算数
2つの章が本の前半と後半で上下さかさまに印刷されていて,読む順番は読者の自由.その選択で結末が異なるという変わった作品です.その2つの章は,娘を失う医師の田釜雪夫 (たがまゆきお) の物語と,姉を失う高校生の小峰夕歌 (こみねゆうか) の物語です.夕歌の先輩である堀口の幼少期が語られる場面です.
堀口先輩はでたらめな世話をされながら、やがて六歳になった。
最初の記憶は、一人きりのアパートで、ある場所からある場所まで歩いて何歩あるかをかぞえていたことだったという。
――数のかぞえ方は教えてもらってたから、そればっかやってた。お母さんが昼過ぎに出かけて、夜遅くに帰ってくるまでずっと。
たたみの部屋の奥にある窓から、部屋の入り口までが九歩。そこから台所の流し台までが六歩。年中ずっと出しっぱなしになっていた薄緑色の扇風機があり、そこから左右の壁まで、それぞれ四歩と八歩。
――扇風機はお母さんがときどき場所を動かすから、三歩と九歩になったり、五歩と七歩になったりして面白かった。俺、いつもこう、指を折りながら歩数をかぞえてたんだけど、あるときすごいことに気づいてさ。扇風機がどこにあっても、そこから右の壁までと左の壁までが、合わせて必ず十二歩になるんだよ。
――算数じゃないですか。
――そう、誰にも教わってないのに。
畳の部屋の奥の窓から台所との境界まで9歩,そこから流し台までが6歩,畳の部屋の左右の壁の間が12歩なので間取りはこんな感じでしょうか.
畳の部屋が6畳だとすると,1枚の畳の長短の長さの比は2:1で,長い方は種類によって170〜200cmぐらいですから,左右の壁の間 (畳の長辺2枚分) を12歩で歩くとすれば,1歩は約30cm前後になります.
部屋の幅は変わらないので,4+8=3+9=5+7 がすべて12になるのは当たり前なのですが,6歳にして誰にも教わらずにこの「すごいこと」に気付き,「面白かった」 というのですから感心しますね.
さて,数学で 「畳の敷き詰め問題」 というのがあります.与えられた大きさの部屋に畳を敷き詰める方法やその可否について考えるもので,中高大の入試にときどき出題されています.
最も簡単な例を見てみます.下図の一番上の行のように,畳を1枚縦向きにおいて,その右に畳を (n-1) 枚加えて畳 n 枚分の面積を持つ長方形の部屋ができたとします.畳を横向きに敷いても良いとすると,畳の敷き方 $f(n)$ は何通りあるでしょうか.
$f(1)=1$,$f(2)=2$なのでこの式になりましたが,この漸化式をみたすフィボナッチ数列の一般的な初期値は$f(0)=0$,$f(1)=1$ なので,その第n項は,$$f(n)=\frac{1}{\sqrt{5}}\left\{ \left(\frac{1+\sqrt{5}}{2}\right)^n-\left(\frac{1-\sqrt{5}}{2}\right)^n \right\}$$となります.この式はビネの公式と呼ばれています.
この例は,畳の短辺を1とした場合の,2×n の大きさの部屋でしたが,この大きさや形を変えるといくらでも問題ができそうです.過去の大学入学共通テストに挑戦してみてください.
[参考]
なかけんの数学ノート
https://math.nakaken88.com/