Saturday, 10 March 2018

小説 人魚姫の椅子

2016年 森晶麿著 早川書房

小説を書くのが好きな高校生海野杏(あん)と,そのクラスメイトで椅子職人を目指す五十鈴彗斗(すいと)は毎日少しだけ話をする仲.ある日,2人の同級生で杏の親友である若槻翠(みどり)の失踪事件が起こり,驚くべき真相が明かされていくという話です.

小数点以下切り上げ
彼自身は(練習を)三回に一回はサボっている。が、それを指摘すると「俺は毎回来とる」と主張する。小数点以下はすべて繰り上げてしまうタイプなのだ。
天井関数 (www.mathwords.com)
「繰り上げ」というのは一度決まった順位を後になって上げることをいうので,ここでの正しい表現は「小数点以下はすべて切り上げてしまう」ですね.「3回に2回は出席している」ということなので,2/3=0.6666...となり,小数第3位を切り上げれば0.67=67%になりますが,小数点以下を切り上げると1,すなわち出席率100%となって「俺は毎回来とる」という理屈になるのでしょう.

ところで,小数点以下を切り上げる関数を天井関数(ceiling function)といい,$y=\lceil x\rceil$と表します.例えば$\lceil 1.3\rceil=2$,$\lceil \frac{2}{3}\rceil=1$,$\lceil -0.8\rceil=0$となるので,右図のような階段状のグラフになります.各線分の右端の点は含まれ,左端の点は含まれません.

床関数 (www.mathwords.com)
これに対し,小数点以下を切り捨てる関数は床関数(floor function)といい,$y=\lfloor x\rfloor$と表しますが,日本の高校数学の教科書ではガウスの記号といって$y=[x]$と表し,「xを超えない最大の整数」という説明になっています.例えば$\lfloor 1.3\rfloor=1$,$\lfloor \frac{2}{3}\rfloor=0$,$\lfloor -0.8\rfloor=-1$となるので,これも右図のような階段状のグラフになりますが,各線分の左端の点は含まれ,右端の点は含まれません.

このように端数の処理をすることを「丸める(round)」ともいいます.小数点以下を四捨五入(round half up)する関数を丸め関数と呼ぶ場合もありますが,一般に「丸める」というと天井関数や床関数も含み,さらに異なる位の四捨五入もあるうえ,他にも「五捨五超入」や「偶数丸め」などいくつかの方法が含まれます.

ベクトル
波の音が変わったのだ。波の音は変わりやすい。水と水のベクトルの違いが生む無益な争いの結果、潮の流れが微かに変わるタイミングなのか、それとも遠くで巨大なシャチが跳ねたせいなのか。
ベクトルといえば向きと大きさのある量なので,一般の文章でベクトルを「方向」や「進路」という意味だけに使われているときは少し違和感を感じます.しかし,ここでは水の流れを方向も強さもあるものとして扱っているので,上の表現は適切だと思います.

数学の時間
――杏ちゃん、明日は数学のある日やね。寝たらあかんよ。
笑った顔でそう言ったはずが、翠の母親は泣きだしていた。
きっと、(失踪した)翠が家で、わたしが数学の時間になると居眠りすることを面白おかしく話していたのだろう。
はい、と答えるのが精一杯だった。
「数学の授業は眠い」というのは定番なんでしょうか.このような話はよく聞きますね(笑).

[Reference]
Ceiling Function
http://www.mathwords.com/c/ceiling_function.htm
Rounding
https://en.wikipedia.org/wiki/Rounding

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