2015年2月11日

小説 φは壊れたね (その2)

森 博嗣 2007年 講談社 
φ 関数 空集合 

以前の同じ小説の投稿の第2弾です。
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「φっていうのは、何に使う記号ですか?」鵜飼は西之園と国枝を見てきいた。
「決まっていません」西之園が答える。「よく使うというと、関数の名前かしら」
「空集合」国枝が珍しく口をきいた。
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 よく使うということはないですが、φ関数というものがあります。nを正の整数としてφ(n)は、n以下の整数のうちnと互いに素な(1以外に公約数を持たない)ものの個数を表します。例えば、4以下の正の整数で4と互いに素なものは1と3の2個なので
φ(4)=2
となります。n=12なら、12以下で12と互いに素なものは1と5と7と11の4個なので
φ(12)=4
となります。nが素数pのときは、1からp-1までのすべてがpと互いに素なので
φ(p)=p−1
となります。
 素数も含めて正の整数すべての場合でφ(n)を求める式は少し難しいですが、分かりやすい式はこちらにあります。簡単に言えば、nを素因数分解したときの素因数をp(1)、p(2)、…p(k)としたとき、nと(1-1/p(i))をすべて掛け算したものになります。例えば、4=2^2なのでp(1)=2だから、
φ(4)=4(1-1/2)=2
となります。n=12なら、12=2^2*3なのでp(1)=2、p(2)=3だから、
φ(12)=12(1-1/2)(1-1/3)=4
となり、上の結果と一致します。これなら大きな数でも求められますね。例えば、n=480のとき、480以下の整数のうち480と互いに素なものをすべて数えるのは大変ですが、この式を使うと、480=2^5*3*5なので、
φ(480)=480(1-1/2)(1-1/3)(1-1/5)=128
と容易に求められます。

2014年12月29日

小説 1Q84

平均律
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 『平均律クラヴィーア曲集』は数学者にとって、まさに天上の音楽である。十二音階すべてを均律に使って、長調と短調でそれぞれに前奏曲とフーガが作られている。全部で二十四曲。第一巻と第二巻をあわせて四十八曲。完全なサイクルがそこに形成される。
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 ふかえりが天吾に聞かれて、お気に入りの音楽はバッハの『平均律クラヴィーア曲集』だと答えた場面です。ここでの「天上」とは「最高の」「この上ない」という意味だと思われます。なぜ数学者にとってそんなに良い音楽なのでしょうか。
 平均律は、1オクターヴを均等な周波数比で12等分した音律、すなわち十二平均律を意味する場合が多いようです。すると1オクターヴ上の音は周波数が2倍になるので、均等に分けると1つの半音につき周波数は「12√2=12乗根2」倍になります。音階の分類が、「公比が累乗根を使って表される数である等比数列」で表されているからでしょうか。このことが数学者が歓喜するほどのことだとは思えないのですが…。それとももっと他に意味があるのでしょうか。

2014年11月25日

ドラマ すべてがFになる

16進法
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16進法でFFFFは65535になる。
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 n進法(n進表記/n進記数法)の4桁の数の表記が"abcd (n)"のとき、10進法で表すと、
a×n^3+b×n^2+c×n+d×1
となります。
①例えば
10進法で使う数字は0,1,2,3,4,5,6,7,8,9なので、
4桁の数の表記が"2345"のとき、10進法で表すと、
2×10^3+3×10^2+4×10+5×1=2345
となります。
②例えば
2進法で使う数字は0,1なので、
4桁の数の表記が"1011 (2)"のとき、10進法で表すと、
1×2^3+0×2^2+1×2+1×1=8+0+2+1=11
となります。
③さて
16進法で使う数字(文字)は0,1,2,3,4,5,6,7,8,9,A,B,C,D,E,Fで、この場合、F=15なので、
4桁の数の表記が"FFFF (16)"のとき、10進法で表すと、
F×16^3+F×16^2+F×16+F×1=15×16^3+15×16^2+15×16+15×1=65535
となります。
 ところで、色の分類も16進法で表されます。例えば黒は#000000、白は#FFFFFFとなります。これをあてはめれば、すべてがFになると、すべてが白になるということになります。
 n進法と似たような言葉にp進数(pは素数)がありますが、これは急に難しいお話になります。p進数は「小数部分が有限で、整数部分が無限に続く数」をいいます。例えば2進数の場合、
    ……111111.=-1
となります。なぜなら、2進法で1+1=10なので、両辺に1を加えるとすべてが繰り上がって、
    ……000000.=0
となるからです。


2014年10月19日

小説 お任せ!数学屋さん

台形の加重平均 他多数
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 r=(1-n)p+nq
「台形には必ず平行な2辺が存在するよね。いわゆる上底と下底。その上底と下底の間に、さらにもう1本平行線を引く場合に使う公式なんだよ。」
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 第1章(問1)では計算が丁寧だったのに、第2章(問2)ではかなり公式の導出やあとの計算が端折られていて、分かりやすい図はいつ出てくるのかと思ったら結局出てきませんでした。あのままでは分かりづらいので、図と計算をここにメモしておきましょう。
まずP.99の公式の導出。右図でAB//DFとします。△DEN∽△DFCよりn:1=EN:FCなので、
 n:1=(r-p):(q-p)
 r-p=n(q-p)
 r=p+nq-np=(1-n)p+nq
次にP.105の2次方程式の計算。
 {45+(15n+45)}×AM÷2={(15n+45)+60}×MB÷2
 {45+(15n+45)}×AM={(15n+45)+60}×MB
 {45+(15n+45)}×70n={(15n+45)+60}×70(1-n)
 {45+(15n+45)}×n={(15n+45)+60}×(1-n)
 15n^2+90n=15n+105-15n^2-105n
 30n^2+180n-105=0
 2n^2+12n-7=0
それにしても、中2の生徒に中3で習う相似、2次方程式、平方根、解の公式などの話をしたら、当然魔法のように聞こえるでしょうね。読んでいてぜひほしいと思った学校のグラウンドの図も作っておきました。

2014年5月6日

小説 陽気なギャングの日常と襲撃

仕事(ベクトルの内積)
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 力が働いて物体が移動したときに、物体の移動した向きの力と移動した距離との積を、力が物体になした仕事という。
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物理でいう仕事(単位N・m=J)というのはベクトルの内積にあたります。ベクトルaとベクトルbの内積はab=|a||b|cosθで定義されます。物体にかけた力を表すベクトルaと移動を表すベクトルbが同じ方向の場合はθ=0なのでcosθ=1ですから、仕事=内積はab=|a||b|となりますが、同じ方向でない場合、移動方向にかかる力は|a|cosθとなりますから、仕事=内積はab=|a||b|cosθとなります。私が高校のときの数学の教科書には定義式以外に説明がなかったので、それが何を意味するのか長い間分かりませんでした。
 ベクトルの掛け算には内積と外積があります。内積はベクトル・ベクトル=スカラー(定数)になりますが、3次元での外積はベクトル×ベクトル=ベクトルになります。ベクトルの外積が表す物理量のひとつとして力のモーメントがあります。力のモーメントは回転運動を与える力の能率のことで、回転軸から力を加える点を結ぶベクトルをa、加える力を表すベクトルをbとするとき、その大きさは|a×b|=|a||b|sinθで、その方向はabに向かって近づく回転で右ネジが進む方向です。N・mという単位は仕事と同じですが、異なるものです。
 ちなみに広義の外積は2次元でも定義できて、2つの平行でないベクトルが作る平行四辺形の面積になります。成分で見てみると、a=(a1, a2), b=(b1, b2)のとき、外積は
|a×b|=|a1b2-a2b1|
になります。これを使うと3点を結ぶ三角形の面積が簡単に求められることはよく知られてます。

2013年8月6日

小説 白夜行

空間図形 平面 直線
 主人公が家庭教師に数学を教わる場面です。(文庫本ではP239)
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 空間上の二つの面が交わった時に出来る直線の式を求める、という問題に雪穂は取り組んでいた。解き方は教えてあるし、彼女も理解している。彼女が持っているシャープペンシルは、殆ど動きを止めることはなかった。
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 この問題の解き方はいくつかあります。
①2つの平面の方程式を連立方程式と考え、2つの変数を他の1つの変数で表してそれらをつなぐ。
②2平面の共有点を2つ求め、その2点を通る直線を求める。
③2平面の共有点を1つ求め、その1点を通り、2平面の法線ベクトルの外積を方向ベクトルとする直線を求める。
 文中に「解き方は教えてあるし」とありますが、どの解き方なのでしょう。すべて教えていたのなら上出来だと思います。山の頂上へ行くのにいくつかの道があるのと同じように、数学の問題の解答を得るのにいくつかの解き方があるということも教えてほしいものです。
 ストーリーは面白かったのですが、この作者の他作品と比べると、かなり性描写が露骨でした。どうでもいいことなのでしょうが、文庫本で860ページもあるのになぜ上下巻に分けなかったのか不思議です。

2013年7月11日

小説 浜村渚の計算ノート

四色問題 0 フィボナッチ数列 円周率
 主人公の数学天才少女は「算法少女」という小説を想起させます。一度読んでみてください。さて、文中にいくつか説明なしのパロディ(のようなもの)がありました。
◆黒い三角定規
 「青い三角定規」は、70年代に青春ドラマの主題歌「太陽がくれた季節」を大ヒットさせたフォークグループ(数学とは関係がない)。
◆ドクター・ピタゴラス
 ピタゴラスは、古代ギリシャの数学者・哲学者。ピタゴラス教団(今でいうカルト教団)の教祖で、教団が否定していた無理数の存在を口外した者を溺死させたといわれている。
◆『稲石昇平の青春の夢』
 「クロネッカーの青春の夢」は、ドイツの数学者クロネッカーの数学予想のことで、日本の数学者高木貞治によって正しいことが証明された。
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 また、パロディではありませんが、説明がなければ分からない文章がありました。
■「またフィボナッチ数列か……自然界だけではなく、殺人事件にもよく出てくる数列だ。」
 フィボナッチ数列は、このブログだけでもダビンチ・コードと探偵ガリレオに登場しています。
■「カルダノの公式です。立方完成まではなんとか自分でできたんですけど、…」
 中学数学の教科書には平方完成(2次式を(x-p)^2+qの形に変形すること)を使って二次方程式の解の公式を導く方法があります。三次方程式の解の公式を導くには、立方完成(3次式を(x-p)^3+qx+rの形に変形すること)という方法を使います(導出は他のサイトで簡単に見つけられます)。
■「円周率が、3.05より大きい数であることを、証明せよ」
 これはこのブログの以前の投稿にも書きましたが、東大の2003年入試問題です。
■「バーゼル問題の解を使ってもいいですか」
 バーゼル問題とは、オイラーが証明した等式、
Σ(1,∞) 1/(n^2)=1+1/(2^2)+1/(3^2)+1/(4^2)+・・・・=(π^2)/6
のことで、ゼータ関数ζ(s)のs=2のときの値になります。
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 ところで、この小説は数学の話題がたくさん出てきてその部分は面白いのですが、設定があまりにも荒唐無稽なので、小説なのに漫画を読んでいるみたいでした(実際漫画化されましたが…)。フィクションなのでそれでもいいのですが、自分は整合性のあるものの方がが好きです。これは個人の好みの問題ですね。表紙は可愛いですが、ストーリーは殺人が多すぎるので、あまりお勧めできないです。

2012年9月8日

小説 左京区七夕通東入ル

ピタゴラスの定理
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 新しい定理を発見した場合はその本人の名前がつけられることが多いという話を聞いた。ピタゴラスの定理とかオームの法則とか、いくつかそれらしいものは思い当たる。
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 理学部数学科の学生が準主役の話なのに、数学の用語がほとんど出てきませんでした。主役が文学部の学生だからかも知れません。ピタゴラスの定理は、ピタゴラスが発見したのではないという説が有力です。もっと以前から知られていたとか、ピタゴラスの弟子が発見したとか言われています。
 私も自分でちょっとした結果を得たことがあるのですが、他に同じ内容を見たことがないので勝手に自分の名前を付けて○○の定理と呼んで悦に入っています。
○○の定理
 zがexp(-θcosθ/sinθ)(cosθ+isinθ)という形の虚数のときにz^zは実数になり、その値はexp((-θ/sinθexp(-θcosθ/sinθ))である。
 もし、同じ結果をどこかで見られたことがある方はお知らせください。

2012年8月23日

小説 マスカレード・ホテル

東野圭吾  2011年  集英社

緯度 経度

連続殺人の次の場所と予告された一流ホテルで,警察と従業員が協力して事件の解決に奔走する話です.
「三番目の数字で検索していただけますか」尚美の声は震えた。
地図の真ん中には、ホテル・コルテシア東京の文字があった。
「次の犯行現場がこちらのホテルだということは明白でしょう?」
犯人は次の犯行現場を緯度・経度で予告しました。実際に小説に出てきた数字で場所 (35.678738, 139.788585) を調べたら、東京都首都高速9号深川線と隅田川の交差している地点でした。もちろんフィクションですから実際にホテルはありません。

地球はほぼ球であるとして考えましょう。下図の点Pの緯度 (Latitude) は、「球の中心とPを結ぶ線分」と赤道面とのなす角(図のφ)で[-90, 90]。経度 (Longitude) はグリニッジ子午線とPを通る子午線とのなす角(図のλ)で[-180, 180]。ただし、子午線とは北極と南極を球面上で結ぶ半円のことで、北=子(ねずみ)と南=午(うま)が語源です。

<座標(緯度,経度)の例>
◇座標(51.477222, 0)=グリニッジ天文台(Royal Greenwich Observatory)
◇座標(0, 0)=アフリカのガーナ南約500kmの大西洋上、グリニッジ子午線(本初子午線)と赤道の交点。
◇座標(0, 180)=ハワイの南西約3000kmの太平洋上、日付変更線と赤道の交点。
◇座標(34.649395, 135)=明石市立天文科学館
◇座標(-34.649395, -45)=明石市立天文科学館と正反対の地球の裏側で、南米ウルグアイの西約1000kmの大西洋上。

球座標 (Spherical Polar Coordinates) または3次元極座標  (3D Polar Coordinates) は、普通は左図のように (r,θ,φ) で表します。xy平面は赤道面にあたります。θは極角といいますが、θ=90°-緯度 なので余緯度とも呼ばれます。φは方位角といい、経度にあたります。直交座標との関係は x=rsinθcosφ,  y=rsinθsinφ,  z=rcosθとなります。

数学でよく使う直交座標は、1637年に発表された『方法序説』において平面上の座標の概念を確立したルネ・デカルト (René Descartes) の名をとってデカルト座標 (Cartesian coordinates) ともいいます。

2012年7月22日

小説 φは壊れたね

相関係数 空集合
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「ちょっと寄り道していっても、良いですか?」
「どこへ?」
「いえ、通り道ですけれど、途中で、ちょっとだけ」
「どこ? 言いなさい。なにか後ろめたいんだ」
「あれ、どうして、わかるんですか?」
「貴女の顔、見ていたらわかる」
「顔、見てないじゃないですか」西之園は言った。国枝はずっと前を向いたままだ。
「声で、顔がわかる」
「へえ……、相関係数がかなり落ちそうですね。それは」
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 相関係数は、2つのベクトルの内積をそれらの大きさの積で割ったものですから、2つのベクトルのなす角の余弦(cosθ)になります。-1≦cosθ≦1なので、1に近ければ相関係数は高く、-1に近ければ低いということになります。もう少し前後を読まないと分かりにくいかもしれませんが、ここでの「相関係数」という言葉の使い方はちょっとおかしいと思いました。「かなり落ちる」といっても-1より小さくはなりません。ここでは
「へえ……、私の声と顔は相関係数が高いんですね」
のほうが適切ではないでしょうか。
 φという文字がよく使われる例として、黄金比の値φ、オイラーのφ関数があります。大文字のΦは標準正規分布の累積分布関数としてよく使われます。酷似していますが、ロジスティック分布の累積分布関数はロジスティック関数になります。画像検索してみてください。
 また、"Phi"は米米CLUBの10枚目のアルバムのタイトルでもありますね。
 それにしてもこの小説の登場人物は、戸川(あさかわ)とか、加部谷(かべや)とか、海月(くらげ)とかで読みにくいです。

2012年5月6日

小説 永遠の0(ゼロ)

百田尚樹 2006年 太田出版

0 皇紀2600年
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なぜ「零戦」と呼ばれたか、ですか。
零戦が正式採用となった皇紀2600年の末尾のゼロをつけたのですよ。
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 「皇紀」は「神武天皇即位紀元」の略称で、神武天皇が即位したとされる年を元年とする年号であり、西暦+660年となります。したがって、皇紀2600年は西暦1940年(昭和15年)にあたります。
 数としての0の概念はインドで確立され、アラビアからヨーロッパに広まりました。日本では普通、自然数というと正の整数を意味し、0を含みませんが、0を含めて自然数とする場合もあります。0のもう一つの重要な役割は、位取り記数法で空位を示す記号として使われることです。このおかげで計算がずいぶん楽になっています。

2012年5月3日

小説 陽気なギャングが地球を回す

6÷3   a=b⇒2=1
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「6万円を3人の強盗で分けると2万円になる」
「割り算というのはギャングの分け前を計算するためのものなんだよ」
a=b
a^2=ab
a^2+a^2-2ab=ab+a^2-2ab
2a^2-2ab=a^2-ab
2(a^2-ab)=a^2-ab
2=1
「ゼロで割るってことはどういうことか」
「盗んだお金を誰も手に入れられないってことね」
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 「0で割ってはいけない」理由として、極限を考えるとか、解が存在すると矛盾がおこるとか、いろいろと形式的な解説はよくありますが素直に納得しにくいものです。実はこれらはすべて一貫した考えに基づけば簡単に説明できます。それは「何かを求めるために意味があるから計算をする」ということです。
 割り算には「等分除」と「包含除」2つの意味があります。「等分除」は、例えば6個の物を2人で分けるとか3人で分けるなど、文字通り「等分すること」です。ただしこれは割る数が自然数(正の整数)に限られます。一方「包含除」は、例えば6の中に1/2はどれだけ含まれているかというように、割る数がどれだけ割られる数に含まれているかという意味で、この場合は割る数が自然数とは限りません。
 0で割るということはこれら2つの意味の両方ともあてはまりません。0人で分けることもしないし、0がどれだけ含まれているかなど考える必要はないのです。だから「0で割れない、または割ってはいけない」のではなく、何かを求めるために意味のある計算として「0で割るということはしない」のです。

2011年12月27日

小説 天地明察


冲方 丁 2009年 角川書店

和算/算術/算学 関孝和 勾股弦

作品中に問題が3問あり、その都度先を読まずに解いてみました。

①辺の長さがが9, 12, 15の直角三角形に2点で内接する半径の等しい二つの円が互いに外接しているとき、円の直径を求める問題。

これは半径をr、一方の円の接線の長さをxとでもおいて連立方程式をつくれば正解の30/7はすぐに出たのですが、他サイトに他の解法がいろいろ紹介されていました。

②大正方形と小正方形が図のように重なっていて、2つの正方形の対角線の長さの比が30/7のとき、それぞれに内接する小円と大円が重なっている部分を図のように二等分する線分の長さを求める問題。

これは一見して2つの正方形の対角線の長さの比は√(2):1のはずなのでおかしいと思ったら、やはりその後に問題が間違っていたことが書かれていました。因みに√(2):1で計算すると、この長さは小円の半径を1とした場合、√(2)-1になります。ただこれは算術の名人に出すにはあまりにも簡単です。

③15個の大きさの異なる円があり、それらの周の長さはある数列になっていて、小さい順にa(1)からa(15)としたとき、a(1)+a(2)=10, a(5)+a(6)+a(7)=27.5, a(11)+…+a(15)=40のとき、a(1)を求める問題。

これは等差数列か等比数列かと思って解こうとしましたが正解が出ないので他サイトを検索してみたところ、この数列の一般項をnの2次式と置いて行列を用いて解いていました。ただし、この出典はある神社の算額に実際に書かれていた問題で、小説ではこの値を変えたものでした。ところがオリジナルの問題ではきちんと解が得られるのに、この小説で変えられた値で解くとうまくいかないようです。詳細はこちら。

映画では間違いがなければいいのですが。

2011年11月13日

小説 神様のカルテ

夏川草介 2009年 小学館

一+止=正 1+4=5
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(主人公の名前について)「一に止まると書いて、正しいという意味だなんて、この年になるまで知りませんでした。でもなんだかわかるような気がします。人は生きていると、前へ前へという気持ちばかり急いて、どんどん大切なものを置き去りにしていくものでしょう。本当に正しいことというのは、一番初めの場所にあるのかもしれませんね。」
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この意味についてとは断っていませんが、「一度止まって考えよ。そうすれば正しい答えが得られる。」という意味の内容を述べている部分もありました。
またこう考えることもできます。
1+4=5
漢字を使用する国で5ずつ数えるのに、「正」という字を書いていく方法はよく使われますが、これが画線法(かくせんほう)"Tally Marks"と呼ばれることはあまり知られていないようです。欧米ではI, II, III, IIIIの次に全体に斜線を入れて5を表し、南米ではまず口(四角)を書いてその中に斜線を入れて5を表すそうです。

2011年11月5日

映画 猿の惑星:創世記(ジェネシス) Rise of the Planet of the Apes

ハノイの塔 Tower of Hanoi (=Lucas Tower) 

薬剤の投与で賢くなった猿が「ハノイの塔」(映画の中ではLucas Tower)というパズルをすばやく仕上げる場面があり、ディスクが4枚のときの最小移動回数は15回という内容の台詞がありました。

n枚のディスクを移動させるには、n-1枚をまず他の場所に移動させて、次に最下部の1枚を目的の場所に移動させ、いったん移動させたn-1枚をもう一度最下部の上に移動させなければならないので、n枚のときの最小移動回数をa(n)とすると、
a(n+1)=a(n)+1+a(n) すなわち a(n+1)=2a(n)+1
という簡単な漸化式が成り立ちます。これを解くと、
a(n)=2^n-1
となるので、n=4の場合の最小移動回数は2^4-1=15となります。

余談ですが、猿の保護施設職員で猿をいじめる役があのハリーポッターのドラコ・マルフォイ役の俳優であることを知らなかったので、見ているときに気付いたときは驚きました。

2011年5月14日

小説 数学的にありえない

アダム・ファウファー 2005年 文藝春秋

確率論 誕生日問題
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「(60人の)このクラスに同じ誕生日の者が少なくとも2人以上いる確率は、99.4%ということになります」
「10人だったとしたら、…」「約12%です」
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n人の中に同じ誕生日の者が少なくとも2人以上いる確率Pは、
P=1-365!/(365^n*(365-n)!)
という式で求められますが、これを電卓に計算させようとするとOverFlowというエラーになるので、グラフ電卓でプログラムを作成して計算させました。

この講義の先生は「自分は60人のクラスに同じ誕生日の者が少なくとも2人以上いるほうに5ドル賭けようじゃないか。受けて立つかね?」といって自分は99.4%のほうに賭け、学生には0.6%のほうに賭けさせ、まんまと金を手にします。正解を知らない学生を相手にこんなことをするとはずるい先生です。

2011年5月1日

小説 パラドックス13 東野圭吾

パラドックス13
パラドックス
 パラドックス(paradox)はよく「逆理」と訳されますが、ここでは「数学的矛盾」と表されています。「数学的連続性」「論理数学的」という言葉も出てきますが、この話を読んでいる限りでは、「物理学的」とか「宇宙学的」と言った方が当てはまるような感じがしました。
 有名なもので、ラッセルの逆理(Russell's paradox)というものがあります。
 「『自分自身を含まない集合』全体の集まり」をSとする。Sも集合と考えると『自分自身を含まない集合』か『自分自身を含む集合』のいずれかである。
 ①Sが『自分自身を含まない集合』であるとする。自分自身を含まないのだからSはSを含まないはずである。しかし元々Sは「『自分自身を含まない集合』全体の集まり」だから『自分自身を含まない集合』Sを含むはずである。よって矛盾。
 ②Sが『自分自身を含む集合』であるとする。自分自身を含むのだからSはSを含むはずである。しかし元々Sは「『自分自身を含まない集合』全体の集まり」だから『自分自身を含む集合』Sを含まないはずである。よって矛盾。
 ①②のどちらを仮定しても以上のような矛盾が生じるので、「『自分自身を含まない集合』全体の集まり」Sを集合と考えることはできません。このような集まりはproper class(真類)と呼ばれています。

2011年4月25日

小説 暗号解読 サイモン・シン

素数 素因数分解 因数分解
現代社会でよく使われているRSA暗号は、大変大きな素数が使われています。例えば221は素数だと思いますか。実は合成数です。では何と何の素数の積でしょうか。正解は13×17です。このことは、素数2, 3, 5, 7, 11で割りきれないことを確かめ、13で割り切れることを確かめてからようやくわかることです。13×17=221は簡単に計算できますが、221が13×17であることはすぐに分かりません。このように大きい合成数の素因数分解がとても時間がかかるということを利用して暗号が作られているわけです。もちろん実際はもっとはるかに大きな素数の積が使われています。
 素因数分解や因数分解など、教科書で習う時に「こんなのどこで役に立つんだろう」と思いますね。実際、買い物をするときの計算では役に立たないわけですが、このおかげで私たちの個人情報などさまざまなものがセキュリティで守られているわけです。素因数分解や因数分解も実は実社会では有り難い存在なのですね。

2010年10月3日

小説 アイアンマン―トライアスロンにかけた17歳の青春

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 「こう考えてみたらどうだ? 数学の単位を取らずに高校を卒業することができないように、○○の単位を取らなきゃ□□は卒業できないってな。」
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 「○○をしなければ□□を終えることが出来ない」というための比喩として書かれています。別に数学でなくてもいいわけですが、やはり多くの人にとって数学は難しいという意識があるのでこんな表現になったものと思われます。
この応用編をひとつ。「こう考えてみたらどうだ? 数学の単位を取らずに高校を卒業することができないように、恋愛の単位を取らなきゃこどもは卒業できないってな。」
 数学とは関係ありませんが、「KY(空気が読めない)」と似た使い方で、「ヴォリュームはKIM(鼓膜いかれモード)にセットし、…」とあったので、これは日本語の省略ではないかと思って原文を探してみたら、「set the volume to OED (Optimum Eardrum Damage), ...」となっていました。翻訳者はうまく考えたものです。

2010年8月6日

小説 BORN TO RUN 走るために生まれた

二進法
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 本質的にウルトラマラソンとは、イエスかノーかで答える数百の質問からなる二進法の方程式だ。
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 超長距離のランニングでは、レース途中様々な問題で二者択一を迫られ、「ひとつ答えをまちがえただけでレースが台なしになる。」という意味で述べられています。
 二進法では、1+1=10となります。数字を0と1しか使わないので、0, 1の次は繰り上がって10になるというわけです。通常の10進法で0, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10は、二進法では0, 1, 10, 11, 100, 101, 110, 111, 1000, 1001, 1010になります。

2009年11月12日

小説 容疑者Xの献身

四色定理(四色問題) エルデシュ
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 ずんぐりした体型で、顔も丸く、大きい。そのくせ目は糸のように細い。頭髪は短くて薄く、そのせいで五十歳近くに見えるが、実際はもっと若いのかもしれない。身なりは気にしないたちらしく、いつも同じような服ばかり着ている。
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 このように原作の小説での数学の教師はダサく描かれてありましたが、映画ではけっこう二枚目の俳優が演じていました。しかもこの俳優は、ドラマ「やまとなでしこ」で数学者の役をしていました。このドラマに登場する数学についてはこちら

2009年11月10日

小説 ダ・ビンチ・コード

円周率π 黄金比φ フィボナッチ数列
 円周率をギリシャ文字π(PI)で表すのと同様に、黄金比の値もギリシャ文字φ(PHI)で表されます。主役の大学教授が黄金比についての講義をしていた場面で、数学専攻のある学生の台詞が次のように訳されていました。
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私立探偵(PI)と混同しないでくださいよ。僕ら数学をやっている者はよくこういうんです。黄金比(PHI)はHがあるおかげでPIよりずっと切れ者だってね!」
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 どうもこの訳はおかしいと思って原文を調べてみると、"PHI is one H of a lot cooler than PI!" となっていました。それなら「PHI(黄金比)はPI(円周率)よりHという文字がひとつ多い分だけカッコいいんですよ」というような意味なのではないかと思いました。
 同じ疑問を持った読者から、この部分は誤訳ではないかと指摘された訳者のコメントは以下の通りでした。
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 実は、この個所を訳していたとき、"PI"の意味が "私立探偵(Private Investigator)"なのか"π(pi)"なのかでかなり迷いました。私立探偵のほうを採用した理由は以下のふたつです。(1) 大文字で"PI"と書かれている場合、英語圏のミステリー小説の読者のほとんどは「私立探偵」の意味をまず思い浮かべる。(2) 「ファイはパイよりクールだ」という読み方は、たしかに語呂はいいが、ジョークになっていない。一方、私立探偵は"cool"(=かっこいい、切れ者)の代名詞と言ってもいいほどなので、そちらの意味にとれば気のきいたジョークになる。ただし、ここはアメリカ人でも意見が分かれるところかもしれません。また、作者はこの作品のいたるところで、ひとつの単語を二通りに解釈させるという技巧を使っており、この個所にも両方の意味をこめたのではないかと察せられます。その場合、翻訳小説においては、どちらか一方の意味を採用して、もうひとつの意味を切り捨てざるをえない場合もある、ということをどうかご理解ください。」(角川グループパブリッシングのホームページより)
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2009年11月9日

小説・映画 博士の愛した数式

オイラーの等式 ネイピア数 完全数 友愛数 他多数

数学ブームの火付け役になったという点で、総合すると小説も映画もいい作品です。が、少々気になる点があったので、それも見どころのひとつということで述べます。

まず映画のなかに$$\sqrt{1}=\pm1$$という誤解を招く表現があります。このミスをあとで試写会の時になってから気づいた監修の岡部恒治埼玉大学教授が、その話を雑誌「数学セミナー」2006年2月号で語っています。中学校の数学の先生になった「ルート」君が授業をしているシーンにありますので注目してください。

一般に「オイラーの公式(Euler's formula)」は$$e^{iθ}=\cosθ+i\sinθ$$をいうので、それに$θ=π$を代入して得られる等式$$e^{iπ}=-1$$を「オイラーの公式」と呼んでいるのが気になります。

最も小さい「完全数」は6です。6以外の約数1、2、3を加えると6になります。プロ野球「阪神タイガース」の背番号6番といえば1981年に打率.358で首位打者を獲得した藤田平を思い出す人も多いでしょう。個人の好みで言うと、派手な江夏より地味な藤田を取り上げてほしかったと思います。

小説では江夏のカードを探す場面が間延びして冗長な感を受けますが、映画ではその場面はなく、あっさりと仕上がっています。ただ、博士と義姉が能を鑑賞しながら手をつないでいる場面は小説にはなく、不要に思いました。

(追記)その後、地上波TVで放映された映画では、能を鑑賞するシーンは削除されていました。