2017年8月16日

小説 偏差値70の野球部 レベル3 守備理論編

松尾清貴 2012年 小学館文庫

中学時代にピッチャーで全国大会準優勝した新(あらた)真之介(しんのすけ)が,なぜか東大合格者数全国1位の超進学校に入学し,甲子園を目指すという話です.
 
「角運動量保存則を利用した等速円運動打法」を考案し,「強いのは野球のセオリーを作っているチームだ」という才女のヒカルさんが,打球の落下地点を知るための方法として,重力,摩擦抗力,揚力,粘性率,レイノルズ数などを考慮した流体力学の理論を話しました.
ヒカルさん「変数は,打球の水平面に対しての角度と速度と角速度.一応,抗力係数は0.6に設定してる.レイノルズ数がはっきりすればいいんだけど,信頼のおける実験結果が得られなかったから.計算上は105程度になるから,どっちみちナビエ-ストークスの方程式は使えない.(後略)」
ヒカルさんが画面を覗き込むようにしながらマウスをクリックすると,新たに浮き出たドットが,さらに複数の相対的にきれいな二次関数を描き出した.頂点を挟んで右側,つまり下り曲線が上り曲線よりも急角度だった.
この数式を期待したのですが,このままでは複雑すぎるということで,その後,以下のように外的な力を無視し,単なる二次関数でボールの到達距離と時間を予測していました.話の流れからすると残念です.しかもその中の数式に1か所ミスがありました(読んだのは第3刷なので,その後訂正されているかも知れません).
ヒカルさん「初速度v0,水平面との角度θの放物運動する物体は,水平方向x鉛直方向yの二次元座標において,x=v0cosθ・t,y=v0sinθ・t-gtで表されるよね.ボールが到達する地点では y=0 だから,まずy式にそれを代入する.到達時間t2はもちろん0ではないから,式 t2=2v0sinθ/g が得られるでしょ.水平到達距離をx軸上のD点として,先に求めたt解をx式に代入する.だから,具体的には,D=v0cosθ・tを,v0cosθ・2v0sinθ/g に変換すると,これは v02sin2θ/g になるね.」
式中の$g$は重力加速度9.8m/秒2,$t$は時間(秒)を表します.はじめの式 $$ y=v_0 \sinθ \cdot t-gt^2 $$ は,正しくは次式になりますね.$$y=v_0\sin\theta \cdot t-\frac{1}{2}gt^2\tag{1}$$この場合,速度は $$(\frac{dx}{dt}, \frac{dy}{dt})=(v_0 \cosθ, v_0 \sinθ-gt)$$ なので,これを$t$で積分すると,位置は次式になります(整式の積分なので高校数学Ⅱの知識でOK).$$(x, y)=(v_0 \cosθ・t, v_0 \sinθ・t-\frac{1}{2}gt^2)$$ この$(x, y)$から$t$を消去すると次式になります.$$y=\tan\theta \cdot x-\frac{g}{2v_0^2\cos^2\theta}\cdot x^2\tag{2}$$例え空気抵抗などを無視したとしても,相手がボールを打ってフライを上げた瞬間に,この計算をして外野手に知らせるなんて,超人的な能力ですね(笑).

初速度や打出角度が変わればどうなるかをGeoGebraで作ってみました.青のグラフは横軸が時間$t$で式(1)を,紫のグラフは横軸が水平飛行距離$x$で式(2)を表しています.

なお,空気抵抗を加味した放物運動は,映画「ST赤と白の捜査ファイル」ですでに紹介しています.

2017年8月11日

随筆 墨汁一滴

正岡子規(1867-1902) 岩波文庫 岩波書店
1927年12月第1刷 1998年1月第35刷  

正岡子規は「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」という俳句で有名です.36才で亡くなる前の年の1901年1月から7月まで、正岡子規が記者として勤めていた当時の新聞『日本』に連載されていた随筆の一説ですが,この文章は東京大学予備門(のちの第一高等学校、戦後は東京大学教養学部)に入学した18才の頃を回顧しています.
しかし余の最も困つたのは英語の科でなくて数学の科であつた。この時数学の先生は隈本(有尚)先生であつて数学の時間には英語より外の語は使はれぬといふ制規であつた。数学の説明を英語でやる位の事は格別むつかしい事でもないのであるが余にはそれが非常にむつかしい。つまり数学と英語と二つの敵を一時に引き受けたからたまらない、とうとう学年試験の結果幾何学の点が足らないで落第した。(六月十四日) 
余が落第したのは幾何学に落第したといふよりもむしろ英語に落第したといふ方が適当であらう。それは幾何学の初にあるコンヴアース、オツポジトなどといふ事を英語で言ふのが余には出来なんだのでそのほか二行三行のセンテンスは暗記する事も容易でなかつた位に英語が分らなかつた。落第してからは二度目の復習であるから初のやうにない、よほど分りやすい。コンヴアースやオツポジトを英語でしやべる位は無造作に出来るやうになつたが、惜しい事にはこの時の先生はもう隈本先生ではなく、日本語づくめの平凡な先生であつた。しかしこの落第のために幾何学の初歩が心に会得せられ、従つてこの幾何学の初歩に非常に趣味を感ずるやうになり、それにつづいては、数学は非常に下手でかつ無知識であるけれど試験さへなくば理論を聞くのも面白いであらうといふ考を今に持つて居る。これは隈本先生の御蔭かも知れない。(六月十五日)
幾何学でコンヴアース(converse),オツポジト(opposite)が登場するものを推測してみましょう.Converseは,条件文P⇒Q(PならばQ)に対してその逆,Q⇒P(QならばP)を意味します.Oppositeは「向かい側の」とか「反対側の」という意味でよく使われます.

■平行四辺形の性質「平行四辺形の2組の対角(opposite angles)は等しい」の逆(converse)は「2組の対角(opposite angles)が等しい四角形は平行四辺形である」

■平行四辺形の性質「平行四辺形の2組の対辺(opposite sides)は等しい」の逆(converse)は「2組の対辺(opposite sides)が等しい四角形は平行四辺形である」

■三平方の定理「直角三角形の斜辺の2乗は他の2辺の2乗の和に等しい」の逆(converse)は「三角形で,ひとつの辺の2乗と他の辺の2乗の和が等しいとき,最初の辺の対角(opposite angle)は直角になる」

■二等辺三角形の定理「二等辺三角形の底角は等しい」の逆(converse)は「三角形の2角が等しいとき,それらの対辺(opposite sides)も等しい」

■三角形の辺と角の大小「三角形の2辺が異なるとき,長い方の辺の対角(opposite angle)は短い方の辺の対角より大きい」の逆(converse)は「三角形の2角が異なるとき,大きい方の角の対辺(opposite side)は小さい方の角の対辺より長い」

以上はいずれも今の日本の中学程度の内容ですが,もともとユークリッドの「原論」に載っていたものです.正岡子規が存在していた明治時代初期の頃,幾何学はユークリッドの「原論」が主に学習されていたようなので,その中の初歩といえば,このような内容だったと思われます.

[Reference]
明治前期の日本において教えられ,学ばれた幾何(数学史の研究)

2017年7月28日

映画 Hidden Figures (邦題「ドリーム」)本編

2016年 米国 20th Century Fox

Euler's Method

日本では2017年9月公開予定の映画です.主役のキャサリン・ジョンソンは、宇宙船を軌道から戻すための計算にオイラーの方法(Euler's Method)を使います.これは常微分方程式 ordinary differential equations (ODEs)の厳密解(解析解)が求められないときに近似解(数値解)を求める方法の一つです.


解こうとする微分方程式が $y'=f(t, y(t))$,初期値が$y(t_0)=y_0$のとき,まずtを幅hで区切って$t_0=0, t_1=h, t_2=2h, t_3=3h,$ …とし,最初はt=0における接線で近似,その後は,$y_{n+1}=y_n+h・f(t_n,y_n)$として,2点$(t_n, y_n)$, $(t_{n+1},y_{n+1})$を結ぶ直線で近似していくという方法です.

簡単な例として,厳密解(解析解)が$y=e^t$になる微分方程式$y'=y$を見てみましょう.初期値は$y_0=1$になります.この例では$f(t_n,y_n)=y_n$なので,$y_{n+1}=y_n+h・y_n$として$(t_n,y_n)$を次々に求めて行き,折れ線グラフを作っていくというイメージです.

$y_1=y_0+h\cdot y_0=1+h\cdot 1=1+h$
$y_2=y_1+h\cdot y_1=(1+h)+h\cdot(1+h)=(1+h)^2$
$y_3+h\cdot y_3=(1+h)^2+h\cdot(1+h)^2=(1+h)^3$

例えば,h=0.5なら,$y_1=1.5$,$y_2=2.25$,$y_3=3.375$,$y_4=5.0625$,…となって,右図のようになります.
(オレンジ色がEuler's methodによる近似解,青色が$y=e^x$)

hの値(分割の幅)が小さいほどより良い近似になりますが,その分,計算は煩雑になります.hの値を変えたらどうなるかわかるものをGeoGebraで作ってみましたので,試してみてください.

因みにEuler's Methodは,世界中最も多くの国で普及している高校カリキュラム「国際バカロレアディプロマプログラム(IB Diploma Program)」のMathematics Higher Level(主に理系向き)のOption科目"Calculus"に登場します。

余談ですが,日本語の方のWikipediaで,1か所間違いを見つけたので訂正しておきました.これでWikipediaの記事を訂正したのは4~5回目ぐらいになのですが,以前に訂正した内容を記録してなくて思い出せないので,今後履歴が残るように今回初めてWikipediaにアカウント登録してみました.

<reference>
Euler method
https://en.wikipedia.org/wiki/Euler_method
オイラー法
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%83%BC%E6%B3%95

2017年7月22日

漫画 Q.E.D. 証明終了

 加藤元浩 1997-2014年 講談社

以前から数学の話題が頻繁に登場する漫画であることを知っていたのに,なぜかここに書かなかったという作品のひとつです.久しぶりに第1巻を含むいくつかを読んで,ようやく書く気になりました.

理工系大学の世界最高峰である米国のMIT(マサチューセッツ工科大学)を15歳で卒業したが,普通の高校生活を体験したいと,日本の高校に入学してきた燈馬想が,同級生の体育会系水原可奈の協力のもと,次々と難事件を解決していくという漫画です.Q.E.D.はラテン語でQuod Erat Demonstrandum.タイトル通り「証明終了」という意味です.

第1巻/第2話「銀の瞳」

数学の苦手な水原可奈に燈馬想が数学を教える場面です.
燈馬想「だから交点が1になる場合を考えて判別式が0になる値を求めるんです.」
水原可奈「じぇんじぇんわかりましぇん」
問題が掲載されていなかったので推理してみましょう.このころはまだ2人とも高校1年生なので,高校数学Ⅰの問題なら,放物線と直線の共有点が1つ,すなわち接するときの式中の定数を求める問題でしょう.そうだとすれば,「交点が1になる場合を考えて」よりも「共有点が1つになる場合だから」という表現のほうが適切ですね.

[簡単な例題] 放物線$y=x^2$と直線$y=ax-3$が接するとき,定数$a$の値を求めよ.(正解は±2√3)

第7巻/第1話「Serial John Due」
ロキ「じゃア,カメーネフの死は"π"に符合してるとして…,劉の方は?」
燈馬想「自然数eだよ」
ロキ「e? あのオイラーの数か?」
水原可奈「eって?」
燈馬想は「自然数」,ロキは「オイラーの数」と言っていますが,eは「自然対数の底」,または「ネイピア数」と呼ばれることが多いです.「自然数」だと正の整数(または負でない整数)の意味を持つnatural numberと誤解しやすくなります.また,eという文字で表すのはオイラーが最初だったので「オイラーの数」でもいいのですが,他に「オイラーの定数(Euler's constant)」というのがあるので,混同しないようにしたいですね.
燈馬想「円周率πは円周を円の直径で割った数.自然数eはネイピアの考案した対数という概念から生まれた数.そして虚数iは2乗して-1になる想像上の数として生まれました.この3つの記号はそれぞれ人類の歴史の中でなんの関連もなく生み出されたものです.ところが大数学者オイラーはこの3つの数に一つの関係を見つけ出した.
$e^{πi}=-1$
これがオイラーの公式,人類の数学史上最も美しい式と呼ばれるものです.」
ここでもeを「自然数」と呼んでいますが,さらにオイラーの公式(Euler's formula)$$e^{θi}=\cosθ+i\sinθ$$に$θ=π$を代入して得られるオイラーの等式(Euler's identity)$$e^{πi}=-1$$を「オイラーの公式」と呼んでいるのが気になりますね.

第33巻/第2話「推理小説家殺人事件」
燈馬想「『グラフで囲まれた部分の面積を求めろ』ってことなので,まず2つの交点のxの値を出して範囲を決めます.yが同値になるxってことだから…」
燈馬想が水原可奈に数学を教えている場面ですが,台詞はこれだけで図もありません.これは積分の問題でしょう.中には公式を使って交点のxの値を出さずに解く方法があります.以前,映画「容疑者xの献身」で述べました.

第38巻/第2話「十七」

xのn乗根がn=1から4まで紹介されていましたが,n=4のときの解(1の4乗根)は,$x^4-1=0$を解いて$x=±1$,$±i$になります.間違ってn=4のところにn=5のときの解(1の5乗根)が書かれてあります.と思ったらよく見ると値も違っていました.正しくは次のようになります.他のサイトでいくつも見つかりますから,確認しみてください.$$\frac{(-1+\sqrt{5})±i\sqrt{10+2\sqrt{5}}}{4}, \quad \frac{(-1-\sqrt{5})±i\sqrt{10-2\sqrt{5}}}{4}$$

第44巻/第2話「Question!」

トップのタイトルページの数式です.右上の図より,円$x^2+y^2=1$と,(-1,0)を通る直線$y=m(x+1)$の,(-1,0)でない方の交点の座標を求める問題のようです.横書きの数式なのに,板書が右から始まるのが変ですね.話は右上の図から始まって,右下の連立させた方程式を変形する過程まではいいのですが,そのあとの左の計算式(燈馬想に隠れて見えにくいですが)が少しおかしいですね.右下の式を整理すると次式になります.
$(1+m^2)x^2+2m^2x+(m^2-1)=0$
この左辺をを因数分解するのに,解のひとつがx=-1とわかっているので,x+1がひとつの因数になります.その割り算は右図のようになるはずなので,$m^2>1$や,$x√$というのは写し間違いだと思われます.

他の巻にも以下のように数学の話題が頻出します.数学の話ではなくても十分楽しめる知的な漫画なので,どなたにも強くお勧めします.
  9巻 ケーニヒスベルグの橋
13巻 クラインの壺
15巻 デデキントの切断
20巻 カントールの無限集合
23巻 リーマン予想
29巻 ポアンカレ予想
44巻 フェルマー予想 ゴールドバッハ予想 ABC予想
47巻 P≠NP問題

2017年6月11日

テレビ番組 とくダネ! 中国の過酷すぎる受験対策

2017年6月9日放送 約940万人が挑む一発勝負
中国の全国大学統一入試は「高考(ガオカオ)」と呼ばれ、約940万人が受験に臨み,2800校中超一流と呼ばれる80校を目指します.15校が志望でき、ランクごとに5校ずつ選べます.学力のみの一発勝負で,試験の成績によって入学校が決まり,成績トップ者は新聞一面で紹介されます.大学ごとの入試は行なわれません.東京大学の倍率約3倍に対して、北京大学の倍率は150倍にもなります.(番組情報より)
今年広東省で出題された数学の問題の前半に出てきた比較的易しい問題がひとつ紹介されていました.少し分かりにくい問題文でしたが,要するに太極と呼ばれる図形の黒い部分の面積の,外接する正方形の面積に対する割合を求める問題です.正解の選択肢は
A 1/4  B π/8  C 1/2  D π/4

東大の建築学科卒で数学に関する著作もある司会の女性タレントがこの問題の正解をすぐに答えていました.「どう考えても1/4じゃないから…,Bですよね」 つまり計算はせずに,半分よりは小さく,1/4よりは大きいからその間のπ/8を正解にしたようです.

一応確認してみましょう.円の半径をrとすると,黒い部分は白い部分と全く同じ形なので円の面積の半分で$\pi r^2/2$,正方形の面積は$(2r)^2=4r^2$,前者を後者で割ると$\pi /8$になります.

テレビの情報番組やクイズ番組などで数学の問題が出るときは,このようにすぐに正解が得られる問題しか出てきませんね.特にクイズ番組では,ただ覚えている知識を答えるだけの問題が多いので,物足りなく感じます.

他の問題も気になったので探してみました.2017広東省数学問題解答です.上の問題の原文も見つかりました.「理科数学」は「理系数学」という意味です.せっかく見つけたので少し時間のかかる最後の記述式問題も紹介しておきます.
[理科数学 2] (上の問題)如图,正方形ABCD内的图形来自中国古代的太极图正方形內切圓中的黑色部分和白色部分关干正方形的中心成中心対称.在正方形内随机取一点,剣此点取自黒色部分的概率是.
[理科数学 23] 己知函数$f(x)=-x^2+ax+4$, $g(x)=|x+1|+|x-1|$.
(1) 当$a=1$时,求不等式$f(x)\ge g(x)$的解集.
(2) 若不等式$f(x)\ge g(x)$的解集包含$[-1, 1]$,求$a$的取値范围.
[理系数学 23](和訳)関数$f(x)=-x^2+ax+4$,$g(x)=|x+1|+|x-1|$がある.
(1) $a=1$のとき,不等式$f(x)\ge g(x)$を解け.
(2) 不等式$f(x)\ge g(x)$の解が$[-1, 1]$に含まれるとき,$a$の取り得る値の範囲を求めよ.

正解は  (1) -1≦x≦(-1+√17)/2   (2) -1≦a≦1

[Reference]
2017年广东高考真题及答案解析
http://www.gaokao.com/e/20170607/59375d1f5f355.shtml

2017年6月4日

NEWS 大学新テスト記述式問題例 

2017年5月16日に発表された独立行政法人大学入試センター「大学入学共通テスト(仮称)」記述式問題のモデル問題例が,翌日の新聞各紙に掲載されました.「どんな問題だろう」と解いてみた人も多いのではないでしょうか.その中の4問目(数学の2問目),銅像が最もよく見える位置を考察する,すなわち銅像の頭Aと足元Bまでを見込む角が最大になる視点Pの位置を考えるという問題が少し気になりました.問(1)は具体的な数字を与えられて∠APBを求めるもので特に問題を感じませんでしたが,この後の展開が気になりました.
問(2) 銅像を見込む角が最大となるときの,見る人の足元の位置を「ベストスポット」と呼ぶことにする.この「ベストスポット」について,太郎さんは次のように考えた.
[太郎さんの考え] 3点A,B,Pを通る円の半径をRとすると,ABの長さは常に一定であることから,∠APBが鋭角ならば,∠APBが最大となるのは,Rが最小のときである.
ということは,Rがどんなときに最小になるかをこれから考えていくんだなと思ったら,次はこんな問いでした.
(i) ∠APBが鋭角であることを確かめる方法を,△APBの3辺の長さAB,AP,BPについての式を用いて説明せよ.
ここでわざわざ「∠APBが鋭角である」ことを確かめる必要があるのでしょうか.銅像の足元を視点より低くして,よっぽど近寄らないと見込む角は鈍角にはなりません.銅像の足元Bは視点Pより高いので,∠APBが鋭角であることは明らかです.この状況を図に描いたら,100人中100人は∠APBが鋭角になるでしょう.
(ii) [太郎さんの考え] が正しいことは,sin∠APB,AB,R を用いたある関係式と,「∠APBが鋭角のとき,∠APBが大きくなるほどsin∠APB の値は大きくなる」ことからわかる.その関係式を答えよ.
これだけ誘導されていたら正弦定理とすぐに分かりますね.sin∠APB=AB/(2R)なので,「Rが最小」⇔ 「sin∠APBが最大」⇔ 「∠APBが最大」といえます.
(iii) 二人は [太郎さんの考え] について先生に相談したところ,Rが最小になるのは,3点A,B,Pを含む平面上において,3点A,B,Pを通る円と点Pを通り直線ABに垂直な直線が接するときであることを教えてもらった.この考え方に基づいて,目の高さが1.5mの花子さんが,高さ6.5mの台座の上に乗せた高さ4mの銅像を見る場合の最小R,最大∠APB,ベストスポットの位置を求めよ.
ようやくRが最小になるときを考えるのかなと思ったら,いきなり先生に相談です.自分たちで考える問題なのに「先生に教えてもらったこと」を前提にして話を次に進めています.この「先生に教えてもらったこと」を理解せずに次を考えるのは気持ち悪くないのでしょうか(この解説はこちらのサイトにあります).

この解説の別解で書かれているように, 「先生に教えてもらったこと」は,数学Ⅰまでの知識なら円周角を考えれば説明できます.他の方法で説明しようとすれば,正接の加法定理と相加平均・相乗平均の関係か方べきの定理,または微分を利用してもできますが,数学Ⅰの範囲を超えてしまいます.

日本の試験ではまだ使えませんが,グラフ電卓やそれに類似するソフト・アプリを使えば,数学Ⅰまでの知識でもこのことを確認することはできます.

まずA(0,9), B(0,5), P(x,0)とし,3点A,B,Pを通る円の中心をC(c,7)として,cをxの関数で表します.AC=BC=CPなので,
c^2+2^2=(x-c)^2+7^2
整理すると
c=(x^2+45)/(2x)
あとはこの関数を未習であっても,グラフ電卓等でグラフを描かせて最小値を表示させれば,ベストスポットの位置の近似解6.7が得られます.

国際バカロレア,米国のAPやSAT,英国のA Levelなどでは,グラフ電卓を使える試験と使えない試験の併用が当たり前のように実施されています.

視点をいろいろ変えたらどうなるかをGeogebraで作ってみました.点Pを動かしてみてください.

2017年3月5日

映画 君に届け


椎名軽穂(原作) 2010年 東宝

北海道の高校が舞台です.数学の授業の最後に問題を出しておいてノートに解答を書くよう指示して先に退室した先生から,黒沼爽子がノートを集めて持ってくるよう指示された…のではないかと思われます(こんな先生,あまりいないと思いますが…).
黒沼爽子「数学のノートを集めますので,持って来てください」 
かなり板書が読みづらかったのですが,こんな内容でした.
三角形の性質
<問題>
∠C>∠Bである△ABCで,∠Aの2等分線と辺BCとの交点をPとし,点Aから辺BCに下した垂線をAQとすると,2∠PAQ=∠C-∠Bとなることを証明せよ.
(以下の解答部分は自分で解いた後にドラッグして見てください)

<解答>
APは∠Aの2等分線より,∠BAP=∠CAP
∠APB=∠CAP+∠C … ①
∠APC=∠BAP+∠B … ②
①②より,∠APB-∠APC=∠C-∠B
仮定より,∠APB=180°-∠APC
     ∠APC=90°-∠PAQ
よって
∠C-∠B=∠APB-∠APC
    =180°-2∠APC
    =180°-2(90°-∠PAQ)
    =2∠PAQ
以上は板書の左半分に書かれてあった問題と解答ですが,右半分にあった生徒に出題されたであろう問題は読み取れませんでした.

上の問題はあまり見たことがなかったので,検索してみたらこちらにひとつ見つかりました.

この結果がどんな三角形でも成り立つことを確認できるものをGeogebraで作ってみました.頂点を動かしてみてください.

2016年8月23日

ドラマ 受験のシンデレラ

和田秀樹(原作) 2016年 NHK

分数 三角関数 積分 実数 直円錐

人気塾講師五十嵐透が貧しい高校生遠藤真紀を東大に合格させようとする話です.1/2+1/3=2/5と答えた真紀に対し,お好み焼きを6等分して1/2+1/3=5/6を説明していました.

第3話
オープニングクレジット(Opening credits)にいくつかの問題が一瞬だけ表示されます.

①sinθ-cosθ=14となるとき,sinθcosθの値を求めよ.
この問題は,第4話から「sinθ-cosθ=1/4となるとき」に訂正されていました.高校数学Ⅱの三角関数の合成を習うと,sinθ-cosθ=√2sin(θ-π/4)と変形でき,この値の絶対値は√2より小さいことが分かりますから,sinθ-cosθ=14はあり得ません.たぶん,視聴者からの指摘があって訂正したのではないかと思われます.訂正された問題の正解は15/32になります.解いてみてください.
第4話

他にもかすかに問題が読み取れました.

②曲線y=x^2+x+2-2xと直線y=2mx+2で囲まれる部分の面積が最小値となる定数mを求めよ.
この曲線の式は同類項xと-2xがまとめられていないのが既におかしいですね.まとめると曲線y=x^2-x+2となりますが,このまま解くと面積の最小値が0(このときm=-1/2)になってしまって,間違いではないですが少しおかしな問題になります.

③実数t,x,y,zが下の条件を満たす.x,y,zのうち,2つが等しい値となるときのtの値を求めよ.
x+y+z=t
x^2+y^2+z^2=t^2-t+10
x^3+y^3+z^3=t^3-3t^2+4t+12
いろいろやってみましたが,すっきりした値が出ないので,zをyに置き換えてWolframAlphaに
solve x+2y=t,x^2+2y^2=t^2-t+10,x^3+2y^3=t^3-3t^2+4t+12
と入力してみたら,有効数字6桁のtの値が5つ出てきました.問題のどこかが間違っているような気がします.

④直円錐の頂点をP,底面の直径の両端をA,B,線分APの中点をQとする.このとき,点BからQに至る最短距離を求めよ.
これは具体的な値が与えれていないので,文字だけで計算することになります.母線APの長さをR,底面の半径をrとして,展開図の側面の扇形を考え,線分BQの長さを求めればいいですね.側面の扇形の中心角をθとすれば,θ=2πr/Rなので,△PQBの∠P=θ/2=πr/Rとなり,PB=R, PQ=R/2なので,余弦定理より
$BQ^2=R^2+\left(\frac{R}{2}\right)^2-2\cdot R\cdot\frac{R}{2}\cos\frac{\pi r}{R}$
よって,BQの長さは次式になります.
$BQ=R\sqrt{\frac{5}{4}-\cos\frac{\pi r}{R}}=\frac{R}{2}\sqrt{5-4\cos\frac{\pi r}{R}}$

このドラマの原作者は東大卒の精神科医で,大学受験対策本や啓蒙書も多数執筆されていて,中には「なぜ数学が得意な人がエグゼクティブになるのか」とか「数学は暗記だ!」など,ちょっと気になる本も出されています.

<2017年1月3日追記>
最終回(2016年8月28日放送)の中で2017年1月15日センター試験「数学Ⅰ・数学A」の問題が少しだけ映っていました.もちろんフィクションなので本物ではありません.実際は,第1問から第3問が必答で,第4問~第6問から2問選択ですが,ドラマでは必答にすべき2次関数の問題が選択になっていました.読み取った問題を掲載しますので解いてみてください.

(ドラマの中の問題)
数学Ⅰ・数学A
第5問(選択問題)(配点 20)
2次関数
      y=-x^2+2x+1  …①
のグラフの頂点の座標は(ア,イ)である.また
      y=f(x)
はxの2次関数で,そのグラフは,①のグラフをx軸方向にp,y軸方向にqだけ平行移動したものであるとする.
(1) 下の(ウ)(オ)には次の⓪~④のうちから当てはまるものを一つずつ選べ.ただし,同じものを繰り返し選んでもよい.
      ⓪> ①< ②≧ ③≦ ④≠
2≦x≦4におけるf(x)の最大値がf(2)になるようなpの値の範囲は
      p(ウ)(エ)
であり,最小値がf(2)になるようなpの値の範囲は
      p(オ)(カ)
である.
(2) 2次不等式f(x)>0の解が-1≦x≦5になるのは
      p=(キ) q=(ク)
のときである.
(3) 2次不等式f(x)>1の解が-1≦x≦5になるのは
      p=(ケ) q=(コ)
のときである.

二次関数の最大値/最小値を求めたり,二次不等式を解くだけなら易しいのですが,このように,解が先に分かっていて元の関数の式を決定する問題は少し難しくなります.ドラマの中での主人公の解答は(カ)と(コ)が間違っていましたが,全科目900点満点中728得点だったので良かったですね.

(正解)
(1) (ア,イ)(1, 2)   (ウエ)≦1   (オカ)≧2
(2) (キ)1   (ク)7   (ケ)1   (コ)8

GeoGebraで正解を確認できるものを作ってみました.pとqの値を変えてみてください.
https://www.geogebra.org/m/CT4gKJvV

2016年8月22日

映画 Hidden Figures (予告編)

2016年 20th Century Fox

等辺 台形 二等辺 正四面体 4次方程式

まだ人種差別法が存在していた1960年代、NASA(アメリカ航空宇宙局)でマーキュリー計画に数学で貢献した実在のアフリカ系アメリカ人女性Katherine Johnsonたちを描いた映画です.2016年8月現在,まだ公開されていないので,予告編を見ただけでこれを書いています.
Katherine "equilateral, trapezoid, isosceles, tetrahedlon,....."
Teacher "I've never seen a mind like the one your daughter has."
最初の4語は,等辺,台形,二等辺,正四面体です.equilateral triangleなら正三角形,equilateral quadrilateralなら等辺四角形すなわちrhombus(菱形),isosceles triangleなら二等辺三角形になります.その次が,小学生の時の先生が両親にKatherineの才能について話した台詞です.飛び級していたのでしょうか,Katherineが高校生のクラスで,2次式×2次式=0という4次方程式を解く場面がありました.

$(x^2+6x-7)(2x^2-5x-3)=0$
$(x+7)(x-1)(2x+1)(x-3)=0$
$x=-7,\quad  1,\quad  -1/2,\quad  3$

日本語のタイトルは何だろうと思って探しましたが見つからないので機械翻訳してみると,「隠された数」「隠された図」などが出てきたのですが,figureには人物の意味もあり,栄光の陰で支えた人たちを描いているので,「陰で活躍した人たち」がいいのではないかと思います(検索したら中国語のサイトには「隐藏人物」と出てきました).

2016年8月9日

アニメ 山田君と7人の魔女 第1話

吉河美希(原作) 2014年 講談社

ベクトル 微分積分

身体を入れ替ることができる不良生徒山田竜と優等生白石うらら,他に数名が超常現象研究部をつくって,同じ高校にいる7人の魔女探しをするという話です.冒頭でいきなり数学Ⅱの小テストの答案が現れ,できなかった山田竜を先生が叱っている場面から始まります.
先生「君は学校を何だと思っているのかね.この私立の名門,朱雀高校開校以来初めてだよ.毎日のように遅刻・早退を繰り返し,あちこちで喧嘩三昧,揚句,授業中に居眠りだと!? 山田竜!」
この小テスト,変なところががいくつかありました.
・小テストなのにやたら問題数が多い.
・「解答」と書くべきところがすべて「回答」となっている.
・どの解答欄も極端に狭い.
・なぜか横に緑茶の入った湯呑がある.
・数学Ⅱなのに数学Bや数学Ⅲの範囲の問題が出ている.
・しかも小テストにしてはけっこう計算の面倒な問題がある.例えば, 「次の曲線や直線で囲まれた部分の面積を求めよ」
(1) y=(x-e)logx, y=0
(2) (3) 略
(4) y=sinx, y=sin2x (0≦x≦π)
解いてみたらこうなりました.
(1) -1/4e^2+e-1/4(≒0.621)
(4) 5/2(=2.5)
(数学Ⅲを既習の人は確かめてみてください)
それにしても数学Ⅱの小テストなのですから,生徒の立場からすれば,出題範囲を越境しないでほしいですね.


2016年8月8日

小説 ラプラスの魔女

東野圭吾 2015年 角川書店

素数 ナビエ–ストークス方程式 ラプラスの悪魔
桐宮玲「もし,この世に存在するすべての原子の現在位置と運動量を把握する知性が存在するならば,その存在は,物理学を用いることでこれらの原子の時間的変化を計算できるだろうから,未来の状態を完全に予知できる――」
「ラプラスは,このような仮説を立てました.その存在のことは後年,ラプラスの悪魔と呼ばれるようになります.」
「ラプラスの悪魔」と呼ばれる知性を持つという主人公が女の子なので,このタイトルになったようです.数学では,ある物体の「現在位置と運動量を把握する」ということは「任意の点で導関数が満たす微分方程式を作る」ということを意味し,この微分方程式を解くことで,ある関数が求められ,それによってその物体の過去や未来の位置が計算できるようになります.

ナビエ–ストークス方程式は,流体(液体や気体など)の運動を表す非常に複雑な2階非線型偏微分方程式です. 「2階」は第2次導関数まで式の中にあるという意味で,「非線型」は「線型」でない,すなわち次の条件を満たさないという意味です.

        加法性: 任意のx,yに対してf(x+y)=f(x)+f(y)
        斉次性: 任意のx,αに対してf(αx)=αf(x)       

「偏微分方程式」は2変数以上の関数において,ある1つの変数について微分して得られる導関数を含んだ方程式という意味です.例えば,y=f(x)のとき,$\frac{dy}{dx}$はyをxで微分したもの,z=f(x,y)のとき,$\frac{∂z}{∂x}$はzを(x以外は定数と見做して)xだけで微分したものという意味です(∂は「ラウンド」とか「デー」などいくつか読み方があります).ナビエ–ストークス方程式は,難しすぎて未だに解決されず,クレイ研究所が「解けたら100万ドル」を贈るという懸賞付きの問題のひとつです.

ところで,$\frac{dy}{dx}$をもう一度微分すると,$\frac{d^2y}{dx^2}$になります.なぜ$\frac{dy^2}{dx^2}$ではなく,分子は$d^2y$で分母が$dx^2$と書くのかというと,$\frac{dy}{dx}$は$\frac{d}{dx}y$とも書けるので,$\frac{dy}{dx}$をもう一度微分すると,$\frac{d}{dx}\left ( \frac{dy}{dx}\right )$となり,分子はdが2個でyが1個,分母はdxが2個になるからです.(注)$(dx)^2$は$dx^2$とも書きます.$(AB)^2$を$AB^2$と書くのと同様です.

2016年7月31日

小説 未来方程式 -fate equation-

神世 希 2011年 講談社

英数字 三次元空間座標 緯度 経度

予知能力があるとされる少女初音未来を中心に起こる数々の事件が描かれた話です.
皇(すめらぎ)警部 「違う……そもそも8桁のパスワードが適当に打って当たるハズがないだろう.全部で218兆3401億0558万4896通りあるんだぞ」
波多野巡査 「そんなにあるんすか!?」
英数字(alphanumeric)8桁ということは,英字(alphabetic)26文字と数字(numeric)10文字で合計36文字が8桁なので,重複順列 36Π8=36^8=2兆8211億0990万7456 (通り) のはずです.しかし値が違うので,逆に218兆3401億0558万4896の8乗根を計算してみると62になりました.62=26×2+10なので,ここでは大文字と小文字を区別しているということが分かりました.それにしてもこんな数字を覚えているはずがないのにすらすらと言えるのが不思議ですね.
所長「20XX年に打ち上げられた人工衛星"おまわり参号(仮称)"は,明日―――世界時において6月6日正午には,地球を中心とする3次元空間上の座標,(x,y,z)=(171,1789,6841).緯度経度では,北緯75.3度,東経146.1度の,高度およそ7000メートルに存在することになる.これも立派な未来情報の一つだ」
この座標から緯度,経度,高度を計算してみましょう.原点をO,点(171,0,0)をA,点(171,1789,0)をB,点(171,1789,6841)をPとします.

[緯度] まず北緯のほうを確認してみます.$$OB=\sqrt{171^2+1789^2}≒1797$$なので,北緯は次の値になり,上の台詞の値と一致しました.$$\arctan\frac{BP}{OB}=\arctan\frac{6841}{1797}≒75.3°$$

[経度] OBx軸とのなす角は,$$\arctan\frac{AB}{OA}=\arctan\frac{1789}{171}≒84.5°$$になります.東経146.1度なので,146.1-84.5=61.6° が子午線と交わる赤道円の半径とx軸とのなす角になります.すなわち,x軸が東経61.6度の経線と交わっているとすれば,この座標の位置は東経146.1度になります.

[高度] まずOPの長さ(地球の中心から人工衛星までの距離)を求めます.$$OP=\sqrt{171^2+1789^2+6841^2}≒7073$$ここから地球の赤道半径約6378kmを引くと,7073-6378=695 (km) なので,高度は上の台詞の「およそ7000メートル」ではなく,およそ700kmということになります.飛行機の平均高度が約10000m (10km) なので,人工衛星は飛行機より約70倍高いところにあることがわかります.

因みに人工衛星の高度,速度,周期を調べてみたところ,重力加速度をg,地球の赤道半径をRとし,高度h(km)で回っている円軌道の場合,その速度v(km/sec)は次の式で計算できることがわかりました.
$$v=\sqrt{\frac{gR^2}{R+h}}$$
従って人工衛星の速度は、高度だけで決まり,高いところほど遅いということになります.軌道の円周2π(R+h)をこの速度vで割れば周期 t(秒)が計算できます.
$$t=\frac{2\pi(R+h)}{v}$$

高度        速度        周期
200km    7.8km/sec   1時間28分
500km     7.6km/sec    1時間34分
1,000km    7.4km/sec    1時間45分
36,000km    3.1km/sec    23時間56分(静止軌道)
380,000km    約1.0km/sec    約27日間

問題
上に出てきた高度700kmの人工衛星の速度,周期を求めよ.

(答)約7.5km/sec, 約1時間39分

参考
「人工衛星の高度と速度」宇宙航空研究開発機構(JAXA)

2016年7月23日

小説 数学的帰納の殺人

草上 仁 2009年 ハヤカワ・ミステリワールド

ピタゴラス 完全数 フィボナッチ数列 嘘つき村 ガロア カルダン・グリル ステヴィン 懸垂線(カテナリー) ワイルズ メルセンヌ素数 フェルマーの最終定理 谷山・志村予想 楕円関数 円周率 モンティ・ホール問題 虚点

フォト・ジャーナリストの女性と大学教授の男性が,カルト教団による殺人連鎖の謎を追う話です.この殺人連鎖を数学的帰納法に例えてこのタイトルにしたようです.

2段組みで400頁を越える長編の随所に数学の話題が多数登場します.中には話の流れに乗らない余分な感じのするところもありましたが,謎解きは面白く,最後も少し驚かされたりして,けっこう楽しめました.

作品中に少し気になった点やもっと説明のほしいところがありました.
「三角形の下にぶら下がる球はロゴでは半円形に見えるが,実際には懸垂線つまりカテナリー曲線を描く.式にすると$y = a \cosh(x/a)$だね.この双曲線はバランス的に中立だから…(以下略)」
双曲線は反比例などの2つの同じ形をした曲線をいいます.懸垂線は双曲線関数(hyperbolic function)のひとつですが,双曲線関数は双曲線の媒介変数表示に使うからそう呼ぶのであって,形は双曲線ではありません.円関数(三角関数)は円の媒介変数表示に使いますが,形は円ではないというのと同様です.従ってここは「この双曲線は」ではなく,「この曲線は」でいいと思います.

懸垂線がなぜこの式になるかこちらにまとめてみました。
「二つの円は,常に四点で交わる.体験的にわかるのは二点までだ.しかし体系を普遍化していくと,そちらのほうが特殊な例であることがわかる.より一般的には,見えない二点――虚点を想定したほうが,多くの場合に成り立つのだ.」
2つの図形を表す連立方程式が実数解を持たない場合は$xy$平面上では交わりませんが,複素平面上で虚数解を座標とする点(虚点)で交わると見なすことができます.例えば,$y=x^2$と$y=2x-5$は実数解を持たないので$xy$平面上では交わりませんが,複素平面上の虚点$(1±2i, -3±4i)$で交わると考えることができます.

2つの円の場合は$x^2$と$y^2$の係数が等しいので,連立させると$x^2$と$y^2$の項が消えてしまい,交点が2つしか出てきません.従って複素平面上で考慮しても4つの交点はないのですが,さらに無限遠点を含む射影平面上で考えれば,平行な直線でも1点で交わり,どんな2つの円も4点で交わると見なすことができます.これをベズーの定理(Bézout's theorem)といいます.

2016年5月3日

映画 落ちこぼれの天使たち Stand and Deliver


1987年 米国

部分積分

荒れた高校の生徒たちと,そこへ赴任してきた教師がだんだん信頼し合っていくという話です.1987年の映画ですが,部分積分が登場することを最近知りました.生徒が黒板に書いた数式はこれです.
$\int{x^2 \sin x}dx$
$u=\sin x$           $dv=x^2dx$
$du=\cos xdx$     $v=\frac{1}{3}x^3$
$\frac{1}{3}x^3\sin x-\int{\frac{1}{3}x^3\cos x}dx$

 生徒は$du=\sin xdx$,$v=x^2$にすれば良かったのですが,逆にしてしまいました.教師が書いた解き方は,日本ではあまり見ない方法です.


これは表を使う方法(tabuler method)で解いています.この方法を使うと,繰り返しの必要な部分積分の計算が速くできます.

表をじっくり見てみましょう.左の列は$x^2$を次々に微分したもの,中央の列は$\sin x$を次々に積分したもの,右の列は符号です.折れ線でつながるものを与式の右辺に書き出せば正解が得られます.$$\int{x^2 \sin x}dx=-x^2 \cos x+2x \sin x+2 \cos x+C$$


2016年1月9日

漫画 和算に恋した少女 第2巻

天元術 算額

▼ 「はああ…… 天元術かあ……」
 「ごらん律,これが算額だ.自分で考えた問題を額にして神社に奉納するんだよ.父さんの算額はこれだ.答えが書いてないのは『遺題』といってね,『誰か解ける人はいるかい?』って訪ねているんだよ」
 「じゃあ,あたしが解く!」
 「うん,そうしたらおまえの答えを算額にしてこの隣に掲げなさい.」

江戸時代の数学を和算といいます.天元術とは一言でいうと方程式で問題を解く方法です.これまでに解いた算額の問題は三平方の定理を用いて円の半径などを求める問題が多かったので,この「父さんの算額」の問題も同じように解けると思ったらこれはかなりの難問でした.

他サイトで類題があり,①デカルトの円定理を使った解答と②反転法を使った解答が見つかったのですが,ここではピタゴラスの定理を使って解く方法を考えてみました.

計算を簡単にするため,図のように大円$O$の中心を原点,半径を$6$として,円$C$の中心を$(3, 0)$,円$C_0$の中心$(a_0, b_0)=(-3, 0)$とすれば,円$C_0$の半径 $r_0=3$となります.それ以外の円${C_n}$の中心を$(a_n, b_n)$,半径を$r_n$としましょう.
$C_{n-1}C_n$を斜辺とする直角三角形で三平方の定理より$$(a_{n-1}-a_n)^2+(b_{n-1}-b_n)^2=(r_{n-1}+r_n)^2\tag{1-n}$$ $OC_n$を斜辺とする直角三角形で三平方の定理より$$a_n^2+b_n^2=(6-r_n)^2\tag{2}$$ $CC_n$を斜辺とする直角三角形で三平方の定理より$$(a_n-3)^2+b_n^2=(3+r_n)^2\tag{3}$$ 以上の式を使って$r_n$をいくつか求めます

■まず$r_1$を求めましょう.この場だけ円$C_1$の中心$(a_1, b_1)=(a,b)$,半径$r_1=r$として計算します.式(1-n)でn=1とすると$$(-3-a)^2+(0-b)^2=(3+r)^2\tag{1-1}$$ 式(2)より$$a^2+b^2=(6-r)^2\tag{2}$$ 式(3)より$$(a-3)^2+b^2=(3+r)^2\tag{3}$$ まず(2)(3)から$a$と$b$を$r$で表すと$$a=6-3r,\quad b^2=24r-8r^2\tag{4}$$ (4)を式(1-1)に代入して$r$についての方程式を解くと$r=2$.これを(4)に代入して$(a, b)=(0, 4)$.すなわち,円$C_1$の半径と中心は次式になります.$$r_1=2,\quad (a_1, b_1)=(0, 4)$$ ■次に$r_2$を求めましょう.計算を簡単にするためにまた同じ文字を使います.この場だけ円$C_2$の中心$(a_2, b_2)=(a,b)$,半径$r_2=r$として計算します.式(1-n)でn=2とすると$$(0-a)^2+(4-b)^2=(2+r)^2\tag{1-2}$$ 同様に(4)を(1-2)に代入して$r$についての方程式を解くと$r=1, r=3$となりますが,$r$は$2$より小さいので$r=1$.式(1-2)が$r_2$の前後の$r$を求められる式になっているので,もうひとつの解である$3$は$r_0$の値になっています.$r=1$を(4)に代入して$(a, b)=(3, 4)$.すなわち,円$C_2$の半径と中心は次式になります.$$r_2=1,\quad (a_2, b_2)=(3, 4)$$ ■次に$r_3$を求めましょう.計算を簡単にするためにまた同じ文字を使います.この場だけ円$C_3$の中心$(a_3, b_3)=(a,b)$,半径$r_3=r$として計算します.式(1-n)でn=3とすると$$(3-a)^2+(4-b)^2=(1+r)^2\tag{1-3}$$ 同様に(4)を(1-3)に代入して$r$についての方程式を解きましょう.
$(3r-3)^2+(4-\sqrt{24r-8r^2})^2=(r+2)^2$
$9r^2-18r+9+16-8\sqrt{24r-8r^2}+24r-8r^2=r^2+2r+1$
$4r+24=8\sqrt{24r-8r^2}$
$r+6=2\sqrt{24r-8r^2}$
$r^2+12r+36=4(24r-8r^2)$
$33r^2-84r+36=0$
$11r^2-28r+12=0$
$(11r-6)(r-2)=0$
$r=\frac{6}{11}, r=2$
となりますが,$r$は$1$より小さいので$r=\frac{6}{11}$.$r=\frac{6}{11}$を(4)に代入して$(a, b)=\left(\frac{48}{11}, \frac{36}{11}\right)$.すなわち,円$C_3$の半径と中心は次式になります.$$r_3=\frac{6}{11},\quad (a_3, b_3)=\left(\frac{48}{11}, \frac{36}{11}\right)$$ ■次に$r_4$を求めましょう.計算を簡単にするためにまた同じ文字を使います.この場だけ円$C_4$の中心$(a_4, b_4)=(a,b)$,半径$r_4=r$として計算します.式(1-n)でn=4とすると$$\left(\frac{48}{11}-a\right)^2+\left(\frac{36}{11}-b\right)^2=\left(\frac{6}{11}+r\right)^2\tag{1-4}$$ 同様に(4)を(1-4)に代入して$r$についての方程式を解くと(計算略)$r=\frac{1}{3}, r=1$となりますが,$r$は$\frac{6}{11}$より小さいので$r=\frac{1}{3}$.すなわち,円$C_4$の半径は $r_4=\frac{1}{3}$ になります.

ここで求めた$r_n$を並べてみると,$2, 1, \frac{6}{11}, \frac{1}{3}, \cdot\cdot\cdot$
分子を6にすると,$\frac{6}{3}, \frac{6}{6}, \frac{6}{11}, \frac{6}{18}, \cdot\cdot\cdot$
分母は,$3, 6, 11, 18, \cdot\cdot\cdot$
この階差数列は,$3, 5, 7, \cdot\cdot\cdot$となり,その第k項は2k+1と推測できるので,分母の第n項は$$3+\sum_{k=1}^{n-1}(2k+1)=n^2+2$$ 従って円$C_n$の半径は次式になると推測できます.$$r_n=\frac{6}{n^2+2}\tag{5}$$ あとは数学的帰納法で$$r_{n+1}=\frac{6}{(n+1)^2+2}\tag{6}$$が成り立つことを示せばOKです.式(4)の添え字をnにして式(1-n)に代入して整理すると次式を得ます.$$12(r_{n+1}-r_n)^2+3r_n^2r_{n+1}^2-4r_nr_{n+1}(r_n+r_{n+1})=0$$ これに(5)を代入して整理すると(6)を得られて終了なのですが,この計算は大変なので,WolframAlphaにしてもらいました.($x=r_n, y=r_{n+1}$として計算しています)

これで式(5)が正しいことが分かったので,これを(2)と(3)に代入すると円$C_n$の中心の座標は次式になります.$$(a_n, b_n)=\left(\frac{6(n^2-1)}{n^2+2},\quad \frac{12n}{n^2+2}\right)\tag{7}$$
さらに式(5)も式(7)もnに0と負の整数を代入しても成り立ちますから,円Cの周りのすべての円の中心と半径が求められたことになります.確かに$n\rightarrow\pm\infty$のとき,中心の座標は$(6,0)$に,半径は$0$に近づいていくことが分かります.

<2016年12月4日追記>

上図の半径3の円CとC0と半径6の大円Oとで囲まれる部分をArbelos(アルベロス)と呼ぶことが分かりました.古代ギリシアで使われていたといわれる「靴屋のナイフ(Arbelos)」がこの形と似ているのでこういう名前になったそうです.


2015年3月26日

小説 風が強く吹いている


三浦 しおん 2006年 新潮社
楕円
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ひさしく覚えなかった高揚が、走(かける)の心と体を震わせた。
だがここは、永遠の楕円を描く競技場のトラックではない。
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 陸上競技のトラックは楕円(ellipse)というより楕円状(oval)ですね。国際陸上競技連盟(International Association of Athletics Federations = IAAF)の公認トラックは線分2本と半円2個でできていて、線分の長さが84.39m、円の半径が36.50m。円の外側0.30mのところを走って1周400mになるようにしているので、その計算は次のようになります。
84.39×2+2π×36.80=400.00m
 もしトラックが本物の楕円ならどうなるでしょうか。長軸をa、短軸をbとすると楕円の媒介変数表示は
x=acost, y=bsint
となります。公認トラックの端から端+0.3m×2の距離が
2a=84.39+36.80×2=157.99m
なので、この1/2のa=78.995mの長軸を持つ楕円で周長が400mになるものを求めてみましょう。楕円の面積はπabと簡単に求められるのですが、周長は難しい計算になります。媒介変数表示の曲線の長さの公式より
4∫[0 to π/2](Sqrt(a^2(cost)^2+b^2(sint)^2)dt=400
を解けばいいのですが、これは第二種完全楕円積分といって初等的な計算では求められません。そこでグラフ電卓を使って求めると、短軸が46.17mになりました。この楕円を実際のトラックに重ねてみると図のようになります。公認トラックの図はIAAF official websiteから引用しましたが、そこではoval trackとなっていました。図の下のキャプションは、「図1.2.3A 400m標準トラック(半径36.50m)の形と寸法(単位はm)」という意味です。

2015年3月23日

アニメ デュラララ!!×2承 第6話


成田良悟(原作) 2010年 MBS

解析概論 十二進法 忌み数字
 ロシア人女性の殺し屋ヴァローナが、まるで雑誌をめくるようにあの難しい解析概論を読みながら、13がなぜ不吉な数と言われるのかを説明していました。
--------
諸説存在します。最後の晩餐、ユダの座った13番目の席が有名。ただし、キリスト教だけが原典にあらず。
北欧の神々の伝承、12人の神による調和、13番目に現れたロキが調和を乱した。
古代、12進法を使っていた国々、13番目は12の調和を破壊、忌み数字。
--------
 1, 2, 3, 4, 6, 12と約数の多い12は調和を意味する数とされていたため、その12に1を加えた素数13は調和を乱すと考えられていたようです。この13は忌み数または忌み数字、英語ではbaker's dozen, devil's dozen, witch's dozenとも呼ばれています。
 ヴァローナが読んでいた解析概論は、日本の数学界ではバイブルともいえる本で、日本初の世界的数学者である髙木貞二が書いたものです。大学の理系の教科書としてよく使われていて、第1版は1938年発行、私は1975年の第17刷を持っています。このアニメのようにとてもペラペラとめくりながら読める本ではありません。表紙が緑色がかっていたので、改訂第3版軽装版だと思われます。内容がはっきりわかるほど細かく描写されていたので、思わずそのページを調べてしまいました。P.16-17をめくって24-25、28-29をめくって30-31、144-145をめくって304-305をめくって328-329でした。つまり、めくっているのにページ数は飛んでいました。こんな細かいところまで調べるような人は他にいないだろうと思ったら、こちらにいました(笑)。

2015年3月1日

ドラマ スペシャリスト3

ハノイの塔

上からアルファベットの文字が"cosidemple"と書かれてある10段のハノイの塔の操作中、51手目の状態が"simple code"になり、これが事件解決ためのヒントになるという話です。

n段のハノイの塔の最小移動回数f(n)は2^n-1になりますが、まずこれを求める漸化式の解き方が画面に出ます。n段の移動には、①まずn-1段を移動する(f(n-1)手)、②一番下のn段目を移動する(1手)、③またn-1段を移動する(f(n-1)手)という操作になるので、漸化式はそれらの和で次のようになります。
f(n)=2f(n-1)+1
これを解くと、
f(n)=2^1(2f(n-2)+1)+1
=2^2(2f(n-3)+1)+2+1
=2^3f(n-3)+2^2+2+1

=2^(n-1)f(1)+2^(n-2)+2^(n-3)+…+2+1
=2^(n-1)+2^(n-1)-1
=2^n-1
よって、f(n)=2^n-1となりますが、ドラマでは主人公がこの式を知っていたようで、2^n-1から紙に書き始めます。
2^n-1
2^10-1=2×2×2×…×2×2-1
=1024-1
=1023
その後、なぜかいきなり
2^5+2^4+2^1+2^0
51
と計算して、「51手」とつぶやき、10段のハノイの塔を実際に操作して、51手目の状態が"simple code"になることに気がつきます。
ただ、これは実際に操作しなくても計算で次のように求めることができます。
f(1)=1, f(2)=3, f(3)=7, f(4)=15, f(5)=31, f(6)=63
ですから、51=f(6)の途中=f(5)+20=f(5)+1+19=f(5)+1+f(5)の途中=f(5)+1+f(4)+4=f(5)+1+f(4)+1+3=f(5)+1+f(4)+1+f(2)
すなわち、まず31手で上の5段を移し、次の1手(32手目)で6段目を移し、次の15手(47手目まで)で上の4段を移し、次の1手(48手目)で5段目を移し、あと3手(51手目まで)で上の2段を移します。これでどんな状態になるかを分かり易く右図にまとめてみました。(WolframAlphaで"Tower of Hanoi 10-disk 51 step"と入力したらちゃんと51手目の状態が表示されました。WolframAlphaはすごい!)

それにしても,主人公がなぜ2^5+2^4+2^1+2^0を理解したのかが疑問に残りました。

2015年2月11日

小説 φは壊れたね (その2)

森 博嗣 2007年 講談社 
φ 関数 空集合 

以前の同じ小説の投稿の第2弾です。
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「φっていうのは、何に使う記号ですか?」鵜飼は西之園と国枝を見てきいた。
「決まっていません」西之園が答える。「よく使うというと、関数の名前かしら」
「空集合」国枝が珍しく口をきいた。
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 よく使うということはないですが、φ関数というものがあります。nを正の整数としてφ(n)は、n以下の整数のうちnと互いに素な(1以外に公約数を持たない)ものの個数を表します。例えば、4以下の正の整数で4と互いに素なものは1と3の2個なので
φ(4)=2
となります。n=12なら、12以下で12と互いに素なものは1と5と7と11の4個なので
φ(12)=4
となります。nが素数pのときは、1からp-1までのすべてがpと互いに素なので
φ(p)=p−1
となります。
 素数も含めて正の整数すべての場合でφ(n)を求める式は少し難しいですが、分かりやすい式はこちらにあります。簡単に言えば、nを素因数分解したときの素因数をp(1)、p(2)、…p(k)としたとき、nと(1-1/p(i))をすべて掛け算したものになります。例えば、4=2^2なのでp(1)=2だから、
φ(4)=4(1-1/2)=2
となります。n=12なら、12=2^2*3なのでp(1)=2、p(2)=3だから、
φ(12)=12(1-1/2)(1-1/3)=4
となり、上の結果と一致します。これなら大きな数でも求められますね。例えば、n=480のとき、480以下の整数のうち480と互いに素なものをすべて数えるのは大変ですが、この式を使うと、480=2^5*3*5なので、
φ(480)=480(1-1/2)(1-1/3)(1-1/5)=128
と容易に求められます。

2014年12月29日

小説 1Q84

平均律
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 『平均律クラヴィーア曲集』は数学者にとって、まさに天上の音楽である。十二音階すべてを均律に使って、長調と短調でそれぞれに前奏曲とフーガが作られている。全部で二十四曲。第一巻と第二巻をあわせて四十八曲。完全なサイクルがそこに形成される。
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 ふかえりが天吾に聞かれて、お気に入りの音楽はバッハの『平均律クラヴィーア曲集』だと答えた場面です。ここでの「天上」とは「最高の」「この上ない」という意味だと思われます。なぜ数学者にとってそんなに良い音楽なのでしょうか。
 平均律は、1オクターヴを均等な周波数比で12等分した音律、すなわち十二平均律を意味する場合が多いようです。すると1オクターヴ上の音は周波数が2倍になるので、均等に分けると1つの半音につき周波数は「12√2=12乗根2」倍になります。音階の分類が、「公比が累乗根を使って表される数である等比数列」で表されているからでしょうか。このことが数学者が歓喜するほどのことだとは思えないのですが…。それとももっと他に意味があるのでしょうか。

2014年11月25日

ドラマ すべてがFになる

16進法
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16進法でFFFFは65535になる。
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 n進法(n進表記/n進記数法)の4桁の数の表記が"abcd (n)"のとき、10進法で表すと、
a×n^3+b×n^2+c×n+d×1
となります。
①例えば
10進法で使う数字は0,1,2,3,4,5,6,7,8,9なので、
4桁の数の表記が"2345"のとき、10進法で表すと、
2×10^3+3×10^2+4×10+5×1=2345
となります。
②例えば
2進法で使う数字は0,1なので、
4桁の数の表記が"1011 (2)"のとき、10進法で表すと、
1×2^3+0×2^2+1×2+1×1=8+0+2+1=11
となります。
③さて
16進法で使う数字(文字)は0,1,2,3,4,5,6,7,8,9,A,B,C,D,E,Fで、この場合、F=15なので、
4桁の数の表記が"FFFF (16)"のとき、10進法で表すと、
F×16^3+F×16^2+F×16+F×1=15×16^3+15×16^2+15×16+15×1=65535
となります。
 ところで、色の分類も16進法で表されます。例えば黒は#000000、白は#FFFFFFとなります。これをあてはめれば、すべてがFになると、すべてが白になるということになります。
 n進法と似たような言葉にp進数(pは素数)がありますが、これは急に難しいお話になります。p進数は「小数部分が有限で、整数部分が無限に続く数」をいいます。例えば2進数の場合、
    ……111111.=-1
となります。なぜなら、2進法で1+1=10なので、両辺に1を加えるとすべてが繰り上がって、
    ……000000.=0
となるからです。


2014年10月19日

小説 お任せ!数学屋さん

台形の加重平均 他多数
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 r=(1-n)p+nq
「台形には必ず平行な2辺が存在するよね。いわゆる上底と下底。その上底と下底の間に、さらにもう1本平行線を引く場合に使う公式なんだよ。」
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 第1章(問1)では計算が丁寧だったのに、第2章(問2)ではかなり公式の導出やあとの計算が端折られていて、分かりやすい図はいつ出てくるのかと思ったら結局出てきませんでした。あのままでは分かりづらいので、図と計算をここにメモしておきましょう。
まずP.99の公式の導出。右図でAB//DFとします。△DEN∽△DFCよりn:1=EN:FCなので、
 n:1=(r-p):(q-p)
 r-p=n(q-p)
 r=p+nq-np=(1-n)p+nq
次にP.105の2次方程式の計算。
 {45+(15n+45)}×AM÷2={(15n+45)+60}×MB÷2
 {45+(15n+45)}×AM={(15n+45)+60}×MB
 {45+(15n+45)}×70n={(15n+45)+60}×70(1-n)
 {45+(15n+45)}×n={(15n+45)+60}×(1-n)
 15n^2+90n=15n+105-15n^2-105n
 30n^2+180n-105=0
 2n^2+12n-7=0
それにしても、中2の生徒に中3で習う相似、2次方程式、平方根、解の公式などの話をしたら、当然魔法のように聞こえるでしょうね。読んでいてぜひほしいと思った学校のグラウンドの図も作っておきました。

2014年5月6日

小説 陽気なギャングの日常と襲撃

仕事(ベクトルの内積)
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 力が働いて物体が移動したときに、物体の移動した向きの力と移動した距離との積を、力が物体になした仕事という。
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物理でいう仕事(単位N・m=J)というのはベクトルの内積にあたります。ベクトルaとベクトルbの内積はab=|a||b|cosθで定義されます。物体にかけた力を表すベクトルaと移動を表すベクトルbが同じ方向の場合はθ=0なのでcosθ=1ですから、仕事=内積はab=|a||b|となりますが、同じ方向でない場合、移動方向にかかる力は|a|cosθとなりますから、仕事=内積はab=|a||b|cosθとなります。私が高校のときの数学の教科書には定義式以外に説明がなかったので、それが何を意味するのか長い間分かりませんでした。
 ベクトルの掛け算には内積と外積があります。内積はベクトル・ベクトル=スカラー(定数)になりますが、3次元での外積はベクトル×ベクトル=ベクトルになります。ベクトルの外積が表す物理量のひとつとして力のモーメントがあります。力のモーメントは回転運動を与える力の能率のことで、回転軸から力を加える点を結ぶベクトルをa、加える力を表すベクトルをbとするとき、その大きさは|a×b|=|a||b|sinθで、その方向はabに向かって近づく回転で右ネジが進む方向です。N・mという単位は仕事と同じですが、異なるものです。
 ちなみに広義の外積は2次元でも定義できて、2つの平行でないベクトルが作る平行四辺形の面積になります。成分で見てみると、a=(a1, a2), b=(b1, b2)のとき、外積は
|a×b|=|a1b2-a2b1|
になります。これを使うと3点を結ぶ三角形の面積が簡単に求められることはよく知られてます。

2013年8月6日

小説 白夜行

空間図形 平面 直線
 主人公が家庭教師に数学を教わる場面です。(文庫本ではP239)
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 空間上の二つの面が交わった時に出来る直線の式を求める、という問題に雪穂は取り組んでいた。解き方は教えてあるし、彼女も理解している。彼女が持っているシャープペンシルは、殆ど動きを止めることはなかった。
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 この問題の解き方はいくつかあります。
①2つの平面の方程式を連立方程式と考え、2つの変数を他の1つの変数で表してそれらをつなぐ。
②2平面の共有点を2つ求め、その2点を通る直線を求める。
③2平面の共有点を1つ求め、その1点を通り、2平面の法線ベクトルの外積を方向ベクトルとする直線を求める。
 文中に「解き方は教えてあるし」とありますが、どの解き方なのでしょう。すべて教えていたのなら上出来だと思います。山の頂上へ行くのにいくつかの道があるのと同じように、数学の問題の解答を得るのにいくつかの解き方があるということも教えてほしいものです。
 ストーリーは面白かったのですが、この作者の他作品と比べると、かなり性描写が露骨でした。どうでもいいことなのでしょうが、文庫本で860ページもあるのになぜ上下巻に分けなかったのか不思議です。