Wednesday 26 December 2018

小説 青の数学

2016年 王城夕紀(おうじょうゆうき)著 新潮文庫nex

モジュラー算術 素数 ガロワ カントール ピタゴラス オイラーの等式 ラグランジュの四平方の定理 ゴールドバッハ予想 エルデシュ リーマン予想 黄金比 

高校1年生の栢山(かやま)が,「数学とは何か」を考えながら,数学研究会の活動や,他校生との数学の闘いなどを通じて成長していくという話です.数式,数学用語,数学者名が多数登場します.

冒頭に登場した問題に解答がなかったので解いてみました.

(問題)
$n$と$x$が整数のとき,$2^n+7=x^2$の解をすべて求めよ.

(解答)
$n$<0のとき,$2^n$は整数ではないので $n$≧0で考える.
$n$=0のとき,与式は$8=x^2$になるので整数解$x$はない.
$n$=1のとき,与式は$9=x^2$になるので$x=±3$.
$n$≧2のとき,$2^n$は4の倍数なので $2^n+7$は4で割った余りは3($2^n+7 \equiv 3 \mod 4$ と表します)だが,$x$が $4k$,$4k+1$,$4k+2$,$4k+3$($k$は整数)のどれであっても,$x^2$は4で割った余りが3にならない($x^2 \not\equiv 3 \mod 4$ と表します)ので,$2^n+7=x^2$を満たす整数解$x$はない.
以上より求めるすべての解は,$(n, x)=(1, 3), (1, -3)$

この左辺の符号を「ー」に変えただけの $2^n-7=x^2$ を満たす整数解を求める問題はラマヌジャンの問題464といい,急に難しくなります.こちらに詳しい解説があります.

苦言をいくつか….話の中で,特定の商標名を出さずにタブレットと呼んでいたのはいいのですが,逆に炭酸飲料は商標名の「〇〇〇サイダー」ばかりが登場したので違和感がありました.

また,登場人物の名前の読みが難しくて,何回も初出のページに戻って確認を余儀なくされました.主人公の栢山もそうですが,特に京(かなどめ)はなかなか覚えられませんでした.いろはかるたの最後が「京」なので,かなのとめだからこう読むようになったらしいです.他に皇(すめらぎ)も読みにくい.私の記憶力も問題ですが,これでは話の流れが中断されてしまうので,登場人物の名前は簡単な読みの方がありがたいです.

さらにもうひとつ.登場人物の名前が姓だけの者(栢山)と,姓名両方の者(京香凛)と,姓か名か分かりにくい者(七加,五十鈴)とが混在していたので,最初は全員フルネームで登場させてほしいと思いました.王城さん,「オウジョウしまっせ!」(笑).

<Reference>
ラマヌジャンが出した問題
http://integers.hatenablog.com/entry/Ramanujan-Nagell
レファレンス事例詳細 なぜ「いろは」の最後が「京」なのか?
http://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000137588
  

Saturday 22 December 2018

ドラマ 家庭教師が解く! 第2作

2014年 TBS

面積図

家庭教師の香坂夏美が,教え子の家庭の事件に巻き込まれながらも,元刑事の佐伯雫と協力して解決していくという話です.鶴亀算や旅人算などを長方形を描いて解く方法「面積図」が登場しました.
香坂夏美 「2つの事件は,同一犯人による連続殺人事件….解いてみるっちゃ! 知世コーチは10:30に殺された鈴木恭介と,隅の川の近くで会っていた.次は犯行動機.多田一平は三沢院長と知世コーチの男女関係についても調べていた.そのことを鈴木恭介も知っていた.」
柿沼警部 「何これ?」
香坂 「面積図です.」
柿沼 「はあ?」
篠崎管理官 「代数を使わず連立方程式を解くっていうやり方ね.」
柿沼 「何?」
香坂 「だからあ,この長方形とこの長方形の面積の合計が,こっちの長方形とこっちの長方形の面積の合計っていう発想の転換よ.」
佐伯 雫 「つまり?」
篠崎 「田所氏と鈴木殺しは愛梨ちゃんが動機の殺しと別の動機の殺しに分けることができる!」
面積図は「動物の数×1匹の足の数=足の総数」とか,「速さ×時間=距離」というような例では使えますが,上のように数値でない「犯人×動機=殺人」というような例で使われるのには違和感がありますね.

鶴亀算を実際に解いてみましょう.鶴と亀の合計が20で,足の総数が56とします.

<小学生の解き方>
全部が亀だとすると足の総数は4×20=80.これは24多いから,鶴の数は24÷2=12,亀の数は20-12=8となります.面積図を使うと,右図左上の欠けている長方形の面積が鶴の足の数を表します.

逆に全部が鶴だとすると足の総数は2×20=40.これは16少ないから,亀の数は16÷2=8,鶴の数は20-8=12となります.面積図を使うと,右図右上の長方形の面積が,亀の足の数の1/2を表します.

鶴亀算で例えるなら,「全部が亀だとする」を「全部が鶴だとする」に変えることを,劇中では「発想の転換よ」といっています.

<中学生の解き方>
鶴の数をx,亀の数をyとすると,連立方程式 x+y=20,2x+4y=56 を解いて,x=12, y=8

劇中で面積図のことを「代数を使わず連立方程式を解くっていうやり方ね」と言っていましたが,代数を知らないからこそ面積図が便利なのであって,連立方程式をすでに学んだ段階では,代数を使わずにわざわざ面積図を使うことはないでしょう.

世界中の最も多くの国や地域で採用されている「国際バカロレア(IB)」など,海外のカリキュラムでは,このような〇〇算というような,日本の中学入試のためにあるようなやたら難しい文章題はあまり見られず,代数を使って方程式で解く方法へスムーズに進んでいるように思います.