Saturday 25 May 2019

小説 万能鑑定士Qの事件簿 1

2010年 松岡圭祐著 角川文庫 

エビングハウスの忘却曲線

沖縄の離島出身、成績は良くなかったが天真爛漫に育った凜田莉子(りんだりこ)が高校卒業後に上京し,あるディスカウントショップ社長から勉強法を伝授されて博学を身につけ,「万能鑑定士Q」という店をオープン.そこに持ち込まれる品物の鑑定をきっかけに,様々な事件の解決に向けて活躍します.
「教科書を読むときには,書かれている内容に感動すべきなんだ」
「でも,教科書を読んで楽しいところばかりじゃないし……,覚えようとしなきゃ覚えられないと思いますけど」
「それでも,記憶に感動を伴わせるのを忘れないように.そして四割ほど忘れたころに,もういちど同じところを学習すること」
「四割?」
「エビングハウスの忘却曲線とか,記憶に関する本を読みかじったうえで実践してみて,私の納得のいったやり方だ」
あることをある時間をかけて覚えたとして,その後一定時間経って忘れた部分だけを覚え直すためにかかる時間は最初より短時間になります.(最初に覚えるのにかかった時間)ー(覚え直すのにかかった時間)を(最初に覚えるのにかかった時間)で割った値を「節約率(savings)」といいます.この節約率は時間が経つほど減っていくので,ほぼ記憶保持率(retention rate)と同様に考えていいようです(英語版 Wikipedia "Forgetting Curve")

例えば、あることを最初に100%覚えるまでに10分かかり、20分経ってから忘れた部分を覚え直すのに4分かかったとすると,再度100%まで覚え直す時間を 10-4=6分 節約したことになるので,最初に100%覚えてから20分後の節約率(≒記憶保持率)は,6÷10=0.6=60%ということになります.

実データと近似曲線(対数目盛)
この節約率(≒記憶保持率)$s$(%)を,最初に覚えてから経過した時間 $t$(分)の関数としてグラフに表したものを忘却曲線といいます.エビングハウスは実データを元に,つぎの近似関数を得ています.$$s=100\times\frac{1.84}{\left(\log_{10}{t}\right)^{1.25}+1.84}$$このグラフをExcelで作ってみました(右上図).これを見ると,覚えた直後は急激に忘れ,その後だんだん緩やかに忘れていくことが分かります.このグラフの $t$ 軸は対数目盛(1, 10, 100, 1000, …が等幅の目盛)にしています.

実データと近似曲線(線形目盛)
Geogebraで普通の目盛(線形目盛)のグラフを描くとこうなります(右下図).最初だけ急減し,その後はずっと横に伸びてほんの少しずつ減少していきます.

この結果から,覚えた後すぐに約半分を忘れてしまうものの,約2割は長期間忘れないということが分かります.

余談ですが,日本語版Wikipedia「忘却曲線」の方には近似関数の方程式がなかったので追加しておきました.

[Reference]
Wikipedia "Forgetting Curve"
https://en.wikipedia.org/wiki/Forgetting_curve