▼ 「はああ…… 天元術かあ……」
「ごらん律,これが算額だ.自分で考えた問題を額にして神社に奉納するんだよ.父さんの算額はこれだ.答えが書いてないのは『遺題』といってね,『誰か解ける人はいるかい?』って訪ねているんだよ」
「じゃあ,あたしが解く!」
「うん,そうしたらおまえの答えを算額にしてこの隣に掲げなさい.」
江戸時代の数学を和算といいます.天元術とは一言でいうと方程式で問題を解く方法です.これまでに解いた算額の問題は三平方の定理を用いて円の半径などを求める問題が多かったので,この「父さんの算額」の問題も同じように解けると思ったらこれはかなりの難問でした.
他サイトで類題があり,①デカルトの円定理を使った解答と②反転法を使った解答が見つかったのですが,ここではピタゴラスの定理を使って解く方法を考えてみました.
$C_{n-1}C_n$を斜辺とする直角三角形で三平方の定理より$$(a_{n-1}-a_n)^2+(b_{n-1}-b_n)^2=(r_{n-1}+r_n)^2\tag{1-n}$$ $OC_n$を斜辺とする直角三角形で三平方の定理より$$a_n^2+b_n^2=(6-r_n)^2\tag{2}$$ $CC_n$を斜辺とする直角三角形で三平方の定理より$$(a_n-3)^2+b_n^2=(3+r_n)^2\tag{3}$$ 以上の式を使って$r_n$をいくつか求めます
■まず$r_1$を求めましょう.この場だけ円$C_1$の中心$(a_1, b_1)=(a,b)$,半径$r_1=r$として計算します.式(1-n)でn=1とすると$$(-3-a)^2+(0-b)^2=(3+r)^2\tag{1-1}$$ 式(2)より$$a^2+b^2=(6-r)^2\tag{2}$$ 式(3)より$$(a-3)^2+b^2=(3+r)^2\tag{3}$$ まず(2)(3)から$a$と$b$を$r$で表すと$$a=6-3r,\quad b^2=24r-8r^2\tag{4}$$ (4)を式(1-1)に代入して$r$についての方程式を解くと$r=2$.これを(4)に代入して$(a, b)=(0, 4)$.すなわち,円$C_1$の半径と中心は次式になります.$$r_1=2,\quad (a_1, b_1)=(0, 4)$$ ■次に$r_2$を求めましょう.計算を簡単にするためにまた同じ文字を使います.この場だけ円$C_2$の中心$(a_2, b_2)=(a,b)$,半径$r_2=r$として計算します.式(1-n)でn=2とすると$$(0-a)^2+(4-b)^2=(2+r)^2\tag{1-2}$$ 同様に(4)を(1-2)に代入して$r$についての方程式を解くと$r=1, r=3$となりますが,$r$は$2$より小さいので$r=1$.式(1-2)が$r_2$の前後の$r$を求められる式になっているので,もうひとつの解である$3$は$r_0$の値になっています.$r=1$を(4)に代入して$(a, b)=(3, 4)$.すなわち,円$C_2$の半径と中心は次式になります.$$r_2=1,\quad (a_2, b_2)=(3, 4)$$ ■次に$r_3$を求めましょう.計算を簡単にするためにまた同じ文字を使います.この場だけ円$C_3$の中心$(a_3, b_3)=(a,b)$,半径$r_3=r$として計算します.式(1-n)でn=3とすると$$(3-a)^2+(4-b)^2=(1+r)^2\tag{1-3}$$ 同様に(4)を(1-3)に代入して$r$についての方程式を解きましょう.
$(3r-3)^2+(4-\sqrt{24r-8r^2})^2=(r+2)^2$
$9r^2-18r+9+16-8\sqrt{24r-8r^2}+24r-8r^2=r^2+2r+1$
$4r+24=8\sqrt{24r-8r^2}$
$9r^2-18r+9+16-8\sqrt{24r-8r^2}+24r-8r^2=r^2+2r+1$
$4r+24=8\sqrt{24r-8r^2}$
$r+6=2\sqrt{24r-8r^2}$
$r^2+12r+36=4(24r-8r^2)$
$33r^2-84r+36=0$
$33r^2-84r+36=0$
$11r^2-28r+12=0$
$(11r-6)(r-2)=0$
$r=\frac{6}{11}, r=2$
となりますが,$r$は$1$より小さいので$r=\frac{6}{11}$.$r=\frac{6}{11}$を(4)に代入して$(a, b)=\left(\frac{48}{11}, \frac{36}{11}\right)$.すなわち,円$C_3$の半径と中心は次式になります.$$r_3=\frac{6}{11},\quad (a_3, b_3)=\left(\frac{48}{11}, \frac{36}{11}\right)$$ ■次に$r_4$を求めましょう.計算を簡単にするためにまた同じ文字を使います.この場だけ円$C_4$の中心$(a_4, b_4)=(a,b)$,半径$r_4=r$として計算します.式(1-n)でn=4とすると$$\left(\frac{48}{11}-a\right)^2+\left(\frac{36}{11}-b\right)^2=\left(\frac{6}{11}+r\right)^2\tag{1-4}$$ 同様に(4)を(1-4)に代入して$r$についての方程式を解くと(計算略)$r=\frac{1}{3}, r=1$となりますが,$r$は$\frac{6}{11}$より小さいので$r=\frac{1}{3}$.すなわち,円$C_4$の半径は$r_4=\frac{1}{3}$になります.ここで求めた$r_n$を並べてみると,$2, 1, \frac{6}{11}, \frac{1}{3}, \cdot\cdot\cdot$
分子を6にすると,$\frac{6}{3}, \frac{6}{6}, \frac{6}{11}, \frac{6}{18}, \cdot\cdot\cdot$
分母は,$3, 6, 11, 18, \cdot\cdot\cdot$
この階差数列は,$3, 5, 7, \cdot\cdot\cdot$となり,その第k項は2k+1と推測できるので,分母の第n項は$$3+\sum_{k=1}^{n-1}(2k+1)=n^2+2$$ 従って円$C_n$の半径は次式になると推測できます.$$r_n=\frac{6}{n^2+2}\tag{5}$$ あとは数学的帰納法で$$r_{n+1}=\frac{6}{(n+1)^2+2}\tag{6}$$が成り立つことを示せばOKです.式(4)の添え字をnにして式(1-n)に代入して整理すると次式を得ます.$$12(r_{n+1}-r_n)^2+3r_n^2r_{n+1}^2-4r_nr_{n+1}(r_n+r_{n+1})=0$$ これに(5)を代入して整理すると(6)を得られて終了なのですが,この計算は大変なので,WolframAlphaにしてもらいました.($x=r_n, y=r_{n+1}$として計算しています)
これで式(5)が正しいことが分かったので,これを(2)と(3)に代入すると円$C_n$の中心の座標は次式になります.$$(a_n, b_n)=\left(\frac{6(n^2-1)}{n^2+2},\quad \frac{12n}{n^2+2}\right)\tag{7}$$
上図の半径3の円CとC0と半径6の大円Oとで囲まれる部分をArbelos(アルベロス)と呼ぶことが分かりました.古代ギリシアで使われていたといわれる「靴屋のナイフ(Arbelos)」がこの形と似ているのでこういう名前になったそうです.
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