哲郎は軽く額に指を当てた。「どんなに意志が強い人でも、幾何学平面上の三角形の内角の和を、200度にすることはできない」突拍子もない話に龍之介は目を丸くする。(P216)
小説,映画,ドラマ,漫画,アニメなどの物語の中に数学の話題が登場したとき,その内容・背景をさらに詳しく知ることができればもっと楽しむことができます.そんな場面に出会ったとき,ここに詳しい解説や関連する話題等を書き留めています.(数式にTexのコマンドが使えるMathjaxを利用しています)
2025年1月28日火曜日
小説 スピノザの診察室
2025年1月19日日曜日
小説 探偵の探偵
「正多面体といえば無限に存在するように思えるが、実際には四面体、六面体、八面体、十二面体、二十面体の五つしかない。これ以上には存在しないことも証明されている。探偵業も同じだ。際限なく可能性があると考えられる場合でも、きっと絞り込める」 (P26)
正多面体が5つしかないことの証明は,漫画「はじめアルゴリズム」で紹介しましたのでそちらを読んでください.もうひとつ,玲奈が悪徳「藪沼探偵事務所」のペテンを暴く場面です.
「別れさせ屋を謳ってるけど業務の実態はない。工作員なんてひとりもいない。依頼を受けて二、三ヵ月後に工作完了の連絡を寄こし、 請求書を送りつけるだけ。どうせカップルが別れるかどうかなんて五分五分だし」 「あいにくだな。いまお客さんにも説明してたとこだ。うちは依頼料の十万円に対し、工作が不成功に終わったら十五万円をかえす契約でね。 健全そのものなんだ」 (P216) 玲奈は女性客に目を向けた。「お名前は?」女性客がびくつきながら応じた。「希美」「希美さん。男女がほっといても自然に別れる確率は二分の一。あなたのほか、別の人からも藪沼に依頼があったとして、 両方のカップルとも別れる確率は四分の一。藪沼は二十万の儲けになる。どちらか一方だけでも別れれば、 藪沼は五万円の儲け。損をするのは両方別れなかった場合のみ、 十万のマイナスになるけど、確率は四分の一。藪沼は二分の一どころじゃなく、 四分の三の確率で利益を出してる。なにもせずに」 (P217)
2025年1月9日木曜日
小説 葉桜の季節に君を想うということ
利息 年利
元私立探偵の成瀬将虎が,悪質な霊感商法業者の保険金詐欺について調査を依頼され奮闘する話です.高額な布団や健康食品を売りつける悪徳商法に騙された節子の借金が膨大になっていく様子を語る場面です.
トイチとは、融資の条件が十日で一割の利息ということである。百万円を借りると、十日後に返済するにしても百十万円。年利に換算すると三〇〇パーセント超。法定金利の上限は約四〇パーセントである。
このような超高利貸しを利用すれば結果は目に見えている。利子さえ払えず、借金はみるみる膨らみ、ますます返済が難しくなる。すると、別の金融業者から金を借りてくることで、最初の金融業者への借金を見かけ上返済するよう強要される。この新しい金融業者が輪をかけての悪徳で、トイチならぬ、トニ、トサンで貸し付ける。十日で二割、三割の利息を取るのだ。節子が一千万単位の借金を背負うのにそう時間はかからなかった。
トイチを「年利に換算すると三〇〇パーセント超」とありますが,10日で1割の利息なので365日なら,
●単利の場合,年利は0.1×36.5=3.65=365%
●10日ごとの複利の場合,1.1倍の36.5乗は32.42倍になって年利は31.42=3142%
なので,ここでは単利の方の年利のことを言っていると思われます.
金利の上限は法律で決まっていて,元金が10万円未満の場合,2000(H12)年までは40%,それから2010(H22)年までは29%,それ以降は20%になっています.ここでは「約四〇パーセントである」とありますが,この小説の初版発行が2003年なので,執筆中はまだ2000年までの情報(40%)だったのではないかと思われます.どちらにしろ,トイチの金利は法定上限金利を大幅に上回っていますから,公序良俗違反として無効になるそうです.
法律上,借金の元利合計が期日までに返済できないと,遅延損害金も追加されます.その計算式は次式になりますが,
(返済期日の元利合計)×(遅延損害金の利率)×(遅れた日数)÷ 365日
法定上限金利を守らないような悪徳金融業者が,法を守れといって遅延損害金まで請求するなんてことはしないと思われます.
ではその前提で「節子が一千万単位の借金を背負う」のにかかった時間を推測してみましょう.仮に100万円借りたとします.単利のトイチで1年後返済の契約で借りると,
100万×3.65=365万
「最初の金融業者への借金を見かけ上返済する」 ため,「輪をかけて悪徳な新しい金融業者」からトニで365万円を1年借りると
365万×3.65×2=2664.5万
1000万を超えるのはこの間なので,期間4か月と5か月を計算すれば,
365万×3.65×2×4/12≒888万
365万×3.65×2×5/12≒1110万
となりますから,1年半立たずして100万円の借金が1000万円を超えるということになります.
これをもし10日ごとの複利で計算したら,
1.1倍の24乗で約9.8倍
1.1倍の25乗で約10.8倍
つまり1年目の250日までに10倍の1000万円を超えてしまいます.恐ろしいですね.
単利(青)と複利(緑)増え方の違い |
[参考]