2025年6月10日火曜日

ドラマ あんぱん 第5週 25話

2025年 NHK

因数分解

漫画「アンパンマン」の作者やなせたかしと、妻の暢(のぶ)夫婦をモデルにしたドラマです.たかしが受験した東京高等藝術學校の入試で次の問題が出題されていました.

(1) 以下ノ數式ヲ因數分解セヨ.
 $4x^3+4y^3+4z^3-12xyz$


ふつう第1問目はそんなに難しいはずがないので,公式を当てはめるだけで正解できる問題ではないかと思います.公式は$$x^3+y^3+z^3-3xyz=(x+y+z)(x^2+y^2+z^2-xy-yz-zx)$$ですが,出された問題はこの公式の4倍なので,正解は$$4x^3+4y^3+4z^3-12xyz=4(x+y+z)(x^2+y^2+z^2-xy-yz-zx)$$となります.

の時代(1930年代)はこれを覚えていて当たり前だったのでしょうか.この公式は現在(2025年)の高校数学の教科書では扱われていないので,まともに解くと少し面倒です.公式を証明してみましょう.途中で次の式変形を使います.$$x^3+y^3=(x+y)^3-3xy(x+y)\tag{1}$$ $$x^3+y^3=(x+y)(x^2-xy+y^2)\tag{2}$$証明を始めます.
\begin{eqnarray} x^3+y^3+z^3-3xyz &=& (x+y)^3-3xy(x+y)+z^3-3xyz\tag{1より}\\ &=& (x+y)^3+z^3-3xy(x+y)-3xyz\\ &=& (x+y+z)\{(x+y)^2-(x+y)z+z^2\}-3xy(x+y+z)\tag{2より}\\ &=& (x+y+z)(x^2+2xy+y^2-zx-yz+z^2-3xy)\\ &=& (x+y+z)(x^2+y^2+z^2-xy-yz-zx) \end{eqnarray}

暗黙の了解で実数の範囲まで因数分解しましたが,後ろの(    )内の2次式をさらに複素数の範囲まで1次式の積に因数分解できます(代数学の基本定理).まず$x$について降べきの順にします.$$x^2+y^2+z^2-xy-yz-zx=x^2-(y+z)x+y^2+z^2-yz$$これを$(x-\alpha)(x-\beta)$とするために,$x$についての2次方程式 $x^2-(y+z)x+y^2+z^2-yz=0$ を解きます.解の公式を使って,
\begin{eqnarray} x&=&\frac{(y+z)\pm \sqrt{(y+z)^2-4(y^2+z^2-yz)}}{2}\\ &=&\frac{(y+z)\pm \sqrt{-3(y-z)^2}}{2}\\ &=&\frac{(y+z)\pm (y-z)\sqrt{3} i}{2}\\ &=&\frac{1\pm \sqrt{3} i}{2}y+\frac{1\mp \sqrt{3} i}{2}z\\ \end{eqnarray}
これが$\alpha$と$\beta$になりますから,
\begin{eqnarray} x^3+y^3+z^3-3xyz&=&(x+y+z)\left( x-\frac{1\pm \sqrt{3} i}{2}y-\frac{1\mp \sqrt{3} i}{2}z \right)\\&=&(x+y+z)\left(x+\frac{-1\mp \sqrt{3} i}{2}y+\frac{-1\pm \sqrt{3} i}{2}z\right)\\ \end{eqnarray}この$y$と$z$の係数は,1の虚数3乗根 $\omega$ と $\omega^2$ になるので,これを使って次のようにすっきりと表すこともできます.$$x^3+y^3+z^3-3xyz=(x+y+z)(x+\omega y+\omega^2 z)(x+\omega^2 y+\omega z)$$これはさらに3次方程式の解の公式(カルダノの公式)を求めるのに応用されています.

[参考]
カルダノの公式、フェラーリの公式