順列組合せ フィボナッチ数列
亡くなった伝説的な音楽家の推薦状を引っ提げて,すい星のごとく現れた養蜂家の息子,風間塵(かざまじん)を含む3名の才能ある若いピアニストたちが,1~3次予選と本選まで長期間開催される権威あるコンクールを通して各自が成長していくという話で,直木賞と本屋大賞の両方を受賞した作品です.
P14順列組み合わせのようにバッハ、モーツァルト、 ショパン、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、 と聴いているうちに、再び気が遠くなっていく。 そもそも、上手な子、何か光る子というのは弾き始めた瞬間にもう分かってしまう。
有名な作曲家の曲が次々に演奏されていくので,その様子を「順列組み合わせのように」と表しているようです.同じ作曲家の曲が繰り返し登場することもあるので,高校数学の教科書でいうと「同じものを含む順列」ということになります.この6回のうちバッハとモーツァルトが2回,ショパンとベートーヴェンが1回出てくるので,順番を並べ替える方法は全部で$\frac{6!}{2!2!}=180$通りありますが,普通こんな計算,わざわざしませんよね(笑).
P312少年はひょいと立ち上がり、ひょこひょことこちらに向かって駆けてきた。 「巻貝見つけた。 フィボナッチ数列だね」にこにこしながら、手に持った小さな巻貝を見せる。「あっはは、フィボナッチ数列とは。さすが天才」P506反射的にかがみこみ、その貝を拾い上げる。 宝石のような、完璧な造形の、小さな巻貝。人差し指と親指のあいだに挟み、空に向かって掲げてみる。「フィボナッチ数列だね」そう呟き、彼はにっこりと笑った。 不意に、声を出して笑い出したくなる。
小説の中盤と最後に「巻貝」と「フィボナッチ数列」がセットで登場しました.なぜ巻貝を見たらフィボナッチ数列なのでしょうか.連想してみましょう.
巻貝 → 殻が螺旋状 → それは対数螺旋 → 対数螺旋の一種が黄金螺旋 → 1辺がフィボナッチ数である正方形を足していってできるのが黄金螺旋
フィボナッチ数列は
0, 1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, ・・・・・・
と続く,前の2項の和が次の項になるという数列です.この値を一辺に持つ正方形をつないでいったものが上の左側の図になります.右側は巻貝と同じように対数螺旋を持つオウムガイの殻です.フィボナッチ数列の前後の項の比は黄金比 $1:\frac{1+\sqrt{5}}{2}$ に近づくので,左側の長方形の縦横の比は黄金比に近づきます.
ではなぜ貝殻は対数螺旋なのでしょうか.多くの貝類は一定の比率で拡大し,前後が相似形となるように成長していくそうです.つまり単位時間に現在の大きさの何倍かになるような成長をしていくというわけです.なので,時間を$t$とし,螺旋の中央から殻の端までの長さを$r$として,比例定数を$k$(>0)とすれば,次の微分方程式が成り立ちます(前回の「魔力の胎動」で登場した式と同じです).$$\frac{dr}{dt}=k r$$変数分離してこれを解くと$$\int\frac{1}{r}dr=k \int dt$$$$\ln r=k t +C_1$$$$r=Ce^{k t}$$となって,このグラフはデカルト方程式では$y$が増加していく指数関数 $y=Ce^{kx}$ になりますが,成長方向が円状なので極方程式で表せば,原点からの距離$r$が増加していく対数螺旋 $r=Ce^{k\theta}$ になります.
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