半減期 DNA鑑定 二乗
2025年第23回『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリ受賞作です.大学院生の七瀬悠(はるか)が,200年前の人骨と4年前に失踪した妹の紫陽(しはる)のDNAが一致したという謎を究明しようとしたところ,殺人事件にまきこまれ,さらに自らも危険な目に会いながら真相に近づいていくという話です.
すべての動植物は、生きている限り、内部に大気中と同濃度の放射性炭素を取りこんでいる。動植物が死に至ると、体内の放射性炭素は取りこまれなくなり、"半減期" に従って減りつづける。半減期とは、放射性物質の数が半分になるまでの期間を指し、これらは物質の種類によって異なる。放射性炭素の半減期は約五七三○年だ。つまり、 測定対象内部の放射性炭素の数がどれだけ減ったのかを数えれば、対象が生命活動を停止してからどれだけの年数が経っているのかがわかる、ということだ。(P53)
放射性元素の問題は,高校数学の教科書では指数・対数の練習問題で出てきます.このブログでは,カリウムの同位体の話が小説「魔力の胎動」に登場しました.
炭素の同位体には炭素12,炭素13,炭素14があり,そのうち放射性同位体である炭素14 (14C) は,生物体内に極微量 (通常の炭素の約1兆分の1)存在していますが,死亡すると減少していき,半減するのに5730年かかることから,化石などの年代測定に利用されています.元の量からどれぐらいの量に減ったら200年前と分かるのでしょうか,計算してみましょう.
生存時の炭素14の原子核数を$N_0$,半減期を$t_{1/2}$(年) とすると,$t$年後の原子核数$N$は次式で表されます.$$N=N_0 \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{t_{1/2}}}$$これに,$t_{1/2}=5730$,$t=200$を代入すると,$$N=N_0 \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{200}{5730}}=N_0\times0.9760\cdots\cdots$$すなわち,炭素14の原子核の数は死後200年で生存時の97.6%に減っているということになります.
もちろん原子核の数は目で見て数えられません.加速器質量分析法(AMS法)というのを使うそうです.
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会話の中にこんな表現がありました.DNA鑑定について悠と石見崎唯(ゆい)の会話です.
「僕がおこなった鑑定は "マルチプレックスSTR解析" っていう、今の時代ではオーソドックスな方法。低く見積もっても四兆七千億人から一人を識別できる。犯罪捜査の現場でもよく使われている手法だ」
「四兆、ですか」(P113)
この「4兆7千億」という数字は小説「確率捜査官 御子柴岳人 密室のゲーム」にも登場しました.その時に,「警察庁は2019年に新たな検査試薬を導入し,同じDNA型の出現頻度が565京人に1人となった」 ことを述べました.この小説は2025年に発行されていますが,小説の舞台が2019年以前だとすれば,この数字のままでいいのかも知れません.
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こんな表現もありました.悠が失踪した紫陽の生存を諦めそうになった時に励まそうとする唯の言葉です.
「つまり私が言いたいのは――」
「『諦めるのはまだ早い』だろ」
唯はにっこりと笑った。
「そういうことです。『早い』に二乗をかけてもいいくらい」(P125)
正しくは「2乗をかける」ではなく「2乗する」なので,「『早い』を二乗してもいいくらい」 とするべきですが,より強く気持ちを伝えるために敢えてこの表現を使ったのかも知れませんね.
xに2乗をかける ⇒ xを2乗する
[参考]
放射性炭素年代測定の概要
https://iaa-ams.co.jp/radiocarbon-dating/
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