方位角
大学で地球惑星科学を専攻していた著者による科学の知識を織り交ぜた5つの短編集で、どれも異なる地方が舞台になっています.タイトルは,夢化けの島(山口県見島),狼犬ダイアリー(奈良県東吉野村),祈りの破片(長崎県長与町),星隕つ駅逓(北海道遠軽町),藍を継ぐ海(徳島県姫ヶ浦).さすが直木賞受賞作品だけあって,どれも心温まる素敵な物語でした.
「祈りの破片」
地図には収集地点と思われる場所に番号が振ってある。そして右のページには、各地点で収集された物品の詳細が、 細かな字でびっしりと記載されていた。 <地点1-①民家ノ庭石(安山岩)、一部熔融。②玉砂利(黒色頁岩?)、表面ガラス化シ、緑色ヲ帯ビル。③ 石垣ニ熱線ノ影アリ、方向N15°W。 (単行本P127~128)
近所から苦情の出た空き家で見つかった多量の岩石やガラス製品の謎を追う若い公務員が主役の話です.最後に「N15°W」という表現がありますが,これは四分円方位角(quadrant bearing)といいます.方位角でよく使われるのは次の2つです.日本では数学ではなく地学または地理で習うと思いますが,海外では数学のテキストに登場しています.
図を見ると分かりますが,①北方位角(North azimuth)は北を基準として時計回りに回転した角度で表し,②四分円方位角は北(N)または南(S)を基準として東(E)または西(W)に回転した角度で表します.従って,ここに登場した「N15°W」は次の方向を表しています.
世界で最も多くの国で採用されている国際バカロレア(IB)数学の練習問題からこの表現を使った問題を紹介しますので解いてみてください.
[Question] Radio direction finders are set up at two points A and B, which are 2.5 miles apart on an east-west line. From A, it is found that the bearing of a signal from a radio transmitter is N36.3°E, while from B the bearing of the same signal is N53.7°W. Find the distance of the transmitter from B.
[問題] 東西方向に2.5マイル離れた2地点AとBに無線方向探知機が設置されている.A地点からは無線送信機からの信号の方位がN36.3°Eであり,B地点からは同信号の方位がN53.7°Wとわかった.B地点から送信機までの距離を求めよ.(正解は文末)
[参考]
方位
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B9%E4%BD%8D
連立方程式 ①$a^2+b^2=2.5^2$ ②$a \cos36.3°=b \cos53.7°$を解いて,$b$ ≒ $2.0$ miles