Friday 3 November 2023

ドラマ フェルマーの料理 第1話

2023年 TBS 原作 小林有吾

フェルマーの最終定理

数学が得意で数学者を目指していた高校生北田岳は,数学オリンピックに挑戦して挫折を味わいますが,そこに現れた天才シェフ朝倉海の勧めで料理人になると決意し,その道で成長していくという話です.

冒頭の生い立ちの話の中で,まだ小学生ぐらいのときの岳がフェルマーの最終定理のn=4のときの証明を考えている場面が登場しました.

フェルマーの最終定理は,「$n \geqq 3$のとき,$x^n+y^n=z^n$となる自然数(正の整数)$x, y, z$は存在しない」という定理で,その証明が1993年にワイルズによって発表され,1ヶ所ミスが判明したものの,翌年に修正され,確かに正しいと認められた1995年までに360年かかっています.

証明はもちろん非常に難解ですが,$n=4$のときはフェルマー自らが証明していて比較的易しいといわれています(それでも難しい!).その証明方法は「成り立たないと仮定すると矛盾が起こるので,これは成り立つ」という「背理法」を用います.この場合はどんな背理法かというと「自然数解があるとすると,それより小さい自然数解が見つかる.するとさらに小さい自然数解が次々と見つかっていく.これは自然数に最小値があることに矛盾する」という「無限降下法」を用いています.では,なるべく分かり易い解説を試みてみましょう.

「$x^4+y^4=z^2$となる自然数$x, y, z$が存在しない」ならば「$x^4+y^4=z^4$となる自然数$x, y, z$は存在しない」ことがいえます.なぜなら,$x^4+y^4=z^4$に自然数解$(\alpha, \beta, \gamma)$が存在すれば,$x^4+y^4=z^2$に$(\alpha, \beta, \gamma^2)$という自然数解が存在する(対偶が真になる)からです.

なので「$x^4+y^4=z^2$となる自然数$x, y, z$が存在しない」ことを証明します。つまり,$x^4+y^4=z^2$に自然数解$(x, y, z)$が存在すると仮定し,矛盾を導きます.以下すべての文字定数は自然数で,互いに素である(公約数を持たない)とします.

$x^4+y^4=z^2$に自然数解$(x, y, z)$が存在すると仮定すると,$(x^2)^2+(y^2)^2=z^2$より$(x^2, y^2, z)$はピタゴラス数(ピタゴラスの定理を満たす数)ですから,次のように表せます(理由はこちら).\begin{eqnarray} x^2 &=& m^2-n^2 \tag{1} \\y^2 &=& 2mn \tag{2}\\z &=& m^2+n^2 \tag{3} \end{eqnarray}(1)より$x^2+n^2=m^2$なので$(x, n, m)$もピタゴラス数ですから,次のように表せます.\begin{eqnarray} x &=& p^2-q^2 \tag{4} \\n &=& 2pq \tag{5}\\m &=& p^2+q^2 \tag{6} \end{eqnarray}(5)を(2)に代入すると,$y^2=4mpq$となりますが,ここで左辺は平方数だから右辺も平方数になるので,次のように表せます.$$p=a^2,\quad q=b^2,\quad m=c^2$$これらを(6)に代入すると次のようになります.$$a^4+b^4=c^2$$これは$(a,b,c)$が$x^4+y^4=z^2$の解であることを意味しています。しかも,$$c \leqq c^2=m \leqq  m^2<m^2+n^2=z$$すなわち$c<z$なので$(a,b,c)$は$(x, y, z)$よりも小さい解になります.同様にさらに小さい解が次々と見つかっていくので,これは自然数に最小値があることに矛盾します(無限降下法).よって「$x^4+y^4=z^2$となる自然数$x, y, z$が存在しない」ので「$x^4+y^4=z^4$となる自然数$x, y, z$は存在しない」ことが証明できました.

[参考]

Fermat’s Last Theorem: n=4

https://crypto.stanford.edu/pbc/notes/numberfield/fermatn4.html