死亡推定時刻
主人公の救急医武田航(わたる)に瓜二つの身元不明の遺体が運び込まれたため,その死因や自分との関係を旧友で医師の城崎響介と一緒に調査をしていくという話.鍵を握る人物に会おうとした矢先,相手が密室内で死体となって発見された場面です.
(鑑識の)宗形が「直腸温を測りましょうか」と言いながら温度計をカバンから取り出した。
宗形「34.8度ですね。大体の予想とも合致してると思います」
武田「つまり、どういうことや」
城崎「直腸温を用いた死亡推定時刻の推定、っていうのは直腸温が元の37度から、1時間に0.8度下がるだろう、っていう理論がもとになっているんだ。国試でもやったでしょ」
武田「とすると、大体3時間前…………12時半頃やな」
城崎「前後にしっかり幅を持たせて、死亡推定時刻は11時半から午後1時半の間、というところでどうでしょうか?」
宗形「おっしゃる通りです」
この計算では「1時間に0.8度下がるだろう、っていう理論」なので,体温は死後経過時間$t$の一次関数 $T=37-0.8t$ になっています.すると $T=34.8$ のとき $t=2.75$ になるので「大体3時間前」と予想しているわけです.
これがニュートンの冷却法則に従うなら,死後の体温$T$は室温との差に比例して室温に近づいていきます.この場合,死後経過時間を$t$とし,その時の体温を$T$,室温を25°と仮定し,比例定数を$k$とすると,次の微分方程式が成り立ちます.$$\frac{dT}{dt}=k(T-25)$$変数分離してこれを解くと$$\int\frac{1}{T-25}dT=k \int dt$$$$\ln (T-25)=k t +C_1$$$$T-25=e^{C_1}e^{k t}$$$$T=25+Ce^{k t}\tag{1}$$ここで $t=0$ のとき$T=37$ ですから,$37=25+C$より $C=12$ になり,最初の5時間で0.8×5=4度下がるとすれば,$t=5$ のとき,$T=37-4=33$ となるので,$$33=25+12e^{5k}$$$$e^{5k}=\frac{2}{3}$$$$k=\frac{\ln \left( \frac {2}{3} \right)}{5}=-0.081......$$よって式(1)はこうなります.$$T=25+12e^{-0.081t}$$このグラフは$T$が減少していく指数関数となり,下の赤いグラフになります. 青色のグラフは一次関数 $T=37-0.8t$ です.34.8°のとき,点Aは(2.50, 34.8),点Bは(2.75, 34.8)なので,誤差はまだ小さいですが,時間がたつに連れて大きくなるので,現実的ではありませんね.
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「法医学」若杉長英著より |
死亡直後では体内の熱産生が未だ完全に停止していないためその低下は緩徐であるが,次第に急激となり,外界温度に近づくに従って,再び緩徐となり,直腸内温度の下降曲線は逆S字状を呈する.(「法医学」P13)
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