2025年1月28日火曜日

小説 スピノザの診察室

夏川草介 2023年 水鈴社

幾何学 三角形 内角

妹が若くして亡くなり,残された甥の龍之介を育てながら町中の病院で終末医療に取り組む優秀な内科医雄町哲郎の話です.
哲郎は軽く額に指を当てた。
「どんなに意志が強い人でも、幾何学平面上の三角形の内角の和を、200度にすることはできない」
突拍子もない話に龍之介は目を丸くする。(P216)
ユーックリッド幾何,すなわち常識的な空間の幾何学では三角形の内角の和は180°と決まっているので,「どんなに意志が強い人でも」 200°にすることはできませんが,非ユーックリッド幾何学のひとつである球面幾何学では,三角形の内角の和は180°より大きくなります.例えば球面三角形の3頂点が,地球の赤道上で$\frac{1}{4}$周離れた2点と北極点だとすれば,角A=B=C=90°になるので内角の和は270°になります.


半径を$r$とすれば球面全体の面積は$4\pi r^2$なので,それに$\frac{90}{360}=\frac{1}{4}$を掛けると,スイカを食べた後の皮の形(球面二角形とか球面月形とかいいます)

の面積は$\pi r^2$になり,さらにこれの真ん中を切ると球面三角形になって,その面積は$\frac{1}{2}\pi r^2$になります.

この方法で内角の和が200°の球面三角形の面積を求めてみましょう.上の球面三角形で角A=20°とすれば内角の和が200°になりますから,その面積Sは次のようになります.$$S=4\pi r^2\times\frac{20}{360}\times\frac{1}{2}=\frac{1}{9}\pi r^2$$

実は球面三角形の面積を求める公式があって,その面積Sは次式になります (角度の単位はラジアン(=rad)).$$S=\{ (A+B+C)-\pi \} r^2$$内角の和が$200°=\frac{10}{9}\pi$ (rad) の場合,この公式では次の値になります.確かに上の計算結果と一致しますね.$$S=\left( \frac{10}{9}\pi-\pi \right) r^2=\frac{1}{9}\pi r^2$$

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