_4)=(a,b)$,半径$r_4=r$として計算します.式(1-n)でn=4とすると$$\left(\frac{48}{11}-a\right)^2+\left(\frac{36}{11}-b\right)^2=\left(\frac{6}{11}+r\right)^2\tag{1-4}$$ 同様に(4)を(1-4)に代入して$r$についての方程式を解くと(計算略)$r=\frac{1}{3}, r=1$となりますが,$r$は$\frac{6}{11}$より小さいので$r=\frac{1}{3}$.すなわち,円$C_4$の半径は$r_4=\frac{1}{3}$になります.

ここで求めた$r_n$を並べてみると,$2, 1, \frac{6}{11}, \frac{1}{3}, \cdot\cdot\cdot$
分子を6にすると,$\frac{6}{3}, \frac{6}{6}, \frac{6}{11}, \frac{6}{18}, \cdot\cdot\cdot$
分母は,$3, 6, 11, 18, \cdot\cdot\cdot$
この階差数列は,$3, 5, 7, \cdot\cdot\cdot$となり,その第k項は2k+1と推測できるので,分母の第n項は$$3+\sum_{k=1}^{n-1}(2k+1)=n^2+2$$ 従って円$C_n$の半径は次式になると推測できます.$$r_n=\frac{6}{n^2+2}\tag{5}$$ あとは数学的帰納法で$$r_{n+1}=\frac{6}{(n+1)^2+2}\tag{6}$$が成り立つことを示せばOKです.式(4)の添え字をnにして式(1-n)に代入して整理すると次式を得ます.$$12(r_{n+1}-r_n)^2+3r_n^2r_{n+1}^2-4r_nr_{n+1}(r_n+r_{n+1})=0$$ これに(5)を代入して整理すると(6)を得られて終了なのですが,この計算は大変なので,WolframAlphaにしてもらいました.($x=r_n, y=r_{n+1}$として計算しています)

これで式(5)が正しいことが分かったので,これを(2)と(3)に代入すると円$C_n$の中心の座標は次式になります.$$(a_n, b_n)=\left(\frac{6(n^2-1)}{n^2+2},\quad \frac{12n}{n^2+2}\right)\tag{7}$$
さらに式(5)も式(7)もnに0と負の整数を代入しても成り立ちますから,円Cの周りのすべての円の中心と半径が求められたことになります.確かに$n\rightarrow\pm\infty$のとき,中心の座標は$(6,0)$に,半径は$0$に近づいていくことが分かります.

<2016年12月4日追記>

上図の半径3の円CとC0と半径6の大円Oとで囲まれる部分をArbelos(アルベロス)と呼ぶことが分かりました.古代ギリシアで使われていたといわれる「靴屋のナイフ(Arbelos)」がこの形と似ているのでこういう名前になったそうです.