Tuesday 24 December 2019

小説 ラブ・ケミストリー

2011年 喜多喜久著  宝島社

ε-δ(イプシロン-デルタ)論法 フェルマーの最終定理 ギリシャ語数詞

有機化学における全合成を研究する大学院生が,いろいろとアドバイスをくれる「死神」や親友の助けを得て,学問と恋愛に奮闘する話です.
数学や物理は「言っている言葉が理解できない」状態だった。 ε-δ論法やインピーダンスといった、完璧にわけの分からない概念に悩まされるのは、もうこりごりだった。
高校の数学では,「限りなく近づく」などの言い方で,関数の極限や連続性について学習しますが,解析学では極限や連続などをより厳密に論じるためにε-δ論法が登場します.

高校の数学で登場する,$x$が限りなく$a$に近づくとき,$f(a)$の極限は$b$であるという意味の$$\displaystyle \lim_{x \to a} f(x) = b$$という式は,ε-δ論法では次のように表されます.$$\forall \varepsilon >0, \exists \delta >0, |x-a|<\delta \Rightarrow |f(x)-b|<\varepsilon$$
この式を意訳すると次のようになります.「どんなに小さい正の数 $\varepsilon$が与えられても、ある正の数$\delta$をうまく決めて、 $x$と$a$との距離を$\delta$より小さくすれば, $f(x)$と$b$との距離を$\varepsilon$より小さくできる」

簡単な例をひとつ見てみましょう.$$\displaystyle \lim_{x \to 3} x^2 = 9$$をε-δ論法で証明してみます.そのためには,
$|x-3|<\delta$ ならば $|x^2-9|<\varepsilon$
となるような$\delta$をうまく決めればいいわけです.$$|x^2-9|=|x+3|\cdot|x-3|=|x-3+6|\cdot|x-3|<(\delta+6)\delta$$となるので,$(\delta+6)\delta=\varepsilon$となる$\delta$を求めます.$$\delta^2+6\delta-\varepsilon=0$$この2次方程式を解くと,$\delta>0$より,$$\delta=-3+\sqrt{9+\varepsilon}$$よって,$\delta$をこの値にすれば,
$|x-3|<\delta$ のとき,$|x^2-9|<(\delta+6)\delta=\varepsilon$
となります.すなわち$$\forall \varepsilon >0, \exists \delta >0, |x-3|<\delta \Rightarrow |x^2-9|<\varepsilon$$を示すことができました.

Friday 20 December 2019

漫画 ぼくたちは勉強ができない 第1話

2017年 原作:筒井大志(集英社)

微分

週刊「少年ジャンプ」に連載されている漫画で,理系科目の得意な文系志望の女子生徒と文系科目の得意な理系志望の女子生徒に苦手科目を教える男子生徒が奮闘する話です.アニメを観た後に気になって漫画を読んでみました.
先生「はい,じゃあこの問題,解けた人から前に出て解いてもらおうかな」
$f(x)=x^3+ax^2+bx$
$x=\frac{1}{\sqrt{3}}$のとき,極小値$-\frac{2\sqrt{3}}{9}$
$a=$,$b=$
また,関数$f(x)$の最大値は?  
(緒方理珠が黒板に解答を書く)
$a=0,  b=-1$
$x=-\frac{1}{\sqrt{3}}$のとき,最大値$\frac{2\sqrt{3}}{9}$
先生「ぜ…全部正解です.でも…緒方さん,途中式は…?」
理珠「途中式….すみません,とばして解いてしまいました」
y=x^3-x のグラフ
途中式を確認してみましょう.
$f'(x)=3x^2+2ax+b$ なので,
$f'\left(\frac{1}{\sqrt{3}}\right)=1+\frac{2a}{\sqrt{3}}+b=0\tag{1}$
$f\left(\frac{1}{\sqrt{3}}\right)=\frac{\sqrt{3}}{9}+\frac{a}{3}+\frac{\sqrt{3}b}{3}=-\frac{2\sqrt{3}}{9}\tag{2}$
この2式より,$a=0,  b=-1$ となり,
$f(x)=x^3-x$
$f'(x)=3x^2-1$
よって,$x=-\frac{1}{\sqrt{3}}$のとき,極大値$\frac{2\sqrt{3}}{9}$
となるので,「最大値」ではなく,正しくは「極大値」ですね.

ここで,$a+b\sqrt{3}$($a$,$b$は有理数)という形の数全体は「$a+b\sqrt{3}=0$ ならば $a=b=0$」(代数学の用語を使っていうと,有理数体Qに$\sqrt{3}$ を添加してできる拡大体の元は代数的独立)なので,$a=0,  b=-1$を出すには,式(1), (2)のどちらかだけで十分ですね.つまりこの問題は条件過多になっています.

気になったので,アニメの方の第1話を観てみたら,似た問題が使われていました.
関数$f(x)=-x^3+ax^2+bx+6\quad(-3≦x≦1)$ が,
$f(2)=0$
$x=1/\sqrt{3}$のときに極大値を取る
の2点を満たすとき,$a$,$b$の値を求めよ.
(緒方理珠が黒板に解答を書く)
先生「ぜ…全部正解です.でも…緒方さん,途中式は…?」
理珠「途中式….すみません,見た瞬間,答えが分かったので,とばしてしまいました」
途中式を確認してみましょう.
$f(2)=0$より,
$-8+4a+2b+6=0\tag{3}$
$f'(x)=-3x^2+2ax+b$ なので,
$f'\left(\frac{1}{\sqrt{3}}\right)=-1-\frac{2a}{\sqrt{3}}+b=0\tag{4}$
この2式より,$a=0,  b=1$ となる

ここでも,$a=0,  b=1$を出すには,式(4)だけで十分ですね.つまりこの問題も条件過多になっています.しかもこの問題,$f(2)=0$といいながら,$x=2$は定義域 $(-3≦x≦1)$ に入っていません.この定義域を与えることも必要ないでしょう.