Saturday, 9 January 2016

漫画 和算に恋した少女 第2巻

天元術 算額

▼ 「はああ…… 天元術かあ……」
 「ごらん律,これが算額だ.自分で考えた問題を額にして神社に奉納するんだよ.父さんの算額はこれだ.答えが書いてないのは『遺題』といってね,『誰か解ける人はいるかい?』って訪ねているんだよ」
 「じゃあ,あたしが解く!」
 「うん,そうしたらおまえの答えを算額にしてこの隣に掲げなさい.」

江戸時代の数学を和算といいます.天元術とは一言でいうと方程式で問題を解く方法です.これまでに解いた算額の問題は三平方の定理を用いて円の半径などを求める問題が多かったので,この「父さんの算額」の問題も同じように解けると思ったらこれはかなりの難問でした.

他サイトで類題があり,①デカルトの円定理を使った解答 ②反転法を使った解答 が見つかったのですが,どちらも証明なしで定理を使っているので,いまいちすっきりしませんでした.なのでそれらを使わずに解く方法を考えてみました.

計算を簡単にするため,図のように大円$O$の中心を原点,半径を$6$として,円$C$の中心を$(3, 0)$,円$C_0$の中心$(a_0, b_0)=(-3, 0)$とすれば,円$C_0$の半径$r_0=3$となります.それ以外の円${C_n}$の中心を$(a_n, b_n)$,半径を$r_n$としましょう.
$C_{n-1}C_n$を斜辺とする直角三角形で三平方の定理より$$(a_{n-1}-a_n)^2+(b_{n-1}-b_n)^2=(r_{n-1}+r_n)^2\tag{1-n}$$ $OC_n$を斜辺とする直角三角形で三平方の定理より$$a_n^2+b_n^2=(6-r_n)^2\tag{2}$$ $CC_n$を斜辺とする直角三角形で三平方の定理より$$(a_n-3)^2+b_n^2=(3+r_n)^2\tag{3}$$ 以上の式を使って$r_n$をいくつか求めます

■まず$r_1$を求めましょう.この場だけ円$C_1$の中心$(a_1, b_1)=(a,b)$,半径$r_1=r$として計算します.式(1-n)でn=1とすると$$(-3-a)^2+(0-b)^2=(3+r)^2\tag{1-1}$$ 式(2)より$$a^2+b^2=(6-r)^2\tag{2}$$ 式(3)より$$(a-3)^2+b^2=(3+r)^2\tag{3}$$ まず(2)(3)から$a$と$b$を$r$で表すと$$a=6-3r,\quad b^2=24r-8r^2\tag{4}$$ (4)を式(1-1)に代入して$r$についての方程式を解くと$r=2$.これを(4)に代入して$(a, b)=(0, 4)$.すなわち,円$C_1$の半径と中心は次式になります.$$r_1=2,\quad (a_1, b_1)=(0, 4)$$ ■次に$r_2$を求めましょう.計算を簡単にするためにまた同じ文字を使います.この場だけ円$C_2$の中心$(a_2, b_2)=(a,b)$,半径$r_2=r$として計算します.式(1-n)でn=2とすると$$(0-a)^2+(4-b)^2=(2+r)^2\tag{1-2}$$ 同様に(4)を(1-2)に代入して$r$についての方程式を解くと$r=1, r=3$となりますが,$r$は$2$より小さいので$r=1$.式(1-2)が$r_2$の前後の$r$を求められる式になっているので,もうひとつの解である$3$は$r_0$の値になっています.$r=1$を(4)に代入して$(a, b)=(3, 4)$.すなわち,円$C_2$の半径と中心は次式になります.$$r_2=1,\quad (a_2, b_2)=(3, 4)$$ ■次に$r_3$を求めましょう.計算を簡単にするためにまた同じ文字を使います.この場だけ円$C_3$の中心$(a_3, b_3)=(a,b)$,半径$r_3=r$として計算します.式(1-n)でn=3とすると$$(3-a)^2+(4-b)^2=(1+r)^2\tag{1-3}$$ 同様に(4)を(1-3)に代入して$r$についての方程式を解きましょう.
$(3r-3)^2+(4-\sqrt{24r-8r^2})^2=(r+2)^2$
$9r^2-18r+9+16-8\sqrt{24r-8r^2}+24r-8r^2=r^2+2r+1$
$4r+24=8\sqrt{24r-8r^2}$
$r+6=2\sqrt{24r-8r^2}$
$r^2+12r+36=4(24r-8r^2)$
$33r^2-84r+36=0$
$11r^2-28r+12=0$
$(11r-6)(r-2)=0$
$r=\frac{6}{11}, r=2$
となりますが,$r$は$1$より小さいので$r=\frac{6}{11}$.$r=\frac{6}{11}$を(4)に代入して$(a, b)=\left(\frac{48}{11}, \frac{36}{11}\right)$.すなわち,円$C_3$の半径と中心は次式になります.$$r_3=\frac{6}{11},\quad (a_3, b_3)=\left(\frac{48}{11}, \frac{36}{11}\right)$$ ■次に$r_4$を求めましょう.計算を簡単にするためにまた同じ文字を使います.この場だけ円$C_4$の中心$(a_4, b_4)=(a,b)$,半径$r_4=r$として計算します.式(1-n)でn=4とすると$$\left(\frac{48}{11}-a\right)^2+\left(\frac{36}{11}-b\right)^2=\left(\frac{6}{11}+r\right)^2\tag{1-4}$$ 同様に(4)を(1-4)に代入して$r$についての方程式を解くと(計算略)$r=\frac{1}{3}, r=1$となりますが,$r$は$\frac{6}{11}$より小さいので$r=\frac{1}{3}$.すなわち,円$C_4$の半径は$r_4=\frac{1}{3}$になります.

ここで求めた$r_n$を並べてみると,$2, 1, \frac{6}{11}, \frac{1}{3}, \cdot\cdot\cdot$
分子を6にすると,$\frac{6}{3}, \frac{6}{6}, \frac{6}{11}, \frac{6}{18}, \cdot\cdot\cdot$
分母は,$3, 6, 11, 18, \cdot\cdot\cdot$
この階差数列は,$3, 5, 7, \cdot\cdot\cdot$となり,その第k項は2k+1と推測できるので,分母の第n項は$$3+\sum_{k=1}^{n-1}(2k+1)=n^2+2$$ 従って円$C_n$の半径は次式になると推測できます.$$r_n=\frac{6}{n^2+2}\tag{5}$$ あとは数学的帰納法で$$r_{n+1}=\frac{6}{(n+1)^2+2}\tag{6}$$が成り立つことを示せばOKです.式(4)の添え字をnにして式(1-n)に代入して整理すると次式を得ます.$$12(r_{n+1}-r_n)^2+3r_n^2r_{n+1}^2-4r_nr_{n+1}(r_n+r_{n+1})=0$$ これに(5)を代入して整理すると(6)を得られて終了なのですが,この計算は大変なので,WolframAlphaにしてもらいました.($x=r_n, y=r_{n+1}$として計算しています)

これで式(5)が正しいことが分かったので,これを(2)と(3)に代入すると円$C_n$の中心の座標は次式になります.$$(a_n, b_n)=\left(\frac{6(n^2-1)}{n^2+2},\quad \frac{12n}{n^2+2}\right)\tag{7}$$
さらに式(5)も式(7)もnに0と負の整数を代入しても成り立ちますから,円Cの周りのすべての円の中心と半径が求められたことになります.確かに$n\rightarrow\pm\infty$のとき,中心の座標は$(6,0)$に,半径は$0$に近づいていくことが分かります.

<2016年12月4日追記>

上図の半径3の円CとC0と半径6の大円Oとで囲まれる部分をArbelos(アルベロス)と呼ぶことが分かりました.古代ギリシアで使われていたといわれる「靴屋のナイフ(Arbelos)」がこの形と似ているのでこういう名前になったそうです.