Tuesday 30 January 2018

漫画 理系が恋に落ちたので証明してみた。

2016年 山本アリフレッド ほるぷ出版

帰無仮説 同じ誕生日の確率 素数の無限性 最適化問題 ハノイの塔 リーマン予想 フィボナッチ数 フェルマーの最終定理 

理系大学院生の雪村心夜と氷室菖蒲が,お互いを好きなのかどうかをいろいろな実験を通して考察していくという話で,数学や理科の用語がたくさん出てきます.

[証明2] 理系が恋に落ちたので心拍数を測ってみた。

本編の後に「リケクマのなげやり理ア充用語解説コーナー」といいうのがあり,帰無仮説について分かり易く解説しています.
「カラスは黒い」を否定するような,ありえねー仮説を立ててみるクマ.「カラスは黒かレインボーの半々」とかクマ.これが帰無仮説クマ.  
この時,100匹連続でカラスが黒い確率は,隕石が頭の上を1兆回落ちてくるより小さいクマ.だからこの帰無仮説はありえねークマ.  
なら「カラスは黒が90%,他は蛍光ピンク」という帰無仮説はどうクマ? これでも,100匹連続でカラスが黒い確率は0.00265%くらいクマ.やっぱありえねークマ.  
「カラスは97.1%が黒」あたりから,確率が5%以上になり,やっとギリありえる感じになるクマ.よって「全てのカラスは黒い」とは言えなくても「97.1%以上のカラスは黒い」ということは示せるクマ.
以上の値を検証してみましょう.

「隕石が頭の上に落ちてくる確率」をネットで調べたら,160万分の1とか100憶分の1とか極端に異なる値が見つかりました.高い方の160万分の1としてもこれが同じ頭の上に1兆回落ちてくる確率は,160万分の1の1兆乗なので,限りなく0に近くなります.

100匹連続で黒いカラスになる確率は,
・黒とレインボーが半々のとき $0.5^{100}=7.8886 \times 10^{-31}$(極端に小さいですが,隕石が頭の上に1兆回落ちてくる確率より高いのではないでしょうか)
・黒が90%のとき $0.9^{100}=2.6561 \times 10^{-5}$(0.00265%くらい.上記の通り)
・黒が97.1%のとき $0.971^{100}=5.27134 \times 10^{-2}$(確率が5%以上.上記の通り)

「やっとギリありえる感じ」を「確率が5%以上」としていますが,これを有意水準といい,1%とする場合もあります.

[証明3] 理系が恋に落ちたのを思い出してみた。
奏(かなで)「ハノイの塔の問題.漸化式で解いてみたんですけど,みてくれませんか.」
先生「そうです.$2^n-1$.よく解けましたね,奏君.ここからが面白いんですよ.伝説の通り,n=64だとすると,$2^{64}-1$です.これを年数にすると500億年近く.終わるころには世界が滅亡して…」
ハノイの塔は,3本の棒のうちの1本に穴の開いたn個の円板が上から小さい順に通しておいてあり,全部をあるルールのもとで他の棒に移すというゲームで,円板64枚のときにすべてを移し替えると世界は終わるというインドの伝説があります.このブログでは,ドラマ「スペシャリスト3」映画「猿の惑星:創世記(ジェネシス)」に登場しました.

円板がn枚の時,移すのに必要な手数を$a_n$とすると,漸化式は$a_{n+1}=2a_n+1$となり,これを解いて$a_n=2^n-1$になります.

伝説の式を実際に計算してみると,1年は60×60×24×365秒ですから,$$\frac{2^{64}-1}{60\times60\times24\times365}\approx5.85×10^{11}=5850億$$なので,この先生の台詞「年数にすると500億年近く」は間違っているようです.

[番外編] 理系は誕生日に運命を感じない。

ある人数の中に同じ誕生日の人がいる確率は,小説「数学的にありえない」ドラマ「数学女子学園第7話」に登場しました.n人の中で少なくとも2人以上が同じ誕生日になる確率は、全員が異なる誕生日になる確率を1から引きます.全員が異なる誕生日になる確率は$$\frac{364}{365}\cdot\frac{363}{365}\cdot\frac{362}{365}\cdots\frac{365-(n-1)}{365}=\frac{{}_{364}\mathrm{P}_{n-1}}{365^{n-1}}=\frac{{}_{365}\mathrm{P}_{n}}{365^{n}}$$なので,$$1-\frac{{}_{365}\mathrm{P}_{n}}{365^{n}}$$という式で求められます.

これはグラフ電卓または関数電卓で上の式にn=30を代入しても計算できますが,なんでも計算してくれるサイト WolframAlpha で birthday paradox 30 と入力すれば,at least 2 the same 0.7063 と答えてくれます(WolframAlphaはすごい!).というわけで,30人の中に同じ誕生日の者が少なくとも2人以上いる確率70.6%が確認できました.この問題は,人数が少なくても驚くほど高い確率になるので,birthday paradoxと呼ばれています.
雪村心夜「30人の中に同じ誕生日の2人がいる確率は70.6%だ.」
とありましたが,正確には「少なくとも2人以上」ですね.

[証明19] 理系が恋に落ちたので好きの証拠を集めてみた。
雪村心夜「安心しろ.素数を数えているうちに終わる」
氷室菖蒲「だめよ.素数は無限に存在しているもの」
素数が無限に存在することの証明は背理法で簡単に証明できます.高校数学の教科書に掲載されている$\sqrt{2}$が無理数であることの証明よりもずっと簡単です.

有限であると仮定してすべての素数を$p_1, \ p_2, \ \cdot \cdot \cdot  \ , \ p_n$とします.つまり$p_n$が最大の素数です.それらすべての積に1を加えた数は割り切れないので,さらに大きな素数になってしまい,$p_n$が最大の素数であることに矛盾します.よって,素数は無限に存在することがいえます.

因みに The Largest Known Primes によると,2018年1月までに発見されている最も大きな素数は$2^{77232917}-1$で,$\log_{10}2^{77232917}=23249425$桁まで来ています.

Thursday 4 January 2018

アニメ クロスロード

2014年 Z会 短編アニメCM

最大最小 余弦定理 微分

地方の離島に住んでいて東京の大学への進学を目指す女子高生と,東京で大学受験勉強中の男子高生が同じ通信教育を受けていて,それが縁と言えるかどうか分かりませんが最後には出会うというストーリーのCMで,あの大ヒット映画「君の名は。」の原点にもなった作品です。

全く見知らぬどうしですが,添削担当者が2人の共通点を見つけています.
添削担当者A「あれ?」
添削担当者B「どうしました?」
添削担当者A「いやあ,単純なミスも証明の組み立ても,この子たちよく似ててねえ.」
その解答と添削の一部が見えたので,そこから問題を推測してみました.


[推測される問題]

2点A(2,0)とB(6,0)を通る円がy軸の正の部分と共有点Rを持つとき,∠ARBの最大値を求めよ.

[解答例]

共有点がR1,R2の2つあっても,同じ弧の円周角なので,∠AR1B=∠AR2B=∠ARBとして考えます.
R(0,y)とすると,$AR=\sqrt{y^2+4}$,$\ BR=\sqrt{y^2+36}$,$AB=4$だから余弦定理より
\begin{align}
\cos{\angle ARB}&=\frac{(y^2+4)+(y^2+36)-4^2}{2\sqrt{y^2+4}\sqrt{y^2+36}}\\
&=\frac{2y^2+24}{2\sqrt{(y^2+4)(y^2+36)}}\\
&=\frac{y^2+12}{\sqrt{(y^2+4)(y^2+36)}}
\end{align}この式をf(y)としてyで微分して解く方法が解答の一部に見られました.一応計算してみましたが,これは計算がかなり大変です.$$f'(y)=\frac{16y(y+2\sqrt{3})(y-2\sqrt{3})}{\sqrt{y^2+4}\sqrt{y^2+36}(y^2+4)(y^2+36)}$$ここまで正しく計算できれば,0と$\pm2\sqrt{3}$で極値を持つことが分かります.

添削では$y^2+12=t$とおいて解いています.
\begin{align}
\cos{\angle ARB}&=\frac{t}{\sqrt{(t-8)(t+24)}}\\
&=\frac{t}{\sqrt{t^2+16t-192}}\\
&=\frac{1}{\sqrt{1+\frac{16}{t}-\frac{192}{t^2}}}
\end{align}さらに$\frac{1}{t}=s$とおくと,√の中は,$$-192s^2+16s+1=-192\left(s-\frac{1}{24}\right)^2+\frac{4}{3}$$従って,√の中は$s=\frac{1}{24}$のとき最大値$\frac{4}{3}$
すなわちt=24のとき,すなわち$y^2+12=24$のとき,すなわち$y=2\sqrt{3}$のとき,$\cos{\angle ARB}$の最小値は$\frac{\sqrt{3}}{2}$なので,∠ARBの最大値は30°になります.結局,共有点が1つのとき(接するとき)に角度が最大になることが分かりました.

(2018/1/7追記)
映った解答のシーンだけを見て問題を推測しましたが,上の2つ目の解答の直前にこんなシーンがあったことに気づきました.小問(1)(2)があったようです.

click to enlarge

[推測される問題]

2点A(2,0)とB(6,0)がある.
(1) この2点を通る円がy軸の正の部分と共有点を持つための条件を求めよ.
(2) 点Rがy軸上の正の部分にあるとき,∠ARBの最大値を求めよ.

[略解]

小問(1)

円の中心を(4,b)とすると,半径は$\sqrt{b^2+4}$なので,円の方程式は$$(x-4)^2+(y-b)^2=b^2+4 \tag{3}$$x=0を代入して,$$y^2-2by+12=0 \tag{4}$$D≧0より$$b^2-12 \geqq 0$$b>0より$$b\geqq2\sqrt{3}$$
小問(2)

[別解1]  (1)の結果を使う解答
(1)より,円がy軸と接するときの接点$(0, 2\sqrt{3})$をRとすると∠ARB=30°.円がy軸と2点で交わるときの交点の1つをR'とすると,Rは円の内側にあるので,∠AR'B<∠ARB
よって,∠ARB=30°が最大.

[別解2]  (1)の結果を使わずベクトルの内積を使う解答
R=(0,y)とすると,$\overrightarrow{RA}=(2,-y)$,$\overrightarrow{RB}=(6,-y)$なので,$$\cos{\angle ARB}=\frac{y^2+12}{\sqrt{y^2+4}\sqrt{y^2+36}}$$この続きは上と同様.

[別解3]  (1)の結果を使わず正接の加法定理を使う解答
∠BRO=$\alpha$,∠ARO=$\beta$とすると,$\tan\alpha=\frac{6}{y}$,$\tan\beta=\frac{2}{y}$なので,$$\begin{align}
\tan{\angle ARB}&=\frac{\tan\alpha-\tan\beta}{1+\tan\alpha\tan\beta}\\
&=\frac{\frac{6}{y}-\frac{2}{y}}{1+\frac{6}{y}\cdot\frac{2}{y}}\\
&=\frac{4y}{y^2+12}\\
\end{align}$$これをyで微分すると,y=$2\sqrt{3}$で極値になることが分かります.こちらの方が微分の計算は簡単なんですが,次のようにするともっと楽に解けます.$$\frac{4y}{y^2+12}=\frac{4}{y+\frac{12}{y}}$$とすれば,分母は相加相乗平均の関係より,$$y+\frac{12}{y}\geqq2\sqrt{12}=4\sqrt{3}$$なので,$$\tan{\angle ARB}=\frac{4y}{y^2+12}\leqq\frac{4}{4\sqrt{3}}=\frac{1}{\sqrt{3}}$$よって,∠ARBの最大値は30°になります.