Wednesday 18 October 2017

小説 ラメルノエリキサ

2016年 渡辺優 集英社

アシンメトリー

自分が傷つけられたら必ず復讐をするという女子高校生小峰りなの話です.
懐かしい。 駅からバスで15分ほど先にある、絶妙に不便な立地の図書館を前にして、私はまずそう感じた。小学生の時、遠足で訪れたことがある。それから中学の時にも一度、何かの行事で来ていたはずだ。質感の違う素材がモザイクのように組み合わされた、濃いグレイを基調とした建物。表のプレートによると、築52年にもなるそうだけれど、それにしては古めかしい感じはしない。正面ゲートからまっすぐ見据えると、ビルの建ち並ぶ街の中心から外れ、賛沢な土地の使い方をした3階建ての本館が、アシンメトリーな曲線を描いているのがわかる。
アシンメトリー(asymmetry)は非対称という意味なので,「アシンメトリーな曲線」とは対称でない曲線という意味です.アシンメトリーな部分のある建物の図書館を探してみたら,近いイメージなのがこの写真でした.この小説とは全く関係ありません(笑).発音記号はは æsímətri or eisímətri の2通りあります.ネイティブの発音ではアシリ(またはエイシリ)と聞こえます.

ここで数学の話が出てきたわけではないのですが,アシンメトリーは数学用語のひとつでもあるので少し見てみましょう.

[確率分布のグラフにおける対称性と非対称性]

左右対称なグラフといえば正規分布ですが,その峰が左右にずれた場合,アシンメトリーな曲線になります.分布の非対称性を示す指標を歪度(わいど skewness)といい,峰が右にずれて左が低い場合(J型)の歪度は負,左右対称であれば歪度は0,峰が左にずれて右が低い場合(L型)の歪度は正になります.

因みに,正規分布の場合,平均(mean),中央値(median),最頻値(mode)は同じ値になりますが,他の場合はそれぞれの値がずれていきます.正規分布から少しずれた非対称な分布では,平均と最頻値との差は平均と中央値との差の約3倍になることが知られていて,カール・ピアソンの経験則と呼ばれています.
    Mean–Mode≒3(Mean–Median)
    または 3Median≒2Mean+Mode

[二項関係における対称関係と非対称関係]

二項関係の最も簡単な例は2つの数の関係です.aからbへRという関係があるとき,aRbと表します.例えば3>2などの関係です.

「aからbへの関係が成り立つならば,bからaへの関係も成り立つ」という場合,対称関係といいます.すなわち,$$\ aRb\;\Rightarrow bRa$$例えばRが=という関係のとき,a=bならばb=aも成立するので対称になります.

「aからbへの関係が成り立つならば,bからaへの関係が成り立たない」という場合,非対称関係といいます.すなわち,$$\ aRb\;\Rightarrow \lnot (bRa)$$例えばRが>という関係のとき,a>bならばb>aは成立しないので非対称になります.

小説のタイトルの意味を言いたくてしょうがないのですが,ネタバレになるのでここでは控えておきます(笑).

[Reference]
Asymmetric relation
https://en.wikiedia.org/wiki/Asymmetric_relation
Sample Mean
http://mathworld.wolfram.com/SampleMean.html
二項関係
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%8C%E9%A0%85%E9%96%A2%E4%BF%82