定積分
半数以上が東大に進学する偏差値の高いある高校で,半年の間に3人の教師がやめてしまったというクラスの担任になった数学教師が,赴任初日から精神的な攻撃や物理的な攻撃をする生徒たちに対して全く動じる気配を見せないため,生徒たちがこの教師を殺してしまおうとする話です.
第1話で,2019年東大入試理系数学第1問,数学Ⅲの定積分の計算問題がそのまま使われました.
生徒は30秒以内に解けと無理をいいますが,この教師はいとも簡単に解いて生徒たちを驚かせます.
小説、ドラマ、映画、漫画、アニメ、新聞、雑誌、テレビ、ラジオなど、マスメディアの中に数学の話題が出てきたとき、その内容・背景をさらに詳しく知ることができればもっと楽しむことができます。そんな場面に出会ったとき、ここへ書き留めておこうと思います。(2016年投稿文より数式にTexのコマンドが使えるMathjaxを利用しています)
定積分
半数以上が東大に進学する偏差値の高いある高校で,半年の間に3人の教師がやめてしまったというクラスの担任になった数学教師が,赴任初日から精神的な攻撃や物理的な攻撃をする生徒たちに対して全く動じる気配を見せないため,生徒たちがこの教師を殺してしまおうとする話です.
第1話で,2019年東大入試理系数学第1問,数学Ⅲの定積分の計算問題がそのまま使われました.
生徒は30秒以内に解けと無理をいいますが,この教師はいとも簡単に解いて生徒たちを驚かせます.
ベクトル 方程式
時は現代(公開は2015年),1943年サン=テグジュペリ原作「星の王子さま」の中でその王子さまと出会ったという元飛行士の老人と,その話に夢中になった隣に住む9歳の少女との交流を通して描かれた「星の王子さま」の後日談ともいえる作品です.
Vector
名門校への進学を期待されて母親に決められた細かいスケジュールで学習するこの女の子が表紙に「La Geometrie Analytique(幾何解析)」と書かれた本で勉強をしているときに,この数式が映りました.
9歳の子がハイスクールで習うベクトルの問題を解いています.左上の$-\overrightarrow{ AP }$は次の行で$\frac{3}{4}\overrightarrow{ AB }$となっていますが,その下の$\overrightarrow{ PQ }$で$\overrightarrow{ AB }$との和が$\frac{1}{4}\overrightarrow{ AB }$となっているので,正しくは1行目が$\overrightarrow{ PA }$,2行目が$-\frac{3}{4}\overrightarrow{ AB }$でしょう.
さて,問題を推測してみましょう.「平行四辺形ABCDの辺AB,BC,CD,DAを3:1に内分する点をそれぞれP,Q,R,Sとするとき,四角形PQRSは平行四辺形であることを示せ.」でしょうか.$\overrightarrow{ SR }=\overrightarrow{ PQ}$なら,四角形PQRSは平行四辺形になります.これが3:1ではなく,内分する4点がすべて中点の時は,四角形ABCDがどんな四角形でも四角形PQRSは平行四辺形になります (Varignon's theorem).
[訂正] 2020/9/22追記 上の解答でPからQへ行くのに,PB→BQと行かずにわざわざPA→AB→BQと行っているのが気になっていたのですが,どうやら別の部分が間違っていると考えれば,適切な別の問題が推測できることがわかりました.「平行四辺形ABCDの辺AB,CDを3:7に外分する点をそれぞれP,Rとし,辺BC,DAを3:1に内分する点をそれぞれQ,Sとするとき,四角形PQRSは平行四辺形であることを示せ.」この場合,右上の2行目,3行目の3項目を$\frac{3}{4}\overrightarrow{ DC }$と修正し,次の行と最後の行を$\overrightarrow{ PQ }=\frac{7}{4}\overrightarrow{ AB }+\frac{3}{4}\overrightarrow{ BC }$,$\overrightarrow{ SR }=\frac{3}{4}\overrightarrow{ AD }+\frac{7}{4}\overrightarrow{ DC }$と修正すれば正しい解答になります.
Equation
別の学習シーンで"Equation(方程式)"という歌が流れているときに,図のような数式が映りました.
方程式らしく中に=があって,似たような式が両辺に書かれていますが,上から下への変形が一致していないので,単に雰囲気を伝えるだけの目的で使われた数式だと思われます.今どきほとんどの映画やドラマでは,一瞬だけのシーンであっても正しい数式が使われているので,かえって珍しいです.
次に挿入歌"Equation"(英語版)でずっとバックに流れている部分の歌詞ですが,Youtubeの動画,歌詞を紹介するサイトなどで異なったものになっています.例えば Youtubeでは以下のようになっています.
minus 2 times minus 3 6Y you end up with 5
expose 3Y times 2 XXY rewrite equation 1
何回も聴き直したり,人に聴いてもらったりした結果,正しくは次の歌詞ではないかと思います.和訳も考えてみました.
minus 2 times minus 3 6 why you end up with 5
x plus 3y times 2 x 6y rewrite equation 1
(-2)×(-3)は6だよ,どうして5になったの?
x+3y×2はxと6yだよ,方程式1を書き直してね
英語版とは全く異なる原作の仏語の歌詞にも意味の分かりにくい部分がありました.
1 plus 1 font 2この中の M toit は直訳すると「M型の屋根」ですが,ルート記号√ がMを変形したような形になっているのと,その次の歌詞が「ルートを教えて」なので,和訳は下のような感じではないでしょうか.
2 plus 1 fait 3
3 moins 1 sous le M toit
Tu me dis racine
因みに,ルート記号√ は一般に root の r を変形したものと言われていますが,文字を図形と考えると,先のとがった点の数は r が1個,Mと√ は3個なので,Mの方が√ に近いとも言えます.
$1+1=2$
$2+1=3$
M型屋根(のような記号)の下に$3-1$
ルートを教えてほしいな
[参考]
The Little Prince - "Equation" - English version + Lyrics
https://www.youtube.com/watch?v=i2fezyjs_aY
#Alexandria C.H.# Equation
https://alexandriach.wordpress.com/2016/01/31/equation/
「香具山さんは文系だから、知らないわよね。小島遊君、君は線形代数は単位ちゃんと取った?」クロネッカーのデルタは,2つの数$i$, $j$に対して0または1の値をとる次のような関数です.($\delta$は小文字のデルタ)
「どうして?」
「マトリクス、教わったでしょう?」
「行列ですね?」
「そう」紅子が頷く。「マトリクスの対角項だけを1にする。それ以外はすべて0にしたい。どうやってそれを書き表したら良いかしら?」
「えっと……、単位マトリクスのことですか? 斜めに1を並べて書いて、あとは0をひたすら入れるんじゃあ…… 」
「ニ次元で、しかも小さなマトリックスなら、それで書ける」紅子が頷いた。 「でも、一般式で表記したいときがあるでしょう? ほらほら,とっても有名な……」
「ああ、クロネッカのデルタ!」練無が叫んだ。
「何それ?」紫子がメガネを持ち上げてきいた。いつもより、ずっとインテリに見える。「クロネコのデルタ?」
「ね……」紅子がにっこりと微笑む。「三角じゃないけど、小文字のデルタを書いて、そのあとにi、jとか、さらにkとか、添え字を書く。それで、たとえば、デルタijと書かれていれば、それは、もしiとjが同じ整数なら、全体が1になる、もし違う整数なら全体が0になる、という関数なの。ようするに、数が同じならON、違えばOFF。その関数の名前が、クロネッカ・デルタっていう。これ、もの凄く有名だから,理系の大学生なら,まず知らない人はいないでしょう?」
窓は一つしかない。その横に、テンキーが並んでいる。いや、正確にはテンキーではなく、十六進数の特殊キーである。つまり、0から9までの数字の他に、AからFまで、アルファベットのキーがある。16進数は,ドラマ「すべてがFになる」にも登場しました.10進数が0~9という10個の数字を使って,$1$の位,$10$の位,$10^2$の位…と表され,2進数は0と1という2つの数字を使って,$1$の位,$2$の位,$2^2$の位…と表されるように,16進数は0~9とA~F(10から15)という数字と文字を15個使って,$1$の位,$16$の位,$16^2$の位…と表されます.
沙羅華は、先生の方をちらりと見た。
「ドアのパスワードは、変えてないわよ」と先生が言う。「前にあなたと相談したときのまま」
沙羅華は軽くうなずくと、人さし指で "221B"と押した。
<著者あとがき>ヒロインの生き方を級数で比喩しているわけですが,級数は数列の和を意味し,有限和はそのひとつひとつがまた数列になりますから,用語は数列でも級数でも良かったと思います.また「解も変化していく」という表現よりは「値も変化していく」の方が適切でしょう.
こうして"究極の疑間"に挑戦し続ける彼女の姿は、数学に出てくる"級数"に似ているかもしれません。整数nの値が一つ増えるごとに、解も変化していくわけです。
そして彼女はまだ、大きく揺らいでいる。果たして何らかの値に"収束" するのか、それとも"発散"するのか……。そんなふうに"極限値"を探りながら、彼女の旅は続くことになりそうです。