指数関数・対数関数
テレビ番組「ちちんぷいぷい」で桜の開花日を予想する数式が登場しました.
数式を考察する前に,次の基本事項を押さえておきましょう.
①桜は夏に花芽(かが)ができ,休眠を始める.
②秋冬の気温の影響を受けながら休眠した後,冬のある日に休眠から覚める(「休眠打破」という).
③花芽は休眠打破の後,寒ければ小さく,暖かければ大きく生育し、ある生育量に達すると開花する.
番組では「AI技術 VS 気象予報士」という設定で,どちらがより正確に開花日を予想するかを勝負するというものでしたが,よく調べてみたら,どちらも大阪府立大学の教授らによって考えられた数式が元になっていて,それに他の要素を加味して補正することで予想に違いが出ることが分かりました.
番組で登場した数式 (1) |
式中に登場する温度(単位:K)は絶対温度=摂氏温度+273.2という値になります.従って,絶対温度の288.2Kは摂氏でいうと15°Cになります.以下はその教授らの論文からの抜粋です.
温度変換日数(DTS = the number of days transformed to standard temperature)とは,ある一定の温度条件で1日間置かれたときの植物の生育過程が,あらかじめ決められた標準温度$T_s$(K)の下での条件に変換すると何日分の生育過程に相当するかを表す指数である。日平均気温が$T_{ij}$(K)であるi 年のDOY=day of year(または通日)j における温度変換日数$(t_s)_{ij}$(日)は,以下の式のように表すことができる。$$(t_s)_{ij}=\exp \left\{ \frac{E_a(T_{ij}-T_s)}{R\ T_{ij}\ T_s} \right\} \tag{2}$$ここで$E_a$は生育の温度に対する応答の特性を代表する温度特性値(J mol-1),$R$ は普遍気体定数(8.314 J mol-1 K-1)である。本研究では,青野・守屋(2003)にならい,標準温度$T_s$を15℃(288.2 K),$E_a$を70 kJ mol-1 として,ソメイヨシノの開花日の推定モデルに一貫して使用した。
開花日の推定の際には,地点ごとに定められた適切な起算日$D_2$から式(2)の$(ts)_{ij}$を積算し始め,その値があらかじめ定められた特定の値23.8($DTS_2$)に達した日を推定開花日とする。起算日$D_2$は3つの地理的・環境的変数を使って,比較的簡単に地点ごとに計算できる。起算日$D_2$は次の式(3)で推定される。
$D_2=136.765-7.689Ψ+0.133Ψ^2\\ \hspace{ 40pt } -1.307\ln L+0.144T_F+0.285{T_F}^2 \tag{3}$
ここでΨは緯度(°N),Lは海岸からの距離(km),TFは1, 2, 3 月の平均気温の平年値(℃)である。なお,海岸沿いの地点の場合,Lには1kmを適用する。なぜ海岸沿いなのに1kmを適用するのかというと,式(3)のlnLは自然対数logeLを表しますから,Lが1未満だとlnLの値は急激に$-∞$に向かい,現実的でないからだと思われます.さて,式(1)を簡単にすると,$$\exp \left \{ \frac{9500(t-288.2)}{288.2t} \right \}$$
式(2)に定数を代入し,$T_{ij}$をtで表すと, $$\exp \left \{ \frac{8420(t-288.2)}{288.2t} \right \}$$となります.分子の係数が,式(1)は9.5×103=9500,式(2)は70000/8.314≒8420なので少し異なりますね.
この式で休眠打破(起算日)後の1日当たりの生育量を求め,積算して23.8になった日が開花日になります.極端な例でいうと,起算後の毎日の平均気温がずっと15℃だったら23.8日後に開花するということになります.この23.8という値は大量の過去のデータをもとに算出されたものだそうです.
この番組の最後に,勝負に負けた方からの面白いコメントがありました.「桜の気持ちもありますからね」
[Reference]
自発休眠期の気温を考慮したソメイヨシノの開花日の簡便な推定法
青野靖之・村上なつき(2017年)
さくら開花予想方法について
気象庁
桜の開花予想、国が認めた“魔法の公式”
https://withnews.jp/article/f0180319001qq000000000000000W08e10701qq000016960A
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