2026年7月10日

小説 ノーメイク鑑定士


石田夏穂 2026年 中央公論新社

スカラー ベクトル

4つの話からなる短編集のひとつ 「フットブレイク」 でスカラーとベクトルが登場しました.普段から裸足で過ごす女性社員の 「私」 が,コーヒーブレイクならぬフットブレイク (という休憩) で,パイプ椅子を使った足裏マッサージにハマっているという話です.青竹踏みも足つぼマットも足裏マッサージ店も気に入らず,自分でマッサージするのが最も良いと納得するところです.

 どうやら私は痛点が主体的に動かないと満足できないようだ。健康サンダルにまるで感動しなかったのも、要はイボが動かないからだ。
 静的な痛点はいらない、動的な痛点が欲しい。押すのではなく流す、スカラーではなくベクトル世には足裏マッサージの店もあるが、それは利用しようとは思わなかった。私は昔から人に身体を触られるのが苦手で、無性に落ち着かなくなる。学生のころの組体操やムカデ競争も苦手だった。
 そんな私にはセルフマッサージがお似合いのようだ.

スカラーは,向きを持たない数量 (数値) ,すなわち単なる数のことですが,考察する世界 (ベクトル空間) によっては実数であったり複素数であったりします.ベクトルは,速度や力のように向きと大きさで定まる量のことをいい,直感的には矢印で表されます.スカラーやベクトルの一般的な概念はテンソルといい,スカラーは0階テンソル,ベクトルは1階テンソル,行列は2階テンソルになります.

上の引用文からわかることを整理してみましょう.

静的な痛点=押す=スカラー

動的な痛点=流す=ベクトル

押すことは動かずに決まった方向に力を加えるだけだから静的で,流すことは流体中をある方向に移動させることだから動的だといっているのでしょう.また,言葉の持つイメージとして,スカラーはある数値なので静的,ベクトルは速度や力のような矢印なので動的だということなのでしょう.

さてベクトルの演算には,①ベクトル同士の加減,②スカラーとベクトルの積 (ベクトルのスカラー倍) ,③ベクトル同士の積 (内積と外積) があります.このうち,内積はベクトル・ベクトル=スカラーになりますが (高校数学教科書参照),外積はベクトル×ベクトル=ベクトルになります.$\vec{a}$と$\vec{b}$の外積 $\vec{a}×\vec{b}$ は,その大きさが $|\vec{a}×\vec{b}|=|\vec{a}||\vec{b}|\sin\theta$ で,$\vec{a}$が$\vec{b}$に向かって近づく回転で右ネジが進む方向を持つベクトルになります.

KIT数学ナビゲーションより

外積は3次元で定義されますが,2次元で利用される疑似外積というのがあります.2つのベクトル $\vec{a} = (a_1, a_2)$ と $\vec{b} = (b_1, b_2)$ に対し,$a_1 b_2 - a_2 b_1$ を疑似外積といい,この絶対値が2つのベクトルが作る平行四辺形の面積になるので,これを使うと3点を結ぶ三角形の面積が簡単に求められることが受験生にはよく知られています.

[参考]

KIT数学ナビゲーション
https://w3e.kanazawa-it.ac.jp/math/

[ベクトル]プログラミングでよー使うベクトル
https://note.com/alchan/n/n740dfc548638#7bb1b8ee-a905-40b9-84fe-35d27e9c53c9

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