Sunday, 31 December 2017

小説 ノーゲーム・ノーライフ 1

2012年 榎宮祐著 KADOKAWA発行

確率

ゲーマーの兄妹,空(そら)と白(しろ)が,すべてがゲームで決まるという異世界で奮闘するというライトノベルです.  
「ロ、ロイヤルストレートフラッシュだぁーーッ!?」
最強の手札を,おくびに出すこともなく揃えた青年に、男が立ち上がり吠える。
「て、てめえ、イカサマじゃねぇかっ!?」
空「えーおいおい失敬な……何を根拠に?」
ヘラヘラと、椅子を引いて立ち上がる青年に、なおも追いすがる男。
「ロイヤルストレートフラッシュなんて、65万分の1の確率、そうそう出るかっ!」
空「今日がたまたまその65万回目のアタリ日だったんだろ、運が悪かったね、おっさん」
ロイヤルストレートフラッシュは,カードゲームのポーカーにおける最も強いハンド(役)で,同じスート(スペード,ハート,ダイヤ,クラブ)の絵札A, 10, J, Q, Kを揃えるものです.1回のディール(カードを配る事)でこの役ができる確率を確認しましょう.52枚から特定の5枚が選ばれる確率は1/52C5であり,スートは4種類あるのでこの値を4倍すると,(1/52C5)×4=(1/2598960)×4=1/649740となり,約65万分の1ということになります.
空「普通のジャンケンじゃあない――いいか? 俺はパーしか出さない」
ステファニー「は?」
空「俺がパー以外を出したら『俺の負け』……だが、パー以外の手を出しておまえに勝ったら、お前も負けだからこの場合『引き分け』――もちろん、パー以外を出してあいこになったら『俺の負け』だ」
 
彼がパー以外、負けというなら、私が出す手の勝率は――
グー: 2勝1敗。チョキ: 2勝1分。 パー: 1勝2分――となる。
さらっと読んだだけではこの勝率は分かりにくかったので下の表をつくってみました.引き分け狙いの空に対して,ステファニーは考えに考えたあげくチョキを出しましたが,空はグーを出したので結局引き分けになってしまいました.
普通のジャンケンではなく,新たにルールを考える.正解のない問いがここにもあると思いました.

Saturday, 2 December 2017

映画 gifted/ギフテッド

このブログの100作品目です!

2017年 監督: Marc Webb 脚本: Tom Flynn

ガウス積分

亡き姉の子で数学の才能を持つメアリーを育てているフランクは,母から彼女に英才教育を受けさせるよう勧められますが,彼女を普通に育てようとして奮闘する話です.

大学の講義室の黒板に次の内容が書かれてあり,メアリーが間違いを指摘します.
Problem
Show that $\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{x^2/2\sigma^2}dx=\sqrt{2\pi}|\sigma|$
Hint: First show that
$\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\int_{-\infty}^{\infty}e^{(x^2+y^2)/2\sigma^2}dxdy=2\pi\sigma^2$ 
メアリー「You forgot the negative sign on the exponent.(指数に-をつけるの忘れてる)」
シーモア「Mary, why didn't you say anything?(メアリー,どうして言わなかったの?)」
メアリー「Frank says I'm not supposed to correct older people. Nobody likes a smart-ass.(フランクが年上の間違いを正すなって.嫌われるから)」
最後の"smart-ass”は字幕にありませんでした.直訳すると「賢い尻」ですが,「知ったかぶり」というような意味です.

メアリーは最初の式の $\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{x^2/2\sigma^2 }dx$ に-を付け足して $\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2/2\sigma^2}dx$ に訂正していましたが,その下の式の中の$(x^2+y^2)$の前にも-が必要です.

ガウス積分
この証明すべき等式で$\sigma=\frac{1}{\sqrt{2}}$のとき,すなわち$$\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2}dx=\sqrt{\pi}$$をガウス積分といい,関数$y=e^{-x^2}$とx軸とで挟まれる部分の面積が$\sqrt{\pi}$=1.77245であることを示しています.この証明は他のサイトでも見つかりますが,この映画に出てきた$\sigma$のついたままの等式の導出を確認してみましょう.

z=exp(-(x^2+y^2))
求める積分の値を $I=\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2/2\sigma^2}dx$ とおき,$I=\sqrt{2\pi}|\sigma|$を示します.
\begin{align}
I^2&=\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2/2\sigma^2}dx\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2/2\sigma^2}dx\\
&=\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2/2\sigma^2}dx\int_{-\infty}^{\infty}e^{-y^2/2\sigma^2}dy\\
&=\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\int_{-\infty}^{\infty}e^{-(x^2+y^2)/2\sigma^2}dxdy
\end{align} このとき,$I^2$は右上図の盛り上がった曲面とxy平面で挟まれた部分の体積を表しています.ここで $x=r\cos\theta$,$y=r\sin\theta$ と置換すると,\begin{align}
I^2&=\displaystyle\int_{0}^{\infty}\int_{0}^{2\pi}e^{-r^2/2\sigma^2}rd\theta dr\\
&=2\pi\displaystyle\int_{0}^{\infty}e^{-r^2/2\sigma^2}rdr\\
&=2\pi \left[ -\sigma^2 e^{-r^2/2\sigma^2} \right] _0^{\infty}\\
&=2\pi\sigma^2
\end{align}よって,この等式を示すことができました.$$I=\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2/2\sigma^2}dx$=\sqrt{2\pi}|\sigma|$$ところでこの式は,平均0で標準偏差$\sigma$の正規分布(ガウス分布)の$\sqrt{2\pi}|\sigma|$倍を表す式になっています.これを,平均μ,標準偏差σの正規分布を表す式に変形してみましょう.

平均0で標準偏差1の標準正規分布
まず,確率密度関数の-∞から∞までの積分は1にならなければいけないので,両辺を$\sqrt{2\pi}|\sigma|$で割ります.$$\frac{1}{\sqrt{2\pi}|\sigma|}\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2/2\sigma^2}dx=1$$これを平均μになるように平行移動すると,$$\frac{1}{\sqrt{2\pi}|\sigma|}\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-(x-\mu)^2/2\sigma^2}dx=1$$となり,平均μで標準偏差σの正規分布を表す式に変形できました.

Wednesday, 15 November 2017

ドラマ 相棒 season16 第4話

2017年11月8日放送 テレビ朝日

Φ オイラーの関数 zero slash 漸化式 二重積分 確率

数学の才能を持つコンビニ店員の若い男(健次郎)が,大学入試問題漏洩に関与させられたあげく殺されてしまった事件の謎を,杉下右京が解き明かすという話です.

漸化式の解法

健次郎がニセ学生となって講義を聴き,終了後,教授に質問をする場面です.
「この証明,別の方法もあると思うんです.僕ちょっと考えたんですけど,まずですね,両辺を$(-1)^{n+1}$で割るんです.そうするとこれ,ただの等差数列になるんです.」 
この場面では数学に関する台詞はこれだけでした.別解を考えついて正しいかどうかを確認しに来たものと思われます.これは漸化式の解法のひとつです.注意深く録画したビデオを見てみると,板書には,漸化式から一般項を推測し,それを数学的帰納法で証明する解答が書かれてありました.その板書の一部は次の通りです.
$a_1=1, \space \space a_{n+1}=-a_n+(-1)^n$ 
$a_1=1, \space \space a_2=-2, \space \space a_3=3, \space \space \cdot \cdot \cdot \cdot, \space \space a_n=n \cdot (-1)^{n+1}$
実際にこの漸化式の両辺を$(-1)^{n+1}$で割ると,$\frac{a_{n+1}}{(-1)^{n+1}}=\frac{a_n}{(-1)^{n}}-1$となります.すると数列$\lbrace{\frac{a_n}{(-1)^{n}}}\rbrace$は,初項${\frac{a_1}{(-1)}}=-a_1=-1$,公差$-1$の等差数列となり,$\frac{a_n}{(-1)^{n}}=-1+(n-1)\cdot(-1)=-n$なので,一般項は$a_n=-n\cdot(-1)^n=n\cdot(-1)^{n+1}$と分かります.

受験生にはよく知られた解法ですが,仮に未習だったとしても,教授が「驚きました.彼は,我々には考えつかないユニークな発想を持っていたんです.」と言っていたのは少しオーバーな気がしました.

積分順序の交換

健次郎が二重積分の問題を解くシーンがありました.
$I=\displaystyle \int_0^{2a} dx \displaystyle \int_{\sqrt{2ax-x^2}}^{\sqrt{4ax}}f(x,y)dy$ 
の積分順序を交換せよ
これは,$I=\displaystyle \int\int_D f(x,y)dydx$(Dは右図の放物線と円と直線x=2aで囲まれた領域)とも書けます.先にyで積分してx軸に垂直な切り口を求め,それをxで積分して,領域Dと曲面z=f(x,y)に挟まれた部分の体積を求める式ですが,積分順序の交換だけなので$f(x,y)$は何でもOKです.

この手順を交換するのですから,先にxで積分してy軸に垂直な切り口を求め,それをyで積分する式をつくるとこのようになります.
$\displaystyle \int_0^a\int_\frac{y^2}{4a}^{a-\sqrt{a^2-y^2}}f(x,y) dx dy+\displaystyle \int_0^a\int_{a+\sqrt{a^2-y^2}}^{2a} f(x,y) dx dy+\displaystyle \int_a^{2\sqrt{2}a}\int_\frac{y^2}{4a}^{2a}f(x,y) dx dy$

道順の確率

「選択肢に正解がなかった」という台詞が何度もありました.どんな問題だったのでしょう.録画したビデオからその問題が分かりました.
[問題4] xy平面上の点Aが,原点(0, 0)から点(n, n)(nは3以上の自然数)まで以下のルールで動く.
1. 点(k, l)にあり,k<n,l<nならば,点(k+1, l)か点(k, l+1)に1/2の確率で動く.
2. 点(n, l)(l<n)なら点(n, l+1)へ,点(k, n)(k<n)なら点(k+1, n)に確率1で動く.
このとき点Aが(n, 2)を通過する確率P(n, 2)は次のうちどれか.
①$(n+1)(\frac{1}{2})^{n+1}$ ②$(n^2+1)(\frac{1}{2})^{n+2}$ ③$(n^2+5n)(\frac{1}{2})^{n+3}$ ④$\frac{1}{(n^2-4n+1)^n}$ ⑤$\frac{n}{2^n+1}$
調べてみたらこの出典は,東工大入試問題の1987年第5問の改題と分かりました.元の問題には選択肢がないので難しいですが,この改題なら,n=3の時の解,すなわちP(3, 2)を求め,選択肢にn=3を代入してこの値になるものを選べば良いわけです.(3, 3)へ行くには(3, 2)または(2, 3)を通るしかないので,対称性よりP(3, 2)=P(2, 3)=1/2となります.ところがn=3を選択肢①~⑤のどれに代入しても1/2になりません.なので「選択肢に正解がなかった」というわけです.

[Reference]
Math-Station 東工大入試研究
http://kubojie.net/titech.html

Sunday, 5 November 2017

NEWS 太陽系外からの彗星発見か 国際天文学連合

2017年10月26日 日本経済新聞他

双曲線 楕円
[ワシントン=共同] 国際天文学連合小惑星センターは25日、太陽系外から飛んできた可能性がある彗星(すいせい)を発見したと発表した。確認されれば、恒星間の軌道を飛行する初の 「恒星間彗星」となる。
 彗星は、米ハワイ大の望遠鏡が発見した「C/2017U1」。現在は地球の軌道と火星の軌道の間を飛んでいるとみられる。世界各地の天文台が30回以上観測した結果、太陽系の外からやってきた可能性があることが分かった。
 同センターは「大きな双曲線軌道を描いているようだ」としており、太陽に近づくのは1度きりで戻ってこないとみられる。オーストラリアのメディアは「太陽から25光年と比較的近くにある恒星、こと座のベガのある方向から来たようにみえる」と報じた。
 彗星は太陽の周りを回る楕円軌道を描いたり、惑星からの力を受けて太陽系外にはじき飛ばされたりするものがこれまで発見されている。
彗星や惑星は楕円軌道で,太陽はその楕円の持つ2つの焦点のひとつだと習ったので,彗星に双曲線軌道のものが存在するのは意外でした.楕円は「2点(焦点)からの距離の和が一定である点の軌跡」,双曲線は「2点(焦点)からの距離の差が一定である点の軌跡」です.いちばん上の図では軌道が急カーブしている少し内側に太陽があるので,そこが焦点ということになります.

まとめて二次曲線と呼ばれる円,楕円,放物線,双曲線は,円錐を切断する方向を変えるとこれらの形の切り口が得られるので,円錐曲線とも呼ばれています.同じ仲間といえますが,かなり形は違いますね.円とどれだけ近い形か,かけ離れた形かを示す値eを離心率といい,円の離心率は0,楕円は0<e<1,放物線はe=1,双曲線は円からかけ離れた形をしているので1<eとなります.地球の軌道離心率は0.0167なので,ほとんど円に近いということが分かります.一方,あの周期75年といわれるハレー彗星の軌道離心率は0.967なので,かなり放物線に近い,細長い楕円ということができます.

双曲線軌道なら,右上の図でいえばこの彗星は遥か遠くからやってきて,太陽(焦点)の近くの頂点 (a, 0) で急カーブして方向を変え,また遥か彼方に去って行くというイメージです.もし仮に双曲線の式(標準形は$\frac{x^2}{a^2}-\frac{y^2}{b^2}=1$)が $x^2-y^2=1$ならa=b=1なので,頂点は(1, 0),焦点$(\sqrt {a^2+b^2}, 0)$は$(\sqrt {2}, 0)$になります.双曲線の最も易しい例は,中1で学習する反比例のグラフ$y=\frac {k}{x}$ですね.$y=\frac {1}{x}$のとき,頂点は(1, 1)ですから,この軌道なら太陽は$(\sqrt {2}, \sqrt {2})$という位置にあるということになります.

<余談1> 回転軸に平行でない直線が回転すると,一葉双曲面ができます.兵庫県神戸市のポートタワーがそのようなつくりになっています.一度近くまで行って,確かめてみてください.

<余談2> 私が小中高と育った兵庫県伊丹市の市章は双曲線に似ています.一度検索して見つけてみてください.

[Refference]
For the first time, astronomers are tracking a distant visitor streaking through our solar system
http://www.sciencemag.org/news/2017/10/first-time-astronomers-are-tracking-distant-visitor-streaking-through-our-solar-system
軌道離心率
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BB%8C%E9%81%93%E9%9B%A2%E5%BF%83%E7%8E%87

Wednesday, 18 October 2017

小説 ラメルノエリキサ

2016年 渡辺優 集英社

アシンメトリー

自分が傷つけられたら必ず復讐をするという女子高校生小峰りなの話です.
懐かしい。 駅からバスで15分ほど先にある、絶妙に不便な立地の図書館を前にして、私はまずそう感じた。小学生の時、遠足で訪れたことがある。それから中学の時にも一度、何かの行事で来ていたはずだ。質感の違う素材がモザイクのように組み合わされた、濃いグレイを基調とした建物。表のプレートによると、築52年にもなるそうだけれど、それにしては古めかしい感じはしない。正面ゲートからまっすぐ見据えると、ビルの建ち並ぶ街の中心から外れ、賛沢な土地の使い方をした3階建ての本館が、アシンメトリーな曲線を描いているのがわかる。
アシンメトリー(asymmetry)は非対称という意味なので,「アシンメトリーな曲線」とは対称でない曲線という意味です.アシンメトリーな部分のある建物の図書館を探してみたら,近いイメージなのがこの写真でした.この小説とは全く関係ありません(笑).発音記号はは æsímətri or eisímətri の2通りあります.ネイティブの発音ではアシリ(またはエイシリ)と聞こえます.

ここで数学の話が出てきたわけではないのですが,アシンメトリーは数学用語のひとつでもあるので少し見てみましょう.

[確率分布のグラフにおける対称性と非対称性]

左右対称なグラフといえば正規分布ですが,その峰が左右にずれた場合,アシンメトリーな曲線になります.分布の非対称性を示す指標を歪度(わいど skewness)といい,峰が右にずれて左が低い場合(J型)の歪度は負,左右対称であれば歪度は0,峰が左にずれて右が低い場合(L型)の歪度は正になります.

因みに,正規分布の場合,平均(mean),中央値(median),最頻値(mode)は同じ値になりますが,他の場合はそれぞれの値がずれていきます.正規分布から少しずれた非対称な分布では,平均と最頻値との差は平均と中央値との差の約3倍になることが知られていて,カール・ピアソンの経験則と呼ばれています.
    Mean–Mode≒3(Mean–Median)
    または 3Median≒2Mean+Mode

[二項関係における対称関係と非対称関係]

二項関係の最も簡単な例は2つの数の関係です.aからbへRという関係があるとき,aRbと表します.例えば3>2などの関係です.

「aからbへの関係が成り立つならば,bからaへの関係も成り立つ」という場合,対称関係といいます.すなわち,$$\ aRb\;\Rightarrow bRa$$例えばRが=という関係のとき,a=bならばb=aも成立するので対称になります.

「aからbへの関係が成り立つならば,bからaへの関係が成り立たない」という場合,非対称関係といいます.すなわち,$$\ aRb\;\Rightarrow \lnot (bRa)$$例えばRが>という関係のとき,a>bならばb>aは成立しないので非対称になります.

小説のタイトルの意味を言いたくてしょうがないのですが,ネタバレになるのでここでは控えておきます(笑).

[Reference]
Asymmetric relation
https://en.wikiedia.org/wiki/Asymmetric_relation
Sample Mean
http://mathworld.wolfram.com/SampleMean.html
二項関係
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%8C%E9%A0%85%E9%96%A2%E4%BF%82

Wednesday, 16 August 2017

小説 偏差値70の野球部 レベル3 守備理論編

2012年 松尾清貴 小学館文庫

中学時代にピッチャーで全国大会準優勝した新(あらた)真之介(しんのすけ)が,なぜか東大合格者数全国1位の超進学校に入学し,甲子園を目指すという話です.
 
「角運動量保存則を利用した等速円運動打法」を考案し,「強いのは野球のセオリーを作っているチームだ」という才女のヒカルさんが,打球の落下地点を知るための方法として,重力,摩擦抗力,揚力,粘性率,レイノルズ数などを考慮した流体力学の理論を話しました.
ヒカルさん「変数は,打球の水平面に対しての角度と速度と角速度.一応,抗力係数は0.6に設定してる.レイノルズ数がはっきりすればいいんだけど,信頼のおける実験結果が得られなかったから.計算上は105程度になるから,どっちみちナビエ-ストークスの方程式は使えない.(後略)」
ヒカルさんが画面を覗き込むようにしながらマウスをクリックすると,新たに浮き出たドットが,さらに複数の相対的にきれいな二次関数を描き出した.頂点を挟んで右側,つまり下り曲線が上り曲線よりも急角度だった.
この数式を期待したのですが,このままでは複雑すぎるということで,その後,以下のように外的な力を無視し,単なる二次関数でボールの到達距離と時間を予測していました.話の流れからすると残念です.しかもその中の数式に1か所ミスがありました(読んだのは第3刷なので,その後訂正されているかも知れません).
ヒカルさん「初速度v0,水平面との角度θの放物運動する物体は,水平方向x鉛直方向yの二次元座標において,x=v0cosθ・t,y=v0sinθ・t-gtで表されるよね.ボールが到達する地点では y=0 だから,まずy式にそれを代入する.到達時間t2はもちろん0ではないから,式 t2=2v0sinθ/g が得られるでしょ.水平到達距離をx軸上のD点として,先に求めたt解をx式に代入する.だから,具体的には,D=v0cosθ・tを,v0cosθ・2v0sinθ/g に変換すると,これは v02sin2θ/g になるね.」
式中の$g$は重力加速度9.8m/秒2,$t$は時間(秒)を表します.はじめの式 $$ y=v_0 \sinθ \cdot t-gt^2 $$ は,正しくは次式になりますね.$$y=v_0\sin\theta \cdot t-\frac{1}{2}gt^2\tag{1}$$この場合,速度は $$(\frac{dx}{dt}, \frac{dy}{dt})=(v_0 \cosθ, v_0 \sinθ-gt)$$ なので,これを$t$で積分すると,位置は次式になります(整式の積分なので高校数学Ⅱの知識でOK).$$(x, y)=(v_0 \cosθ・t, v_0 \sinθ・t-\frac{1}{2}gt^2)$$ この$(x, y)$から$t$を消去すると次式になります.$$y=\tan\theta \cdot x-\frac{g}{2v_0^2\cos^2\theta}\cdot x^2\tag{2}$$例え空気抵抗などを無視したとしても,相手がボールを打ってフライを上げた瞬間に,この計算をして外野手に知らせるなんて,超人的な能力ですね(笑).

初速度や打出角度が変わればどうなるかをGeoGebraで作ってみました.青のグラフは横軸が時間$t$で式(1)を,紫のグラフは横軸が水平飛行距離$x$で式(2)を表しています.

なお,空気抵抗を加味した放物運動は,映画「ST赤と白の捜査ファイル」ですでに紹介しています.

Friday, 11 August 2017

随筆 墨汁一滴

1927年12月第1刷 1998年1月第35刷 正岡子規(1867-1902) 岩波文庫 岩波書店 

正岡子規は「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」という俳句で有名です.36才で亡くなる前の年の1901年1月から7月まで、正岡子規が記者として勤めていた当時の新聞『日本』に連載されていた随筆の一説ですが,この文章は東京大学予備門(のちの第一高等学校、戦後は東京大学教養学部)に入学した18才の頃を回顧しています.
しかし余の最も困つたのは英語の科でなくて数学の科であつた。この時数学の先生は隈本(有尚)先生であつて数学の時間には英語より外の語は使はれぬといふ制規であつた。数学の説明を英語でやる位の事は格別むつかしい事でもないのであるが余にはそれが非常にむつかしい。つまり数学と英語と二つの敵を一時に引き受けたからたまらない、とうとう学年試験の結果幾何学の点が足らないで落第した。(六月十四日) 
余が落第したのは幾何学に落第したといふよりもむしろ英語に落第したといふ方が適当であらう。それは幾何学の初にあるコンヴアース、オツポジトなどといふ事を英語で言ふのが余には出来なんだのでそのほか二行三行のセンテンスは暗記する事も容易でなかつた位に英語が分らなかつた。落第してからは二度目の復習であるから初のやうにない、よほど分りやすい。コンヴアースやオツポジトを英語でしやべる位は無造作に出来るやうになつたが、惜しい事にはこの時の先生はもう隈本先生ではなく、日本語づくめの平凡な先生であつた。しかしこの落第のために幾何学の初歩が心に会得せられ、従つてこの幾何学の初歩に非常に趣味を感ずるやうになり、それにつづいては、数学は非常に下手でかつ無知識であるけれど試験さへなくば理論を聞くのも面白いであらうといふ考を今に持つて居る。これは隈本先生の御蔭かも知れない。(六月十五日)
幾何学でコンヴアース(converse),オツポジト(opposite)が登場するものを推測してみましょう.Converseは,条件文P⇒Q(PならばQ)に対してその逆,Q⇒P(QならばP)を意味します.Oppositeは「向かい側の」とか「反対側の」という意味でよく使われます.

■平行四辺形の性質「平行四辺形の2組の対角(opposite angles)は等しい」の逆(converse)は「2組の対角(opposite angles)が等しい四角形は平行四辺形である」

■平行四辺形の性質「平行四辺形の2組の対辺(opposite sides)は等しい」の逆(converse)は「2組の対辺(opposite sides)が等しい四角形は平行四辺形である」

■三平方の定理「直角三角形の斜辺の2乗は他の2辺の2乗の和に等しい」の逆(converse)は「三角形で,ひとつの辺の2乗と他の辺の2乗の和が等しいとき,最初の辺の対角(opposite angle)は直角になる」

■二等辺三角形の定理「二等辺三角形の底角は等しい」の逆(converse)は「三角形の2角が等しいとき,それらの対辺(opposite sides)も等しい」

■三角形の辺と角の大小「三角形の2辺が異なるとき,長い方の辺の対角(opposite angle)は短い方の辺の対角より大きい」の逆(converse)は「三角形の2角が異なるとき,大きい方の角の対辺(opposite side)は小さい方の角の対辺より長い」

以上はいずれも今の日本の中学程度の内容ですが,もともとユークリッドの「原論」に載っていたものです.正岡子規が存在していた明治時代初期の頃,幾何学はユークリッドの「原論」が主に学習されていたようなので,その中の初歩といえば,このような内容だったと思われます.

[Reference]
明治前期の日本において教えられ,学ばれた幾何(数学史の研究)

Friday, 28 July 2017

映画 Hidden Figures (邦題「ドリーム」)本編

2016年 米国 Directed by Theodore Melfi, Distributed by 20th Century Fox

Euler's Method

日本では2017年9月公開予定の映画です.主役のキャサリン・ジョンソンは、宇宙船を軌道から戻すための計算にオイラーの方法(Euler's Method)を使います.これは常微分方程式 ordinary differential equations (ODEs)の厳密解(解析解)が求められないときに近似解(数値解)を求める方法の一つです.

解こうとする微分方程式が $y'=f(t, y(t))$,初期値が$y(t_0)=y_0$のとき,まずtを幅hで区切って$t_0=0, t_1=h, t_2=2h, t_3=3h,$ …とし,最初はt=0における接線で近似,その後は,$y_{n+1}=y_n+h・f(t_n,y_n)$として,2点$(t_n, y_n)$, $(t_{n+1},y_{n+1})$を結ぶ直線で近似していくという方法です.

簡単な例として,厳密解(解析解)が$y=e^t$になる微分方程式$y'=y$を見てみましょう.初期値は$y_0=1$になります.この例では$f(t_n,y_n)=y_n$なので,$y_{n+1}=y_n+h・y_n$として$(t_n,y_n)$を次々に求めて行き,折れ線グラフを作っていくというイメージです.

$y_1=y_0+h\cdot y_0=1+h\cdot 1=1+h$
$y_2=y_1+h\cdot y_1=(1+h)+h\cdot(1+h)=(1+h)^2$
$y_3+h\cdot y_3=(1+h)^2+h\cdot(1+h)^2=(1+h)^3$

例えば,h=0.5なら,$y_1=1.5$,$y_2=2.25$,$y_3=3.375$,$y_4=5.0625$,…となって,右図のようになります.
(オレンジ色がEuler's methodによる近似解,青色が$y=e^x$)

hの値(分割の幅)が小さいほどより良い近似になりますが,その分,計算は煩雑になります.hの値を変えたらどうなるかわかるものをGeoGebraで作ってみましたので,試してみてください.

因みにEuler's Methodは,世界中最も多くの国で普及している高校カリキュラム「国際バカロレアディプロマプログラム(IB Diploma Program)」のMathematics Higher Level(主に理系向き)のOption科目"Calculus"に登場します。

余談ですが,日本語の方のWikipediaで,1か所間違いを見つけたので訂正しておきました.これでWikipediaの記事を訂正したのは4~5回目ぐらいになのですが,以前に訂正した内容を記録してなくて思い出せないので,今後履歴が残るように今回初めてWikipediaにアカウント登録してみました.

<reference>
Euler method
https://en.wikipedia.org/wiki/Euler_method
オイラー法
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%83%BC%E6%B3%95

Saturday, 22 July 2017

漫画 Q.E.D. 証明終了

1997-2014年 原作 加藤元浩 講談社

以前から数学の話題が頻繁に登場する漫画であることを知っていたのに,なぜかここに書かなかったという作品のひとつです.久しぶりに第1巻を含むいくつかを読んで,ようやく書く気になりました.

理工系大学の世界最高峰である米国のMIT(マサチューセッツ工科大学)を15歳で卒業したが,普通の高校生活を体験したいと,日本の高校に入学してきた燈馬想が,同級生の体育会系水原可奈の協力のもと,次々と難事件を解決していくという漫画です.Q.E.D.はラテン語でQuod Erat Demonstrandum.タイトル通り「証明終了」という意味です.

第1巻/第2話「銀の瞳」

数学の苦手な水原可奈に燈馬想が数学を教える場面です.
燈馬想「だから交点が1になる場合を考えて判別式が0になる値を求めるんです.」
水原可奈「じぇんじぇんわかりましぇん」
問題が掲載されていなかったので推理してみましょう.このころはまだ2人とも高校1年生なので,高校数学Ⅰの問題なら,放物線と直線の共有点が1つ,すなわち接するときの式中の定数を求める問題でしょう.そうだとすれば,「交点が1になる場合を考えて」よりも「共有点が1つになる場合だから」という表現のほうが適切ですね.

[簡単な例題] 放物線$y=x^2$と直線$y=ax-3$が接するとき,定数$a$の値を求めよ.(正解は±2√3)

第7巻/第1話「Serial John Due」
ロキ「じゃア,カメーネフの死は"π"に符合してるとして…,劉の方は?」
燈馬想「自然数eだよ」
ロキ「e? あのオイラーの数か?」
水原可奈「eって?」
燈馬想は「自然数」,ロキは「オイラーの数」と言っていますが,eは「自然対数の底」,または「ネイピア数」と呼ばれることが多いです.「自然数」だと正の整数(または負でない整数)の意味を持つnatural numberと誤解しやすくなります.また,eという文字で表すのはオイラーが最初だったので「オイラーの数」でもいいのですが,他に「オイラーの定数(Euler's constant)」というのがあるので,混同しないようにしたいですね.
燈馬想「円周率πは円周を円の直径で割った数.自然数eはネイピアの考案した対数という概念から生まれた数.そして虚数iは2乗して-1になる想像上の数として生まれました.この3つの記号はそれぞれ人類の歴史の中でなんの関連もなく生み出されたものです.ところが大数学者オイラーはこの3つの数に一つの関係を見つけ出した.
$e^{πi}=-1$
これがオイラーの公式,人類の数学史上最も美しい式と呼ばれるものです.」
ここでもeを「自然数」と呼んでいますが,さらにオイラーの公式(Euler's formula)$$e^{θi}=cosθ+isinθ$$に$θ=π$を代入して得られるオイラーの等式(Euler's identity)$$e^{πi}=-1$$を「オイラーの公式」と呼んでいるのが気になりますね.

第33巻/第2話「推理小説家殺人事件」
燈馬想「『グラフで囲まれた部分の面積を求めろ』ってことなので,まず2つの交点のxの値を出して範囲を決めます.yが同値になるxってことだから…」
燈馬想が水原可奈に数学を教えている場面ですが,台詞はこれだけで図もありません.これは積分の問題でしょう.中には公式を使って交点のxの値を出さずに解く方法があります.以前,映画「容疑者xの献身」で述べました.

第38巻/第2話「十七」

xのn乗根がn=1から4まで紹介されていましたが,n=4のときの解(1の4乗根)は,$x^4-1=0$を解いて$x=±1$,$±i$になります.間違ってn=4のところにn=5のときの解(1の5乗根)が書かれてあります.と思ったらよく見ると値も違っていました.正しくは次のようになります.他のサイトでいくつも見つかりますから,確認しみてください.$$\frac{(-1+\sqrt{5})±i\sqrt{10+2\sqrt{5}}}{4}, \quad \frac{(-1-\sqrt{5})±i\sqrt{10-2\sqrt{5}}}{4}$$

第44巻/第2話「Question!」

トップのタイトルページの数式です.右上の図より,円$x^2+y^2=1$と,(-1,0)を通る直線$y=m(x+1)$の,(-1,0)でない方の交点の座標を求める問題のようです.横書きの数式なのに,板書が右から始まるのが変ですね.話は右上の図から始まって,右下の連立させた方程式を変形する過程まではいいのですが,そのあとの左の計算式(燈馬想に隠れて見えにくいですが)が少しおかしいですね.右下の式を整理すると次式になります.
$(1+m^2)x^2+2m^2x+(m^2-1)=0$
この左辺をを因数分解するのに,解のひとつがx=-1とわかっているので,x+1がひとつの因数になります.その割り算は右図のようになるはずなので,$m^2>1$や,$x√$というのは写し間違いだと思われます.

他の巻にも以下のように数学の話題が頻出します.数学の話ではなくても十分楽しめる知的な漫画なので,どなたにも強くお勧めします.
  9巻 ケーニヒスベルグの橋
13巻 クラインの壺
15巻 デデキントの切断
20巻 カントールの無限集合
23巻 リーマン予想
29巻 ポアンカレ予想
44巻 フェルマー予想 ゴールドバッハ予想 ABC予想
47巻 P≠NP問題

Sunday, 11 June 2017

テレビ番組 とくダネ! 中国の過酷すぎる受験対策

2017年6月9日放送 約940万人が挑む一発勝負
中国の全国大学統一入試は「高考(ガオカオ)」と呼ばれ、約940万人が受験に臨み,2800校中超一流と呼ばれる80校を目指します.15校が志望でき、ランクごとに5校ずつ選べます.学力のみの一発勝負で,試験の成績によって入学校が決まり,成績トップ者は新聞一面で紹介されます.大学ごとの入試は行なわれません.東京大学の倍率約3倍に対して、北京大学の倍率は150倍にもなります.(番組情報より)
今年広東省で出題された数学の問題の前半に出てきた比較的易しい問題がひとつ紹介されていました.少し分かりにくい問題文でしたが,要するに太極と呼ばれる図形の黒い部分の面積の,外接する正方形の面積に対する割合を求める問題です.正解の選択肢は
A 1/4  B π/8  C 1/2  D π/4

東大の建築学科卒で数学に関する著作もある司会の女性タレントがこの問題の正解をすぐに答えていました.「どう考えても1/4じゃないから…,Bですよね」 つまり計算はせずに,半分よりは小さく,1/4よりは大きいからその間のπ/8を正解にしたようです.

一応確認してみましょう.円の半径をrとすると,黒い部分は白い部分と全く同じ形なので円の面積の半分で$\pi r^2/2$,正方形の面積は$(2r)^2=4r^2$,前者を後者で割ると$\pi /8$になります.

テレビの情報番組やクイズ番組などで数学の問題が出るときは,このようにすぐに正解が得られる問題しか出てきませんね.特にクイズ番組では,ただ覚えている知識を答えるだけの問題が多いので,物足りなく感じます.

他の問題も気になったので探してみました.2017広東省数学問題解答です.上の問題の原文も見つかりました.「理科数学」は「理系数学」という意味です.せっかく見つけたので少し時間のかかる最後の記述式問題も紹介しておきます.
[理科数学 2] (上の問題)如图,正方形ABCD内的图形来自中国古代的太极图正方形內切圓中的黑色部分和白色部分关干正方形的中心成中心対称.在正方形内随机取一点,剣此点取自黒色部分的概率是.
[理科数学 23] 己知函数$f(x)=-x^2+ax+4$, $g(x)=|x+1|+|x-1|$.
(1) 当$a=1$时,求不等式$f(x)\ge g(x)$的解集.
(2) 若不等式$f(x)\ge g(x)$的解集包含$[-1, 1]$,求$a$的取値范围.
[理系数学 23](和訳)関数$f(x)=-x^2+ax+4$,$g(x)=|x+1|+|x-1|$がある.
(1) $a=1$のとき,不等式$f(x)\ge g(x)$を解け.
(2) 不等式$f(x)\ge g(x)$の解が$[-1, 1]$に含まれるとき,$a$の取り得る値の範囲を求めよ.

正解は  (1) -1≦x≦(-1+√17)/2   (2) -1≦a≦1

[Reference]
2017年广东高考真题及答案解析
http://www.gaokao.com/e/20170607/59375d1f5f355.shtml

Sunday, 4 June 2017

NEWS 大学新テスト記述式問題例 

2017年5月16日に発表された独立行政法人大学入試センター「大学入学共通テスト(仮称)」記述式問題のモデル問題例が,翌日の新聞各紙に掲載されました.「どんな問題だろう」と解いてみた人も多いのではないでしょうか.その中の4問目(数学の2問目),銅像が最もよく見える位置を考察する,すなわち銅像の頭Aと足元Bまでを見込む角が最大になる視点Pの位置を考えるという問題が少し気になりました.問(1)は具体的な数字を与えられて∠APBを求めるもので特に問題を感じませんでしたが,この後の展開が気になりました.
問(2) 銅像を見込む角が最大となるときの,見る人の足元の位置を「ベストスポット」と呼ぶことにする.この「ベストスポット」について,太郎さんは次のように考えた.
[太郎さんの考え] 3点A,B,Pを通る円の半径をRとすると,ABの長さは常に一定であることから,∠APBが鋭角ならば,∠APBが最大となるのは,Rが最小のときである.
ということは,Rがどんなときに最小になるかをこれから考えていくんだなと思ったら,次はこんな問いでした.
(i) ∠APBが鋭角であることを確かめる方法を,△APBの3辺の長さAB,AP,BPについての式を用いて説明せよ.
ここでわざわざ「∠APBが鋭角である」ことを確かめる必要があるのでしょうか.銅像の足元を視点より低くして,よっぽど近寄らないと見込む角は鈍角にはなりません.銅像の足元Bは視点Pより高いので,∠APBが鋭角であることは明らかです.この状況を図に描いたら,100人中100人は∠APBが鋭角になるでしょう.
(ii) [太郎さんの考え] が正しいことは,sin∠APB,AB,R を用いたある関係式と,「∠APBが鋭角のとき,∠APBが大きくなるほどsin∠APB の値は大きくなる」ことからわかる.その関係式を答えよ.
これだけ誘導されていたら正弦定理とすぐに分かりますね.sin∠APB=AB/(2R)なので,「Rが最小」⇔ 「sin∠APBが最大」⇔ 「∠APBが最大」といえます.
(iii) 二人は [太郎さんの考え] について先生に相談したところ,Rが最小になるのは,3点A,B,Pを含む平面上において,3点A,B,Pを通る円と点Pを通り直線ABに垂直な直線が接するときであることを教えてもらった.この考え方に基づいて,目の高さが1.5mの花子さんが,高さ6.5mの台座の上に乗せた高さ4mの銅像を見る場合の最小R,最大∠APB,ベストスポットの位置を求めよ.
ようやくRが最小になるときを考えるのかなと思ったら,いきなり先生に相談です.自分たちで考える問題なのに「先生に教えてもらったこと」を前提にして話を次に進めています.この「先生に教えてもらったこと」を理解せずに次を考えるのは気持ち悪くないのでしょうか(この解説はこちらのサイトにあります).

この解説の別解で書かれているように, 「先生に教えてもらったこと」は,数学Ⅰまでの知識なら円周角を考えれば説明できます.他の方法で説明しようとすれば,正接の加法定理と相加平均・相乗平均の関係か方べきの定理,または微分を利用してもできますが,数学Ⅰの範囲を超えてしまいます.

日本の試験ではまだ使えませんが,グラフ電卓やそれに類似するソフト・アプリを使えば,数学Ⅰまでの知識でもこのことを確認することはできます.

まずA(0,9), B(0,5), P(x,0)とし,3点A,B,Pを通る円の中心をC(c,7)として,cをxの関数で表します.AC=BC=CPなので,
c^2+2^2=(x-c)^2+7^2
整理すると
c=(x^2+45)/(2x)
あとはこの関数を未習であっても,グラフ電卓等でグラフを描かせて最小値を表示させれば,ベストスポットの位置の近似解6.7が得られます.

国際バカロレア,米国のAPやSAT,英国のA Levelなどでは,グラフ電卓を使える試験と使えない試験の併用が当たり前のように実施されています.

視点をいろいろ変えたらどうなるかをGeogebraで作ってみました.点Pを動かしてみてください.

Sunday, 5 March 2017

映画 君に届け

2010年 東宝 原作:椎名軽穂『君に届け』(2006年~集英社)

北海道の高校が舞台です.数学の授業の最後に問題を出しておいてノートに解答を書くよう指示して先に退室した先生から,黒沼爽子がノートを集めて持ってくるよう指示された…のではないかと思われます(こんな先生,あまりいないと思いますが…).
黒沼爽子「数学のノートを集めますので,持って来てください」
かなり板書が読みづらかったのですが,こんな内容でした.
三角形の性質
<問題>
∠C>∠Bである△ABCで,∠Aの2等分線と辺BCとの交点をPとし,点Aから辺BCに下した垂線をAQとすると,2∠PAQ=∠C-∠Bとなることを証明せよ.
(以下の解答部分は文字を背景色にしていますので,自分で解いた後にドラッグして見てください)
<解答>
APは∠Aの2等分線より,∠BAP=∠CAP
∠APB=∠CAP+∠C … ①
∠APC=∠BAP+∠B … ②
①②より,∠APB-∠APC=∠C-∠B
仮定より,∠APB=180°-∠APC
     ∠APC=90°-∠PAQ
よって
∠C-∠B=∠APB-∠APC
    =180°-2∠APC
    =180°-2(90°-∠PAQ)
    =2∠PAQ
以上は板書の左半分に書かれてあった問題と解答ですが,右半分にあった生徒に出題されたであろう問題は読み取れませんでした.

上の問題はあまり見たことがなかったので,検索してみたらこちらにひとつ見つかりました.

この結果がどんな三角形でも成り立つことを確認できるものをGeogebraで作ってみました.頂点を動かしてみてください.