2024年5月30日

小説 君のクイズ

小川 哲 2022年 朝日新聞出版

階差数列

生放送のクイズ番組の決勝戦に出たクイズプレーヤーの三島玲央が,まだ一言も問題が読まれていないのに正解を答えて優勝した対戦相手に対して不正を疑い,真相を解明しようとする話です.

 僕は早押しクイズは数列と似ていると思っている。
 1、2、4……と聞こえた時点で、僕は数列のルールがわかったと思ってボタンを押す。「この数列において10番目に来る数は何か」と問われているが、ボタンを押した時点で答えがわかっているわけではない。1、2、4の次は8だろう。この数列は、前の数を2倍にしていくものなのだ ($a_n=2^{n-1}$)と考えて、10番目に何が来るのかを急いで計算する。
 実際に、それが正解ということもあるが、間違っている可能性もある。この数列はまだ確定していないからだ。
 1、2、4の次に7が来る場合も考えられる。1から2は1増えている。2から4 は2増えている。4の次は3増えて、7になるかもしれない($a_n=\frac{n^2}{2}-\frac{n}{2}+1$)。この数列は階差数列かもしれない。

$1, 2, 4, 8, ......$ なら,ここまでは初項1,公比2の等比数列になると推測できます.そうすると一般項(第$n$項)は $2^{n-1}$ ですから,第10項は $2^{10-1}=2^9=512$ と計算できます.

$1, 2, 4, 7, ......$ なら一般項が$\frac{n^2}{2}-\frac{n}{2}+1$になることはすぐには分かりませんね.この数列を $\{a_n\}$ とし,階差数列を$\{d_n\}$とすると,$d_n=1, 2, 3, ......$ すなわち $d_k=k$ なので,$\{a_n\}$ の一般項は次のようになります.\begin{eqnarray}a_n&=&a_1+\displaystyle \sum_{k=1}^{n-1} d_k=1+\displaystyle \sum_{k=1}^{n-1} k&=&1+\frac{1}{2}n(n-1)=\frac{1}{2}\left(n^2-n+2\right)\tag{1}\end{eqnarray}ですから,その第10項は $\frac{1}{2}\left(10^2-10+2\right)=46$ になります.

この数列は「怠けた仕出し屋の数列 (lazy caterer's sequence)」と呼ばれていて,$n=1, 2, 3, 4, ......$ のときに $1, 2, 4, 7, ......$ なら,円を$(n-1)$本の直線で切り分けたときにできる領域の最大数を表しています.(Wikipedia等のよくある説明では,円を$n$本の直線で切り分けるとしているので,$n=0, 1, 2, 3, ......$ のときに $1, 2, 4, 7, ......$ となり,一般項が $\frac{1}{2}\left(n^2+n+2\right)$となっています) (オンライン整数列大辞典A000124)

因みに,$1, 2, 4, 8, ......$ だからといって一般項が $2^{n-1}$ にならない例は他にもあります.

まず1つ目はこの数列です.$$\{b_n\} \quad 1, 2, 4, 8, 15, ...... $$第4項まで $2^{n-1}$ になっていますね.これの階差が $a_n=1, 2, 4, 7, ......$ すなわち「怠けた仕出し屋の数列」=式$(1)$ になっていますから,$\{b_n\}$ の一般項は次のようになります.\begin{eqnarray}b_n&=&b_1+\displaystyle \sum_{k=1}^{n-1}a_k=1+\displaystyle \sum_{k=1}^{n-1} \frac{1}{2}\left(k^2-k+2\right)\\&=&\frac{1}{6}\left( n^3-3n^2+8n\right)\tag{2}\end{eqnarray}この数列は「ケーキ数 (cake number)」と呼ばれていて,$n=1, 2, 3, 4, 5, ......$ のときに $1, 2, 4, 8, 15, ......$ なら,円柱等の凸立体を$(n-1)$枚の平面で切り分けたときにできる領域の最大数を表しています.(Wikipedia等のよくある説明では,立体を$n$枚の平面で切り分けるとしているので,$n=0, 1, 2, 3, 4, ......$ のときに $1, 2, 4, 8, 15, ......$ となり,一般項が $\frac{1}{6}\left(n^3+5n+6\right)$となっています) (オンライン整数列大辞典A000125)

2つ目は次の数列です.$$\{c_n\} \quad 1, 2, 4, 8, 16, 31, ......$$第5項まで $2^{n-1}$ になっていますね.これの階差が $b_n=1, 2, 4, 8, 15, ......$ すなわち「ケーキ数」=式$(2)$ になっていますから,$\{c_n\}$ の一般項は次のようになります.\begin{eqnarray}c_n&=&c_1+\displaystyle \sum_{k=1}^{n-1} b_k=1+\displaystyle \sum_{k=1}^{n-1} \frac{1}{6}\left( k^3-3k^2+8k \right)\\&=&\frac{1}{24}\left( n^4-6n^3+23n^2-18n+24 \right) \tag{3}\end{eqnarray}これは「モーザー数列 (Moser's sequence)」といって,円周上に $n$ 個の点があり, すべての2点を結ぶ弦で円を切り分けたときにできる領域の最大数を表しています.(オンライン整数列大辞典A000127)

従って,$1, 2, 4, ......$ だからといって等比数列にならない例は,計算さえすれば次々とできます.

    $a_n= 1, 2, 4, 7, ......$            第3項まで$2^{n-1}$ 「怠け仕出し屋の数列」=式$(1)$
    $b_n= 1, 2, 4, 8, 15, ......$         第4項まで$2^{n-1}$ 「ケーキ数」=式$(2)$
    $c_n= 1, 2, 4, 8, 16, 31, ......$      第5項まで$2^{n-1}$ 「モーザー数列」=式$(3)$
    $A_n= 1, 2, 4, 8, 16, 32, 63, ......$  第6項まで$2^{n-1}$ 

3つ目,$\{A_n\}$の一般項も計算してみましょう!

これは階差数列が $1, 2, 4, 8, 16, 31, ...... $ すなわち「モーザー数列」=式(3) になっていますから,\begin{eqnarray}A_n&=&A_1+\displaystyle \sum_{k=1}^{n-1} c_k=1+\displaystyle \sum_{k=1}^{n-1} \frac{1}{24}\left( k^4-6k^3+23k^2-18k+24 \right)\\&=&\frac{1}{120}\left( n^5-10n^4+55n^3-110n^2+184n \right)  \end{eqnarray} この計算は大変でした.(オンライン整数列大辞典A006261)

ついでにもう一つ,余裕のある人は計算してみてください.$1, 2, 4, 8, 16, 32, 64, 127, ...... $ の一般項は?
正解はこちらです.

まあ,実際のところ,早押しクイズに使えそうなのは公比2の等比数列だと思いますけどね.

余談ですが,「ストゥリクス・ウラレンスという学名を持ち,『森の番人』のイメージか......」という,主人公とそのライバルが答えられなかった問題で,正解がすぐに分かりました.問題の続きは「......ら,千葉駅前の交番のモチーフにもなっている生き物は何でしょう?」というものでした.(正解はこちら)
 

2024年5月14日

小説 同志少女よ、敵を撃て

 逢坂冬馬 2021年 早川書房

ミル(mil=角度の単位)

第二次世界大戦中の1942年,旧ソ連の小さな村で,当時18歳の少女セラフィマの母親を含む村人全員をドイツ軍が惨殺し,さらに赤軍(ソ連地上軍)が村全体を燃やしたことから,生き残ったセラフィマが狙撃兵になって復讐しようとする話です.

狙撃兵訓練学校での座学の内容です.
 基礎の基礎として、全員が「ミル」という単位を覚える。ミルとは射撃および砲撃の照準に用いられる角度の単位であり、周回360度を6000ミルとして定義する。すなわち正面に対して右に90度 は1500ミルであり、上に45度は750ミルである。
 なぜこんな面倒な単位を用いるかといえば、「1000メートル先にある、幅1メートルのもの」がおおよそ1ミルであるからだ。この単位を用いることは照準に有利となる。
 故にスコープを覗いて、「幅50センチと推定される物体が1ミルの幅に収まっている」という状態があるならば、彼我の距離は500メートルと計算できる。
もともと1ラジアン(rad)の1000分の1を1ミリラジアン(mrad)といい,1周360度=2$\pi$ラジアンは2$\pi$×1000≒6283(ミリラジアン)になります.

ラジアンの定義より,半径1の扇形の弧の長さが1になるときの中心角が1ラジアン(≒57.3度)ですから,半径1000mの扇形の弧の長さが1000mになるときの中心角も1ラジアンです.ということは半径1000mの扇形の弧の長さが1mになるときの中心角は$\frac{1}{1000}$ラジアン=1ミリラジアン(≒0.0573度)になります.

なので「1000メートル先にある、幅1メートルのもの」は1ミリラジアンになるわけですが,計算しやすいように旧ソ連では360度=6000ミル(日本では6400ミル)とし,「1000メートル先にある、幅1メートルのもの」を「おおよそ1ミル」としています.

射撃用の銃のスコープにはミル単位の目盛りがついていますが,ここでは角度というよりは標的の見かけの大きさをミルで測ります.

[例1] 上の例「幅50cm(0.5m)と推定される物体が1ミルの幅に収まっている」(下図の赤い長方形)なら,それは2倍大きく見えているので,距離は1000÷2で500mということになります.      
    
[例2] 高さ1.7mの標的が1ミルに見えたら,距離はその1000倍で1700mですが,4ミルの高さに見えたら(下図の赤い長方形),それは4倍大きく見えているので,距離は1700÷4で425mになります.
つまり,実際の標的の大きさを $a$ m,スコープ内での見かけの大きさを $m$ ミルとすると,次の式で距離 $d$ (m)を計算できます.$$d=\frac{1000a}{m}$$従って,標的の大きさが一定の場合,ミルと距離は反比例することになります.

[参考]
HB-PLAZA

2024年5月9日

ドラマ 霊験お初 ~震える岩〜

宮部みゆき原作 2024年5月放送 テレビ朝日 

算額

霊験(不思議な力)を持つ主人公のお初が連続殺人事件の解決に挑むというミステリー・ホラー時代劇です.算術の好きな与力見習いの右京之介が,お初に算額の問題を見せる場面です.

お初「算額にはどのようなことが書かれているのですか?」
右京之介「お見せしましょうか.右の絵①では外側の大きな円の長さ,左の絵②では内側の2つの小円の径の長さを求めるのです」
お初「ひょうでもって測ったらどうかしら」
右京之介「それを算術で求めるところが学問なのです」
絵①では,外側の大きな円に甲,乙,丙,丁4種類の円が内接しています.

絵①

左右対称なので中心が直径上にある甲,丁の半径が分かればすぐに答えが出てしまいますから,甲,乙,丙または乙,丙,丁の半径が与えられていると推測できます.実際,3つの互いに外接する円があれば,その3円を内接させる大円がひとつ決まるので,乙,丙,丁の半径が与えられていると考えられます.
互いに外接する3円を内接させる大円はデカルトの円定理を使って求めることができます.3円の半径をa, b, cとし,大円の半径をrとすると,この定理で次の方程式が成り立ちます(証明難).$$2\left(\frac{1}{a^2}+\frac{1}{b^2}+\frac{1}{c^2}+\frac{1}{r^2}\right)=\left(\frac{1}{a}+\frac{1}{b}+\frac{1}{c}-\frac{1}{r}\right)^2$$例えば$a=1$,$b=2$,$c=3$のときは,$$2\left(\frac{1}{1^2}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{3^2}+\frac{1}{r^2}\right)=\left(\frac{1}{1}+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}-\frac{1}{r}\right)^2$$これを解くと$r=6$となります.

ところで以前,これの類題を,各円の中心間を斜辺とする直角三角形に三平方の定理を適用して求めましたが,非常に大変な計算になりました.

絵②では,大円1つと小円2つが正三角形に内接し,大円と小円が外接しています.

絵②

問題文を読むことはできませんでしたが,正三角形の1辺と大円の中心の位置または半径が与えられていると思われます.計算をなるべく簡単にするため,正三角形の1辺を12として,底辺の中点が原点になるように置き,大円の中心を(0,  4)とします.小円の中心を(b,  c)とおき,半径cを求めます.

大円の半径DEは,点(0, 4)と直線 $y=-\sqrt{3}x+6\sqrt{3}$ との距離なので,$$DE=\frac{|0+4-6\sqrt{3}|}{\sqrt{1+3}}=3\sqrt{3}-2$$

直角三角形DGIに三平方の定理を当てはめると,$$(4-c)^2+b^2=(3\sqrt{3}-2+c)^2\tag{1}$$小円の半径 $c=IH$は,点(b, c)と直線 $y=-\sqrt{3}x+6\sqrt{3}$ の距離なので,$$c=\frac{|\sqrt{3}b+c-6\sqrt{3}|}{\sqrt{1+3}}\tag{2}$$連立方程式(1)(2)を解けば,cは求められます.複雑な計算を経て最後に次の方程式を解きます.$$3c^2-(18\sqrt{3}+4)c+21+12\sqrt{3}=0$$すると,小円の半径は次の値になります.$$c=\frac{2+9\sqrt{3}-2\sqrt{46}}{3}≒1.3413$$
 
(②の別解)  大円の中心より半径を与える方が計算が楽ではないかと思い,大円の半径を3,その中心を(0,  a),小円の中心を(b,  c)とおいて計算してみました.

大円の半径DEは,点(0, a)と直線 $y=-\sqrt{3}x+6\sqrt{3}$ との距離なので,$$DE=\frac{|0+a-6\sqrt{3}|}{\sqrt{1+3}}=3$$$$a=6\sqrt{3}-6$$直角三角形DGIに三平方の定理を適用すると,$$(6\sqrt{3}-6-c)^2+b^2=(3+c)^2\tag{1}$$小円の半径 $c=IH$は,点(b, c)と直線 $y=-\sqrt{3}x+6\sqrt{3}$ の距離なので,$$c=\frac{|\sqrt{3}b+c-6\sqrt{3}|}{\sqrt{1+3}}\tag{2}$$連立方程式(1)(2)を解けば,cは求められます.複雑な計算を経て最後に次の方程式を解きます.$$c^2+(2-8\sqrt{3})c+57-24\sqrt{3}=0$$すると,小円の半径は次の値になります.$$c=-1+4\sqrt{3}-2\sqrt{4\sqrt{3}-2}≒1.4883$$というわけで,初期条件を変えてもやはり大変な計算になりました.ああ,しんど(笑).

2024年5月3日

映画 Mean Girls (2024)

2024年 米国

関数の極限

直訳すると「意地悪な女の子たち」というタイトルの学園コメディで,2004年に公開された同名映画のリメイク版です.前作で主役だったリンジー・ローハンが学校対抗の数学コンテストの司会役でカメオ出演(特別出演)しています.このコンテストの最後,あと1問で勝敗が決まるという場面で,2004年の作品とまったく同じ次の問題が使われていました.$$\lim_{x\to 0} \frac{\ln(1-x)-\sin x}{1-\cos^2 x}$$

(ただし,$\ln x=\log_{e} x$)

相手校の生徒が「$-1$」と答えて不正解だった後,主人公のケイディが「極限は存在しない」と答えて勝利します.(前作と全く同じストーリーです)

なぜその答になるのか見てみましょう.まず上式を少し変形して,\begin{eqnarray}&=&\lim_{x\to 0} \frac{\ln(1-x)-\sin x}{\sin^2 x}\\&=&\lim_{x\to 0} \frac{\ln(1-x)-\sin x}{x^2} \cdot \frac{x^2}{\sin^2 x}\\ &=&\lim_{x\to 0} \frac{\ln(1-x)-\sin x}{x^2}\end{eqnarray}このままでは極限を求め難いので,分母も分子も微分可能で$\frac{0}{0}$(不定形)であることからロピタルの定理を使います.この分母子を微分すると,$$\lim_{x\to 0} \frac{\frac{-1}{1-x}-\cos x}{2x}$$定理より,これに極限があれば元の式の極限と一致するのですが,$$\lim_{x\to +0} \frac{\frac{-1}{1-x}-\cos x}{2x}=\frac{-2}{+0}=-\infty$$$$\lim_{x\to -0} \frac{\frac{-1}{1-x}-\cos x}{2x}=\frac{-2}{-0}=\infty$$となり,右極限と左極限が一致せず,極限が存在しないので,元の式も極限が存在しません.

因みに,グラフ描画アプリGeoGebraで確認するとこうなります.

2024年2月26日

小説 走れ外科医 泣くな研修医3

中山祐次郎 2021年 幻冬舎

平均値 中央値 カプランマイヤー曲線 ログランク検定

外科医になって5年目の雨野隆治が,さまざまな経験を通じて成長していくという話です.学会での発表のためにエクセルで資料を作成していて,同僚の川村に質問する場面です.

——中央値? 平均とは違うものなのか? なんで平均じゃいけないんだ? 隆治には、かなり初歩的なこともまったくわからない。

川村「平均値は、5人いたらその年齢を全部足して5で割るだけ。中央値は、若いほうから数えて3人目の年齢ってだけ」
「で、どちらの数字も、『この集団はこういう人たちですよ』って言いたいだけなんだよ」
「若い人たちなのか、90歳超えの人ばかりなのか。だけど、平均値は、若い人たちばかりのところに一人だけ100歳のおじいちゃんがいたら大きく上がる。でも中央値なら、若い順に3人目だから影響はほとんどない。 そのデータはぱっと見、癌の患者さんでしょ? だったら中央値でいいんじゃない。メインは50~70代だろうけど,たまに若い人いるだろうし」 

代表値には平均値(mean),中央値(median),最頻値(mode)があります.統計的な内容は,2002(H14)年度から10年ほど中学校の教科書にはなく,高校でも選択だったので,雨野隆治がその間に中高生だったら中央値を習っていない可能性がありますね.現在(2020(R2)年以降)は小学6年生で登場していますから,今となっては小学生でも知っている初歩的な知識のひとつということになります.

上の台詞に,中央値は「5人いたら若いほうから数えて3人目」とありますが,年上のほうから数えても同じですね.要するにちょうど真ん中の値です.偶数人の場合は,例えば6人なら3人目と4人目の平均が中央値になります.一般には平均値の方がよく使われますが,「若い人たちばかりのところに一人だけ100歳のおじいちゃんがいる」というような極端に離れた値があるときや,データの分布が偏っているときなどは,平均値よりも中央値や最頻値の方が適切な場合があります.

その日は珍しく日中に手術がなく、病棟も落ち着いていたので夕回診のあと隆治は 早々に医局に引き上げると、またノートパソコンを睨みつけて何やら作業をしていた。 カプランマイヤー曲線、ログランク検定などといった、医学部でも習わない、そして医者になってからも誰も教えてくれなかった統計学の知識を、隆治は吸収していった。

カプランマイヤー曲線(下のギザギザの曲線)は,例えばある臨床試験をしていて時間がたつと生存率はどう変化するかを表す,いわゆる「生存曲線」のひとつで,グラフの縦軸は生存確率、横軸は経過時間を表します.時間を経て事象(死亡)が起こるたびに生存率は下がっていきます.また,グラフの途中にいくつかあるヒゲ(短い縦の線分)は「打ち切り」すなわち何らかの理由で試験が中止されたことを意味していて,これらを可視化してあるのがこの曲線の特徴になっています.

上に出てきた中央値とは全く意味が違いますが,生存率が0.5になるまでの時間も中央値といいます.これは放射性物質の割合が0.5になるまでの時間を半減期というのに似ていますね.下の例の場合,A群の中央値は23、B群の中央値は8ということになります.ここでいう中央値でも2つの群の違いは分かりますが,ログランク検定は,2つのカプランマイヤー曲線が,どの時点でも生存率は同じという仮説を立て,それが成り立つ確率(p値)が有意水準(ふつうは5%)より下回れば有意差があると判定する検定です.

「いちばんやさしい、医療統計」より引用

それにしても,これらの知識を「医学部でも習わない」「医者になってからも誰も教えてくれなかった」とは思えないんですけどね.

[参考]

統計教育の歴史・現在・今後の課題
https://www.ed.ehime-u.ac.jp/~kiyou/0402/pdf50-2/15.pdf

学習指導要領の変遷https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/004/siryo/__icsFiles/afieldfile/2011/04/14/1303377_1_1.pdf

いちばんやさしい、医療統計
https://best-biostatistics.com/category/surviv

2023年11月3日

ドラマ フェルマーの料理 第1話

小林有吾(原作) 2023年 TBS 

フェルマーの最終定理

数学が得意で数学者を目指していた高校生北田岳は,数学オリンピックに挑戦して挫折を味わいますが,そこに現れた天才シェフ朝倉海の勧めで料理人になると決意し,その道で成長していくという話です.

冒頭の生い立ちの話の中で,まだ小学生ぐらいのときの岳がフェルマーの最終定理のn=4のときの証明を考えている場面が登場しました.

フェルマーの最終定理は,「$n \geqq 3$のとき,$x^n+y^n=z^n$となる自然数(正の整数)$x, y, z$は存在しない」という定理で,その証明が1993年にワイルズによって発表され,1ヶ所ミスが判明したものの,翌年に修正され,確かに正しいと認められた1995年までに360年かかっています.

証明はもちろん非常に難解ですが,$n=4$のときはフェルマー自らが証明していて比較的易しいといわれています(それでも難しい!).その証明方法は「成り立たないと仮定すると矛盾が起こるので,これは成り立つ」という「背理法」を用います.この場合はどんな背理法かというと「自然数解があるとすると,それより小さい自然数解が見つかる.するとさらに小さい自然数解が次々と見つかっていく.これは自然数に最小値があることに矛盾する」という「無限降下法」を用いています.では,なるべく分かり易い解説を試みてみましょう.

まず前提として 「$x^4+y^4=z^2$となる自然数$x, y, z$が存在しない」 ならば 「$x^4+y^4=z^4$となる自然数$x, y, z$は存在しない」 ことがいえます.なぜなら,$x^4+y^4=z^4$に自然数解$(\alpha, \beta, \gamma)$が存在すれば,$x^4+y^4=z^2$に$(\alpha, \beta, \gamma^2)$という自然数解が存在する (対偶が真になる) からです.

なので 「$x^4+y^4=z^4$となる自然数$x, y, z$は存在しない」 ことを証明するために, 「$x^4+y^4=z^2$となる自然数$x, y, z$が存在しない」 ことを証明します。そのために,$x^4+y^4=z^2$に自然数解$(x, y, z)$が存在すると仮定し,矛盾を導きます.以下すべての文字定数は自然数で,互いに素である (公約数を持たない) とします.

$x^4+y^4=z^2$に自然数解$(x, y, z)$が存在すると仮定すると,$(x^2)^2+(y^2)^2=z^2$より$(x^2, y^2, z)$はピタゴラス数 (ピタゴラスの定理を満たす数) ですから,次のように表せます (理由はこちら).\begin{eqnarray} x^2 &=& m^2-n^2 \tag{1} \\y^2 &=& 2mn \tag{2}\\z &=& m^2+n^2 \tag{3} \end{eqnarray}(1)より$x^2+n^2=m^2$なので$(x, n, m)$もピタゴラス数ですから,次のように表せます.\begin{eqnarray} x &=& p^2-q^2 \tag{4} \\n &=& 2pq \tag{5}\\m &=& p^2+q^2 \tag{6} \end{eqnarray}(5)を(2)に代入すると,$y^2=4mpq$となりますが,ここで左辺は平方数だから右辺も平方数になるので,次のように表せます.$$p=a^2,\quad q=b^2,\quad m=c^2$$これらを(6)に代入すると次のようになります.$$a^4+b^4=c^2$$これは$(a,b,c)$が$x^4+y^4=z^2$の解であることを意味しています。しかも,$$c \leqq c^2=m \leqq  m^2<m^2+n^2=z$$すなわち$c<z$なので$(a,b,c)$は$(x, y, z)$よりも小さい解になります.同様にさらに小さい解が次々と見つかっていくので,これは自然数に最小値があることに矛盾します(無限降下法).よって 「$x^4+y^4=z^2$となる自然数$x, y, z$が存在しない」 ので 「$x^4+y^4=z^4$となる自然数$x, y, z$は存在しない」 ことが証明できました.

[参考]

Fermat’s Last Theorem: n=4
https://crypto.stanford.edu/pbc/notes/numberfield/fermatn4.html

2023年10月17日

歌詞 求めよ...運命の旅人算

BEYOOOOONDS 児玉雨子(作詞) 2023年

旅人算

たまたまFMで聴いた,変わった名前のアイドルグループの曲です.問題も答も歌詞の中にありますが,歌ではなくしゃべっています.

[問題]  A町とB町はビヨーンと5km離れています。西田さんがA町から徒歩で毎分50m、里吉さんがB町から自転車に乗って毎分150mで同時に出発すると、2人が出会うのは何分後になるか、求めよ。

♪ どうすんの? 足す? 引く?
♪ さあこうするの 足す! 引く!
♪ 1分間にほら 200mずつ 接近 距離を割れば… 
25分後! 

[問題 その2]  平井さんは、ひと足先に夢に向かって3km先を毎分200mで走っています。江口さんが頑張って毎分450mで追いかけたら平井さんに何分後に追いつくか、求めよ。

♪ どうすんの? 足す? 引く?
♪ さあ今度はね 引く! 引く!
♪ 1分間にほら 250mずつ 差が 縮んでゆくよ 
12分後!

1問目は,1分間に200mずつ接近していくので 5000÷200=25分後でいいのですが,2問目の答はあり得ないですね.1分間に250mずつ差が縮むので 3000÷250=12分後でいいと思いそうですが,人間は分速450mで12分間は走れません.その距離は450×12=5400m になりますが,2023年10月現在,男子5000m走の世界最高記録は12分35秒,つまり人類は5400mを12分で走ることは不可能なのです.なので,正解は「追いつけない」ということになります.因みに,分速200mはフルマラソンを約3時間31分で走るペース,分速450mは男子1500m走の世界記録 (3分26秒00) を少し上回るペースになります.

おっと,問題文には「走って追いかけたら」とは書いてないので,自転車などの乗り物に乗れば可能か! と思って動画を確認したら,案の定,走って追いかけていました(笑).やはりこれでは追いつけませんね.もし乗り物なら,分速450mは時速27kmなので追いつくのは可能でしょう.

https://www.youtube.com/watch?v=O3kaftbzX1s

ところで,このような旅人算をはじめとする,鶴亀算や植木算などはまとめて「特殊算」と呼ばれていることを最近になって知りました.

海外でもこのようないわゆる文章題 (word problem または problem solving) はいろいろあります.たまたま grade 6(6年生)の旅人算をひとつ見つけました.考えてみてください.

The distance between Harry and Kate is 2400 meters. Kate and Harry start walking toward one another and Kate' dog start running back and forth between Harry and Kate at a speed of 120 meters per minute. Harry walks at the speed of 40 meters per minute while Kate walks at the speed of 60 meters per minute. What distance will the dog have travelled when Harry and Kate meet each other?       (Free Mathematics Tutorials 改題)

ハリーとケイトは2400m離れています.ハリーは分速40mで,ケイトは分速60mで,お互いに向かって歩き始め、ケイトの犬はハリーとケイトの間を分速120mで行ったり来たりします.ハリーとケイトが出会うとき、犬は何m進んでいるでしょうか?(筆者訳)

[解答]
2人が出会うまでの時間は 2400÷(40+60)=24(分)で,その間に犬は行ったり来たりするけれども等速で24分間移動しているので,進んだ距離は 120×24=2880 (m) になります.

ただ,2人が近づくほど犬は短い時間に行き来しなければならず,その時間と移動距離は無限等比級数になってしまいます.その極限値が24分,2880mになることを確かめてみましょう.

出発してから経過した時間をx軸に,ケイトがいた場所からの距離をy軸にとると,それぞれの動きは次のような式になり,グラフに表すと下のようになります.

  ケイト $y=60x$, ハリー $y=-40x+2400$,
  犬   OA: $y=120x$,AB: $y=-120x+3600$,BC: $y=120x-1200$,
      CD: $y=-120x+4200$,...... 


各点の座標(犬が出会った時間,出発地点からの距離)を計算すると,次のようになります.
O(0, 0)   A(15, 1800)   B(20, 1200)   C($\frac{45}{2}$, 1500)   D($\frac{70}{3}$, 1400) ......

△OAB∽△BCDなので,対応する点を考慮して,AからC,BからDの変化を見ていきます.

出発して最初にケイトに出会うまでの時間(点Bのx座標)は20分,次にまたケイトに出会うまでの時間(点Bと点Dのx座標の差)は $\frac{70}{3}-20=\frac{10}{3}$ 分なので,かかった時間の和は,初項a=20,公比$r=\frac{10}{3}÷20=\frac{1}{6}$ の無限等比級数になり,その和は次のようになります.$$20+\frac{10}{3}+\cdot\cdot\cdot\cdot\cdot\cdot=\frac{20}{1-\frac{1}{6}}=24$$犬の移動距離は,OからAまで(点Aのy座標)が1800m, AからBまで(点Aと点Bのy座標の差)が600m,BからCまで(点Bと点Cのy座標の差)が300m,CからDまで(点Cと点Dのy座標の差)が100mなので,奇数番目の項の和と偶数番目の項の和は,それぞれ公比$300÷1800=\frac{1}{6}$,$100÷600=\frac{1}{6}$ の等比級数になり,その和は次のようになります.$$(1800+300+\cdot\cdot\cdot\cdot\cdot\cdot)+(600+100+\cdot\cdot\cdot\cdot\cdot\cdot)=\frac{1800}{1-\frac{1}{6}}+\frac{600}{1-\frac{1}{6}}=2880$$というわけで,行ったり来たりする犬の移動時間と距離を確認できました.でも実際,こんな動きは不可能ですよね(笑).

[Reference]

Grade 6 Maths word Problems @Free Mathematics Tutorials
https://www.analyzemath.com/middle_school_math/grade_6/problems.html

2023年9月25日

小説 ケルベロスの肖像

海堂 尊 2012年 宝島社

自然対数の底 e 円周率 ベクトル 差分 正規分布 フーリエ変換 リーマン球面

テレビドラマ「チーム・バチスタシリーズ」の最終作として映画化されたこの小説には Ai という言葉がよく登場します.一般に AI といえば "Artificial Intelligence" すなわち「人工知能」のことですが,ここでの Ai は "Autopsy imaging" すなわち「死亡時画像診断」を意味します.

東城大学医学部付属病院に,オープンを控えたAiセンターを破壊するという脅迫状が届き,高階(たかしな)病院長からセンター長を任命された医師の田口公平が事件の解明に奮闘するという話です.

調査を依頼した厚生労働省の姫宮香織が連絡先メールアドレスを田口に教える場面です.

そのアドレスをためつすがめつ眺めている俺の手元を覗き込み、高階病院長が言う。「おや、e の底数ですね」

疑問がひとつ解消されほっとする。 ところで e ってなんだっけ、と考えていると、文字の隣にぼんやり丸太(Log)という単語が浮かんできた。 そうだ、対数のなんちゃらだと思い出し、同時に、そんな数字が即座に思い当たる高階病院長の教養の奥深さに感心させられる。俺なら、せいぜい円周率が関の山だ。

(単行本 第1刷 P.40)

この「e の底数」は,正しくは「自然対数の底 e」または「ネイピア数」と表すべきですね.また,"logarithm (対数)"の省略である"log" という英単語が浮かんできたのであって「丸太 (log)」という日本語が浮かんできたのではないでしょう.実際にメールアドレスに使った数字はその値 2.718281828459045....(語呂合わせ「鮒一鉢二鉢一鉢二鉢至極惜しい」が有名)の一部だと思われます.確かに小学校から使われている円周率よりも e のほうが認知度はずっと低いですね.それも当然のことで,日本の高校では理系向けの数学Ⅲで初めて e が登場するからです.それは指数・対数関数の導関数を定義に従って求める際に出てきます.

指数関数の方は$$\displaystyle \left( a^x \right)' =\lim_{ h \to 0 }\frac{a^{x+h}-a^x}{h}$$対数関数の方は$$\displaystyle \left( \log_{a}x \right)' =\lim_{ h \to 0 }\frac{\log_{a}(x+h)-\log_{a}x}{h}$$これらの計算の途中でうまく変数を置換すると次の式が出てきます.$$\displaystyle \lim_{ t \to 0 }\left( 1+t \right)^{\frac{1}{t}}\tag{1}$$この$t$の値を限りなく小さくするとある値 (2.71828....) に近づいていくので,その極限値を e と定義したうえで,その後に導関数を導いています.


因みに,世界中の最も多くの国や地域で採用されている高校カリキュラム「国際バカロレア・ディプロマプログラム(IB Diploma Program)」では,文系向けのSL (Standard Level) でも e が登場します.まず連続複利の話で式(1)と同じ式(2)から e を定義し,その後に指数・対数関数の導関数を導きます.$$\displaystyle \lim_{ n \to \infty }\left( 1+\frac{1}{n} \right)^{n}\tag{2}$$
年利率100%で1年を分割した回数だけ1年間複利計算した場合


(後日談)  ネット上でこの小説の電子書籍が見つかったので確認してみると,同じ部分が以下のように訂正されていました.
そのアドレスをためつすがめつ眺めている俺の手元を覗き込み、高階病院長が言う。「おや、自然対数の底 e ですね」

突然メアドに出現した,妙な数字の羅列を見て即座に高等数学の知識が励起されてしまう高階病院長の教養の奥深さに感心する。俺なら、せいぜい円周率が関の山だ。

(電子書籍 P.17)

「e の底数」が訂正され,「丸太(Log)」についての話が削除されたのはいいのですが,自然対数の底 e=2.71828..... は数学Ⅲを履修した人なら常識ですから,新たに「高等数学の知識」という文章をわざわざ加えたのもおかしいですね.「高等数学」は高等学校の数学ではなく,それより高いレベルの数学を意味するからです.

[参考]

高校教科書「数学Ⅲ」数研出版

Google ブックス 「ケルベロスの肖像」【電子特典付き】

2023年6月16日

小説 蜜蜂と遠雷

恩田 陸 2016年 幻冬舎

順列組合せ フィボナッチ数列

亡くなった伝説的な音楽家の推薦状を引っ提げて,すい星のごとく現れた養蜂家の息子,風間塵(かざまじん)を含む3名の才能ある若いピアニストたちが,1~3次予選と本選まで長期間開催される権威あるコンクールを通して各自が成長していくという話で,直木賞と本屋大賞の両方を受賞した作品です.

順列組み合わせのようにバッハ、モーツァルト、 ショパン、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、 と聴いているうちに、再び気が遠くなっていく。 そもそも、上手な子、何か光る子というのは弾き始めた瞬間にもう分かってしまう。(P14)
有名な作曲家の曲が次々に演奏されていくので,その様子を「順列組み合わせのように」と表しているようです.同じ作曲家の曲が繰り返し登場することもあるので,高校数学の教科書でいうと「同じものを含む順列」ということになります.この6回のうちバッハとモーツァルトが2回,ショパンとベートーヴェンが1回出てくるので,順番を並べ替える方法は全部で$\frac{6!}{2!2!}=180$通りありますが,普通こんな計算,わざわざしませんよね(笑).
少年はひょいと立ち上がり、ひょこひょことこちらに向かって駆けてきた。
「巻貝見つけた。 フィボナッチ数列だね」
にこにこしながら、手に持った小さな巻貝を見せる。
「あっはは、フィボナッチ数列とは。さすが天才」(P312)

反射的にかがみこみ、その貝を拾い上げる。 宝石のような、完璧な造形の、小さな巻貝。
人差し指と親指のあいだに挟み、空に向かって掲げてみる。
「フィボナッチ数列だね」
そう呟き、彼はにっこりと笑った。 不意に、声を出して笑い出したくなる。(P506)
小説の中盤と最後に「巻貝」と「フィボナッチ数列」がセットで登場しました.なぜ巻貝を見たらフィボナッチ数列なのでしょうか.連想してみましょう.
巻貝 → 殻が螺旋状 → それは対数螺旋 → 対数螺旋の一種が黄金螺旋 → 1辺がフィボナッチ数である正方形を足していってできるのが黄金螺旋
 

フィボナッチ数列は
0, 1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, ・・・・・・
と続く,前の2項の和が次の項になるという数列です.この値を一辺に持つ正方形をつないでいったものが上の左側の図になります.右側は巻貝と同じように対数螺旋を持つオウムガイの殻です.フィボナッチ数列の前後の項の比は黄金比 $1:\frac{1+\sqrt{5}}{2}$ に近づくので,左側の長方形の縦横の比は黄金比に近づきます.

ではなぜ貝殻は対数螺旋なのでしょうか.多くの貝類は一定の比率で拡大し,前後が相似形となるように成長していくそうです.つまり単位時間に現在の大きさの何倍かになるような成長をしていくというわけです.なので,時間を$t$とし,螺旋の中央から殻の端までの長さを$r$として,比例定数を$k$(>0)とすれば,次の微分方程式が成り立ちます(前回の「魔力の胎動」で登場した式と同じです).$$\frac{dr}{dt}=k r$$変数分離してこれを解くと$$\int\frac{1}{r}dr=k \int dt$$$$\ln r=k t +C_1$$$$r=Ce^{k t}$$となって,このグラフはデカルト方程式では$y$が増加していく指数関数 $y=Ce^{kx}$ になりますが,成長方向が円状なので極方程式で表せば,原点からの距離$r$が増加していく対数螺旋 $r=Ce^{k\theta}$ になります.
 

2023年6月1日

小説 魔力の胎動

東野圭吾 2018年 KADOKAWA

放射性同位体 半減期

物理現象を予測する力を持つ高校生の羽原円華(うはらまどか)が,その力を使って悩みを持つ人たちを元気にしていきます.映画にもなった既刊の『ラプラスの魔女』へとつながっていく前日譚といえる話ですが,『ラプラスの魔女』の3年後に発表されています.以下は大学教授の青江修介と助手の奥西哲子が試験問題を作成しているときの会話です.

第5章 魔力の胎動

青江「体重60キロの成人の体内合計カリウムが120グラムの時、その体内放射能を求めよ――これでどうだ?」 
奥西「少し簡単すぎませんか」
青江「いいんだよ。 サービス問題だ。このあたりで点を取らせないと落第者が増える。ただでさえ環境分析化学は単位が取りにくいってことで人気がないのに」
奥西「但し書きはアボガドロ定数だけでいいですね」
青江「カリウムの同位体存在度と半減期も付けてやってくれ」
奥西「そんなの、学生なら覚えてて当然じゃないですか」

環境分析化学の問題としては「簡単すぎ」だそうで,放射線取扱主任者試験でも基本問題のうちのひとつだそうです.しかし,こんな話を知らない人にとってはさっぱりわかりませんよね.小説に解答がなかったので解説してみます.有効数字は3桁で計算しましょう.以下の3つがこの問題の「但し書き」です(小説には書かれていません). 

①アボガドロ定数…物質1mol中の粒子(原子/分子など)の個数. 6.02×10^23 [mol^(-1)]  

②同位体存在度(比)…物質の中にある同位体の含有率.カリウムの同位体は24種類あるが,そのうち3種類が自然に常時存在しており,安定同位体「カリウム39」が 93.2581%,放射性同位体「カリウム40」が 0.0117%,安定同位体「カリウム41」が 6.7302%.

③半減期…放射性物質の量が半分になるのにかかる時間.カリウム40の半減期は $t_{1/2}$=12.5×10^8 [年] だが,これに 60秒×60分×24時間×365日 を掛けると  $t_{1/2}$=3.94×10^16 [秒].

まず「体重60kgの成人の体内合計カリウムが120グラム」とありますが,ヒトの体内のカリウムの量は体重の0.2%とわかっているので,60000 [g] ×0.002=120 [g] となっています.

解く前の予備知識です.放射能は,放射性同位元素が放射性崩壊によって別の元素に変化する能力を意味します.その能力とは何かというと,具体的には単位時間に放射性崩壊する原子の個数,すなわちその瞬間の原子数の減少速度(秒速何個の速さで減るか)[単位:ベクレル Bq] を意味します.

なのでこの問題を言い換えると「体重60kgの成人は120gのカリウムを持つが,その中の放射性同位体カリウム40の原子数の減少する速さは秒速何個か」ということになります.

原子量は,同位体の(相対質量×存在比)の和で,その物質 1mol は何gになるかを表します.よって但し書き②より,カリウムの原子量は,

$39×0.932581+40×0.000117+41×0.067302≒39.1$

となり,カリウムは1molあたりの質量が39.1gになるということがわかります.

さらに但し書き②より,カリウム120gの中のカリウム40の質量は

$120×0.000117≒0.0140\ [g] $

なので,1molに対する割合は 0.0140÷39.1であり,アボガドロ定数とこれを掛けると,カリウム40 の 0.0140g の原子数が分かります.$$6.02×10^{23}×0.0140÷39.1 ≒2.16×10^{20}$$これを t=0 のときの原子数 $N_0$ とします.

さて,t 秒後のカリウム40の原子数を$N$,これが単位時間に崩壊していく割合すなわち崩壊定数を $\lambda$ とすると,原子数が減っていく速さについて,次の微分方程式が成り立ちます.$$\frac{dN}{dt}=-\lambda N$$変数分離してこれを解くと

$$\int\frac{1}{N}dN=-\lambda \int dt$$

$$\ln N=-\lambda t +C_1$$

$$N=Ce^{-\lambda t}$$t=0 のとき $N=N_0$ なので $C=N_0$ となり,上の式は次のようになります.$$N=N_0 e^{-\lambda t}$$質量が半減したとき,すなわち $t=t_{1/2}$ のとき,$N=\frac{N_0}{2}$ なので,$$\frac{N_0}{2}=N_0 e^{-\lambda t_{1/2}}$$$$e^{\lambda t_{1/2}}=2$$$$\lambda t_{1/2}=\ln2$$$$\lambda=\frac{\ln2}{t_{1/2}}$$これに$\ln2=0.693$,但し書き③より $t_{1/2}=3.94×10^{16}$ を代入すると,$$\lambda=\frac{0.693}{3.94×10^{16}}≒1.76\times10^{-17}$$よって,原子数が$N_0$の瞬間に減っていく原子数は,$$\lambda N_0=1.76\times10^{-17}\times2.16×10^{20}≒3.80 \times10^3$$以上より,カリウム120gの放射能は約3800 [ベクレル Bq],すなわちカリウム120gは秒速約3800個の速さで原子数が減少することが分かりました.

これを約4000Bq とするサイトがいくつかあり,その理由を調べてみると,以下の文章が見つかりました.

カリウム40 の天然存在比は 0.0117%、半減期は 1.277×10^9年(約13億年)であるので、アボガドロ数を 6.02×10^23 、1年を3.15×10^7 秒として計算すると、日本人の標準的な体重 60kg 中の値は 3640Bq となる。体内中のカリウムの含有量の不確かさを考慮すれば、有効数字は1桁として、単に 4000Bq と表記するのが適当と思われる。(「人体中の放射能による内部被爆について」東京大学大学院総合文化研究科 鳥井寿夫)

[Reference]

カリウム,放射性物質,放射性崩壊,原子量,放射能,アボガドロ定数,同位体存在度(比),半減期
Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%A0

放射能を求める式
https://radioisotope-f.hatenablog.com/entry/65649695

人体中の放射能による内部被爆について
http://atom.c.u-tokyo.ac.jp/torii/radioactivity_of_the_human_body.pdf

2023年5月16日

小説 水鏡推理 Ⅰ~Ⅳ

松岡圭祐 2015~2017年 講談社

判断推理問題

国家公務員一般職で,研究費の不正使用を調査する部署に所属する水鏡瑞希(みかがみみずき)が税金目当てのエセ研究開発のねつ造を次々と見破っていくという話です.シリーズ中,何回か判断推理問題が登場しました.国家公務員の採用試験で出題されるそうです.まず自分で考えてみてください.

「水鏡推理 I」

Q1「三階建てのテナントビルに電器店、 喫茶店、書店が入居してる。以下の五つの条件のうち、ひとつだけが正しくほかはすべて間違いだ。喫茶店は一階でない。 書店は二階にある。 電器店は二階でない。 喫茶店は三階でない。 書店は三階にある」(各階にどの店があるか)

 A1(Drag to see)「書店が二階とすれば、電器店は二階でないという条件が成り立ちますよね。 両方正しいから、ひとつだけ正しいって条件に反します。 なら、書店は二階ってのは成り立たない。同じく、書店が三階ってのと、喫茶が三階でないってのも、両方正しくなっちゃうから書店が三階なのは不成立。 書店は二階でも三階でもないから一階。 喫茶店が一階でないという条件のみが正しくて、あとは嘘。二階は電器店で、三階が喫茶店ですよね」

 「水鏡推理II インパクトファクター」

Q2「先進五ヵ国の首脳会議が開催さ れたとする。オバマがオランドより早く会場入りしたが、安倍よりは遅れた。メルケルはオバマより先に来たが、オランドよりは後だった。オランドは安倍より早く現 れ、キャメロンよりは遅かった。われらが安倍総理はオバマより先、メルケルより後 に到着した。ところが、いま挙げた四つの情報のうちひとつは誤りだった。 どうやって順序を割りだす?」

A2(Drag to see)「条件をぜんぶ正しいと仮定して並べ、相互に矛盾している箇所をさがします。到着順は三人ずつ四パターン。安倍、オバマ、オランド。オランド、メルケル、オバマ。キャメロン、オランド、安倍。メルケル、安倍、オバマ。でもオバマとオラン ドについて、一文めと二文めでは順序が逆になってます。どっちかが誤りです。オラ ンドと安倍についても、一文めと三文めで矛盾してます。まちがった情報はひとつだけなので、該当するのは一文めです。ほかの条件はすべて正しいので、到着したのは キャメロン、オランド、メルケル、安倍、オバマの順です」

「水鏡推理IV アノマリー」

Q3「ある音大で、ピアノが弾ける人はバイオリンも弾ける。 ピアノが弾ける人のなかにはトランペットが演奏できる人もいる。ギターを弾ける人にはハーモニカを吹ける人もいる。ギターを弾ける人は、バイオリンを弾けない」 

「以下の四つのうち、いくつ正しいといえる?  ギターを弾ける人はピアノを弾けない。ハーモニカを吹ける人のなかに、トランペットが吹けない人がいる。ハーモニカを吹ける人には、バイオリンを弾けない人がいる。 バイオリンを弾ける人には、ハーモニカを吹けない人がいる」

A3(Drag to see)「五つの楽器をそれぞれ弾ける場合と、弾けない場合。組み合わせればすべての可能性は三十二通りですよね」 

「ピアノを弾ける人はバイオリンも弾けるんだから、まず八通りが除外されます。 ギターを弾ける人はバイオリンを弾けないんで、さらに八通りが消えます。残り十六通りのうち、ピアノを弾ける人のなかにトランペット吹ける人がいるから、二通りのうち少なくとも一通りは該当します。 ギターを弾ける人のなかにハーモニカ吹ける人もいるので、こっちも二通りのうち一通り以上ありえます」

 「頭の中で図表が書けているのか」 

「 はい,ほんとに紙に書くより自由に大きさを変えたり欄を増やしたりできるので便利です。ギターを弾ける人はピアノを弾けない。ハーモニカを吹ける人には、バイオリンを弾けない人がいる。正しいのはそれらふたつです」

普通に小説を読む時のように読み流すとさっぱり分からなかったので,あとでゆっくり考えてみました.Q1とQ2は比較的易しかったので,Q3を解説してみます.

条件は次の4つです.

 (a) ピアノが弾ける人はバイオリンも弾ける
 (b) ピアノが弾ける人のなかにはトランペットが演奏できる人もいる
 (c) ギターを弾ける人にはハーモニカを吹ける人もいる
 (d) ギターを弾ける人は、バイオリンを弾けない

ピアノ,バイオリン,トランペット,ギター,ハーモニカを演奏できる人の集合をそれぞれP,V,T,G,Hとします.条件(a)よりP⊂V,(b)よりP∩T≠∅,(c)よりG∩H≠∅,(d)より$G\subset\overline{V}$なので,ベン図で表すと次のようになります.TとHはそれぞれPとGに一部が重なりますが,どこまで広がるかは確定していません.

正誤を判断したいのは次の4つです.

 ①ギターを弾ける人はピアノを弾けない
 ②ハーモニカを吹ける人のなかに、トランペットが吹けない人がいる
 ③ハーモニカを吹ける人には、バイオリンを弾けない人がいる
 ④バイオリンを弾ける人には、ハーモニカを吹けない人がいる

①は,$G\subset\overline{P}$なので,常に正しい.
②は,下図の反例があるので常に正しいとはいえない.
③は,Hは$\overline{V}$と共通部分があるので,常に正しい.
④は,下図の反例があるので常に正しいとはいえない.

従って,正しいのは①と③のふたつになります.

◇

一方,小説中の解答(上のA3)は別の方法ですが,説明が端折られているので分かりづらかったです.分かり易い表(PDF)をつくって解説を試みました.それを見ながら続きを読んでください.

ある人が5つの楽器を演奏できるかどうかは,$2^5=32$(重複順列)通りのパターンがあります.

(a)よりピアノを弾ける人はバイオリンも弾けるから,「ピアノは弾けるがバイオリンは弾けない」という8(他の3つは演奏できてもできなくてもいいから$2^3=8$)通りのパターンはないので32通りから除外されます.

(d)よりギターを弾ける人はバイオリンを弾けないから,「ギターもバイオリンも弾ける」という8通りのパターンはないのでこれも32通りから除外されます.

残り16通りのうち,(b)ピアノもトランペットもできるのは2パターンのうち1つ以上,(c)ギターもハーモニカもできるのも2パターンのうち1つ以上あります.これら4パターンをA,BとC,Dとすると,A,Bから1つ以上,C,Dから1つ以上の組み合わせは,AC, AD, BC, BD, ABC, ABD, ACD, BCD, ABCDがあり,それらすべて①②③④の中で常に正しいものを調べると①と③の2つになります.

それにしても主人公はこれを図表なしで理解できるとはすごいですね.

2023年1月24日

漫画 はじめアルゴリズム 4巻 #32 いろんな形、いろんな面【後編】

三原和人 2018年 講談社 

正多面体 オイラーの多面体定理

数学的才能のある小学5年生の関口ハジメが,老数学者・内田豊のもとで成長していくという話です.この中に「正多面体には正4面体,正6面体(立方体),正8面体,正12面体,正20面体の5つしかない」ことの証明がありました.それを引用しますが,分かり易くするために少し太線で加筆します.

多面体の各面を仮に正N角形とし
1個の頂点にM個の面(M本の辺)が集まるとして
正の整数の組 (M, N) が何組あるか考えればいい

1つの辺は2面に共有されるので(①式でNFを2で割る理由)
正N角形の(N個の辺をもつ)面がF個ある多面体の辺の数Eはこう表せる

E=NF/2 ……①

また1つの辺は2つの頂点を結ぶので(②式でMVを2で割る理由)
V個の頂点にM個の面つまりM本の辺が集まるので 多面体の辺の数Eはこう表せる

E=MV/2 ……②

①よりF=2E/N, ②よりV=2E/M

その2つをオイラーの多面体定理に代入して

V-E+F=2
2E/M-E+2E/N=2
E(2N-MN+2M)=2MN 
>0
∴2N-NM+2M>0
MN-2M-2N+4<4

このNM不等式を満たす正の整数の組 {N, M} を求めると……,正多面体は5種類しかないことが分かる.

(以上 第4巻P84~85)

MNとNMが積のように書かれていますが,「2数の組」という意味で述べられています.表現が少し不適切ですね.また始めにMNと書いて,後でNMに変わっていますが,組なので間違いではありません.ただ「NMを満たす整数」という言い方はおかしいので,加筆ではなく訂正をしておきました.また,オイラーの多面体定理を証明なしでいきなり使っているのが気になります.

実際,この不等式を満たす正の整数 {N, M} の組は,以下の{3, 3}, {3, 4}, {3, 5}, {4, 3}, {5, 3}しかありません.

因みに,この正の整数の組{N, M}をシュレーフリ記号(Schläfli symbol)といい,2次元の正多角形や3次元の正多面体を一般化したn次元正多胞体(regular polytope)を分類するもので,例えば次のように表されます.
[2次元]   正3角形は{3},正4角形(正方形)は{4}
[3次元]   正4面体は  {3, 3},正6面体(立方体)は{4, 3}
[4次元]   正8胞体(3次元超立方体)は{4, 3, 3}

この記号の中の,最後の数のひとつ前までの数はすべてまとめて「1次元低い図形」を表し,最後の数は「3次元低い図形に集まる1次元低い図形の数」を表します.具体的には次のような意味になります.
[3次元]   正6面体(立方体){4, 3} は {正4角形{4}が,ひとつの頂点に3つ集まる}という意味
[4次元]   正8胞体(3次元超立方体){4, 3, 3}={{4, 3}, 3} は {正6面体{4, 3}が,ひとつの辺に3つ集まる}という意味

さて,上の証明の次のページに「こういう考え方もできるよね」と言って,「頂点に集まる3個以上の正多角形の内角の和が360°未満になるのは,正三角形3個または4個または5個,正方形3個,正5角形3個の場合しかない」ことを図解入りで説明しています.この内容は「ユークリッドの原論」第13巻命題18の "Remark(注意)" で述べられています.

この考え方から,上の不等式をオイラーの多面体定理なしで導くことができます.正$p$角形の内角の和は$180(p-2)$なので,内角の一つは$$\frac{180(p-2)}{p}=180-\frac{360}{p}$$となり,これが$q$個集まって360°未満になるためには,
\begin{eqnarray}(180-\frac{360}{p})q&<&360\\(1-\frac{2}{p})q&<&2\\ (p-2)q&<&2p\\ pq-2p-2q&<&0\\ pq-2p-2q+4&<&4\\ (p-2)(q-2)&<&4\end{eqnarray}
(mathandmultimedia.com)

あとは上の表の通りです.冒頭の証明よりこの証明の方が分かり易いのではないでしょうか.

[Reference]

2023年1月2日

小説 i(アイ)

西 加奈子 2019年 ポプラ文庫

虚数 複素解析 リーマン球面 留数定理 解析接続

2017年本屋大賞第7位の作品です.米国人と日本人の夫婦の養子として育ったシリア出身のアイが,恵まれた環境で育つことに疑問を持ち,自分という存在に悩みながら成長していくという話です.

物語の冒頭に,アイが日本の高校入学後最初の数学の授業で,教師が虚数単位 $i$ ($i × i = -1$となる数)について紹介している場面があります.

「この世界にアイは存在しません。」
「二乗してマイナス1になる,そのような数はこの世界に存在しないんです。」

この言葉のために,まるでアイという名の自分が存在してはいけないような感覚をずっとひきずったまま,時が過ぎていきます.物語後半,数学科の大学院生になって,婚約者ユウとの会話の中で $i$ の存在を確信していたアイからこの話を聞いた教授はこう言います.

「そんなことを言う数学教師はばかだ。」
「アイは存在する。」

ここでようやくアイは自分自身を「いなくてはいけない存在なのだと」確信します.

この高校教員や大学教授は虚数単位 $i$ のつもりで言っていますが,著者はこれをアイと表現することで,主人公アイの存在について同時に考えさせる狙いがあるのでしょう.実際はこんな間違ったことを言う高校教師はいないと信じたいですが,この最初のセリフが呪文のように後半まで何回も登場するので,ちゃんと修正されるのか読んでいて心配でした.

アイもいつしか彼らと同じように欲望を滅し,勉強に没頭した.リーマン球面の概念に心を震わせ,留数定理の強さに惹かれ,解析接続の難解さにうなった.

いずれも複素解析(複素関数論 or 関数論ともいわれる数学の分野),すなわち複素数から複素数への関数について論じるための用語です.

https://en.wikipedia.org/wiki/File:Riemann_sphere1.jpg
リーマン球面
アイが「心を震わせる」リーマン球面は,複素数平面に無限遠点∞を加えたもので,これは球面と1対1対応させることができます(右図参照).ここでは∞を数のように扱うので,zを0でない複素数とするとき,z/0=∞とか,z/∞=0などの計算ができます.

留数定理
アイが「強さに惹かれ」る留数定理は,数式でいうと$$\displaystyle \oint_{C}f(z)dx = 2\pi i  \sum  \mathrm{Res}(a_i) $$という定理ですが,どう強いのでしょうか.英語版WikiPediaには,「閉曲線上の解析関数の線積分を求めるのに強力な道具である」と書かれています.つまりこの定理によって複素積分が簡単にできることを「強い」と表現しています.

解析接続
アイが「難解さにうなった」解析接続は,一言でいうと定義域の拡張です.簡単な例として,初項1、公比$x$の無限等比級数を考えます.$$1+x+x^2+ \cdot \cdot \cdot \cdot =\frac{1}{1-x}$$高校数学では, $-1<x<1$のときだけこの等式が成りたちますが,解析接続するとこれ以外の範囲でも成りたち,次の有名な等式を導くことができます.(理由は検索するといっぱい出てきます)$$1+2+3+ \cdot \cdot \cdot \cdot =-\frac{1}{12}$$

[Reference]

Residue theorem
https://en.wikipedia.org/wiki/Residue_theorem

2022年6月30日

映画 Rushmore 天才マックスの世界

1998年 米国(日本未公開)

無理関数 導関数 楕円 積分

頭脳明晰ながらも多数のクラブを掛け持ちしているために成績が良くないというRashmore高校の生徒 Max Fisher が,ある女性教師に恋をしたことから奇想天外なことを実行しようとするというコメディーです.

冒頭に数学の授業の場面があり,男性教師が $y=\sqrt{x}$ の導関数を定義に従って求める方法とそのグラフ上の点における接線の傾きを説明しています.$y=f(x)$の導関数を求める式は$$f'(x)=\lim_{\Delta{x}\rightarrow 0}\frac{f(x+\Delta x)-f(x)}{\Delta{x}}$$なので,この式の分子が板書1の左の式になります.また,右のグラフでは,x=1のときの接線の傾きが$m=\frac{1}{2}$で,x=4のときの接線の傾きが$m=\frac{1}{4}$であることを示しています.

板書1
説明の途中で,ある生徒が別の黒板(板書2)に書かれてある "EXTRA CREDIT"(成績に加算されるボーナスポイントみたいのもの)について質問します.
板書2
日本では高校の数学Ⅲで登場する,楕円の面積を積分で求める問題ですが,まだ積分を未習の生徒たちは解けるはずがありません.教師は大げさに「世界で最も難しい幾何の方程式の問題だ」といって説明の続きをしようとしますが,その後また話を遮られたので,さらに大げさに「これが解ける者がいたら,もう一生数学の本を開かなくてもいいぐらいだ」と言い放ちます.しかし,マックスが前に出てきて黒板にすらすらと解答を書いてしまいます.
板書3

板書4

ただ,この解答にはいくつか小さいミスがありました.

① 板書3の下から2行目の$\theta$は$0$のはずなので,正しくは次式になります.$$=\pi ab+ab(\sin{\pi}-\sin{0})$$

② 板書4の左側の下の行は$\sin{2\theta}$の前に [ が抜けているので,正しくは次式になります.$$=2ab \left( \frac{\pi}{2}-0\right)+ab\Big[ \sin{2\theta} \Big]_0^{\frac{\pi}{2}}$$

③ 式を書く順序がおかしいですね.板書3の下から3行目の次は,以下のようになるべきです.\begin{eqnarray}A_E &=& 4ab\int_0^\frac{\pi}{2} \cos^{2}\theta d\theta \\&=& 4ab\int_0^\frac{\pi}{2} \left( \frac{1}{2}+\frac{1}{2}\cos{2\theta}\right)d\theta  \\&=& 2ab \left( \frac{\pi}{2}-0\right)+ab \Big[ \sin{2\theta} \Big]_0^{\frac{\pi}{2}}\\ &=& \pi ab+ab(\sin{\pi}-\sin{0}) \\&=& \pi ab \end{eqnarray} 数か所で[  ]の使い方が気になりましたが,間違いというわけではありません.

さて,円の面積が$\pi r^2$で,楕円の面積が$\pi ab$なので,円周が$2\pi r$であることから,楕円の周長は$2\pi \times \frac{a+b}{2}=\pi(a+b)$ではないかと予想できますが,実は楕円の周長を求める方法は飛躍的に難しくなります.

半径$r$の円の場合,媒介変数表示を$(x, y)=(r\cos\theta, r\sin\theta)$とすると,その周長は次のように求められます.\begin{eqnarray} L &=& 4 \displaystyle \int_0^\frac{\pi}{2} \sqrt{\left(\frac{dx}{d\theta}\right)^2+\left(\frac{dy}{d\theta}\right)^2} d\theta \\&=&  4\int_0^\frac{\pi}{2} \sqrt{\left(-r\sin\theta\right)^2+\left(r\cos\theta \right)^2} d\theta  \\&=& 4r\int_0^\frac{\pi}{2} d\theta \\ &=& 4r \times \frac{\pi}{2} \\&=& 2\pi r \end{eqnarray}同様に,長半径$a$,短半径$b$の楕円の場合,媒介変数表示を$(x, y)=(a\cos\theta, b\sin\theta)$とすると,その周長は次式になります.\begin{eqnarray} L &=& 4 \displaystyle \int_0^\frac{\pi}{2} \sqrt{\left(\frac{dx}{d\theta}\right)^2+\left(\frac{dy}{d\theta}\right)^2} d\theta \\&=&  4\int_0^\frac{\pi}{2} \sqrt{\left(-a\sin\theta\right)^2+\left(b\cos\theta \right)^2} d\theta  \\&=&   4a\int_0^\frac{\pi}{2} \sqrt{1-e^2\cos^2\theta} d\theta \qquad ただし e=\frac{\sqrt{a^2-b^2} }{a}(離心率) \end{eqnarray}ところがこれは第二種完全楕円積分といって,この先は無限級数を使った大変難しい計算になります.そこで,比較的容易に計算できる近似式がいくつか知られています.その中で,最も真の値に近い式をひとつ紹介します.$$近似式\qquad\pi(a+b)\left(1+\frac{3h}{10+\sqrt{4-3h}}\right)\qquad ただしh=\frac{(a-b)^2}{(a+b)^2}$$近似式はExcelで計算するとして,真の値は上の第二種完全楕円積分を級数にしてかなり先まで計算すれば近づきますが,それでは大変すぎるので WolframAlpha に計算してもらい,それぞれの値を比較してみました.

小数点以下第5位を四捨五入
$\pi (a+b)$でも円に近い楕円ならけっこう近い値が出ましたが,つぶれた楕円でもほぼ正確な値を求められるこの近似式はすごいですね.インドの天才数学者ラマヌジャンが発見したそうですが,どうやって発見したのか不思議ですよね.

[参考]

Perimeter of an Ellipse
https://www.mathsisfun.com/geometry/ellipse-perimeter.html

2022年5月5日

映画 Ron's Gone Wrong ロン 僕のポンコツ・ボット

2021年 英米国

素数 素因数分解 合成数 約数 

スマホのような機能に加え,その人に合った友達まで見つけてくれるというロボット型デバイス「Bボット」をほとんどの中学生が持つようになっているという近未来.友達がいなくて寂しい思いをしていた中学生のバーニーが,誕生日にもらったポンコツのBボットと一緒に本当の友情を探そうとするSFコメディです.

数学の授業のシーンで,素数の定義,最初の10個の素数,素数と合成数の例,素因数分解のし方が登場します.

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まず素数の定義です.
Prime number is a number that only divides by 1 and itself(素数は1とそれ自身でのみ割り切れる数)
prime numbers have two factors(素数は2つの約数を持つ)
→   can't be even numbers(偶数ではない)
と書かれていますが,2が素数の中で唯一の偶数なので "except 2(2以外は)" と言及しておかなければいけませんね.

[クイズ]  ではここで問題です.上の授業の板書をよく見て考えてください.(正解は文末)
Q1. 最初の10個の素数は,2, 3, 5, 7, 11, 13, 17の後,隠れている残り3つは何でしょう?
Q2. 向かって右側の30と10の上にある赤い文字のCはどういう意味でしょう?
Q3. 教師の後ろに隠れている素数の例は何でしょう?

さて,これまで何回か紹介した最大素数はさらに大きなものが見つかり,2022年5月現在では,2018年に発見された$2^{82589933}-1$が最大で,24862048桁にもなっています.

他にも,素因数分解の一意性,無限に存在すること,暗号への応用,素数ゼミなど,素数の話題にはキリがありませんが,今回は,素数計数関数 (Prime-counting function),素数定理 (Prime number theorem) について見てみましょう.

素数計数関数 

素数計数関数は,正の実数$x$に対して,$x$以下の素数の個数を対応させる関数で,$\pi(x)$で表します.

例1. $x=2$のとき,2以下の素数は2だけなので,$\pi(2)=1$ 

例2. $x=10$のとき,10以下の素数は2, 3, 5, 7の4つなので,$\pi(10)=4$

例3. $x=100$のとき,100以下の素数は25個あるので,$\pi(100)=25$

素数計数関数 x=100まで(by WolframAlpha)

これぐらいまでは手計算でなんとか求められますが,もっと大きな数になると困難です.そこで次の定理があります.

ガウスの素数定理

$x$が十分大きな整数であるとき,素数計数関数$\pi(x)$は$\displaystyle \frac{x}{\ln x}$($\ln x$は自然対数)で近似できる,すなわち次の近似式が成りたつというのが,ガウスが予想した素数定理です.$$\pi(x) \sim \frac{x}{\ln x}$$これら2つのグラフ($x=10^8$まで)を重ねると次のようになります.

x=10^8まで(by WolframAlpha)

値が大きくなるにつれて離れていくように見えますが,それぞれの値の比は1に近づきます.この定理のおかげで大きな数になってもそれ以下の素数の個数の近似値を$\displaystyle \frac{x}{\ln x}$で求めることができます.

では素数定理の証明というよりは直感的な理由を見てみましょう(厳密な証明ではありません).十分大きな整数$x$が素数である確率$\displaystyle p(x)=\frac{\pi(x)}{x}$を考え,$\displaystyle \frac{1}{p(x)} \sim \ln x$を示せば,$\displaystyle\pi(x) \sim \frac{x}{\ln x}$が成りたつことがいえます.

$x$が素数2の倍数でない確率は$\displaystyle \left( 1-\frac{1}{2}\right)$,素数3の倍数でない確率は$\displaystyle \left( 1-\frac{1}{3}\right)$,……なので,$x$が素数である (素数の倍数でない) 確率は次式になります.$$p(x)=\left( 1-\frac{1}{2} \right) \left( 1-\frac{1}{3} \right) \left( 1-\frac{1}{5} \right)\cdot\cdot\cdot\cdot\left( 1-\frac{1}{p_x} \right)\quad\quad\quad  \left( p_xはxより小さい最大の素数 \right)$$

ここでこの逆数を考えます.次式の1行目と2行目の積の各因数は初項1,公比$\displaystyle \frac{1}{p}$の等比級数の和になっています.\begin{eqnarray}\frac{1}{p(x)} &=&\frac{1}{1-\frac{1}{2}}\cdot \frac{1}{1-\frac{1}{3}} \cdot \frac{1}{1-\frac{1}{5}} \cdot\cdot\cdot\cdot\frac{1}{1-\frac{1}{p_x}}  \\&=& \left(1+\frac{1}{2}+\frac{1}{2^2}+\cdot\cdot\cdot\cdot \right) \left(1+\frac{1}{3}+\frac{1}{3^2}+ \cdot \cdot \cdot \cdot \right) \left(1+\frac{1}{5}+\frac{1}{5^2}+ \cdot \cdot \cdot \cdot \right) \cdot\cdot\cdot\cdot\left(1+\frac{1}{p_x}+\frac{1}{p_x^2}\cdot\cdot\cdot\cdot\right)\\ &\sim& 1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{4}+\frac{1}{5}+\cdot\cdot\cdot\cdot +\frac{1}{x} \end{eqnarray}上式の2行目を展開するとすべての項がいくつかの素数の累乗の積の逆数になります.どんな整数もいくつかの素数の累乗の積になるので,$x$が十分大きければ3行目のような整数の逆数の和に近似できます(∞なら等式が成立 i.e. リーマンゼータ関数のオイラー積表示).ここで下のグラフより次の近似式も成り立ちます.$$\displaystyle1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{4}+\frac{1}{5}+\cdot\cdot\cdot\cdot +\frac{1}{x}\sim \int_1^x{\frac{1}{t}}dt=\ln x$$

よって,$\displaystyle \frac{1}{p(x)} \sim \ln x$を示すことができたので,$\displaystyle\pi(x) \sim \frac{x}{\ln x}$が成りたつことがいえました.

因みに,もっと正確に$x$以下の素数の個数を求めようと,素数定理の誤差を研究したリーマンは素数公式(リーマンの明示公式ともいう)を発見しました.

[参考]

Mathematics in Movies
https://people.math.harvard.edu/~knill/mathmovies/

ガウスの素数定理
https://tsujimotter.hatenablog.com/entry/2014/04/08/120132

[クイズの答]
A1.   19, 23, 29
A2.   Composite Number(合成数)の頭文字 
A3.   7(映画を観れば分かります)

2022年4月9日

映画 Marry Me

2022年 米国

sum  reciprocal  even  factor

婚約者の浮気を知って失望した人気女性歌手 Kat Valdez が,コンサート中に "MARRY ME!" と書いた看板をもっていた男性高校教師 Charlie Gilbert といきなり結婚すると言い出し,言われた方もOKしたことでいろいろな騒動が起こるという話です.

Charlie の授業中,白板に書かれた問題と生徒の解答です.

Find the sum of reciprocals of the even factors of 16
$\displaystyle \frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{8}+\frac{1}{16}=\frac{8+4+2+1}{16}=\frac{15}{16}$
これは「16の約数のうち偶数であるものの逆数の総和を求めよ」という問題です.16の約数は 1, 2, 4, 8, 16 で,そのうちの偶数は 2, 4, 8, 16 なので,それらの逆数をすべて加えると上の解答が得られます.

画面にあったその次の問題も解いてみましょう.
Find the sum of reciprocals of the even factors of 20.
これは解答がありませんでした.20の約数は 1, 2, 4, 5, 10, 20 で,そのうちの偶数は 2, 4, 10, 20 なので,その逆数の和は次のようになります.$$\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{10}+\frac{1}{20}=\frac{9}{10}$$
しかし,もっと大きい数になると約数の個数が増えるので,このやり方では大変です.そこで上手に計算する方法を考えます.例えば,$360=2^3 3^2 5^1$について考えてみましょう.約数の個数は$4\times3\times2=24$個もあります.約数の総和は$$(2^0+2^1+2^2+2^3)(3^0+3^1+3^2)(5^0+5^1)=\sum_{i=0}^{3}2^{i} \sum_{j=0}^{2}3^{j}\sum_{k=0}^{1}   5^{k}\tag{1}$$これは等比数列の和の積になるので,$$=\frac{2^4-1}{2-1}\cdot\frac{3^3-1}{3-1}\cdot\frac{5^2-1}{5-1}=1170$$この式(1)は展開すると24個の約数はそれぞれ $$2^i3^j5^k \quad (i, j, kは整数,0≤i≤3, 0≤j≤2, 0≤k≤1)\tag{2}$$と表せます.その逆数は$$\frac{1}{2^i3^j5^k}=\frac{2^{3-i}3^{2-j}5^{1-k}}{2^3 3^2 5^1}$$となるので,360の約数の逆数の総和は次のようになります.$$\frac{1}{2^3 3^2 5^1}\sum_{i=0}^{3}2^{3-i} \sum_{j=0}^{2}3^{2-j}\sum_{k=0}^{1} 5^{1-k}=\frac{1}{2^3 3^2 5^1}\sum_{i=0}^{3} 2^{i} \sum_{j=0}^{2}3^{j} \sum_{k=0}^{1} 5^{k}$$$$=\frac{1}{360}\cdot\frac{2^4-1}{2-1}\cdot\frac{3^3-1}{3-1}\cdot\frac{5^2-1}{5-1}=\frac{1170}{360}=\frac{13}{4}$$

さて,次に約数のうち偶数であるものの逆数の総和です.$360=2^3 3^2 5^1$の約数$2^i3^j5^k$の中で,$i=0$のときだけが奇数になりますから,式(1)から$2^0$を除いた次の式が,偶数の約数の総和になります.$$(2^1+2^2+2^3)(3^0+3^1+3^2)(5^0+5^1)=1092$$この式を展開すると18個の約数はそれぞれ式(2)と同じ$2^i3^j5^k$と表せますが,$1≤i≤3$になります.すると360の約数のうち偶数であるものの逆数の総和は次のようになります.$$\frac{1}{2^3 3^2 5^1}\sum_{i=1}^{3} 2^{3-i}\sum_{j=0}^{2} 3^{2-j}\sum_{k=0}^{1}  5^{1-k}=\frac{1}{2^3 3^2 5^1}\sum_{i=0}^{2}2^{i} \sum_{j=0}^{2} 3^{j}\sum_{k=0}^{1}  5^{k}$$$$=\frac{1}{360}\cdot\frac{2^3-1}{2-1}\cdot\frac{3^3-1}{3-1}\cdot\frac{5^2-1}{5-1}=\frac{546}{360}=\frac{91}{60}$$この方法なら,もっと大きな数でも約数のうち偶数であるものの逆数の総和を求めることができます.以上まとめて公式として書くと以下のようになります.

正の偶数 $n=2^k p_1^{k_1}p_2^{k_2}\cdot\cdot\cdot p_m^{k_m} \quad (k, k_iは整数,1≤k,0≤k_i,p_iは奇素数)$のとき,$n$の約数のうち偶数であるものの逆数の総和は,$$\frac{1}{n}\sum_{i=0}^{k-1}2^{i} \sum_{j_1=0}^{k_1} p_1^{j_1}\sum_{j_2=0}^{k_2}  p_2^{j_2}\cdot\cdot\cdot\sum_{j_m=0}^{k_m}  p_m^{j_m}=\frac{1}{n}\cdot\frac{2^k-1}{2-1}\cdot\frac{p_1^{k_1+1}-1}{p_1-1}\cdot\frac{p_2^{k_2+1}-1}{p_2-1}\cdot\cdot\cdot\frac{p_m^{k_m+1}-1}{p_m-1}$$
この公式を使っていくつか$n$の約数のうち偶数であるものの逆数の総和を確認してみましょう.

$n=16=2^4$のとき,$$\displaystyle \frac{1}{16}\cdot\frac{2^4-1}{2-1}=\frac{15}{16}$$
$n=20=2^2 5^1$のとき,$$\displaystyle \frac{1}{20}\cdot\frac{2^2-1}{2-1}\cdot\frac{5^2-1}{5-1}=\frac{18}{20}=\frac{9}{10}$$
$n=1080=2^3 3^3 5^1$のとき,$$\displaystyle \frac{1}{1080}\cdot\frac{2^3-1}{2-1}\cdot\frac{3^4-1}{3-1}\cdot\frac{5^2-1}{5-1}=\frac{1680}{1080}=\frac{14}{9}$$
$n=441000=2^3 3^2 5^3 7^2$のとき,$$\displaystyle \frac{1}{441000}\cdot\frac{2^3-1}{2-1}\cdot\frac{3^3-1}{3-1}\cdot\frac{5^4-1}{5-1}\cdot\frac{7^3-1}{7-1}=\frac{809172}{441000}=\frac{3211}{1750}$$このように数が大きくなると,約数のうち偶数であるものの逆数をすべて加えるより速く計算できます.

[参考]

2022年4月2日

漫画 数字で遊ぼ。

絹田村子 2018年 小学館

デデキンドの切断 ベクトル空間

抜群の記憶力だけで京都の吉田大学(京大がモデル)の理学部に現役合格した横辺建己が,入学後最初に受けた数学の講義をまったく理解できなかったことがショックでそのまま2年も留年してしまいますが,3年目からようやく友達もできてやり直し,その後数学科に進学して奮闘するという話です.

第1巻 第1話 極限は突然に

初日につまづいたからといって2年も留年するのはあまりリアルではないと思いますが,横辺建己にそこまでショックを与えたのはどんな内容だったのでしょうか.その入学後初日2時間目の講義は「微分積分学」で,デデキンドの切断を使って実数の連続性を示す準備となる,有理数の切断の話でした.

板書1
板書2

板書2の見えない部分を推測すると,次のようになると思われます.

$\exists a \in A \ s.t. \forall b \in A, \ b \leq a$  …①
または 
$\exists a' \in A' \ s.t. \forall b'$ $\in A', \ a' \leq b'$  …②
このとき切断(A, A')は,①のときは有理数aを定め,②のときは
有理数a'を定める
注意:①と②は同時に起らない

以上を分かり易く言い換えてみます.
(板書1)
有理数の全体$\mathbb{Q}$をその部分集合A(下組)とA'(上組)に分け(切断し),Aのどの元もA'のどの元より小さくなるようにする.
(板書2)
ある有理数が定まる切断は次の2通りのどちらかになる.
①Aに最大元$a$があり,A'には最小元がない.このとき有理数$a$が定まる.
②Aに最大元がなく,A'には最小元$a'$がある.このとき有理数$a'$が定まる.

③Aに最大元がなく,A'にも最小元がない場合,対応する有理数が定まらないので,実数を対応させることになります.実数の切断は①または②の場合しかないので,実数の全体$\mathbb{R}$が連続であるという話につながっていきます.

第2巻 第6話 酒と泪と男とベクトル

横辺建己が入学3年目になってやり直しを決意し,実在する書籍「理系のための線型代数の基礎」(永田雅宜著)のベクトル空間のところを読んでいます.

横辺「わ,わからない.ベクトルって矢印のことじゃないのかーーっ」 

a, b, cはベクトル,α,βはスカラー

矢印は物理で力や速度などに使われますが,ベクトル空間の一例にすぎません.一般には,足し算とスカラー倍ができて,上の8つの性質(最後の$1a=a$を除いて7つという場合もあり)を満たすベクトルの集まりをベクトル空間といいます.易しくいうと,$n$次元成分表示$(a_1,a_2,…,a_n)$と対応できるものの集まりはすべてベクトル空間になります.

例えば,$n$次元デカルト座標や$n$個のデータは$(a_1,a_2,…,a_n)$,複素数$a+bi$は$(a, b)$,上の多項式$x^2+2x+3$は$(1, 2, 3)$と表せるので,その集まりはすべてベクトル空間になります.なので,高校教科書では$\vec{a}$,$\vec{b}$のように上に矢印をつけますが,線形代数の専門書では矢印をつけず,太字で表すのが一般的です.

余談ですが,$n$個のデータが2つあって各々の平均との差(偏差)を表すベクトルを$\boldsymbol{a}$,$\boldsymbol{b}$とするとき,これら2つのデータの相関係数は次式で求められます.これは2つのベクトルのなす角の余弦になるので,正の相関が強いと同方向の$\cos{0°}=1$,負の相関が強いと逆方向の$\cos{180°}=-1$に近くなります.$$\frac{\boldsymbol{a} \cdot \boldsymbol{b}}{|\boldsymbol{a}| \ |\boldsymbol{b}|}$$

(参考)

実数の連続性(実数のデデキント切断)
https://wiis.info/math/real-number/definition-of-real-number/continuity-of-real-number/

ベクトル空間と基底
https://www.math.nagoya-u.ac.jp/~hisamoto/1W/hisamoto-1W17-03.pdf