2026年4月9日

小説 ペンギン・ハイウェイ

森見登美彦 2012年 角川文庫

相対性理論   $E=mc^2$

小学4年生のアオヤマ君が,街に突如出現したペンギンたちは歯科医院のお姉さんが関係しているらしいことを知り,その謎の解明のため調査研究していくことで成長していくという話です.

 ぼくはソファに座って、図書館の人にすすめてもらった「相対性理論」の本を読んでいた。歯科医院の先生にもらった雑誌ではよく分からなかったので、他の本を読んで研究しようと思ったのだ。
 本を読みながら、ぼくはノートに「E=mc²」とメモをした。ふしぎな式だ。
 ぼくは父に方程式の理論を教えてもらったことがあるので、この式の意味が分かる。小学校二年生の頃まで、「=」(イコール)は「答えは?」という意味だと思っていた。 たとえば「2+2の答えは?」というように。でもそれは間違いだった。「=」は、左側と右側が同じ値になるという意味なのだった。 (P73)

「この式の意味が分かる」というので,エネルギーと質量と光速の関係のことかと思ったら,「=」という記号の意味のことだったので,肩透かしを食らった感じです.なぜこの等式が成り立つのかを見てみましょう.

[予備知識]

光子は質量を持たないので,質量を持つ粒子のエネルギーの式 $E=\frac{1}{2}mv^2$ や運動量の式 $p=mv$ は使えませんが ($m$は質量,$v$は速度),波長と振動数から光子のエネルギーや運動量を表すことができます.

真空中の光子の速度$c$は,その波長を$\lambda$ (ラムダ),振動数を$\nu$ (ニュー)として次式で表せます.$$c=\lambda\nu\tag{1}$$アインシュタインの光量子仮説より,光子のエネルギー$E$は,プランク定数を$h$,振動数を$\nu$として次式で表せます.$$E=h\nu\tag{2}$$光子の運動量$p$は,波長$\lambda$に反比例するので次式が成り立ちます.$$p=\frac{h}{\lambda}\tag{3}$$ $(2)$より$h=\frac{E}{\nu}$なので,これを$(3)$に代入し,$$p=\frac{E}{\lambda\nu}\tag{4}$$さらに$(1)$を$(4)$に代入すると,次の関係式が成り立ちます.$$p=\frac{E}{c}\tag{5}$$

[証明]

静止系において,質量$M$の物体が,左右から1個ずつ合計2個の光子を吸収し,質量が$M'$になったとします.

静止系

光子は質量を持ちませんが,光子を吸収したことによる物体の質量の増加量を1個につき$m$とすると,$$M+2m=M'\tag{A}$$

一方,運動系において、質量$M$の物体が,左右から1個ずつ合計2個の光子を吸収し,質量が$M'$になったとします.下向きに速度$v$ (ブイ)で動いている運動系から観測すると,物体も光子も上向きに速度$v$で動いているように見えます.

運動系


2個の光子の上向きの運動量は$$2\cdot p \cdot\sin\theta=2\cdot p \cdot\frac{v}{c}$$$(5)$をこの式に代入すると,$$2\cdot \frac{E}{c} \cdot\frac{v}{c}$$光子を吸収する前は,質量$M$の物体が上向きに速度$v$で動いているので,上向きの運動量$Mv$を持ちます.光子を吸収した後は,質量$M'$の物体が上向きに速度$v$で動いているので,上向きの運動量$M'v$を持ちます.運動量保存則より,$$Mv+2\cdot \frac{E}{c} \cdot\frac{v}{c}=M'v$$$$M+2\cdot \frac{E}{c^2} =M'\tag{B}$$$(A)と(B)$を比較して,$$m=\frac{E}{c^2}$$$$\therefore E=mc^2$$

[参考] 

文系編集者がわかるまで書き直した 世界一有名な数式 「$E=mc^2$」 を証明する
福江 純 (著) 2020年 日本能率協会マネジメントセンター

アインシュタインによる$E=mc^2$の初等的証明

2026年3月27日

小説 一次元の挿し木


松下龍之介 ‎ 2025年 宝島社文庫

半減期 DNA鑑定 二乗

2025年第23回『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリ受賞作です.大学院生の七瀬悠(はるか)が,200年前の人骨と4年前に失踪した妹の紫陽(しはる)のDNAが一致したという謎を究明しようとしたところ,殺人事件にまきこまれ,さらに自らも危険な目に会いながら真相に近づいていくという話です.

 すべての動植物は、生きている限り、内部に大気中と同濃度の放射性炭素を取りこんでいる。動植物が死に至ると、体内の放射性炭素は取りこまれなくなり、"半減期" に従って減りつづける。半減期とは、放射性物質の数が半分になるまでの期間を指し、これらは物質の種類によって異なる。放射性炭素の半減期は約五七三○年だ。つまり、 測定対象内部の放射性炭素の数がどれだけ減ったのかを数えれば、対象が生命活動を停止してからどれだけの年数が経っているのかがわかる、ということだ。(P53)

放射性元素の問題は,高校数学の教科書では指数・対数の練習問題で出てきます.このブログでは,カリウムの同位体の話が小説「魔力の胎動」に登場しました.

炭素の同位体には炭素12,炭素13,炭素14があり,そのうち放射性同位体である炭素14 (14) は,生物体内に極微量 (通常の炭素の約1兆分の1)存在していますが,死亡すると減少していき,半減するのに5730年かかることから,化石などの年代測定に利用されています.元の量からどれぐらいの量に減ったら200年前と分かるのでしょうか,計算してみましょう.

生存時の炭素14の原子核数を$N_0$,半減期を$t_{1/2}$(年) とすると,$t$年後の原子核数$N$は次式で表されます.$$N=N_0 \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{t_{1/2}}}$$これに,$t_{1/2}=5730$,$t=200$を代入すると,$$N=N_0 \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{200}{5730}}=N_0\times0.9760\cdots\cdots$$すなわち,炭素14の原子核の数は死後200年で生存時の97.6%に減っているということになります.

もちろん原子核の数は目で見て数えられません.加速器質量分析法(AMS法)というのを使うそうです.

会話の中にこんな表現がありました.DNA鑑定について悠と石見崎唯(ゆい)の会話です.

「僕がおこなった鑑定は "マルチプレックスSTR解析っていう、今の時代ではオーソドックスな方法。低く見積もっても四兆七千億人から一人を識別できる。犯罪捜査の現場でもよく使われている手法だ」
「四兆、ですか」(P113)

この「4兆7千億」という数字は小説「確率捜査官 御子柴岳人 密室のゲーム」にも登場しました.その時に,「警察庁は2019年に新たな検査試薬を導入し,同じDNA型の出現頻度が565京人に1人となった」 ことを述べました.この小説は2025年に発行されていますが,小説の舞台が2019年以前だとすれば,この数字のままでいいのかも知れません.

4兆7千億 ⇒ 565京
4.7×1012 ⇒ 5.65×1018

こんな表現もありました.悠が失踪した紫陽の生存を諦めそうになった時に励まそうとする唯の言葉です.

「つまり私が言いたいのは――」
「『諦めるのはまだ早い』だろ」
 唯はにっこりと笑った。
「そういうことです。『早い』に二乗をかけてもいいくらい」(P125)

正しくは「2乗をかける」ではなく「2乗する」ですよね.「『早い』を二乗してもいいくらい」 とするべきですが,より強く気持ちを伝えるために敢えてこの表現を使ったのかも知れませんね.

xに2乗をかける ⇒ xを2乗する

[参考]

放射性炭素年代測定の概要
https://iaa-ams.co.jp/radiocarbon-dating/


2026年2月26日

小説 écriture 新人作家・杉浦李奈の推論

松岡圭祐 2021年 KADOKAWA

半径 円周率 偶数

新人作家の杉浦李奈が,盗作騒動に端を発した不可解な事件に巻き込まれ,その解明のために奮闘するという話です.李奈が問題の人物の新作を読んで修正すべき点を述べる場面です.

「クレーターの外周を、宇宙生物が四倍の速さで駆けめぐるんですよね? でも宇宙生物は一匹なので、余裕で脱出できます」
「杉浦さん」沙織はやれやれという顔になった。「数字は苦手?   嶋貫克樹はちゃんと計算してますのよ。わたしたちも確認してます。クレーターの半径が約一キロだから、半周は円周率の三・一四キロ。中心から宇宙生物がいるのとは逆方向に走っても、 確実に捕まって殺されてしまうの」
「クレーターの半径は一キロなんですか」
「そう。はっきり書いてなくても、描写からおおよその距離を読みとれない?」
「なら主人公はまず、クレーターの中心から半径約二百二十二メートルの円周上を走ります」
「はあ?」
「その約四・五倍がクレーターの周囲なので、主人公は中心を挟んだ直線上に、宇宙生物と向かい合えます。そこから宇宙生物と逆方向にまっすぐ走ればいいんです」
「・・・・・・宇宙生物が追いつけない?」
「はい。捕まらずに脱出できます」
「だけど、あの、主人公にそんな計算なんかできないでしょ」
「計算しなきゃ脱出できないんじゃなくて、クレーターのなかをうろつくだけでも、 それぐらいの時間差に気づけるはずです。計算はあくまでその事実を裏付けるものです」
「半径一キロってのが問題なのよね? そうは書いてないでしょう」
半ばあきれながら李奈はきいた。「さっき一キロだと・・・・・・
「いいえ。明記してないんだから、なんとでも受けとりようがある」
「一キロでなくても同じことです。クレーターの中心から、半径の九分の二の円周上を走れば、やっぱり脱出できます」
「あなた数学が得意だったの?」

唐突に現れたこの文章を一度読み流しただけでは意味が分かりにくいですね.なぜ222mや4.5倍や$\frac{2}{9}$という値が出てきたのでしょうか.前後に関連した記述はありませんでした.この問題を考察してみましょう.


主人公(Main Charactor)をM,宇宙生物(Space Creature)をSとします.クレーターは平面上にある大円とし,Mは円の中心Cに,Sは大円周上の点Aにいます.Mの移動速度$v$に対し,Sの移動速度はその4倍なので$4v$です.

Sも自由に動けるとすると,MはすぐにSに捕まってしまうので,Sは大円の周上だけ移動できるものと思われます.

①Mが線分OB上だけ動けるとき
②Mが大円内を自由に動けるとき
(いずれも中心へ後戻りしないように動くものとします)

沙織は①の場合を考えていました.つまり,Mが中心Cから外周上の点Bまで半径1000m動く間に,Sはその4倍の4000m動けるので,Aから半周3140m先の点BにはMより先にSが到達しますから,MはSに捕まります.

李奈は②の場合を考えています.まずMがCからBに向かって222m進みます.その間にSは222×4=888m進んでいます.それからMは半径約222mの小円上を動きます.すると大円上を動くSの速さが4倍であっても,大円の半径が小円の半径の約4.5倍(≒1000÷222)なので,Mが小円を動く方が一定時間での回転数が多くなり,そのうちMは中心を挟んだ直線上にSと向かい合えます.そこからSと逆方向にまっすぐ移動すれば,外周までの距離は1000-222=778mで,その間にSは778×4=3112mしか進めない,すなわちMが大円の外に脱出できる3140m先の点までSは到達できません.半径が変わっても,大円の半径が小円の半径の4.5倍なら,すなわち小円の半径が大円の半径の$\frac{1}{4.5}=\frac{2}{9}$なら脱出できるというわけです.

ではもう少し正確に計算してみましょう.大円の半径を$R$,小円の半径を$r$,円周率を$\pi$として,Mが中心を挟んだ直線上にSと向かい合った後,ちょうどMとSが同時に同地点へ到達するときの方程式は次式になります.$$4(R-r)=\pi R$$これを$r$について解くと,$$r=\left( 1-\frac{\pi}{4} \right)R$$$1-\frac{\pi}{4} =0.2146......$なので,小円の半径が大円の半径の0.2146倍を超えるなら脱出できる,すなわち大円の半径が1000mのときは,小円の半径が214.6mを超えるなら脱出できるということになります.

ところが,$r$が250m以上になると,小円の半径が大円の半径の$\frac{1}{4}$以上になるので,Mが小円を動く方が,Sが大円上を動くより一定時間での回転数が少なくなり,Mは中心を挟んだ直線上にSと向かい合うことができません.Mが移動する間にSは外周上をその4倍進んでいて,その後Mが脱出しようとする点にはSが先に到達しますから,MはSに捕まってしまいます.


$r$がいろいろな値のときの様子が分かる図をGeogebraで作ってみました(こちら).結果は次のようになります.

r=0.25のとき (単位はkm)

rの単位はkm

この作家は過去にも詳細を述べずに問題提起したことがあって,長時間悩まされたことがありました(笑).
 

<2026/03/10追記>

上図を作成した時は,arcSB$=\pi-4r$,arcSD$=\pi$はすぐに分かりましたが,arcSCは少し難しそうだったのでGeogebraで数値的に求めていました.

ここでは$OM=r$のとき,$\stackrel{\huge\frown}{BC}$を代数的に求めてみます.


円$O$の半径が1のとき,中心角をラジアンで表すと弧の長さと値が同じになりますから,$\stackrel{\huge\frown}{AS}=4r$なので,その中心角$\angle AOS=4r$,その円周角$\angle B=2r$.

$\stackrel{\huge\frown}{BC}=x$とおくと,その中心角$\angle BOC=x$,その円周角$\angle BSC=\frac{x}{2}$.

$\triangle MBS$の外角である$\angle OMS=2r+\frac{x}{2}$.

二等辺三角形$OBS$で$\angle B=\angle OSB=2r$だから,$\angle OSM=2r-\frac{x}{2}$.

ここで次の正接定理を使います.一般に△ABC (BC=$a$, CA=$b$, AB=$c$) において次式が成り立ちます.$$\boxed {\quad \quad \frac{a-b}{a+b}=\frac{\tan \frac{A-B}{2}}{\tan \frac{A+B}{2}} \quad \quad }$$これに図の$\triangle OMS$の値$(a=1, \ b=r, \ A=2r+\frac{x}{2}, \ B=2r-\frac{x}{2})$を当てはめると,$$\frac{1-r}{1+r}=\frac{\tan \frac{x}{2}}{\tan 2r}$$ $$\tan \frac{x}{2}=\frac{1-r}{1+r} \tan 2r$$ $$\frac{x}{2}=\arctan \left( \frac{1-r}{1+r} \tan 2r \right)$$よって,次の式が得られます.$$\stackrel{\huge\frown}{BC}=x=2\arctan \left( \frac{1-r}{1+r} \tan 2r \right)$$なお,正接定理を知らなくても正弦定理を使う求め方もありますので,練習問題として考えてみてください.

因みに,この問題をChatGPTに解かせてみたら,2つの解答が出てきました.数値を確認したら異なる値になったので,さらに聞いてみたら,「私が述べた〇〇という説明は この問題には当てはまらず誤りでした。申し訳ありません。🙏」と表示されました.こんなこともあるんですね(笑).

2026年2月10日

小説 変な地図

雨穴 2025年 双葉社

三角点

大学生の栗原文宣(ふみのぶ)が,妖怪の描かれた古地図を握りしめて祖母が不審死をしていたことを知り,実地調査をして謎を解き明かそうとする話です.

三角点とは、全国10万か所に設置された、いわば『位置を示す目印』だ。これを参考にすることで、正確な位置を知ることができ、設計図から少しもズレることなく工事ができるのだ。

では、三角点は建築のために存在するのか、といえばそうではない。三角点はもともと地図作成のために設置されたものだ。衛星技術がなかった時代、測量士はこれらを参考にしながら、土地の位置や形を手作業で調べ、図面に記していったという。

三角点は,地図上の大きな三角形の頂点にあたる場所に,上部に+の切れ込みのある石を埋め込んで『位置を示す目印』として設置され,その緯度・経度が正確に求められていました.一等三角点から四等三角点まであり,一等は全国で973点,四等までだんだん増えて,全て合わせると10万点以上あるそうです.三角点マップを見ると日本列島が三角点で埋め尽くされています.

一等~三等三角点網のイメージ(国土地理院 Web Page より)

現代ではGPSがあるので必要ないですが,三角点は地図を作成するための三角測量に用いられていました.三角測量とは,三角形の1つの辺とその両端角を測定し,もう1点の位置を決定する方法です.

具体的には,上図の距離 $l$ と角$\alpha$,$\beta$を測定して,距離 $PA,\ PB,\ d$ を求めます.$$\sin \angle APB=\sin \{\pi-(\alpha+\beta)\}=\sin (\alpha+\beta)$$なので,正弦定理より$$ \frac{PA}{\sin \beta}=\frac{PB}{\sin \alpha}=\frac{l}{\sin (\alpha+\beta)}$$$$PA=\frac{\sin \beta}{\sin (\alpha+\beta)}l\ ,\quad PB=\frac{\sin \alpha}{\sin (\alpha+\beta)}l$$$$d=PA\sin\alpha=PB\sin\beta=\frac{\sin \alpha\sin \beta}{\sin (\alpha+\beta)}l$$

[参考]

2026年1月22日

小説 地の鳥 天の魚群


奥泉 光 2011年 幻戯書房

自然数 素数 合成数

「深い穴」

長編1つと短編2つが収録されている中の,最後のたった12ページの作品「深い穴」の中の話です.主人公の「私」が素数を含まない合成数の列について考察しています.

素数を含まぬ合成数の列は簡単な数式で人工的に作りえるというのである。かりに十個の連続する合成数が欲しければ、11!+2、11!+3・・・・・・11!+11という風にすればよく、この十個の数は連続していてしかも絶対に素数ではない。むろんこれは十個に限らず、同じ方法を使うなら千個だろうが一兆個だろうがいくらでも連続する合成数の列を作りうるわけで、それどころか無限個でも可能になる理屈である。 

ここでは,自然数は0を含まないものとします.1より大きい自然数で,1とそれ自身の2つだけ約数を持つ自然数を素数といい,次のように無限に存在することが分かっています.$$2, 3, 5, 7, 11, 13, 17, 19, \dots$$約数を3つ以上持つ自然数は合成数といい,やはり無限に続きます.すなわち,1より大きい自然数のうち素数でないものが合成数です.$$4, 6, 8, 9, 10, 12, 14, 15, 16, 18, 20,  \dots$$$n!$ は,「$n$の階乗」と読み,$n$から1づつ減らして1まで掛けた数になります.$$n!=n\times(n-1)\times\dots\times3\times2\times1$$従って,$n!$は$n$以下の自然数すべてで割り切れます.本文中に

「十個の連続する合成数が欲しければ、11!+2、11!+3・・・・・・11!+11という風にすればよく」 

とありますが,$11!$ は$11$以下の自然数すべてで割り切れるので,それに $k \ (=2, 3, ・・・,11)$ を足したものは$k$で割り切れます.

ではなぜ $11!+1$ から始まらないのでしょうか.その理由は,$n!$は$n$以下の自然数すべてで割り切れるので,$n!+1$ は$1$でも割り切れますが,もともとどんな数も$1$で割り切れるので, $n!+1$ は素数にも合成数にもなり得るからです.

実際,$10!+1=3628801$ は $11×329891$ なので合成数ですが,$11!+1=39916801$ は素数 になります (このような $n!\pm1$ の形をした素数を階乗素数といいます).なので,9個の連続する合成数を $10!+1$ で始めることはできますが,10個の連続する合成数を $11!+1$ からは始めることはできないのです.

どちらの場合であっても成り立つようにまとめると,次のようになります.

少なくとも$(n-1)$個の連続する合成数は次式で得られる$$n!+2, \   n!+3, \   \dots, \   n!+n$$

例えば,少なくとも5個の連続する合成数を得るには,$$6!+2,\   6!+3,\   6!+4,\   6!+5,\   6!+6$$とすれば,722, 723, 724, 725, 726 が得られます.

本文中にあるように 「千個だろうが」 連続する合成数が欲しければ,$$1001!+2,\   1001!+3,\   \dots,\   1001!+1001$$とすればいいのですが,これらはそれぞれ2571桁の巨大な数になってしまうので,!を使わないで表すのは現実的ではありません.「それどころか無限個でも可能になる理屈である」 とありますが,実際,数式では表しようがないですね.