Sunday 31 December 2017

小説 ノーゲーム・ノーライフ 1

2012年 榎宮祐著 KADOKAWA発行

確率

ゲーマーの兄妹,空(そら)と白(しろ)が,すべてがゲームで決まるという異世界で奮闘するというライトノベルです.  
「ロ、ロイヤルストレートフラッシュだぁーーッ!?」
最強の手札を,おくびに出すこともなく揃えた青年に、男が立ち上がり吠える。
「て、てめえ、イカサマじゃねぇかっ!?」
空「えーおいおい失敬な……何を根拠に?」
ヘラヘラと、椅子を引いて立ち上がる青年に、なおも追いすがる男。
「ロイヤルストレートフラッシュなんて、65万分の1の確率、そうそう出るかっ!」
空「今日がたまたまその65万回目のアタリ日だったんだろ、運が悪かったね、おっさん」
ロイヤルストレートフラッシュは,カードゲームのポーカーにおける最も強いハンド(役)で,同じスート(スペード,ハート,ダイヤ,クラブ)の絵札A, 10, J, Q, Kを揃えるものです.1回のディール(カードを配る事)でこの役ができる確率を確認しましょう.52枚から特定の5枚が選ばれる確率は1/52C5であり,スートは4種類あるのでこの値を4倍すると,(1/52C5)×4=(1/2598960)×4=1/649740となり,約65万分の1ということになります.
空「普通のジャンケンじゃあない――いいか? 俺はパーしか出さない」
ステファニー「は?」
空「俺がパー以外を出したら『俺の負け』……だが、パー以外の手を出しておまえに勝ったら、お前も負けだからこの場合『引き分け』――もちろん、パー以外を出してあいこになったら『俺の負け』だ」
(中略)
彼がパー以外、負けというなら、私が出す手の勝率は――
グー: 2勝1敗。チョキ: 2勝1分。 パー: 1勝2分――となる。
さらっと読んだだけではこの勝率は分かりにくかったので下の表をつくってみました.引き分け狙いの空に対して,ステファニーは考えに考えたあげくチョキを出しましたが,空はグーを出したので結局引き分けになってしまいました.
普通のジャンケンではなく,新たにルールを考える.正解のない問いがここにもあると思いました.


Saturday 2 December 2017

映画 gifted/ギフテッド

このブログの100作品目です!

2017年 監督: Marc Webb 脚本: Tom Flynn

ガウス積分

亡き姉の子で数学の才能を持つメアリーを育てているフランクは,母から彼女に英才教育を受けさせるよう勧められますが,彼女を普通に育てようとして奮闘する話です.

大学の講義室の黒板に次の内容が書かれてあり,メアリーが間違いを指摘します.
Problem
Show that $\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{x^2/2\sigma^2}dx=\sqrt{2\pi}|\sigma|$
Hint: First show that
$\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\int_{-\infty}^{\infty}e^{(x^2+y^2)/2\sigma^2}dxdy=2\pi\sigma^2$ 
メアリー「You forgot the negative sign on the exponent.(指数に-をつけるの忘れてる)」
シーモア「Mary, why didn't you say anything?(メアリー,どうして言わなかったの?)」
メアリー「Frank says I'm not supposed to correct older people. Nobody likes a smart-ass.(フランクが年上の間違いを正すなって.嫌われるから)」
最後の"smart-ass”は字幕にありませんでした.直訳すると「賢い尻」ですが,「知ったかぶり」というような意味です.

メアリーは最初の式の $\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{x^2/2\sigma^2 }dx$ に-を付け足して $\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2/2\sigma^2}dx$ に訂正していましたが,その下の式の中の$(x^2+y^2)$の前にも-が必要です.

ガウス積分
この証明すべき等式で$\sigma=\frac{1}{\sqrt{2}}$のとき,すなわち$$\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2}dx=\sqrt{\pi}$$をガウス積分といい,関数$y=e^{-x^2}$とx軸とで挟まれる部分の面積が$\sqrt{\pi}$=1.77245であることを示しています.この証明は他のサイトでも見つかりますが,この映画に出てきた$\sigma$のついたままの等式の導出を確認してみましょう.

z=exp(-(x^2+y^2))
求める積分の値を $I=\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2/2\sigma^2}dx$ とおき,$I=\sqrt{2\pi}|\sigma|$を示します.
\begin{align}
I^2&=\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2/2\sigma^2}dx\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2/2\sigma^2}dx\\
&=\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2/2\sigma^2}dx\int_{-\infty}^{\infty}e^{-y^2/2\sigma^2}dy\\
&=\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\int_{-\infty}^{\infty}e^{-(x^2+y^2)/2\sigma^2}dxdy
\end{align} このとき,$I^2$は右上図の盛り上がった曲面とxy平面で挟まれた部分の体積を表しています.ここで $x=r\cos\theta$,$y=r\sin\theta$ と置換すると,\begin{align}
I^2&=\displaystyle\int_{0}^{\infty}\int_{0}^{2\pi}e^{-r^2/2\sigma^2}rd\theta dr\\
&=2\pi\displaystyle\int_{0}^{\infty}e^{-r^2/2\sigma^2}rdr\\
&=2\pi \left[ -\sigma^2 e^{-r^2/2\sigma^2} \right] _0^{\infty}\\
&=2\pi\sigma^2
\end{align}よって,この等式を示すことができました.$$I=\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2/2\sigma^2}dx$=\sqrt{2\pi}|\sigma|$$ところでこの式は,平均0で標準偏差$\sigma$の正規分布(ガウス分布)の$\sqrt{2\pi}|\sigma|$倍を表す式になっています.これを,平均μ,標準偏差σの正規分布を表す式に変形してみましょう.

平均0で標準偏差1の標準正規分布
まず,確率密度関数の-∞から∞までの積分は1にならなければいけないので,両辺を$\sqrt{2\pi}|\sigma|$で割ります.$$\frac{1}{\sqrt{2\pi}|\sigma|}\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2/2\sigma^2}dx=1$$これを平均μになるように平行移動すると,$$\frac{1}{\sqrt{2\pi}|\sigma|}\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-(x-\mu)^2/2\sigma^2}dx=1$$となり,平均μで標準偏差σの正規分布を表す式に変形できました.