ラベル 漫画 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 漫画 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2025年3月5日

漫画 はじめアルゴリズム 3巻 #21 数学少女・剛田ハチ

三原和人 2018年 講談社

極方程式 媒介変数表示

小学5年生の関口ハジメが天才的な数学の才能を持つことを,老数学者の内田豊に見いだされ,成長していくという話です.数学検定を受けたときにハジメから借りたコンパスをわざわざ家まで返しに来た剛田ハチへのお礼に,キーホルダーと同じ形のグラフを表す式をプレゼントする場面です.

ハジメ「これやってみて」
ハチ    「? グラフ問題 ……」
      「あ これ… 私のキーホルダーの…… すごい…」
ハジメ「コンパス持ってきてくれたお礼!」


3つの式がセットでひとつのグラフの方程式だと誤解しそうですが,1行目は極方程式で,2行目と3行目がセットで媒介変数表示なので,どちらか一方だけで同じグラフを表します.

極方程式は,動径がx軸となす角をθとするときの原点からの距離rをθの関数で表します.例えば,原点中心で半径1の円は原点からの距離rが常に1なので,デカルト方程式(xy方程式)では $x^2+y^2=1$,極方程式では r=1 になります.

上式の場合は,a=4なので r=sin4θ,すなわち原点からの距離rが sin4θ(周期$\frac{\pi}{2}$)になります.これは,θが0から2πまで増加(動径が1回転)する間に0→1→0→−1→0の間の値(花びら2枚分)を4回繰り返しますから,y=sinx と r=sinθ のグラフは次のようになります.

y=sin4x

r=sin4θ

Geogebraで作成したので,角度を変えながらゆっくり見たい人はこちらを見てください.

一方,媒介変数表示は,xy平面上の点の座標を他の変数の関数で表したものです.例えば,$x=t$, $y=t^2$なら,点$(t, t^2)$の軌跡になるので,$y=x^2$になります.上式の場合は,点 (sin4θcosθ,sin4θsinθ) の軌跡になり,上と同じグラフになります.

因みに,剛田ハチの持っていたキーホルダーはこれでした.


2024年10月16日

漫画 はじめアルゴリズム 2巻 #8 大きな差

三原和人 2017年 講談社

フェルマーの小定理

小学5年生の関口ハジメが天才的な数学の才能を持つことを,老数学者の内田豊に見いだされ,成長していくという話です.やはり数学の得意な手嶋ナナオと加茂川で知り合う場面です.今回登場したフェルマーの小定理の証明はいくつか知られていますが,ここでは2種類の証明が出てきました.

[フェルマーの小定理] 整数$a$と素数$p$が互いに素であるとき,次式が成りたつ.$$a \ ^{p-1} \equiv 1  \pmod p$$

言い換えると「整数$a$が素数$p$の倍数でないとき,$a \ ^{p-1}$を$p$で割った余りは1になる」という定理です.

[手嶋ナナオの証明] $$\bar{ a } \in \left( \mathbb{ Z }/ p \mathbb{ Z } \right ) ^ {\times}とすると$$$$|\left( \mathbb{ Z }/ p \mathbb{ Z } \right ) ^ {\times}|=p-1$$$$\left( \mathbb{ Z }/ p \mathbb{ Z } \right ) ^ {\times}は有限巡回群なので$$$$ラグランジュの定理より$$$$\bar{ a }\ ^{p-1}\equiv \bar{ 1 }  \pmod p $$

[関口ハジメの感想]
これ テジマの式 ……
すごい… 
きれい…  

[関口ハジメの証明] $$(\ \underbrace{1+1+\cdot\cdot\cdot\cdot+1\ }_{aコ})^p \equiv 1^p+1^p+\cdot\cdot\cdot\cdot+1^p$$$$\quad\ \equiv a$$$$∴ \quad a ^p \equiv a  \pmod p $$$$(a,p)=1\ なので$$$$a ^{p-1}\equiv 1  \pmod p $$

[手嶋ナナオの感想]
二項定理…? 
二項係数が割り切れる事実を使ったのか…? 
こんな幼稚な方法でも解けるのか…

[手嶋ナナオの証明] は群論を使っています.群とは,演算が閉じていて(例えば有理数×有理数=有理数となるので有理数は掛け算について閉じている),結合法則 $a(bc)=(ab)c$ が成りたち,単位元(有理数なら1)と逆元(有理数 $a$ には逆数 $\frac{1}{a}$ )が存在する集合をいいます.

まず$\mathbb{ Z }/ p \mathbb{ Z } $は,$p$で割った余りが等しい数で類別される集合の集合を表します.$$\mathbb{ Z }/ p \mathbb{ Z }=\{\bar{ 0 }, \bar{ 1 }, \bar{ 2 }, \cdot\cdot\cdot\cdot\overline{ p-1 }\}$$

(例えば$\overline{ 2 }$は$p$で割った余りが2になる数の集合)

そこから$\bar{ 0 }$($p$の倍数の集合)を除いたものが$\left( \mathbb{ Z }/ p \mathbb{ Z } \right ) ^ {\times}$です.(証明の1行目)$$\left( \mathbb{ Z }/ p \mathbb{ Z } \right ) ^ {\times}=\{\bar{ 1 }, \bar{ 2 }, \bar{ 3 }, \cdot\cdot\cdot\cdot\overline{ p-1 }\}$$その位数(集合の個数)$|\left( \mathbb{ Z }/ p \mathbb{ Z } \right ) ^ {\times}|$ は $p-1$(個)になります.(証明の2行目)

具体例として$\mathbb{ Z }/ p \mathbb{ Z }$を$p=7$で考えましょう.これは小学4年生で習うカレンダー算(日暦算)をイメージすると分かりやすいです.整数全体を曜日が同じ日で類別します.例えば7で割って2余る数の集まり$\{…, 2, 9, 16, 23, 30, …\}$を$\overline{ 2 }$と表すと,$\mathbb{ Z }/7\mathbb{ Z }=\{\overline{ 0 },\overline{ 1 },\overline{ 2 },\overline{ 3 },\overline{ 4 },\overline{ 5 },\overline{ 6 }\}$となります. 

そこから$\bar{ 0 }$($7$の倍数の集合)を除いた$(\mathbb{ Z }/7\mathbb{ Z })^{\times}=\{\overline{ 1 },\overline{ 2 },\overline{ 3 },\overline{ 4 },\overline{ 5 },\overline{ 6 }\}$は有限巡回群(位数が有限で,単位元以外のあるひとつの元を累乗していくと他のすべての元を表すことができる群)なので, 「$(\mathbb{ Z }/p\mathbb{ Z })^{\times}$の元の位数($\overline{ a }^n \equiv \overline{ 1 }$となる最小の$n$)が$p-1$の約数になる」というラグランジュの定理が使えることが分かります.(証明の3, 4行目)

実際,$\overline{ 1 }^1\equiv\overline{ 1 }, \  \overline{ 6 }^2\equiv\overline{ 1 }, \  \overline{ 2 }^3\equiv\overline{ 4 }^3\equiv\overline{ 1 }, \   \overline{ 3 }^6\equiv\overline{ 5 }^6\equiv\overline{ 1 }$となることから,$(\mathbb{ Z }/7\mathbb{ Z })^{\times}$の元の位数は1, 2, 3, 6,すなわち6の約数になっています.すると$(\mathbb{ Z }/7\mathbb{ Z })^{\times}$の元はどれも6乗すれば$\overline{ 1 }$になるので,$\overline{ a }^6\equiv \overline{ 1 } \pmod 7$が成り立ちます.これは7以外の素数$p$でも成り立ちますから次式が確かめられました.$$\overline{ a }^{p-1}\equiv \overline{ 1 } \pmod p$$

[関口ハジメの証明] は二項定理を一般化した多項定理を使っています.二項定理$$(x+y)^p=\sum_{r=0}^{p} {}_p \mathrm{ C }_r x^{p-r} y^r$$の展開式の係数は,${}_p \mathrm{ C }_0=1$と${}_p \mathrm{ C }_p=1$以外はpで割り切れますから,次式が成り立ちます.$$(x+y)^p \equiv x^p+y^p \pmod p$$同様に3つ以上の項の展開でも次式が成り立ちます.$$(x_1+x_2+\cdot\cdot\cdot+x_a)^p \equiv x_1^p+x_2^p+\cdot\cdot\cdot+x_a^p \pmod p$$これに$x_i=1$を代入すると次式になります.(証明の1~3行目)$$(1+1+\cdot\cdot\cdot+1)^p \equiv 1^p+1^p+\cdot\cdot\cdot+1^p \pmod p$$$$∴ \quad a ^p \equiv a  \pmod p $$ここで,両辺を$a$で割って終わりかと思いますが,$=$ではなく$\equiv$なのでそれはできません.この式より,$a ^p-a$は$p$の倍数になります.すると,$a(a ^{p-1}-1)$が$p$の倍数となり,$(a,p)=1$($a$と$p$は互いに素)より $a$は$p$の倍数ではないので,$a ^{p-1}-1$の方が$p$の倍数になります.よって,次式が成り立ちます.$$a ^{p-1}\equiv 1  \pmod p $$

証明が「すごい」とか「きれい」などの感想は良いと思いますが,この「幼稚」という感想は賛同できませんでした.

[参考]

フェルマーの小定理とその3通りの証明
https://mathlandscape.com/fermat-little/

2024年8月21日

小説 成瀬は天下を取りにいく

宮島未奈 2023年 新潮社

素因数分解 解の公式 加法定理

2024年『本屋大賞』受賞作.「わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」とか「わたしはお笑いの頂点を目指そうと思う」などと突然宣言し,幼なじみの島崎みゆきを巻き込んで実行していこうとする,成瀬あかりの中学2年生から高校3年生までの微笑ましい活躍を描いた短編集です.

「5082は2×3×7×11×11だな」
成瀬はなぜかわたしたちのエントリー番号の5082を割り算していた。
「何それ」
「大きい数を見ると素因数分解したくなるんだ」 (P.70)

成瀬はシャープペンを机に置き、両手を後頭部に当てて天井を見上げた。ためしにかけ算九九を暗唱したら、ちゃんと最後まで言えた。解の公式も加法定理もすらすら言える。気を取り直して入試問題に向かってみたが、やっぱり手が動かない。 (P.183)

大きい数を見ると素因数分解したくなるなんていう人はあまりいないでしょうね.さて素因数分解というと,このように小さい素数から割り算を繰り返す方法を習います.

"Division Method"

割り算をする前に割り切れるかどうかを判断する方法を知っていればもう少し速く計算できる場合があります.

■簡単な例

素因数分解したい数をNとすると,
<2で割り切れるか> 
Nが偶数ならNは2で割り切れる.
<3で割り切れるか> 
Nの各位の数の和が3の倍数ならNは3で割り切れる.5082は,5+0+8+2=15なので3で割り切れる.
<5で割り切れるか> 
Nの一の位が0または5ならNは5で割り切れる.
以上はよく知られていますね.

■次の方法は教科書に載ってないのであまり知られていません.

<p=7, 11, 13で割り切れるか> 
Nを小さいほうから3桁ずつ区切り,奇数番目の和と偶数番目の和との差がpで割り切れるならNはpで割り切れる.
5082は,5 | 082と区切ると,82−5=77なので7と11で割り切れるが,13では割り切れない.
2028117は,2 | 028 | 117と区切ると,117+2−28=91なので7と13で割り切れるが,11では割り切れない.
証明はこちら.

■さらに,2と5以外の素数で割り切れるかどうか判定できる次の方法があります.

Nの十の位以上の数をそのまま並べた数をA,一の位の数をaとするとN=10A+aと表せる.5082は,A=508,a=2となる.このとき,A−naがpで割り切れるならNはpで割り切れる.ただしnはpによって決まる値で,そのうち絶対値の小さい2つは右表参照.証明とnの求め方はこちら.

いくつか例を見てましょう.

<p=7で割り切れるか>(右表よりn=2またはn=-5で判定する)
5082をn=2で判定すると,A−2a=508−2×2=504.504は7で割り切れるので5082は7で割り切れる.
5082をn=-5で判定すると,A−(-5)a=508−(-5)×2=518.518は7で割り切れるので5082は7で割り切れる.

<p=11で割り切れるか>(n=1またはn=-10)
5082をn=1で判定すると,A−1×a=508−1×2=506.506は11で割り切れるので5082は11で割り切れる.

<p=37で割り切れるか>(n=11またはn=-26)
188034は,A=188803,a=4
これをn=11で判定すると,A−11×a =188803−11×4 =18759.同様にして,1875−11×9 =1776.また同様にして,177−11×6 =111.これは37で割り切れるので188034は37で割り切れる.

◇

因みに,海外ではこんな方法もあります.これは,2数の積の形にすることを素数になるまで繰り返します.最初の2数がすぐに分かる場合は,こちらの方が速くできることがあります.

"Factor Tree Method"
 
 
<2024/8/31追記>

コミック版の方に少しミスがありました.2×3×7×11×11のはずが,2×3×7×11になっています.また「因数分解」でも間違いではありませんが,より正確に「素因数分解」としてほしかったですね.

<2026/3/25追記>

もうひとつ7の倍数判定法がありました.「百以上の位×2+下2桁が7の倍数」というやり方です.例えば,5082は 50 | 82 と分けて50×2+82=182,182は 1 | 82 と分けて1×2+82=84.84は7の倍数なので5082は7の倍数とわかります.下の3つ目のリンク先を参考にしましたが,証明がなかったのでここに書いておきます.

(証明) ある正の整数$N$の100以上の位を$A$,下2桁を$a$とすると,$N=100A+a$と表せる.$2A+a$が7の倍数ならば,$2A+a=7k$ ($k$:整数) と表せる.移項して$a=7k-2A$.これを$N$に代入すると,$N=100A+7k-2A=98A+7k=7(14A+k)$なので,$N$は7の倍数になる.

[参考]

7の倍数の判定法

「○の倍数」 を見分ける方法

7の倍数判定法はありますか?

2023年1月24日

漫画 はじめアルゴリズム 4巻 #32 いろんな形、いろんな面【後編】

三原和人 2018年 講談社 

正多面体 オイラーの多面体定理

数学的才能のある小学5年生の関口ハジメが,老数学者・内田豊のもとで成長していくという話です.この中に「正多面体には正4面体,正6面体(立方体),正8面体,正12面体,正20面体の5つしかない」ことの証明がありました.それを引用しますが,分かり易くするために少し太線で加筆します.

多面体の各面を仮に正N角形とし
1個の頂点にM個の面(M本の辺)が集まるとして
正の整数の組 (M, N) が何組あるか考えればいい

1つの辺は2面に共有されるので(①式でNFを2で割る理由)
正N角形の(N個の辺をもつ)面がF個ある多面体の辺の数Eはこう表せる

E=NF/2 ……①

また1つの辺は2つの頂点を結ぶので(②式でMVを2で割る理由)
V個の頂点にM個の面つまりM本の辺が集まるので 多面体の辺の数Eはこう表せる

E=MV/2 ……②

①よりF=2E/N, ②よりV=2E/M

その2つをオイラーの多面体定理に代入して

V-E+F=2
2E/M-E+2E/N=2
E(2N-MN+2M)=2MN 
>0
∴2N-NM+2M>0
MN-2M-2N+4<4

このNM不等式を満たす正の整数の組 {N, M} を求めると……,正多面体は5種類しかないことが分かる.

(以上 第4巻P84~85)

MNとNMが積のように書かれていますが,「2数の組」という意味で述べられています.表現が少し不適切ですね.また始めにMNと書いて,後でNMに変わっていますが,組なので間違いではありません.ただ「NMを満たす整数」という言い方はおかしいので,加筆ではなく訂正をしておきました.また,オイラーの多面体定理を証明なしでいきなり使っているのが気になります.

実際,この不等式を満たす正の整数 {N, M} の組は,以下の{3, 3}, {3, 4}, {3, 5}, {4, 3}, {5, 3}しかありません.

因みに,この正の整数の組{N, M}をシュレーフリ記号(Schläfli symbol)といい,2次元の正多角形や3次元の正多面体を一般化したn次元正多胞体(regular polytope)を分類するもので,例えば次のように表されます.
[2次元]   正3角形は{3},正4角形(正方形)は{4}
[3次元]   正4面体は  {3, 3},正6面体(立方体)は{4, 3}
[4次元]   正8胞体(3次元超立方体)は{4, 3, 3}

この記号の中の,最後の数のひとつ前までの数はすべてまとめて「1次元低い図形」を表し,最後の数は「3次元低い図形に集まる1次元低い図形の数」を表します.具体的には次のような意味になります.
[3次元]   正6面体(立方体){4, 3} は {正4角形{4}が,ひとつの頂点に3つ集まる}という意味
[4次元]   正8胞体(3次元超立方体){4, 3, 3}={{4, 3}, 3} は {正6面体{4, 3}が,ひとつの辺に3つ集まる}という意味

さて,上の証明の次のページに「こういう考え方もできるよね」と言って,「頂点に集まる3個以上の正多角形の内角の和が360°未満になるのは,正三角形3個または4個または5個,正方形3個,正5角形3個の場合しかない」ことを図解入りで説明しています.この内容は「ユークリッドの原論」第13巻命題18の "Remark(注意)" で述べられています.

この考え方から,上の不等式をオイラーの多面体定理なしで導くことができます.正$p$角形の内角の和は$180(p-2)$なので,内角の一つは$$\frac{180(p-2)}{p}=180-\frac{360}{p}$$となり,これが$q$個集まって360°未満になるためには,
\begin{eqnarray}(180-\frac{360}{p})q&<&360\\(1-\frac{2}{p})q&<&2\\ (p-2)q&<&2p\\ pq-2p-2q&<&0\\ pq-2p-2q+4&<&4\\ (p-2)(q-2)&<&4\end{eqnarray}
(mathandmultimedia.com)

あとは上の表の通りです.冒頭の証明よりこの証明の方が分かり易いのではないでしょうか.

[Reference]

2022年4月2日

漫画 数字で遊ぼ。

絹田村子 2018年 小学館

デデキンドの切断 ベクトル空間

抜群の記憶力だけで京都の吉田大学(京大がモデル)の理学部に現役合格した横辺建己が,入学後最初に受けた数学の講義をまったく理解できなかったことがショックでそのまま2年も留年してしまいますが,3年目からようやく友達もできてやり直し,その後数学科に進学して奮闘するという話です.

第1巻 第1話 極限は突然に

初日につまづいたからといって2年も留年するのはあまりリアルではないと思いますが,横辺建己にそこまでショックを与えたのはどんな内容だったのでしょうか.その入学後初日2時間目の講義は「微分積分学」で,デデキンドの切断を使って実数の連続性を示す準備となる,有理数の切断の話でした.

板書1
板書2

板書2の見えない部分を推測すると,次のようになると思われます.

$\exists a \in A \ s.t. \forall b \in A, \ b \leq a$  …①
または 
$\exists a' \in A' \ s.t. \forall b'$ $\in A', \ a' \leq b'$  …②
このとき切断(A, A')は,①のときは有理数aを定め,②のときは
有理数a'を定める
注意:①と②は同時に起らない

以上を分かり易く言い換えてみます.
(板書1)
有理数の全体$\mathbb{Q}$をその部分集合A(下組)とA'(上組)に分け(切断し),Aのどの元もA'のどの元より小さくなるようにする.
(板書2)
ある有理数が定まる切断は次の2通りのどちらかになる.
①Aに最大元$a$があり,A'には最小元がない.このとき有理数$a$が定まる.
②Aに最大元がなく,A'には最小元$a'$がある.このとき有理数$a'$が定まる.

③Aに最大元がなく,A'にも最小元がない場合,対応する有理数が定まらないので,実数を対応させることになります.実数の切断は①または②の場合しかないので,実数の全体$\mathbb{R}$が連続であるという話につながっていきます.

第2巻 第6話 酒と泪と男とベクトル

横辺建己が入学3年目になってやり直しを決意し,実在する書籍「理系のための線型代数の基礎」(永田雅宜著)のベクトル空間のところを読んでいます.

横辺「わ,わからない.ベクトルって矢印のことじゃないのかーーっ」 

a, b, cはベクトル,α,βはスカラー

矢印は物理で力や速度などに使われますが,ベクトル空間の一例にすぎません.一般には,足し算とスカラー倍ができて,上の8つの性質(最後の$1a=a$を除いて7つという場合もあり)を満たすベクトルの集まりをベクトル空間といいます.易しくいうと,$n$次元成分表示$(a_1,a_2,…,a_n)$と対応できるものの集まりはすべてベクトル空間になります.

例えば,$n$次元デカルト座標や$n$個のデータは$(a_1,a_2,…,a_n)$,複素数$a+bi$は$(a, b)$,上の多項式$x^2+2x+3$は$(1, 2, 3)$と表せるので,その集まりはすべてベクトル空間になります.なので,高校教科書では$\vec{a}$,$\vec{b}$のように上に矢印をつけますが,線形代数の専門書では矢印をつけず,太字で表すのが一般的です.

余談ですが,$n$個のデータが2つあって各々の平均との差(偏差)を表すベクトルを$\boldsymbol{a}$,$\boldsymbol{b}$とするとき,これら2つのデータの相関係数は次式で求められます.これは2つのベクトルのなす角の余弦になるので,正の相関が強いと同方向の$\cos{0°}=1$,負の相関が強いと逆方向の$\cos{180°}=-1$に近くなります.$$\frac{\boldsymbol{a} \cdot \boldsymbol{b}}{|\boldsymbol{a}| \ |\boldsymbol{b}|}$$

(参考)

実数の連続性(実数のデデキント切断)
https://wiis.info/math/real-number/definition-of-real-number/continuity-of-real-number/

ベクトル空間と基底
https://www.math.nagoya-u.ac.jp/~hisamoto/1W/hisamoto-1W17-03.pdf

2020年3月10日

小説/漫画/ドラマ 黒猫の三角


森 博嗣 2002年 講談社文庫
皇名月 2012年 幻冬舎コミックス漫画文庫 
『瀬在丸紅子の事件簿〜黒猫の三角〜』 2015年 フジテレビ 

線形代数 マトリクス クロネッカーのデルタ (Kronecker Delta)

ぞろ目の年月や年齢にこだわった連続殺人事件の話です.タイトルの黒猫の三角は,クロネッカーのデルタ(ギリシャ文字で大文字が$\varDelta$)をかけています.
「香具山さんは文系だから、知らないわよね。小島遊君、君は線形代数は単位ちゃんと取った?」
「どうして?」
「マトリクス、教わったでしょう?」
「行列ですね?」
「そう」紅子が頷く。「マトリクスの対角項だけを1にする。それ以外はすべて0にしたい。どうやってそれを書き表したら良いかしら?」
「えっと……、単位マトリクスのことですか? 斜めに1を並べて書いて、あとは0をひたすら入れるんじゃあ…… 」
「ニ次元で、しかも小さなマトリックスなら、それで書ける」紅子が頷いた。 「でも、一般式で表記したいときがあるでしょう? ほらほら,とっても有名な……」
「ああ、クロネッカのデルタ!」練無が叫んだ。
「何それ?」紫子がメガネを持ち上げてきいた。いつもより、ずっとインテリに見える。「クロネコのデルタ?」
「ね……」紅子がにっこりと微笑む。「三角じゃないけど、小文字のデルタを書いて、そのあとにi、jとか、さらにkとか、添え字を書く。それで、たとえば、デルタijと書かれていれば、それは、もしiとjが同じ整数なら、全体が1になる、もし違う整数なら全体が0になる、という関数なの。ようするに、数が同じならON、違えばOFF。その関数の名前が、クロネッカ・デルタっていう。これ、もの凄く有名だから,理系の大学生なら,まず知らない人はいないでしょう?」
クロネッカーのデルタは,2つの数$i$, $j$に対して0または1の値をとる次のような関数です.($\delta$は小文字のデルタ)
\begin{eqnarray}
\delta_{ij}=
  \begin{cases}
    1 & ( i = j ) \\
    0 & ( i \neq j )
  \end{cases}
\end{eqnarray}
すなわち,2数がぞろ目のときは1になり,そうでないときは0になるという関数です.いくつかの式や値をまとめてひとつに表す方法として使われます.

いくつか例を見てみましょう.

①例えば高校で習う平面上の座標軸に関する基本ベクトル $\vec{ e_1 }=(1,0)$,$\vec{ e_2 }=(0,1)$の内積は,$$\vec{ e_1 }\cdot\vec{ e_1 }=1, \quad \vec{ e_1 }\cdot\vec{ e_2 }=0,\quad \vec{ e_2 }\cdot\vec{ e_1 }=0,\quad \vec{ e_2 }\cdot\vec{ e_2 }=1$$となるので,これらをひとつにまとめて,$$\vec{ e_i }\cdot\vec{ e_j }=\delta_{ij}$$と表すことができます.

②この小説に出てきたのは行列(matrix)の話です.2行2列だと一般に次のような形をしています.\begin{eqnarray}
\left(
  \begin{array}{cc}
    a & b \\
    c & d \\
  \end{array}
\right)
\quad \quad \quad
\left(
  \begin{array}{cc}
    a_{ 11 } & a_{ 12 } \\
    a_{ 21 } & a_{ 22 } \\
  \end{array}
\right)
\end{eqnarray}行列も数字と同じようにかけ算ができます.数字の1にあたる働きをするものを単位行列(identity matrix)といい,右下がりの対角線上がすべて1,他は0になります.\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}3行3列ならこんな形です.\begin{eqnarray}
\left(
  \begin{array}{ccc}
    1 & 0 & 0 \\
    0 & 1 & 0 \\
    0 & 0 & 1  \end{array}
\right)
\end{eqnarray}これがn行n列になると,書くのは大変なうえ,スペースもとりますが,クロネッカーのデルタを使えば次のように簡潔に書くことができます.\begin{eqnarray}
 \left(
  \begin{array}{cccc}
    1 & 0 & \ldots & 0 \\
    0 & 1 & \ldots & 0 \\
    \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
    0 & 0 & \ldots & 1
  \end{array}
\right)
= (\delta_{ij})
\end{eqnarray}
③WolframMathWorldには複素関数の積分の例もありました.$$\delta_{mn}=\frac{1}{2\pi i}\oint_{\gamma} z^{m-n-1}dz$$右辺の$\oint$は周回積分,$\gamma$は単位円のような閉曲線で,m=nのとき1になり,m≠nのとき0になります.コーシーの積分定理・公式からすぐいえるのですが,少し計算して確かめてみましょう.$z=e^{it}$とおきます.\begin{eqnarray}
\oint_{\gamma} z^{m-n-1} dz&=& \int_0^{2\pi} e^{(m-n-1)it} ie^{it} dt \\
&=& i\int_0^{2\pi} e^{(m-n)it}dt \\
\end{eqnarray}m=nのとき\begin{eqnarray}
&=& i\int_0^{2\pi} dt \\
&=& i\left[ \ t \ \right]_0^{2\pi} \\
&=& 2\pi i \\
\end{eqnarray}m≠nのとき\begin{eqnarray}
&=& i\int_0^{2\pi} \{ \cos{(m-n)t}+i\sin{(m-n)t} \}dt \\
&=& i \left[\frac {\sin{(m-n)t}}{m-n}-i\frac {\cos{(m-n)t}}{m-n}\right]_0^{2\pi} \\
&=& 0 \\
\end{eqnarray}クロネッカーのデルタを考案したドイツの数学者クロネッカー(Leopold Kronecker)は,無限集合論を確立した数学者カントールを,その業績だけでなく人間性をも厳しく批判し,精神的に追い込んだことが有名で,数学史上の悪役みたいなイメージがあります.一方,このドラマに登場したのはとても可愛いクロネッコー,いえクロネコでした.

[参考]
Kronecker Delta
https://mathworld.wolfram.com/KroneckerDelta.html

2019年12月20日

漫画 ぼくたちは勉強ができない 第1話

筒井大志 2017年 集英社

微分

週刊「少年ジャンプ」に連載されている漫画で,理系科目の得意な文系志望の女子生徒と文系科目の得意な理系志望の女子生徒に苦手科目を教える男子生徒が奮闘する話です.アニメを観た後に気になって漫画を読んでみました.
先生「はい,じゃあこの問題,解けた人から前に出て解いてもらおうかな」
$f(x)=x^3+ax^2+bx$
$x=\frac{1}{\sqrt{3}}$のとき,極小値$-\frac{2\sqrt{3}}{9}$
$a=$,$b=$
また,関数$f(x)$の最大値は?  
(緒方理珠が黒板に解答を書く)
$a=0,  b=-1$
$x=-\frac{1}{\sqrt{3}}$のとき,最大値$\frac{2\sqrt{3}}{9}$
先生「ぜ…全部正解です.でも…緒方さん,途中式は…?」
理珠「途中式….すみません,とばして解いてしまいました」
y=x^3-x のグラフ
途中式を確認してみましょう.
$f'(x)=3x^2+2ax+b$ なので,
$f'\left(\frac{1}{\sqrt{3}}\right)=1+\frac{2a}{\sqrt{3}}+b=0\tag{1}$
$f\left(\frac{1}{\sqrt{3}}\right)=\frac{\sqrt{3}}{9}+\frac{a}{3}+\frac{\sqrt{3}b}{3}=-\frac{2\sqrt{3}}{9}\tag{2}$
この2式より,$a=0,  b=-1$ となり,
$f(x)=x^3-x$
$f'(x)=3x^2-1$
よって,$x=-\frac{1}{\sqrt{3}}$のとき,極大値$\frac{2\sqrt{3}}{9}$
となるので,「最大値」ではなく,正しくは「極大値」ですね.

ここで,$a+b\sqrt{3}$($a$,$b$は有理数)という形の数全体は「$a+b\sqrt{3}=0$ ならば $a=b=0$」(代数学の用語を使っていうと,有理数体Qに$\sqrt{3}$ を添加してできる拡大体の元は代数的独立)なので,$a=0,  b=-1$を出すには,式(1), (2)のどちらかだけで十分ですね.つまりこの問題は条件過多になっています.

気になったので,アニメの方の第1話を観てみたら,似た問題が使われていました.
関数$f(x)=-x^3+ax^2+bx+6\quad(-3≦x≦1)$ が,
$f(2)=0$
$x=1/\sqrt{3}$のときに極大値を取る
の2点を満たすとき,$a$,$b$の値を求めよ.
(緒方理珠が黒板に解答を書く)
先生「ぜ…全部正解です.でも…緒方さん,途中式は…?」
理珠「途中式….すみません,見た瞬間,答えが分かったので,とばしてしまいました」
途中式を確認してみましょう.
$f(2)=0$より,
$-8+4a+2b+6=0\tag{3}$
$f'(x)=-3x^2+2ax+b$ なので,
$f'\left(\frac{1}{\sqrt{3}}\right)=-1-\frac{2a}{\sqrt{3}}+b=0\tag{4}$
この2式より,$a=0,  b=1$ となる

ここでも,$a=0,  b=1$を出すには,式(4)だけで十分ですね.つまりこの問題も条件過多になっています.しかもこの問題,$f(2)=0$といいながら,$x=2$は定義域 $(-3≦x≦1)$ に入っていません.この定義域を与えることも必要ないでしょう.

2018年1月30日

漫画 理系が恋に落ちたので証明してみた。

山本アリフレッド 2016年 ほるぷ出版

帰無仮説 同じ誕生日の確率 素数の無限性 最適化問題 ハノイの塔 リーマン予想 フィボナッチ数 フェルマーの最終定理 

理系大学院生の雪村心夜と氷室菖蒲が,お互いを好きなのかどうかをいろいろな実験を通して考察していくという話で,数学や理科の用語がたくさん出てきます.

[証明2] 理系が恋に落ちたので心拍数を測ってみた。

本編の後に「リケクマのなげやり理ア充用語解説コーナー」といいうのがあり,帰無仮説について分かり易く解説しています.
「カラスは黒い」を否定するような,ありえねー仮説を立ててみるクマ.「カラスは黒かレインボーの半々」とかクマ.これが帰無仮説クマ.  
この時,100匹連続でカラスが黒い確率は,隕石が頭の上を1兆回落ちてくるより小さいクマ.だからこの帰無仮説はありえねークマ.  
なら「カラスは黒が90%,他は蛍光ピンク」という帰無仮説はどうクマ? これでも,100匹連続でカラスが黒い確率は0.00265%くらいクマ.やっぱありえねークマ.  
「カラスは97.1%が黒」あたりから,確率が5%以上になり,やっとギリありえる感じになるクマ.よって「全てのカラスは黒い」とは言えなくても「97.1%以上のカラスは黒い」ということは示せるクマ.
以上の値を検証してみましょう.

「隕石が頭の上に落ちてくる確率」をネットで調べたら,160万分の1とか100憶分の1とか極端に異なる値が見つかりました.高い方の160万分の1としてもこれが同じ頭の上に1兆回落ちてくる確率は,160万分の1の1兆乗なので,限りなく0に近くなります.

100匹連続で黒いカラスになる確率は,
・黒とレインボーが半々のとき $0.5^{100}=7.8886 \times 10^{-31}$(極端に小さいですが,隕石が頭の上に1兆回落ちてくる確率より高いのではないでしょうか)
・黒が90%のとき $0.9^{100}=2.6561 \times 10^{-5}$(0.00265%くらい.上記の通り)
・黒が97.1%のとき $0.971^{100}=5.27134 \times 10^{-2}$(確率が5%以上.上記の通り)

「やっとギリありえる感じ」を「確率が5%以上」としていますが,これを有意水準といい,1%とする場合もあります.

[証明3] 理系が恋に落ちたのを思い出してみた。
奏(かなで)「ハノイの塔の問題.漸化式で解いてみたんですけど,みてくれませんか.」
先生「そうです.$2^n-1$.よく解けましたね,奏君.ここからが面白いんですよ.伝説の通り,n=64だとすると,$2^{64}-1$です.これを年数にすると500億年近く.終わるころには世界が滅亡して…」
ハノイの塔は,3本の棒のうちの1本に穴の開いたn個の円板が上から小さい順に通しておいてあり,全部をあるルールのもとで他の棒に移すというゲームで,円板64枚のときにすべてを移し替えると世界は終わるというインドの伝説があります.このブログでは,ドラマ「スペシャリスト3」と映画「猿の惑星:創世記(ジェネシス)」に登場しました.

円板がn枚の時,移すのに必要な手数を$a_n$とすると,漸化式は$a_{n+1}=2a_n+1$となり,これを解いて$a_n=2^n-1$になります.

伝説の式を実際に計算してみると,1年は60×60×24×365秒ですから,$$\frac{2^{64}-1}{60\times60\times24\times365}\approx5.85×10^{11}=5850億$$なので,この先生の台詞「年数にすると500億年近く」は間違っているようです.

[番外編] 理系は誕生日に運命を感じない。

ある人数の中に同じ誕生日の人がいる確率は,小説「数学的にありえない」とドラマ「数学女子学園第7話」に登場しました.n人の中で少なくとも2人以上が同じ誕生日になる確率は、全員が異なる誕生日になる確率を1から引きます.全員が異なる誕生日になる確率は$$\frac{364}{365}\cdot\frac{363}{365}\cdot\frac{362}{365}\cdots\frac{365-(n-1)}{365}=\frac{{}_{364}\mathrm{P}_{n-1}}{365^{n-1}}=\frac{{}_{365}\mathrm{P}_{n}}{365^{n}}$$なので,$$1-\frac{{}_{365}\mathrm{P}_{n}}{365^{n}}$$という式で求められます.

これはグラフ電卓または関数電卓で上の式にn=30を代入しても計算できますが,なんでも計算してくれるサイト WolframAlpha で birthday paradox 30 と入力すれば,at least 2 the same 0.7063 と答えてくれます(WolframAlphaはすごい!).というわけで,30人の中に同じ誕生日の者が少なくとも2人以上いる確率70.6%が確認できました.この問題は,人数が少なくても驚くほど高い確率になるので,birthday paradoxと呼ばれています.
雪村心夜「30人の中に同じ誕生日の2人がいる確率は70.6%だ.」
とありましたが,正確には「少なくとも2人以上」ですね.

[証明19] 理系が恋に落ちたので好きの証拠を集めてみた。
雪村心夜「安心しろ.素数を数えているうちに終わる」
氷室菖蒲「だめよ.素数は無限に存在しているもの」
素数が無限に存在することの証明は背理法で簡単に証明できます.高校数学の教科書に掲載されている$\sqrt{2}$が無理数であることの証明よりもずっと簡単です.

有限であると仮定してすべての素数を$p_1, \ p_2, \ \cdot \cdot \cdot  \ , \ p_n$とします.つまり$p_n$が最大の素数です.それらすべての積に1を加えた数は割り切れないので,さらに大きな素数になってしまい,$p_n$が最大の素数であることに矛盾します.よって,素数は無限に存在することがいえます.

因みに The Largest Known Primes によると,2018年1月までに発見されている最も大きな素数は$2^{77232917}-1$で,$\log_{10}2^{77232917}=23249425$桁まで来ています.

[2026年6月26日追記]

2024年に見つかった最大素数は$2^{136279841}-1$で,$\log_{10}2^{136279841}=41024320$桁になっています.

2017年7月22日

漫画 Q.E.D. 証明終了

 加藤元浩 1997-2014年 講談社

以前から数学の話題が頻繁に登場する漫画であることを知っていたのに,なぜかここに書かなかったという作品のひとつです.久しぶりに第1巻を含むいくつかを読んで,ようやく書く気になりました.

理工系大学の世界最高峰である米国のMIT(マサチューセッツ工科大学)を15歳で卒業したが,普通の高校生活を体験したいと,日本の高校に入学してきた燈馬想が,同級生の体育会系水原可奈の協力のもと,次々と難事件を解決していくという漫画です.Q.E.D.はラテン語でQuod Erat Demonstrandum.タイトル通り「証明終了」という意味です.

第1巻/第2話「銀の瞳」

数学の苦手な水原可奈に燈馬想が数学を教える場面です.
燈馬想「だから交点が1になる場合を考えて判別式が0になる値を求めるんです.」
水原可奈「じぇんじぇんわかりましぇん」
問題が掲載されていなかったので推理してみましょう.このころはまだ2人とも高校1年生なので,高校数学Ⅰの問題なら,放物線と直線の共有点が1つ,すなわち接するときの式中の定数を求める問題でしょう.そうだとすれば,「交点が1になる場合を考えて」よりも「共有点が1つになる場合だから」という表現のほうが適切ですね.

[簡単な例題] 放物線$y=x^2$と直線$y=ax-3$が接するとき,定数$a$の値を求めよ.(正解は±2√3)

第7巻/第1話「Serial John Due」
ロキ「じゃア,カメーネフの死は"π"に符合してるとして…,劉の方は?」
燈馬想「自然数eだよ」
ロキ「e? あのオイラーの数か?」
水原可奈「eって?」
燈馬想は「自然数」,ロキは「オイラーの数」と言っていますが,eは「自然対数の底」,または「ネイピア数」と呼ばれることが多いです.「自然数」だと正の整数(または負でない整数)の意味を持つnatural numberと誤解しやすくなります.また,eという文字で表すのはオイラーが最初だったので「オイラーの数」でもいいのですが,他に「オイラーの定数(Euler's constant)」というのがあるので,混同しないようにしたいですね.
燈馬想「円周率πは円周を円の直径で割った数.自然数eはネイピアの考案した対数という概念から生まれた数.そして虚数iは2乗して-1になる想像上の数として生まれました.この3つの記号はそれぞれ人類の歴史の中でなんの関連もなく生み出されたものです.ところが大数学者オイラーはこの3つの数に一つの関係を見つけ出した.
$e^{πi}=-1$
これがオイラーの公式,人類の数学史上最も美しい式と呼ばれるものです.」
ここでもeを「自然数」と呼んでいますが,さらにオイラーの公式(Euler's formula)$$e^{θi}=\cosθ+i\sinθ$$に$θ=π$を代入して得られるオイラーの等式(Euler's identity)$$e^{πi}=-1$$を「オイラーの公式」と呼んでいるのが気になりますね.

第33巻/第2話「推理小説家殺人事件」
燈馬想「『グラフで囲まれた部分の面積を求めろ』ってことなので,まず2つの交点のxの値を出して範囲を決めます.yが同値になるxってことだから…」
燈馬想が水原可奈に数学を教えている場面ですが,台詞はこれだけで図もありません.これは積分の問題でしょう.中には公式を使って交点のxの値を出さずに解く方法があります.以前,映画「容疑者xの献身」で述べました.

第38巻/第2話「十七」

xのn乗根がn=1から4まで紹介されていましたが,n=4のときの解(1の4乗根)は,$x^4-1=0$を解いて$x=±1$,$±i$になります.間違ってn=4のところにn=5のときの解(1の5乗根)が書かれてあります.と思ったらよく見ると値も違っていました.正しくは次のようになります.他のサイトでいくつも見つかりますから,確認しみてください.$$\frac{(-1+\sqrt{5})±i\sqrt{10+2\sqrt{5}}}{4}, \quad \frac{(-1-\sqrt{5})±i\sqrt{10-2\sqrt{5}}}{4}$$

第44巻/第2話「Question!」

トップのタイトルページの数式です.右上の図より,円$x^2+y^2=1$と,(-1,0)を通る直線$y=m(x+1)$の,(-1,0)でない方の交点の座標を求める問題のようです.横書きの数式なのに,板書が右から始まるのが変ですね.話は右上の図から始まって,右下の連立させた方程式を変形する過程まではいいのですが,そのあとの左の計算式(燈馬想に隠れて見えにくいですが)が少しおかしいですね.右下の式を整理すると次式になります.
$(1+m^2)x^2+2m^2x+(m^2-1)=0$
この左辺をを因数分解するのに,解のひとつがx=-1とわかっているので,x+1がひとつの因数になります.その割り算は右図のようになるはずなので,$m^2>1$や,$x√$というのは写し間違いだと思われます.

他の巻にも以下のように数学の話題が頻出します.数学の話ではなくても十分楽しめる知的な漫画なので,どなたにも強くお勧めします.
  9巻 ケーニヒスベルグの橋
13巻 クラインの壺
15巻 デデキントの切断
20巻 カントールの無限集合
23巻 リーマン予想
29巻 ポアンカレ予想
44巻 フェルマー予想 ゴールドバッハ予想 ABC予想
47巻 P≠NP問題

2016年1月9日

漫画 和算に恋した少女 第2巻

天元術 算額

▼ 「はああ…… 天元術かあ……」
 「ごらん律,これが算額だ.自分で考えた問題を額にして神社に奉納するんだよ.父さんの算額はこれだ.答えが書いてないのは『遺題』といってね,『誰か解ける人はいるかい?』って訪ねているんだよ」
 「じゃあ,あたしが解く!」
 「うん,そうしたらおまえの答えを算額にしてこの隣に掲げなさい.」

江戸時代の数学を和算といいます.天元術とは一言でいうと方程式で問題を解く方法です.これまでに解いた算額の問題は三平方の定理を用いて円の半径などを求める問題が多かったので,この「父さんの算額」の問題も同じように解けると思ったらこれはかなりの難問でした.

他サイトで類題があり,①デカルトの円定理を使った解答と②反転法を使った解答が見つかったのですが,ここではピタゴラスの定理を使って解く方法を考えてみました.

計算を簡単にするため,図のように大円$O$の中心を原点,半径を$6$として,円$C$の中心を$(3, 0)$,円$C_0$の中心$(a_0, b_0)=(-3, 0)$とすれば,円$C_0$の半径 $r_0=3$となります.それ以外の円${C_n}$の中心を$(a_n, b_n)$,半径を$r_n$としましょう.
$C_{n-1}C_n$を斜辺とする直角三角形で三平方の定理より$$(a_{n-1}-a_n)^2+(b_{n-1}-b_n)^2=(r_{n-1}+r_n)^2\tag{1-n}$$ $OC_n$を斜辺とする直角三角形で三平方の定理より$$a_n^2+b_n^2=(6-r_n)^2\tag{2}$$ $CC_n$を斜辺とする直角三角形で三平方の定理より$$(a_n-3)^2+b_n^2=(3+r_n)^2\tag{3}$$ 以上の式を使って$r_n$をいくつか求めます

■まず$r_1$を求めましょう.この場だけ円$C_1$の中心$(a_1, b_1)=(a,b)$,半径$r_1=r$として計算します.式(1-n)でn=1とすると$$(-3-a)^2+(0-b)^2=(3+r)^2\tag{1-1}$$ 式(2)より$$a^2+b^2=(6-r)^2\tag{2}$$ 式(3)より$$(a-3)^2+b^2=(3+r)^2\tag{3}$$ まず(2)(3)から$a$と$b$を$r$で表すと$$a=6-3r,\quad b^2=24r-8r^2\tag{4}$$ (4)を式(1-1)に代入して$r$についての方程式を解くと$r=2$.これを(4)に代入して$(a, b)=(0, 4)$.すなわち,円$C_1$の半径と中心は次式になります.$$r_1=2,\quad (a_1, b_1)=(0, 4)$$ ■次に$r_2$を求めましょう.計算を簡単にするためにまた同じ文字を使います.この場だけ円$C_2$の中心$(a_2, b_2)=(a,b)$,半径$r_2=r$として計算します.式(1-n)でn=2とすると$$(0-a)^2+(4-b)^2=(2+r)^2\tag{1-2}$$ 同様に(4)を(1-2)に代入して$r$についての方程式を解くと$r=1, r=3$となりますが,$r$は$2$より小さいので$r=1$.式(1-2)が$r_2$の前後の$r$を求められる式になっているので,もうひとつの解である$3$は$r_0$の値になっています.$r=1$を(4)に代入して$(a, b)=(3, 4)$.すなわち,円$C_2$の半径と中心は次式になります.$$r_2=1,\quad (a_2, b_2)=(3, 4)$$ ■次に$r_3$を求めましょう.計算を簡単にするためにまた同じ文字を使います.この場だけ円$C_3$の中心$(a_3, b_3)=(a,b)$,半径$r_3=r$として計算します.式(1-n)でn=3とすると$$(3-a)^2+(4-b)^2=(1+r)^2\tag{1-3}$$ 同様に(4)を(1-3)に代入して$r$についての方程式を解きましょう.
$(3r-3)^2+(4-\sqrt{24r-8r^2})^2=(r+2)^2$
$9r^2-18r+9+16-8\sqrt{24r-8r^2}+24r-8r^2=r^2+2r+1$
$4r+24=8\sqrt{24r-8r^2}$
$r+6=2\sqrt{24r-8r^2}$
$r^2+12r+36=4(24r-8r^2)$
$33r^2-84r+36=0$
$11r^2-28r+12=0$
$(11r-6)(r-2)=0$
$r=\frac{6}{11}, r=2$
となりますが,$r$は$1$より小さいので$r=\frac{6}{11}$.$r=\frac{6}{11}$を(4)に代入して$(a, b)=\left(\frac{48}{11}, \frac{36}{11}\right)$.すなわち,円$C_3$の半径と中心は次式になります.$$r_3=\frac{6}{11},\quad (a_3, b_3)=\left(\frac{48}{11}, \frac{36}{11}\right)$$ ■次に$r_4$を求めましょう.計算を簡単にするためにまた同じ文字を使います.この場だけ円$C_4$の中心$(a_4, b_4)=(a,b)$,半径$r_4=r$として計算します.式(1-n)でn=4とすると$$\left(\frac{48}{11}-a\right)^2+\left(\frac{36}{11}-b\right)^2=\left(\frac{6}{11}+r\right)^2\tag{1-4}$$ 同様に(4)を(1-4)に代入して$r$についての方程式を解くと(計算略)$r=\frac{1}{3}, r=1$となりますが,$r$は$\frac{6}{11}$より小さいので$r=\frac{1}{3}$.すなわち,円$C_4$の半径は $r_4=\frac{1}{3}$ になります.

ここで求めた$r_n$を並べてみると,$2, 1, \frac{6}{11}, \frac{1}{3}, \cdot\cdot\cdot$
分子を6にすると,$\frac{6}{3}, \frac{6}{6}, \frac{6}{11}, \frac{6}{18}, \cdot\cdot\cdot$
分母は,$3, 6, 11, 18, \cdot\cdot\cdot$
この階差数列は,$3, 5, 7, \cdot\cdot\cdot$となり,その第k項は2k+1と推測できるので,分母の第n項は$$3+\sum_{k=1}^{n-1}(2k+1)=n^2+2$$ 従って円$C_n$の半径は次式になると推測できます.$$r_n=\frac{6}{n^2+2}\tag{5}$$ あとは数学的帰納法で$$r_{n+1}=\frac{6}{(n+1)^2+2}\tag{6}$$が成り立つことを示せばOKです.式(4)の添え字をnにして式(1-n)に代入して整理すると次式を得ます.$$12(r_{n+1}-r_n)^2+3r_n^2r_{n+1}^2-4r_nr_{n+1}(r_n+r_{n+1})=0$$ これに(5)を代入して整理すると(6)を得られて終了なのですが,この計算は大変なので,WolframAlphaにしてもらいました.($x=r_n, y=r_{n+1}$として計算しています)

これで式(5)が正しいことが分かったので,これを(2)と(3)に代入すると円$C_n$の中心の座標は次式になります.$$(a_n, b_n)=\left(\frac{6(n^2-1)}{n^2+2},\quad \frac{12n}{n^2+2}\right)\tag{7}$$
さらに式(5)も式(7)もnに0と負の整数を代入しても成り立ちますから,円Cの周りのすべての円の中心と半径が求められたことになります.確かに$n\rightarrow\pm\infty$のとき,中心の座標は$(6,0)$に,半径は$0$に近づいていくことが分かります.

<2016年12月4日追記>

上図の半径3の円CとC0と半径6の大円Oとで囲まれる部分をArbelos(アルベロス)と呼ぶことが分かりました.古代ギリシアで使われていたといわれる「靴屋のナイフ(Arbelos)」がこの形と似ているのでこういう名前になったそうです.