Monday, 23 September 2019

ドラマ 監察医 朝顔 第10話

2019年9月16日放送 フジテレビ

落下運動

子どもを抱いたまま階段から落ちて自分だけ亡くなっていた母親の死因を,監察医らが解剖や落下実験などで解明しようとします.ドラマの中では話題になりませんでしたが,背景に数式の書かれたホワイトボードがありました.その式をよく見ると,水平方向に押されて落下し,着地した瞬間の速度を求める計算であることが分かりました.
$m = 47$ kg $+8.3$ kg $=55.3$ kg
高さ$h$を$3$mとする
$v$ [m/s] $= g$ [m/s2]
$v = \sqrt{2gh}$ より
$v = \sqrt{2×9.8×3} = 14\sqrt{0.3}$
また,$h=\frac{1}{2}gt^2$ より
$3 = \frac{1}{2}×9.8×t^2 = \frac{1}{2}9.8t^2$
$t^2 =3×\frac{2}{9.8} = \frac{6}{9.8}=0.612...$
$\fallingdotseq 0.6$
$t = \sqrt{0.6}$
$v_x = v_0$
$v_y = gt = 9.8\sqrt{0.6}$
$v_0 = 5$ m/s とすると
$v^2 = v_x^2+v_y^2
=5^2+(9.8\sqrt{0.6})^2$
$= 25+(96.04×0.6)
= 25+57.624$
$= 82.624$
$v= \sqrt{82.624}=9.089...\fallingdotseq 9.1$ m/s
着地した瞬間の水平方向の速度を$v_x$,垂直方向の速度を$v_y$として,その合成速度$v$を求めています.

3行目の $v$ [m/s] $= g$ [m/s2] は明らかなミスですね.「$h$ [m] 落下した瞬間の速度$v$ [m/s] は,重力加速度を$g$ [m/s2]とすると」とすべきでしょう.

5行目の$v$は$v_y$ですね.この後,落下にかかった時間$t$を求め,$v_y = gt$からまたもや$v_y$を求めています.しかも,途中で$t^2$を丸めたことによる誤差が出て,初めの$14\sqrt{0.3}$と後の$9.8\sqrt{0.6}$は異なる値になってしまっています.正確には前者で,$t^2$を丸めなければどちらも$14\sqrt{0.3}$になるはずです(計算してみてください).

そうすると,着地した瞬間の速度は次のようになります.
$v^2 = v_x^2+v_y^2=5^2+(14\sqrt{0.3})^2= 25+(196×0.3)= 25+58.8= 83.8$
$v= \sqrt{83.8}=9.1542...\fallingdotseq 9.15$ [m/s]

ところで最初に親子の体重の和があるので,この後さらに着地時の衝撃力を計算するはずだったと思われます.

着地時の物体は、$mv$ [kg·m/s] という運動量を持ち,着地後は着地面からの力 $F$ [N] を一瞬の時間 $∆t$ [s] だけ受け、運動量は0になります.このときの力$F$を衝撃力といい,次式で求められます.
$F =\displaystyle\frac{mv}{∆t}$ [N]
水平方向に押されて,高さ3mから落下したとするこの計算の場合,着地後に速度が0になるまで仮に0.1秒かかったとすると,
$F =\displaystyle\frac{mv}{∆t}=\frac{55.3×9.15}{0.1}\fallingdotseq 5060$ [N] 
となり,落ちてぶつかったところに約5000 [N],およそ500 [kgf] ぐらいの衝撃を受けたものと推測されます.

[参考]
衝撃力の計算
http://higgs.phys.kyushu-u.ac.jp/~koji/shougeki.pdf

Friday, 13 September 2019

小説 万能鑑定士Qの最終巻 ムンクの<叫び>

2016年 松岡圭祐著 講談社 

ピタゴラスの定理

「万能鑑定士Q」シリーズ完結編.沖縄の高校卒業後,東京生活の出発点となったリサイクルショップに戻った万能鑑定士・凜田莉子が,ムンクの絵画「叫び」の盗難事件を追いながら、探偵になった元雑誌記者・小笠原悠斗への愛に気付いていくという話です.
陸が莉子を見つめてきた。「ならききたい。赤道上にぴんと張ってある紐を一センチ延ばしたら、人がくぐれるようになるか?」 
意地でも間違えられない。莉子はピタゴラスの定理を駆使し、頭のなかで計算した。「一メートル持ちあがるから、くぐれるでしょう。二等辺三角形の底辺は百の二乗マイナス四分の一がふたつ並び、斜辺はいずれも百の二乗プラス四分の一、そして垂直方向に高さ百センチと考えられるので」 
「ほう!」陸が目を輝かせた。「やるな。ロジカル·シンキングに計算力も伴ったか。しばらく会わないうちに、頭の回転が速くなった」 
漢那が莉子にきいた。「どういう計算?」
小笠原がいった。「赤道の長さは関係ないんだよ。百メートルぐらいは、地球の表面も平坦とみなすだけ」
たまたま電車の中で読んでいて,これはどういう計算なのかすぐに分からず,その後ネットで検索しても納得のいかない解答1解答2しか見つからなかったので,じっくりと考えてみたところ,ようやく解明できました.

まず問題の文章が不十分でした.赤道(地球を1周する円周)と同じ長さの紐を1cm延ばすのではありません.水平面上に「百の二乗マイナス四分の一」=$100^2-\frac{1}{4}=9999.75$ (cm) の2倍の長さの紐があってこれを底辺とし,その両端を0.5cmずつ計1cm延ばして中央を持ち上げ,「百の二乗プラス四分の一」=$100^2+\frac{1}{4}=10000.25$ (cm) の斜辺2つが屋根になるような(直角三角形を背中合わせに2個貼り合わせた)2等辺三角形の高さを求めるという計算だったのです.


ピタゴラスの定理で高さを計算すると,$$\sqrt{10000.25^2-9999.75^2}=100$$(cm) となり,確かに凜田莉子の出した解答と一致しました.

小笠原がいった「地球の表面も平坦とみなす」というのは参考になりましたが,「赤道上にぴんと張ってある紐」は「百メートルぐらい」ではなく,実際は$9999.75×2$ (cm) なので,200mぐらいというべきでした.