
「現在の警察のDNA鑑定で、別人のDNAが一致する確率を知っているか?」「いえ」「四兆七千億分の一だ」 (P149)
「島田の所持していた下着は、四兆七千億分の一の確率で被害者のものだ。これは絶対に変わらない」 (P245)
小説,映画,ドラマ,漫画,アニメなどの物語の中に数学の話題が登場したとき,その内容・背景をさらに詳しく知ることができればもっと楽しむことができます.そんな場面に出会ったとき,ここに詳しい解説や関連する話題等を書き留めています.(数式にTexのコマンドが使えるMathjaxを利用しています)
「現在の警察のDNA鑑定で、別人のDNAが一致する確率を知っているか?」「いえ」「四兆七千億分の一だ」 (P149)
「島田の所持していた下着は、四兆七千億分の一の確率で被害者のものだ。これは絶対に変わらない」 (P245)
方位角
大学で地球惑星科学を専攻していた著者による科学の知識を織り交ぜた5つの短編集で、どれも異なる地方が舞台になっています.タイトルは,夢化けの島(山口県見島),狼犬ダイアリー(奈良県東吉野村),祈りの破片(長崎県長与町),星隕つ駅逓(北海道遠軽町),藍を継ぐ海(徳島県姫ヶ浦).さすが直木賞受賞作品だけあって,どれも心温まる素敵な物語でした.
「祈りの破片」
地図には収集地点と思われる場所に番号が振ってある。そして右のページには、各地点で収集された物品の詳細が、 細かな字でびっしりと記載されていた。 <地点1-①民家ノ庭石(安山岩)、一部熔融。②玉砂利(黒色頁岩?)、表面ガラス化シ、緑色ヲ帯ビル。③ 石垣ニ熱線ノ影アリ、方向N15°W。 (単行本P127~128)
近所から苦情の出た空き家で見つかった多量の岩石やガラス製品の謎を追う若い公務員が主役の話です.最後に「N15°W」という表現がありますが,これは四分円方位角(quadrant bearing)といいます.方位角でよく使われるのは次の2つです.日本では数学ではなく地学または地理で習うと思いますが,海外では数学のテキストに登場しています.
図を見ると分かりますが,①北方位角(North azimuth)は北を基準として時計回りに回転した角度で表し,②四分円方位角は北(N)または南(S)を基準として東(E)または西(W)に回転した角度で表します.従って,ここに登場した「N15°W」は次の方向を表しています.
世界で最も多くの国で採用されている国際バカロレア(IB)数学の練習問題からこの表現を使った問題を紹介しますので解いてみてください.
[Question] Radio direction finders are set up at two points A and B, which are 2.5 miles apart on an east-west line. From A, it is found that the bearing of a signal from a radio transmitter is N36.3°E, while from B the bearing of the same signal is N53.7°W. Find the distance of the transmitter from B.
[問題] 東西方向に2.5マイル離れた2地点AとBに無線方向探知機が設置されている.A地点からは無線送信機からの信号の方位がN36.3°Eであり,B地点からは同信号の方位がN53.7°Wとわかった.B地点から送信機までの距離を求めよ.(正解は文末)
[参考]
方位
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B9%E4%BD%8D
因数分解
漫画「アンパンマン」の作者やなせたかしと、妻の暢(のぶ)夫婦をモデルにしたドラマです.たかしが受験した東京高等藝術學校の入試で次の問題が出題されていました.
(1) 以下ノ數式ヲ因數分解セヨ.$4x^3+4y^3+4z^3-12xyz$
日本SF作家クラブ編 2024年 早川書房
Rose Malade, Perle Malade
新城カズマ
中国前漢の時代(紀元前200頃),淮南(わいなん)王の劉安(りゅうあん)による思想書「淮南子(えなんじ)」編纂の物語です.
(賢者のひとりである) 左呉の答えて曰く、幼き日に親しくしたる商人より聞き及ぶに身毒と波斯の更に西、埃及(えじぷと)なる大国あり。その地には夏至の日に陽光がその底まで達するという珍しき井戸あり、 一方その井戸より正確に真北にあたる井戸を同日正午に測れば日差しは僅かに傾くあるを見出したり。即ち我らも南北二つの井戸を観察せば、陽の角度を以て大地の丸みと大きさを算出し得んと。
(中略) 「うむ 、一理あるな」 と劉安も応えて早速必要な観察の手配をした。
ほどなく結果がもたらされた。夏至の正午に陽光が真っ直ぐ底まで届く井戸が南越国に見出され、その真北に当たる井戸に射す陽の傾き具合が一千里先まで調べられた。賢者たちは算棒と算珠をあやつり、天下の大きさを求めた。天下は球体でありその半径がおよそ一万五千九百四十五里、後に謂う六千三百七十八キロメートルであると知れた。劉安は大きくうなずいた。(P17)
左呉が「商人より聞き及」んだのは,古代エジプトの学者エラトステネスが,シエネという街で夏至の日に太陽光が井戸の底まで届くことを知り,アレキサンドリアで夏至の太陽南中時に鉛直に立てた棒とその影が作る角度を測って,2点間の距離から地球の周長を計算したという話のことです.
エラトステネスは,約900km離れた2点で計測した角度7.2°が360°の1/50であることから,周長を約900km×50 ≒45000kmと算出しています.下に述べる地球の公称半径から計算すると,その周長は約40000kmなので,当時としてはかなり正確だったといえます.
この小説での値を見てみましょう.国際天文学連合(IAU)による地球の公称赤道半径は6378km,極半径は6357kmなので,地球の半径が「6378kmであると知れた」というのは,いくらフィクションとはいえこの時代にしては正確すぎますね.地球の半径の実質的な最初の測定値は10世紀アラビアの天文学者ビールーニーの6340kmで,その後さらに精度が上がって現在の値になっています.
[参考]
エラトステネスが棒1本で地球の全周を求めた方法
https://spreading-earth-science.com/how-to-find-the-size-of-the-earth/
複素力学系 フラクタル カオス
京都の大学の理学部に入学した田辺朔(たなべさく)が,いくつかのサークルが集まる旧文学部棟の地下で営業している学内バーのマスターを引き継ぐことになり,そこでいろいろな人と出会って成長していく学生生活を描いた話です.
僕が読んでいたのは複素力学系、とくにフラクタル幾何学と呼ばれる分野のものだった。ある時間の状態が、前の時間の状態からシンプルなルールに沿って決まる。では、そのルールを何度も反復させると、やがてどんな状態に辿り着くのか。その疑問が出発点の学問だった。
結果は多様で、まるで予測できない結果(=カオス)を生むことも、結果が同じ構造を繰り返す(=フラクタル)こともあった。 同じ構造を何度も繰り返す。再帰的。その振る舞いはどこか奇妙で、僕はそこに興味を向け続けることができた。理解するためには他の知識も必要だったから、僕には自然とやるべきことが増えた。
複素力学系とは何でしょう.上の文中の 「ある時間の状態が、前の時間の状態からシンプルなルールに沿って決まる」 というのは 「数列の漸化式 $x_{n+1}=f(x_n)$ または関数 $y=f(x)$ に値を代入して次の値が決まる」 ことを意味し,そのルールで変化していく物事を数式を使ってモデル化する数学の分野を力学系といい,その対象が複素数なら複素力学系となります.
複素力学系では 「そのルールを何度も反復させると、やがてどんな状態に辿り着くのか」 を複素平面上で調べます.ある複素数 $z_0$(初期値)を関数 $w=f(z)$ に代入し,得られた値をまた同式に代入して次の値を得るということを繰り返していくと,初期値 $z_0$ や $f(z)$ の違いによって,ある値に近づいていったり (収束),無限に遠くへ離れていったり (発散),「同じ構造を繰り返す (フラクタル)」 や,「まるで予測できない結果( カオス)」 の状態になったりすることがあります.
その例として有名なものが $f(z)=z^2+C$ という関数です.これで繰り返し得られた (発散しない) 値を複素平面上で点をとっていくと,フラクタル図形で有名なマンデルブロ集合($z_0=0$ と固定したときの $C$ の集合)や,ジュリア集合($C$ を固定したときの $z_0$ の集合)になります.
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マンデルブロ集合(左)と $C=-0.5+0.6i$ のときのジュリア集合(右) WolframAlphaで作成 |
[参考]
カオスとフラクタル
山口昌哉著 1986年 ブルーバックス
複素力学系入門
https://azisava.sakura.ne.jp/math/complex_dynamics.html
死亡推定時刻
主人公の救急医武田航(わたる)に瓜二つの身元不明の遺体が運び込まれたため,その死因や自分との関係を旧友で医師の城崎響介と一緒に調査をしていくという話.鍵を握る人物に会おうとした矢先,相手が密室内で死体となって発見された場面です.
(鑑識の)宗形が「直腸温を測りましょうか」と言いながら温度計をカバンから取り出した。
宗形「34.8度ですね。大体の予想とも合致してると思います」
武田「つまり、どういうことや」
城崎「直腸温を用いた死亡推定時刻の推定、っていうのは直腸温が元の37度から、1時間に0.8度下がるだろう、っていう理論がもとになっているんだ。国試でもやったでしょ」
武田「とすると、大体3時間前…………12時半頃やな」
城崎「前後にしっかり幅を持たせて、死亡推定時刻は11時半から午後1時半の間、というところでどうでしょうか?」
宗形「おっしゃる通りです」
この計算では「1時間に0.8度下がるだろう、っていう理論」なので,体温は死後経過時間$t$の一次関数 $T=37-0.8t$ になっています.すると $T=34.8$ のとき $t=2.75$ になるので「大体3時間前」と予想しているわけです.
これがニュートンの冷却法則に従うなら,死後の体温$T$は室温との差に比例して室温に近づいていきます.この場合,死後経過時間を$t$とし,その時の体温を$T$,室温を25°と仮定し,比例定数を$k$とすると,次の微分方程式が成り立ちます.$$\frac{dT}{dt}=k(T-25)$$変数分離してこれを解くと$$\int\frac{1}{T-25}dT=k \int dt$$$$\ln (T-25)=k t +C_1$$$$T-25=e^{C_1}e^{k t}$$$$T=25+Ce^{k t}\tag{1}$$ここで $t=0$ のとき$T=37$ ですから,$37=25+C$より $C=12$ になり,最初の5時間で0.8×5=4度下がるとすれば,$t=5$ のとき,$T=37-4=33$ となるので,$$33=25+12e^{5k}$$$$e^{5k}=\frac{2}{3}$$$$k=\frac{\ln \left( \frac {2}{3} \right)}{5}=-0.081......$$よって式(1)はこうなります.$$T=25+12e^{-0.081t}$$このグラフは$T$が減少していく指数関数となり,下の赤いグラフになります. 青色のグラフは一次関数 $T=37-0.8t$ です.34.8°のとき,点Aは(2.50, 34.8),点Bは(2.75, 34.8)なので,誤差はまだ小さいですが,時間がたつに連れて大きくなるので,現実的ではありませんね.
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「法医学」若杉長英著より |
死亡直後では体内の熱産生が未だ完全に停止していないためその低下は緩徐であるが,次第に急激となり,外界温度に近づくに従って,再び緩徐となり,直腸内温度の下降曲線は逆S字状を呈する.(「法医学」P13)
極方程式 媒介変数表示
小学5年生の関口ハジメが天才的な数学の才能を持つことを,老数学者の内田豊に見いだされ,成長していくという話です.数学検定を受けたときにハジメから借りたコンパスをわざわざ家まで返しに来た剛田ハチへのお礼に,キーホルダーと同じ形のグラフを表す式をプレゼントする場面です.
ハジメ「これやってみて」
ハチ 「? グラフ問題 ……」
「あ これ… 私のキーホルダーの…… すごい…」
ハジメ「コンパス持ってきてくれたお礼!」
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y=sin4x |
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r=sin4θ |
第4話 2025/02/09放送
数列
今回の数学の授業の場面では,問題も解答も板書にありました.間違いではないのですが,(2)の1行目の $\log_2 (a_k)$ には( )がついていて,2行目の $\log_2a_n$ には( )がついていません.この場合,( )はなくていいですね.
小問(1)(2)(3)とだんだん難易度が上がるのがよくあるパターンなのですが,(1)(2)に比べて(3)が少し易しいように感じました.毎回単元が変わるので,入試問題の演習をしているという設定なのでしょう.
2025/02/18追記
第5話 2025/02/16放送
72の法則
高校生ビジネスプロジェクトコンクールでの生徒たちのプレゼンの中に,72の法則が登場しました.
「これにかかる年月はなんと576年.定期預金で実直に暮らしていく道も,72の法則によって,こうして絶たれたのです」
正確には複利計算になるので,年利率r(%)でn(年)預けて元金A(円)が2倍の2A(円)になったとして次の方程式を解きます($\ln$は自然対数$\log_e$を意味します).
$$\begin{eqnarray}
2A&=&A\left(1+\frac{r}{100}\right)^n\\
\ln2&=&n\ln\left(1+\frac{r}{100}\right)\\
n&=&\frac{\ln2}{\ln\left(1+\frac{r}{100}\right)}\\
\end{eqnarray}$$
これにr=0.125を代入すると,n=554.864......となり,実際は約555年かかるということが分かります.なので,72の法則によってだいたいの年数は出せますが,正確な値を求めるためにはこの方程式を解くことになります.
因みに,このような倍加時間(または倍増時間)を英語で doubling time というのに対し,半減期は half life といいます.Half time という場合もありますが,スポーツの試合の前後半の間の意味で使うことが多いので,ちょっと紛らわしいですね.
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TBS |
三角関数 ベクトル
文科省官僚の御上孝(みかみたかし)が,官僚派遣制度という左遷人事によって私立の進学校へ出向になりますが,現場から声をあげて権力に立ち向かい,内部から変革していこうとする話です.
授業で数学の問題を説明する場面ですが,板書の解答に少しミスがありました.
<大問4> a,bを実数とし,少なくともaとbのいずれか一方は0でないとする.θが0≦θ<πの範囲を動くとき, $((a\cosθ+b\sinθ)\cosθ-2a)^2+((a\cosθ+b\sinθ)\sinθ-2b)^2$の最小値を求めよ.
御上孝 「これ,最小値を求めよってなってるから,三角関数を使った方程式として解こうとする人が多い.(上の解答を映して)でもこれ,実は図形の問題なんだよね.図で描いてみればすぐに答えが出る.(下の別解を板書して)こう考えたとき,ひとつの図形が見えてくる.つまり最小になるのは,点Pと点Aが一致した時だと分かる.そこまで分かればこうやって簡単に解ける.ここで大切なのは,代数と幾何,つまり関数と図形という2つのジャンルが数学にある,という謎の思い込みを捨てることなんだよね.そうしないと解ける問題も逃してしまう.交互に学んでいくのは,関連し合っているからなんだ.という視点を忘れないように」
「与式はP((acosθ+bsinθ)cosθ, (acosθ+bsinθ)sinθ)とQ(2a,2b)の距離とみることができる」とありますが,正確には「距離の2乗」ですね.また,図に点Qと点Rの記載がありませんが,Rは単位円周上の点(cosθ, sinθ)なのでしょう.
点Pがどこにあるのか知るために,$\overrightarrow{OP}$を次式で表していますが,板書では3行目の最後に$\overrightarrow{OR}$が抜けています.∠AORを$\alpha$としましょう.$$\begin{eqnarray}\overrightarrow{OP}&=&((a\cosθ+b\sinθ)\cosθ, (a\cosθ+b\sinθ)\sinθ)\\&=&(a\cosθ+b\sinθ)
\left( \begin{array}{c}
\cosθ \\
\sinθ \\
\end{array}
\right) \\&=&
\left(\overrightarrow{OA} \cdot \overrightarrow{OR}\right) \ \overrightarrow{OR} \\&=& \left(\vert\overrightarrow{OA}\vert\cos\alpha \right)\overrightarrow{OR}
\end{eqnarray}$$
というわけで,この問題を図形の問題として捉えるのは,点Pがどこにあるかが理解できないと難しいですね.主演の松坂桃李が「代数と幾何,つまり関数と図形」と言ったとき,思わず「中トロ寄りの大トロ,大トロ寄りの中トロ」というCMを思い出してしまいました(笑).
2025/02/09追記
たまたまYouTubeで監修者の動画を見つけました.第1話の板書で「距離の2乗」が「距離」になっていたのは監修者のミス,$\overrightarrow{OR}$ が抜けていたのは撮影現場の転記ミスだったようです.
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監修者の解答 |
2025/01/27追記
第2話 2025年1月26日放送
微分積分学の基本定理
第1話に続いて第2話でも授業場面に,数学の問題の解説と解答が登場しました.問題は,「演習109 (3) この方程式を満たす定数Cの値を求めよ」 だと思われます.残念ながら,ここにもひとつミスがありました.1行目の 「$+C$」 の前に 「$dt$」 が抜けています.
決して粗探しをしているわけではないのですが,数式を見ると正しいかどうか確認したくなるんですよね.宮島未奈の小説「成瀬は天下を取りにいく」主人公の成瀬あかりが「大きい数を見ると素因数分解したくなるんだ」 と言っていたのと同じような感じですね(笑)
気になったので,第1話の後半に少しだけ出てきた,小島よしおが講師役の授業の板書を見てみたら,またひとつミスを見つけてしまいました.軌跡は 「図の実線部分」 で正しいのですが,$y=x^2$のグラフは定義域が -1≦x≦1 なので値域は 0≦y≦1 でないといけませんね.
たぶん,監修の人がいるはずなので,数式を提供した人が撮影のときに実際に映る数式を再度確認してほしいですね.こんな視聴者もいるのですから…(笑)
2025/02/07追記
第3話 2025年2月2日放送
微分
今回も映った板書に問題がなく,解答のみでした.
問題を推測すると,次のようになるのではないかと思います.
[問題] $a>0$とする.$f(x)=x^3-3a^2x$ について
(1) $y=f(x)$がx≧1で単調増加となる条件を求めよ.
(2) 次の2つの条件を満たすとき,a, bのとりうる値の範囲を求めよ.
<条件1> $f(x)=b$ が異なる3つの実数解を持つ
<条件2> その解を小さい方からα,β,γとするとき,1<βとなる
板書の(2)の後半は,かなり説明不足ですね.(2)の分かり易い解答を試みてみます.
[(2)の解答]<条件1>
$-2a^3<b<2a^3$ …① であればよい
<条件2>
$1<β$ となるには
$b<f(1)$ つまり $b<1-3a^2$ …②
ところで $-a<\beta<a$ であることから $1<β$ となるには $1<a$ …③ でなければいけないので
$-a<1<a$
$f(a)<f(1)<f(-a)$
$-2a^3<1-3a^2<2a^3$ …④
求める範囲は ③ かつ 「④のときの①②の共通部分」より
$1<a$ かつ $-2a^3<b<1-3a^2$
ドラマにはありませんでしたが,御上先生がこの問題を解説するならどのようにするのか気になるところです.
哲郎は軽く額に指を当てた。「どんなに意志が強い人でも、幾何学平面上の三角形の内角の和を、200度にすることはできない」突拍子もない話に龍之介は目を丸くする。(P216)
「正多面体といえば無限に存在するように思えるが、実際には四面体、六面体、八面体、十二面体、二十面体の五つしかない。これ以上には存在しないことも証明されている。探偵業も同じだ。際限なく可能性があると考えられる場合でも、きっと絞り込める」 (P26)
正多面体が5つしかないことの証明は,漫画「はじめアルゴリズム」で紹介しましたのでそちらを読んでください.もうひとつ,玲奈が悪徳「藪沼探偵事務所」のペテンを暴く場面です.
「別れさせ屋を謳ってるけど業務の実態はない。工作員なんてひとりもいない。依頼を受けて二、三ヵ月後に工作完了の連絡を寄こし、 請求書を送りつけるだけ。どうせカップルが別れるかどうかなんて五分五分だし」 「あいにくだな。いまお客さんにも説明してたとこだ。うちは依頼料の十万円に対し、工作が不成功に終わったら十五万円をかえす契約でね。 健全そのものなんだ」 (P216) 玲奈は女性客に目を向けた。「お名前は?」女性客がびくつきながら応じた。「希美」「希美さん。男女がほっといても自然に別れる確率は二分の一。あなたのほか、別の人からも藪沼に依頼があったとして、 両方のカップルとも別れる確率は四分の一。藪沼は二十万の儲けになる。どちらか一方だけでも別れれば、 藪沼は五万円の儲け。損をするのは両方別れなかった場合のみ、 十万のマイナスになるけど、確率は四分の一。藪沼は二分の一どころじゃなく、 四分の三の確率で利益を出してる。なにもせずに」 (P217)
利息 年利
元私立探偵の成瀬将虎が,悪質な霊感商法業者の保険金詐欺について調査を依頼され奮闘する話です.高額な布団や健康食品を売りつける悪徳商法に騙された節子の借金が膨大になっていく様子を語る場面です.
トイチとは、融資の条件が十日で一割の利息ということである。百万円を借りると、十日後に返済するにしても百十万円。年利に換算すると三〇〇パーセント超。法定金利の上限は約四〇パーセントである。
このような超高利貸しを利用すれば結果は目に見えている。利子さえ払えず、借金はみるみる膨らみ、ますます返済が難しくなる。すると、別の金融業者から金を借りてくることで、最初の金融業者への借金を見かけ上返済するよう強要される。この新しい金融業者が輪をかけての悪徳で、トイチならぬ、トニ、トサンで貸し付ける。十日で二割、三割の利息を取るのだ。節子が一千万単位の借金を背負うのにそう時間はかからなかった。
トイチを「年利に換算すると三〇〇パーセント超」とありますが,10日で1割の利息なので365日なら,
●単利の場合,年利は0.1×36.5=3.65=365%
●10日ごとの複利の場合,1.1倍の36.5乗は32.42倍になって年利は31.42=3142%
なので,ここでは単利の方の年利のことを言っていると思われます.
金利の上限は法律で決まっていて,元金が10万円未満の場合,2000(H12)年までは40%,それから2010(H22)年までは29%,それ以降は20%になっています.ここでは「約四〇パーセントである」とありますが,この小説の初版発行が2003年なので,執筆中はまだ2000年までの情報(40%)だったのではないかと思われます.どちらにしろ,トイチの金利は法定上限金利を大幅に上回っていますから,公序良俗違反として無効になるそうです.
法律上,借金の元利合計が期日までに返済できないと,遅延損害金も追加されます.その計算式は次式になりますが,
(返済期日の元利合計)×(遅延損害金の利率)×(遅れた日数)÷ 365日
法定上限金利を守らないような悪徳金融業者が,法を守れといって遅延損害金まで請求するなんてことはしないと思われます.
ではその前提で「節子が一千万単位の借金を背負う」のにかかった時間を推測してみましょう.仮に100万円借りたとします.単利のトイチで1年後返済の契約で借りると,
100万×3.65=365万
「最初の金融業者への借金を見かけ上返済する」 ため,「輪をかけて悪徳な新しい金融業者」からトニで365万円を1年借りると
365万×3.65×2=2664.5万
1000万を超えるのはこの間なので,期間4か月と5か月を計算すれば,
365万×3.65×2×4/12≒888万
365万×3.65×2×5/12≒1110万
となりますから,1年半立たずして100万円の借金が1000万円を超えるということになります.
これをもし10日ごとの複利で計算したら,
1.1倍の24乗で約9.8倍
1.1倍の25乗で約10.8倍
つまり1年目の250日までに10倍の1000万円を超えてしまいます.恐ろしいですね.
単利(青)と複利(緑)増え方の違い |
[参考]