Thursday 30 June 2022

映画 Rushmore 天才マックスの世界

1998年 米国(日本未公開)

無理関数 導関数 楕円 積分

頭脳明晰ながらも多数のクラブを掛け持ちしているために成績が良くないというRashmore高校の生徒 Max Fisher が,ある女性教師に恋をしたことから奇想天外なことを実行しようとするというコメディーです.

冒頭に数学の授業の場面があり,男性教師が $y=\sqrt{x}$ の導関数を定義に従って求める方法とそのグラフ上の点における接線の傾きを説明しています.$y=f(x)$の導関数を求める式は$$f'(x)=\lim_{\Delta{x}\rightarrow 0}\frac{f(x+\Delta x)-f(x)}{\Delta{x}}$$なので,この式の分子が板書1の左の式になります.また,右のグラフでは,x=1のときの接線の傾きが$m=\frac{1}{2}$で,x=4のときの接線の傾きが$m=\frac{1}{4}$であることを示しています.

板書1
説明の途中で,ある生徒が別の黒板(板書2)に書かれてある "EXTRA CREDIT"(成績に加算されるボーナスポイントみたいのもの)について質問します.
板書2
日本では高校の数学Ⅲで登場する,楕円の面積を積分で求める問題ですが,まだ積分を未習の生徒たちは解けるはずがありません.教師は大げさに「世界で最も難しい幾何の方程式の問題だ」といって説明の続きをしようとしますが,その後また話を遮られたので,さらに大げさに「これが解ける者がいたら,もう一生数学の本を開かなくてもいいぐらいだ」と言い放ちます.しかし,マックスが前に出てきて黒板にすらすらと解答を書いてしまいます.
板書3

板書4

ただ,この解答にはいくつか小さいミスがありました.

① 板書3の下から2行目の$\theta$は$0$のはずなので,正しくは次式になります.$$=\pi ab+ab(\sin{\pi}-\sin{0})$$

② 板書4の左側の下の行は$\sin{2\theta}$の前に [ が抜けているので,正しくは次式になります.$$=2ab \left( \frac{\pi}{2}-0\right)+ab\left[\sin{2\theta}\right]_0^{\frac{\pi}{2}}$$

③ 式を書く順序がおかしいですね.板書3の下から3行目の次は,以下のようになるべきです.\begin{eqnarray}A_E &=& 4ab\int_0^\frac{\pi}{2} \cos^{2}\theta d\theta \\&=& 4ab\int_0^\frac{\pi}{2} \left( \frac{1}{2}+\frac{1}{2}\cos{2\theta}\right)d\theta  \\&=& 2ab \left( \frac{\pi}{2}-0\right)+ab \left[ \sin{2\theta} \right]_0^{\frac{\pi}{2}}\\ &=& \pi ab+ab(\sin{\pi}-\sin{0}) \\&=& \pi ab \end{eqnarray} 数か所で[  ]の使い方が気になりましたが,間違いというわけではありません.

さて,円の面積が$\pi r^2$で,楕円の面積が$\pi ab$なので,円周が$2\pi r$であることから,楕円の周長は$2\pi \times \frac{a+b}{2}=\pi(a+b)$ではないかと予想できますが,実は楕円の周長を求める方法は飛躍的に難しくなります.

半径$r$の円の場合,媒介変数表示を$(x, y)=(r\cos\theta, r\sin\theta)$とすると,その周長は次のように求められます.\begin{eqnarray} L &=& 4 \displaystyle \int_0^\frac{\pi}{2} \sqrt{\left(\frac{dx}{d\theta}\right)^2+\left(\frac{dy}{d\theta}\right)^2} d\theta \\&=&  4\int_0^\frac{\pi}{2} \sqrt{\left(-r\sin\theta\right)^2+\left(r\cos\theta \right)^2} d\theta  \\&=& 4r\int_0^\frac{\pi}{2} d\theta \\ &=& 4r \times \frac{\pi}{2} \\&=& 2\pi r \end{eqnarray}同様に,長半径$a$,短半径$b$の楕円の場合,媒介変数表示を$(x, y)=(a\cos\theta, b\sin\theta)$とすると,その周長は次式になります.\begin{eqnarray} L &=& 4 \displaystyle \int_0^\frac{\pi}{2} \sqrt{\left(\frac{dx}{d\theta}\right)^2+\left(\frac{dy}{d\theta}\right)^2} d\theta \\&=&  4\int_0^\frac{\pi}{2} \sqrt{\left(-a\sin\theta\right)^2+\left(b\cos\theta \right)^2} d\theta  \\&=&   4a\int_0^\frac{\pi}{2} \sqrt{1-e^2\cos^2\theta} d\theta \qquad ただし e=\frac{\sqrt{a^2-b^2} }{a}(離心率) \end{eqnarray}ところがこれは第二種完全楕円積分といって,この先は無限級数を使った大変難しい計算になります.そこで,比較的容易に計算できる近似式がいくつか知られています.その中で,最も真の値に近い式をひとつ紹介します.$$近似式\qquad\pi(a+b)\left(1+\frac{3h}{10+\sqrt{4-3h}}\right)\qquad ただしh=\frac{(a-b)^2}{(a+b)^2}$$近似式はExcelで計算するとして,真の値は上の第二種完全楕円積分を級数にしてかなり先まで計算すれば近づきますが,それでは大変すぎるので WolframAlpha に計算してもらい,それぞれの値を比較してみました.

小数点以下第5位を四捨五入
$\pi (a+b)$でも円に近い楕円ならけっこう近い値が出ましたが,つぶれた楕円でもほぼ正確な値を求められるこの近似式はすごいですね.インドの天才数学者ラマヌジャンが発見したそうですが,どうやって発見したのか不思議ですよね.

[参考]

Perimeter of an Ellipse
https://www.mathsisfun.com/geometry/ellipse-perimeter.html

Thursday 5 May 2022

映画 Ron's Gone Wrong ロン 僕のポンコツ・ボット

2021年 英米国

素数 素因数分解 合成数 約数 

スマホのような機能に加え,その人に合った友達まで見つけてくれるというロボット型デバイス「Bボット」をほとんどの中学生が持つようになっているという近未来.友達がいなくて寂しい思いをしていた中学生のバーニーが,誕生日にもらったポンコツのBボットと一緒に本当の友情を探そうとするSFコメディです.

数学の授業のシーンで,素数の定義,最初の10個の素数,素数と合成数の例,素因数分解のし方が登場します.

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まず素数の定義です.
Prime number is a number that only divides by 1 and itself(素数は1とそれ自身でのみ割り切れる数)
prime numbers have two factors(素数は2つの約数を持つ)
→   can't be even numbers(偶数ではない)
と書かれていますが,2が素数の中で唯一の偶数なので "except 2(2以外は)" と言及しておかなければいけませんね.

[クイズ] ではここで問題です.上の授業の板書をよく見て考えてください.(正解は文末)
Q1. 最初の10個の素数は,2, 3, 5, 7, 11, 13, 17の後,隠れている残り3つは何でしょう?
Q2. 向かって右側の30と10の上にある赤い文字のCはどういう意味でしょう?
Q3. 教師の後ろに隠れている素数の例は何でしょう?

さて,これまで何回か紹介した最大素数はさらに大きなものが見つかり,2022年5月現在では,2018年に発見された$2^{82589933}-1$が最大で,24862048桁にもなっています.

他にも,素因数分解の一意性,無限に存在すること,暗号への応用,素数ゼミなど,素数の話題にはキリがありませんが,今回は,素数計数関数 (Prime-counting function),素数定理 (Prime number theorem) について見てみましょう.

素数計数関数 

素数計数関数は,正の実数$x$に対して,$x$以下の素数の個数を対応させる関数で,$\pi(x)$で表します.

例1. $x=2$のとき,2以下の素数は2だけなので,$\pi(2)=1$ 

例2. $x=10$のとき,10以下の素数は2, 3, 5, 7の4つなので,$\pi(10)=4$

例3. $x=100$のとき,100以下の素数は25個あるので,$\pi(100)=25$

素数計数関数 x=100まで(by WolframAlpha)

これぐらいまでは手計算でなんとか求められますが,もっと大きな数になると困難です.そこで次の定理があります.

ガウスの素数定理

$x$が十分大きな整数であるとき,素数計数関数$\pi(x)$は$\displaystyle \frac{x}{\ln x}$($\ln x$は自然対数)で近似できる,すなわち次の近似式が成りたつというのが,ガウスが予想した素数定理です.$$\pi(x) \sim \frac{x}{\ln x}$$これら2つのグラフ($x=10^8$まで)を重ねると次のようになります.

x=10^8まで(by WolframAlpha)

値が大きくなるにつれて離れていくように見えますが,それぞれの値の比は1に近づきます.この定理のおかげで大きな数になってもそれ以下の素数の個数の近似値を$\displaystyle \frac{x}{\ln x}$で求めることができます.

では素数定理の証明というよりは直感的な理由を見てみましょう(厳密な証明ではありません).十分大きな整数$x$が素数である確率$\displaystyle p(x)=\frac{\pi(x)}{x}$を考え,$\displaystyle \frac{1}{p(x)} \sim \ln x$を示せば,$\displaystyle\pi(x) \sim \frac{x}{\ln x}$が成りたつことがいえます.

$x$が素数2の倍数でない確率は$\displaystyle \left( 1-\frac{1}{2}\right)$,素数3の倍数でない確率は$\displaystyle \left( 1-\frac{1}{3}\right)$,……なので,$x$が素数である(素数の倍数でない)確率は次式になります.$$p(x)=\left( 1-\frac{1}{2} \right) \left( 1-\frac{1}{3} \right) \left( 1-\frac{1}{5} \right)\cdot\cdot\cdot\cdot\left( 1-\frac{1}{p_x} \right)\quad\quad\quad  \left( p_xはxより小さい最大の素数 \right)$$

ここでこの逆数を考えます.次式の1行目と2行目の積の各因数は初項1,公比$\displaystyle \frac{1}{p}$の等比級数の和になっています.\begin{eqnarray}\frac{1}{p(x)} &=&\frac{1}{1-\frac{1}{2}}\cdot \frac{1}{1-\frac{1}{3}} \cdot \frac{1}{1-\frac{1}{5}} \cdot\cdot\cdot\cdot\frac{1}{1-\frac{1}{p_x}}  \\&=& \left(1+\frac{1}{2}+\frac{1}{2^2}+\cdot\cdot\cdot\cdot \right) \left(1+\frac{1}{3}+\frac{1}{3^2}+ \cdot \cdot \cdot \cdot \right) \left(1+\frac{1}{5}+\frac{1}{5^2}+ \cdot \cdot \cdot \cdot \right) \cdot\cdot\cdot\cdot\left(1+\frac{1}{p_x}+\frac{1}{p_x^2}\cdot\cdot\cdot\cdot\right)\\ &\sim& 1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{4}+\frac{1}{5}+\cdot\cdot\cdot\cdot +\frac{1}{x} \end{eqnarray}上式の2行目を展開するとすべての項がいくつかの素数の累乗の積の逆数になります.どんな整数もいくつかの素数の累乗の積になるので,$x$が十分大きければ3行目のような整数の逆数の和に近似できます(∞なら等式が成立 i.e. リーマンゼータ関数のオイラー積表示).ここで下のグラフより次の近似式も成り立ちます.$$\displaystyle1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{4}+\frac{1}{5}+\cdot\cdot\cdot\cdot +\frac{1}{x}\sim \int_1^x{\frac{1}{t}}dt=\ln x$$

よって,$\displaystyle \frac{1}{p(x)} \sim \ln x$を示すことができたので,$\displaystyle\pi(x) \sim \frac{x}{\ln x}$が成りたつことがいえました.

因みに,もっと正確に$x$以下の素数の個数を求めようと,素数定理の誤差を研究したリーマンは素数公式(リーマンの明示公式ともいう)を発見しました.

[参考]

Mathematics in Movies
https://people.math.harvard.edu/~knill/mathmovies/

ガウスの素数定理
https://tsujimotter.hatenablog.com/entry/2014/04/08/120132

[クイズの答]
A1.   19, 23, 29
A2.   Composite Number(合成数)の頭文字 
A3.   7(映画を観れば分かります)

Saturday 9 April 2022

映画 Marry Me

2022年 米国

sum  reciprocal  even  factor

婚約者の浮気を知って失望した人気女性歌手 Kat Valdez が,コンサート中に "MARRY ME!" と書いた看板をもっていた男性高校教師 Charlie Gilbert といきなり結婚すると言い出し,言われた方もOKしたことでいろいろな騒動が起こるという話です.

Charlie の授業中,白板に書かれた問題と生徒の解答です.

Find the sum of reciprocals of the even factors of 16
$\displaystyle \frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{8}+\frac{1}{16}=\frac{8+4+2+1}{16}=\frac{15}{16}$
これは「16の約数のうち偶数であるものの逆数の総和を求めよ」という問題です.16の約数は 1, 2, 4, 8, 16 で,そのうちの偶数は 2, 4, 8, 16 なので,それらの逆数をすべて加えると上の解答が得られます.

画面にあったその次の問題も解いてみましょう.
Find the sum of reciprocals of the even factors of 20.
これは解答がありませんでした.20の約数は 1, 2, 4, 5, 10, 20 で,そのうちの偶数は 2, 4, 10, 20 なので,その逆数の和は次のようになります.$$\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{10}+\frac{1}{20}=\frac{9}{10}$$
しかし,もっと大きい数になると約数の個数が増えるので,このやり方では大変です.そこで上手に計算する方法を考えます.例えば,$360=2^3 3^2 5^1$について考えてみましょう.約数の個数は$4\times3\times2=24$個もあります.約数の総和は$$(2^0+2^1+2^2+2^3)(3^0+3^1+3^2)(5^0+5^1)=\sum_{i=0}^{3}2^{i} \sum_{j=0}^{2}3^{j}\sum_{k=0}^{1}   5^{k}\tag{1}$$これは等比数列の和の積になるので,$$=\frac{2^4-1}{2-1}\cdot\frac{3^3-1}{3-1}\cdot\frac{5^2-1}{5-1}=1170$$この式(1)は展開すると24個の約数はそれぞれ $$2^i3^j5^k \quad (i, j, kは整数,0≤i≤3, 0≤j≤2, 0≤k≤1)\tag{2}$$と表せます.その逆数は$$\frac{1}{2^i3^j5^k}=\frac{2^{3-i}3^{2-j}5^{1-k}}{2^3 3^2 5^1}$$となるので,360の約数の逆数の総和は次のようになります.$$\frac{1}{2^3 3^2 5^1}\sum_{i=0}^{3}2^{3-i} \sum_{j=0}^{2}3^{2-j}\sum_{k=0}^{1} 5^{1-k}=\frac{1}{2^3 3^2 5^1}\sum_{i=0}^{3} 2^{i} \sum_{j=0}^{2}3^{j} \sum_{k=0}^{1} 5^{k}$$$$=\frac{1}{360}\cdot\frac{2^4-1}{2-1}\cdot\frac{3^3-1}{3-1}\cdot\frac{5^2-1}{5-1}=\frac{1170}{360}=\frac{13}{4}$$

さて,次に約数のうち偶数であるものの逆数の総和です.$360=2^3 3^2 5^1$の約数$2^i3^j5^k$の中で,$i=0$のときだけが奇数になりますから,式(1)から$2^0$を除いた次の式が,偶数の約数の総和になります.$$(2^1+2^2+2^3)(3^0+3^1+3^2)(5^0+5^1)=1092$$この式を展開すると18個の約数はそれぞれ式(2)と同じ$2^i3^j5^k$と表せますが,$1≤i≤3$になります.すると360の約数のうち偶数であるものの逆数の総和は次のようになります.$$\frac{1}{2^3 3^2 5^1}\sum_{i=1}^{3} 2^{3-i}\sum_{j=0}^{2} 3^{2-j}\sum_{k=0}^{1}  5^{1-k}=\frac{1}{2^3 3^2 5^1}\sum_{i=0}^{2}2^{i} \sum_{j=0}^{2} 3^{j}\sum_{k=0}^{1}  5^{k}$$$$=\frac{1}{360}\cdot\frac{2^3-1}{2-1}\cdot\frac{3^3-1}{3-1}\cdot\frac{5^2-1}{5-1}=\frac{546}{360}=\frac{91}{60}$$この方法なら,もっと大きな数でも約数のうち偶数であるものの逆数の総和を求めることができます.以上まとめて公式として書くと以下のようになります.

正の偶数 $n=2^k p_1^{k_1}p_2^{k_2}\cdot\cdot\cdot p_m^{k_m} \quad (k, k_iは整数,1≤k,0≤k_i,p_iは奇素数)$のとき,$n$の約数のうち偶数であるものの逆数の総和は,$$\frac{1}{n}\sum_{i=0}^{k-1}2^{i} \sum_{j_1=0}^{k_1} p_1^{j_1}\sum_{j_2=0}^{k_2}  p_2^{j_2}\cdot\cdot\cdot\sum_{j_m=0}^{k_m}  p_m^{j_m}=\frac{1}{n}\cdot\frac{2^k-1}{2-1}\cdot\frac{p_1^{k_1+1}-1}{p_1-1}\cdot\frac{p_2^{k_2+1}-1}{p_2-1}\cdot\cdot\cdot\frac{p_m^{k_m+1}-1}{p_m-1}$$
この公式を使っていくつか$n$の約数のうち偶数であるものの逆数の総和を確認してみましょう.

$n=16=2^4$のとき,$$\displaystyle \frac{1}{16}\cdot\frac{2^4-1}{2-1}=\frac{15}{16}$$
$n=20=2^2 5^1$のとき,$$\displaystyle \frac{1}{20}\cdot\frac{2^2-1}{2-1}\cdot\frac{5^2-1}{5-1}=\frac{18}{20}=\frac{9}{10}$$
$n=1080=2^3 3^3 5^1$のとき,$$\displaystyle \frac{1}{1080}\cdot\frac{2^3-1}{2-1}\cdot\frac{3^4-1}{3-1}\cdot\frac{5^2-1}{5-1}=\frac{1680}{1080}=\frac{14}{9}$$
$n=441000=2^3 3^2 5^3 7^2$のとき,$$\displaystyle \frac{1}{441000}\cdot\frac{2^3-1}{2-1}\cdot\frac{3^3-1}{3-1}\cdot\frac{5^4-1}{5-1}\cdot\frac{7^3-1}{7-1}=\frac{809172}{441000}=\frac{3211}{1750}$$このように数が大きくなると,約数のうち偶数であるものの逆数をすべて加えるより速く計算できます.

[参考]

Saturday 2 April 2022

漫画 数字で遊ぼ。

2018年~ 絹田村子作 小学館

デデキンドの切断 ベクトル空間

抜群の記憶力だけで京都の吉田大学(京大がモデル)の理学部に現役合格した横辺建己が,入学後最初に受けた数学の講義をまったく理解できなかったことがショックでそのまま2年も留年してしまいますが,3年目からようやく友達もできてやり直し,その後数学科に進学して奮闘するという話です.

第1巻 第1話 極限は突然に

初日につまづいたからといって2年も留年するのはあまりリアルではないと思いますが,横辺建己にそこまでショックを与えたのはどんな内容だったのでしょうか.その入学後初日2時間目の講義は「微分積分学」で,デデキンドの切断を使って実数の連続性を示す準備となる,有理数の切断の話でした.

板書1
板書2

板書2の見えない部分を推測すると,次のようになると思われます.

$\exists a \in A \ s.t. \forall b \in A, \ b \leq a$  …①
または 
$\exists a' \in A' \ s.t. \forall b'$ $\in A', \ a' \leq b'$  …②
このとき切断(A, A')は,①のときは有理数aを定め,②のときは
有理数a'を定める
注意:①と②は同時に起らない

以上を分かり易く言い換えてみます.
(板書1)
有理数の全体$\mathbb{Q}$をその部分集合A(下組)とA'(上組)に分け(切断し),Aのどの元もA'のどの元より小さくなるようにする.
(板書2)
ある有理数が定まる切断は次の2通りのどちらかになる.
①Aに最大元$a$があり,A'には最小元がない.このとき有理数$a$が定まる.
②Aに最大元がなく,A'には最小元$a'$がある.このとき有理数$a'$が定まる.

③Aに最大元がなく,A'にも最小元がない場合,対応する有理数が定まらないので,実数を対応させることになります.実数の切断は①または②の場合しかないので,実数の全体$\mathbb{R}$が連続であるという話につながっていきます.

第2巻 第6話 酒と泪と男とベクトル

横辺建己が入学3年目になってやり直しを決意し,実在する書籍「理系のための線型代数の基礎」(永田雅宜著)のベクトル空間のところを読んでいます.

横辺「わ,わからない.ベクトルって矢印のことじゃないのかーーっ」 

a, b, cはベクトル,α,βはスカラー

矢印は物理で力や速度などに使われますが,ベクトル空間の一例にすぎません.一般には,足し算とスカラー倍ができて,上の8つの性質(最後の$1a=a$を除いて7つという場合もあり)を満たすベクトルの集まりをベクトル空間といいます.易しくいうと,$n$次元成分表示$(a_1,a_2,…,a_n)$と対応できるものの集まりはすべてベクトル空間になります.

例えば,$n$次元デカルト座標や$n$個のデータは$(a_1,a_2,…,a_n)$,複素数$a+bi$は$(a, b)$,上の多項式$x^2+2x+3$は$(1, 2, 3)$と表せるので,その集まりはすべてベクトル空間になります.なので,高校教科書では$\vec{a}$,$\vec{b}$のように上に矢印をつけますが,線形代数の専門書では矢印をつけず,太字で表すのが一般的です.

余談ですが,$n$個のデータが2つあって各々の平均との差(偏差)を表すベクトルを$\boldsymbol{a}$,$\boldsymbol{b}$とするとき,これら2つのデータの相関係数は次式で求められます.これは2つのベクトルのなす角の余弦になるので,正の相関が強いと同方向の$\cos{0°}=1$,負の相関が強いと逆方向の$\cos{180°}=-1$に近くなります.$$\frac{\boldsymbol{a} \cdot \boldsymbol{b}}{|\boldsymbol{a}| \ |\boldsymbol{b}|}$$

(参考)

実数の連続性(実数のデデキント切断)
https://wiis.info/math/real-number/definition-of-real-number/continuity-of-real-number/

ベクトル空間と基底
https://www.math.nagoya-u.ac.jp/~hisamoto/1W/hisamoto-1W17-03.pdf

Friday 25 March 2022

動画 積分するアイドル見つけました

YouTube 「積分するアイドル見つけました」
2021年 YouTube 予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」

定積分の計算

アイドルグループ「乃木坂46」の林瑠奈が黒板に定積分の計算を書き,答が884になって,その語呂合わせが姓の「ハヤシ」になるという動画です.まず次の計算をします.$$\displaystyle\int_0^{\frac{-1+\sqrt{1769}}{2}}(4x+2)dx$$式変形は丸覚えという感じで,鼻歌を歌いながらすらすらと書いていきます.動画の通り,高校数学Ⅱの知識で884を導きました.この問題は数学の先生に教わったそうです.

この後にもう1問,今度は「100倍難しい」という三角関数を含む定積分の計算を書きます.その問題がこちらです.$$\displaystyle\int_{-1768}^{1768}\frac{\sin^2(46\pi x)}{1+e^x}dx\tag{1}$$

(2問目)三角関数を含む計算

書かれた計算はこの図の通りで答えは884なんですが,いきなり式(1)と次の式(2)が等しいことを当然のように話を進めています.$$\displaystyle\int_{-1768}^{1768}\frac{\sin^2(46\pi x)}{2}dx\tag{2}$$これが成り立つのならその理由が必要です.式(2)で良いなら,動画の通りに高校数学Ⅲの方法で計算できますが,式(1)をそのまま計算するのは難しいですね.

(1)の不定積分をWolframAlphaで確かめようとしたところ,このままではエラーになってしまったので,$x$の係数を$\pi$にしてみたら,次のような結果になりました.

$_2F_1(a , b ; c ; x)$は超幾何関数

このように,不定積分は超幾何関数や虚数単位 $i$ を含む難しい式になります.超幾何関数の定義は,$$_pF_q(a_1,…,a_p;b_1,…,b_q;x)=\sum_{n=0}^{∞}\frac{(a_1)_n(a_2)_n⋯(a_p)_n x^n}{(b_1)_n(b_2)_n⋯(b_q)_n n!}$$$$ここで,(a)_0=1, \quad (a)_n=a(a+1)(a+2)⋯(a+n-1)$$という式なので,xの係数が$\pi$のとき,上の式の中の超幾何関数は,次の式になります.$$_2F_1(1, -2\pi i; 1-2\pi i; -e^x)=\sum_{n=0}^{∞}\frac{(1)_n(-2\pi i)_n (-e^x)^n}{(1-2\pi i)_n n!}$$これをこのまま計算するのは困難なので,WolframAlphaに(1)の積分計算をしてもらったら,確かに884になりました.


次はグラフで(1)と(2)が等しいことを確かめてみます.


が $y=\displaystyle\frac{\sin^2(\pi x)}{1+e^x}$…①,が $y=\displaystyle\frac{\sin^2(\pi x)}{2}$…②,が $y=\displaystyle\frac{1}{1+e^x}$…③です.xの係数を46πにすると周期が短すぎて密になって波が見えないので,xの係数はπにしています.x<0のとき①は②の2倍に近く,x>0のとき①は0に近いことと,③が(0, $\frac{1}{2}$)に関して点対称であることを考えると,①の下と②の下の面積は等しいということが分かります.

とりあえずグラフを考えて式(1)と(2)が等しいことは分かりましたが,この動画ではその証明がないのですっきりしません.初めから式(2)を計算したほうが良かったと思います.

[2022/03/26追記]

「YAHOO!知恵袋」にこの話題があり,式(1)と(2)が等しいことの証明がありました.

積分するアイドル見つけました【乃木坂46×ヨビノリ】
https://www.youtube.com/watch?v=xsoroPOe9gk&t=915s

hypergeometric function
https://ncatlab.org/nlab/show/hypergeometric%20function

Thursday 17 March 2022

映画  X+Y 僕と世界の方程式

2015年 英国

2進数

他人とのコミュニケーションを苦手とする少年が,ずば抜けた数学の才能によって国際数学オリンピックの英国代表になったという実際にあった話をモデルにしたドラマです.その中の数学の授業での一コマです.

問題
Teacher : Twenty random cards are placed in a row, all face down. A move consists of turning a face down card, face up and turning over the card immediately to the right. Show that no matter what the choice of card to turn, this sequence of moves must terminate.

(筆者訳) 教師:20枚のカードが一列ですべて裏向きに置かれている.いずれかの裏向きのカードを表向きにして,すぐ右のカードをひっくり返すという動作を繰り返す.どのようにカードを選んでも,この一連の動作は必ず終わることを示しなさい.

教師に指名され,黒板の前に立った主人公の少年 Nathan は,話しにくそうにしながらも次のように説明していました.

(英語略・筆者訳) カードではなく数字だとして考える.裏向きを1,表向きを0とすると,最初は全部1が並んでいる.その後,例えば次のようになったとすると,これは2進数と考えられる.
10011010
この動作をすると,例えば11は00になり,
10000010
10は01になる.
10000001
上から下へ,この2進数の値は狭義単調減少になる(減っていく). (注:「広義単調減少」は,減っていくが同じ値を繰り返すこともある)
これはこの一連の動作が必ず終わることを意味する.なぜなら,正の整数から整数がずっと減り続けて負の数にならないようにすることはできないから.


2進数表記にして考えるのは分かり易いですね.この後 Nathan は教師から褒められ,教室にいた生徒たちから賞賛の拍手を浴びていました.

さてこの問題,毎回どれか裏向きのカードを表向きにしてその右のカードをひっくり返していくわけですから,次の2種類の動作しかありません.

裏裏 → 表表(上の解答では1100
裏表 → 表裏(上の解答では1001

これを繰り返すと,偶数枚の時は最後に全部表向きで終わり,奇数枚の時は最後に右端だけ裏向きで終わります.この問題でのカードの枚数は20枚ということでしたが,$n$枚の場合に,終わるまでの最少動作数minと最多動作数maxを考えてみました.

例えば,$n$=3枚の時,最少で終わるのは 111→001 の1回で,最多で終わるのは 111→100→010→001 の3回になります.また,$n$=4枚の時,最少で終わるのは 1111→0011→0000 の2回で,最多で終わるのは 1111→1100→1010→1001→0101→0011→0000 の6回になります.さらにいくつかの場合を調べてみると次の表のようになります.


これを$n$の式で表すと次式になります. ( [    ]はガウス記号 )$$\min=\left [ \frac{n}{2}\right ]$$ $$\max=\frac{1}{2}n(n-1)$$なので,この問題の$n=20$枚の場合は,$$\min=\left [ \frac{20}{2}\right ]=10$$ $$\max=\frac{1}{2}\times20\times(20-1)=190$$すなわち,少なくて10回,多くて190回の動作で全部表向きになります.

[Reference]

X+Y (Clip) - Nathan solves math problem | Pinnacle Films
https://www.youtube.com/watch?v=mYAahN1G8Y8