2025年1月19日日曜日

小説 探偵の探偵

松岡圭祐 2014年 講談社

正多面体 確率

ストーカーとそれに協力した悪徳探偵のために命を落としてしまった妹のために,探偵の探偵を目指す主人公の紗崎玲奈が,探偵学校「スマPIスクール」経営責任者の須磨康臣から講義を聞く場面です.
正多面体といえば無限に存在するように思えるが、実際には四面体、六面体、八面体、十二面体、二十面体の五つしかない。これ以上には存在しないことも証明されている。探偵業も同じだ。際限なく可能性があると考えられる場合でも、きっと絞り込める」 (P26)


正多面体が5つしかないことの証明は,漫画「はじめアルゴリズム」で紹介しましたのでそちらを読んでください.もうひとつ,玲奈が悪徳「藪沼探偵事務所」のペテンを暴く場面です.

「別れさせ屋を謳ってるけど業務の実態はない。工作員なんてひとりもいない。依頼を受けて二、三ヵ月後に工作完了の連絡を寄こし、請求書を送りつけるだけ。どうせカップルが別れるかどうかなんて五分五分だし」
「あいにくだな。いまお客さんにも説明してたとこだ。うちは依頼料の十万円に対し、工作が不成功に終わったら十五万円をかえす契約でね。健全そのものなんだ」 (P216)
玲奈は女性客に目を向けた。「お名前は?」
女性客がびくつきながら応じた。「希美」
「希美さん。男女がほっといても自然に別れる確率は二分の一。あなたのほか、別の人からも藪沼に依頼があったとして、両方のカップルとも別れる確率は四分の一。藪沼は二十万の儲けになる。どちらか一方だけでも別れれば、藪沼は五万円の儲け。損をするのは両方別れなかった場合のみ、十万のマイナスになるけど、確率は四分の一。藪沼は二分の一どころじゃなく、四分の三の確率で利益を出してる。なにもせずに」 (P217)
「男女がほっといても自然に別れる確率は二分の一」 という前提が正しいのかどうか議論の余地はありそうですね.期間にしても1か月以内なのか,1年以内なのかでも大きく結果が異なりそうです.

とりあえず「別れる確率は二分の一」 と仮定した場合,2組のうち別れさせるのに成功した場合を〇,失敗した場合を×とすると,その確率と利益は次のようになります.
   〇〇        1/4    10+10=20万円
   〇×または×〇  2/4=1/2     10+10-15=5万円
   ××       1/4    10+10-15-15=-10万円
なので,1/4の確率で利益は20万円,1/2の確率で利益は5万円となり,確かに「四分の三の確率で利益を出してる」ことになります.このときの期待値(1組当たりの利益の平均)は,(利益)×(その確率)の総和になるので,20×1/4+5×1/2+(-10)×1/4=5万円になります.

1組の場合の期待値は,10×1/2+(10-15)×1/2=2.5万円なので,$n$組の場合だと$2.5n$万円になるでしょうか.検証してみましょう.まずその準備として$_nC_r=\binom{n}{r}$と書くと,次の2式が成り立つことを確認しましょう.$$\sum_{r=0}^n\binom{n}{r}=2^n \tag{1}$$$$\sum_{r=0}^n r\binom{n}{r}=n2^{n-1} \tag{2}$$

等式(1)は$(1+x)^n=\sum_{r=0}^n\binom{n}{r} x^r$に$x=1$を代入すると求まります.等式(2)は(1)を$x$で微分して同じことをすると求まります.よって,期待値は次のように求められます.\begin{eqnarray}\displaystyle\sum_{r=0}^n\binom{n}{r}\left(\frac{1}{2}\right)^n (10n-15r) &=& \frac{1}{2^n}\displaystyle\{10n\sum_{r=0}^n\binom{n}{r}-15\sum_{r=0}^{n} r \binom{n}{r}\} \\&=& \frac{1}{2^n}\displaystyle\{10n\cdot2^n-15\cdot n2^{n-1}\}\\&=& 10n-\frac{15}{2}n\\&=&\frac{5}{2}n\end{eqnarray}ということで,$n$組の場合の期待値は$2.5n$万円になることが分かりました.

0 件のコメント:

コメントを投稿