2018年~ 絹田村子作 小学館
デデキンドの切断 ベクトル空間
抜群の記憶力だけで京都の吉田大学(京大がモデル)の理学部に現役合格した横辺建己が,入学後最初に受けた数学の講義をまったく理解できなかったことがショックでそのまま2年も留年してしまいますが,3年目からようやく友達もできてやり直し,その後数学科に進学して奮闘するという話です.
第1巻 第1話 極限は突然に
初日につまづいたからといって2年も留年するのはあまりリアルではないと思いますが,横辺建己にそこまでショックを与えたのはどんな内容だったのでしょうか.その入学後初日2時間目の講義は「微分積分学」で,デデキンドの切断を使って実数の連続性を示す準備となる,有理数の切断の話でした.
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板書1 |
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板書2 |
板書2の見えない部分を推測すると,次のようになると思われます.
∃a∈A s.t.∀b∈A, b≤a …①
または
∃a′∈A′ s.t.∀b′ ∈A′, a′≤b′ …②
このとき切断(A, A'
)は,①のときは有理数aを定め,②のときは
有理数a'を定める
注意:①と②は同
時に起らない
以上を分かり易く言い換えてみます.
(板書1)
有理数の全体Qをその部分集合A(下組)とA'(上組)に分け(切断し),Aのどの元もA'のどの元より小さくなるようにする.
(板書2)
ある有理数が定まる切断は次の2通りのどちらかになる.
①Aに最大元aがあり,A'には最小元がない.このとき有理数aが定まる.
②Aに最大元がなく,A'には最小元a′がある.このとき有理数a′が定まる.
③Aに最大元がなく,A'にも最小元がない場合,対応する有理数が定まらないので,実数を対応させることになります.実数の切断は①または②の場合しかないので,実数の全体Rが連続であるという話につながっていきます.
第2巻 第6話 酒と泪と男とベクトル
横辺建己が入学3年目になってやり直しを決意し,実在する書籍「理系のための線型代数の基礎」(永田雅宜著)のベクトル空間のところを読んでいます.
横辺「わ,わからない.ベクトルって矢印のことじゃないのかーーっ」
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a, b, cはベクトル,α,βはスカラー |
矢印は物理で力や速度などに使われますが,ベクトル空間の一例にすぎません.一般には,足し算とスカラー倍ができて,上の8つの性質(最後の1a=aを除いて7つという場合もあり)を満たすベクトルの集まりをベクトル空間といいます.易しくいうと,n次元成分表示(a1,a2,…,an)と対応できるものの集まりはすべてベクトル空間になります.
例えば,n次元デカルト座標やn個のデータは(a1,a2,…,an),複素数a+biは(a,b),上の多項式x2+2x+3は(1,2,3)と表せるので,その集まりはすべてベクトル空間になります.なので,高校教科書では→a,→bのように上に矢印をつけますが,線形代数の専門書では矢印をつけず,太字で表すのが一般的です.
余談ですが,n個のデータが2つあって各々の平均との差(偏差)を表すベクトルを\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}とするとき,これら2つのデータの相関係数は次式で求められます.これは2つのベクトルのなす角の余弦になるので,正の相関が強いと同方向の\cos{0°}=1,負の相関が強いと逆方向の\cos{180°}=-1に近くなります.\frac{\boldsymbol{a} \cdot \boldsymbol{b}}{|\boldsymbol{a}| \ |\boldsymbol{b}|}
(参考)
実数の連続性(実数のデデキント切断)
https://wiis.info/math/real-number/definition-of-real-number/continuity-of-real-number/
ベクトル空間と基底
https://www.math.nagoya-u.ac.jp/~hisamoto/1W/hisamoto-1W17-03.pdf