Tuesday 16 April 2019

小説 珈琲店タレーランの事件簿 5

2016年 岡崎琢磨著 宝島社

組み合わせ

理想の珈琲を追い求める青年アオヤマが,偶然入った京都の珈琲店「タレーラン」で,長年追い求めていた理想の珈琲と出会う.その珈琲をいれる魅惑的な女性バリスタ,切間美星が,次々と店に持ち込まれる謎を鮮やかに解き明かしていくという話です.
「これは ...... 源氏香? 」
「組香といって、 江戸時代に成立した競技だね。まず、五種類の香木をそれぞれ紙で包んだものを、五包ずつ計二十五包、用意する。その中から無作為に選んだ五つの包みを順番に焚いて、においを嗅いでいく。そして一番目から五番目の包みのうち、どれとどれのにおいが同じか、もしくは違うかを判定する。すべて違う、一番目と二番目だけが同じ、一番目と二番目と三番目が同じで四番目と五番目が同じ、すべて同じ、……、組み合わせは全部で五二通りあって、 これに源氏物語全五十四帖のうち第一話の『桐壺』と第五十四帖の『夢浮橋』を除いた五十二の巻名がつけられているんだよ」
Wikimedia Commons
この組み合わせが52通りであることを確認してみましょう.右図はすべての組み合わせを表しています.縦線が回を表し,横線でつながっている回が同じにおいという意味です.上の説明では,「すべて違う、 一番目と二番目だけが同じ、一番目と二番目と三番目が同じで四番目と五番目が同じ、すべて同じ、……、」と4種類のパターンが述べられていますが,実際は7種類のパターンがあります.

①すべて違う Pattern(1,1,1,1,1)(右図最上図)
 5つのにおいから5つ選ぶので,5C5=1通り
②2つ(1ペア)が同じであとの3つが違う Pattern(2,1,1,1)(右図紫色を含む図)
 5回のうち同じにおいになる2回を選ぶので,5C2=10通り
③3つが同じであとの2つが違う Pattern(3,1,1)(右図緑色を含む図)
 5回のうち同じにおいになる3回を選ぶので,5C3=10通り
④2つと2つ(2ペア)が同じであとの1つが違う Pattern(2,2,1)(右図橙色茶色を含む図)
 これは同じものを含む順列$\frac{5!}{2!2!1!}$=30かなと考えてしまいそうですが,例えばaabbcとbbaacはどちらも「あるにおいが2回続き,次に前の2回と異なるにおいが2回続き,最後に前の4回と異なるにおいになる」という意味では,aとbを入れ替えたものも同じと考えられるので,30/2=15通りになります.
⑤4つが同じであとの1つが違う Pattern(4,1)(右図赤色を含む図)
 5回のうち同じにおいになる4回を選ぶので,5C4=5通り
⑥3つが同じであとの2つが同じ Pattern(3,2)(右図緑色紫色を含む図)
 5回のうち同じにおいになる3回(または2回)を選ぶので,5C3=5C2=10通り
⑦5つが同じ Pattern(5)(右図最下図)
 5回のうち同じにおいになる5回を選ぶので,5C5=1通り
以上①~⑦を合計すると52通りになります.

因みにこの数は,n個のものを分割する方法の総数,ベル数(Bell number) Bn の5番目の数B5にあたります.つまり,この源氏香の組み合わせは,5個のものを分割する方法の総数と等しいということになります.

[Reference]

コトバンク 源氏香
https://kotobank.jp/word/%E6%BA%90%E6%B0%8F%E9%A6%99-492071

Wikimedia Commons Genji chapter symbols groupings of 5 elements
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Genji_chapter_symbols_groupings_of_5_elements.svg

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