判断推理問題
国家公務員一般職で,研究費の不正使用を調査する部署に所属する水鏡瑞希(みかがみみずき)が税金目当てのエセ研究開発のねつ造を次々と見破っていくという話です.シリーズ中,何回か判断推理問題が登場しました.国家公務員の採用試験で出題されるそうです.まず自分で考えてみてください.
水鏡推理 I
Q1「三階建てのテナントビルに電器店、 喫茶店、書店が入居してる。以下の五つの条件のうち、ひとつだけが正しくほかはすべて間違いだ。喫茶店は一階でない。 書店は二階にある。 電器店は二階でない。 喫茶店は三階でない。 書店は三階にある」(各階にどの店があるか)
A1(Drag to see)「書店が二階とすれば、電器店は二階でないという条件が成り立ちますよね。 両方正しいから、ひとつだけ正しいって条件に反します。 なら、書店は二階ってのは成り立たない。同じく、書店が三階ってのと、喫茶が三階でないってのも、両方正しくなっちゃうから書店が三階なのは不成立。 書店は二階でも三階でもないから一階。 喫茶店が一階でないという条件のみが正しくて、あとは嘘。二階は電器店で、三階が喫茶店ですよね」
水鏡推理II インパクトファクター
Q2「先進五ヵ国の首脳会議が開催さ れたとする。オバマがオランドより早く会場入りしたが、安倍よりは遅れた。メルケルはオバマより先に来たが、オランドよりは後だった。オランドは安倍より早く現 れ、キャメロンよりは遅かった。われらが安倍総理はオバマより先、メルケルより後 に到着した。ところが、いま挙げた四つの情報のうちひとつは誤りだった。 どうやって順序を割りだす?」
A2(Drag to see)「条件をぜんぶ正しいと仮定して並べ、相互に矛盾している箇所をさがします。到着順は三人ずつ四パターン。安倍、オバマ、オランド。オランド、メルケル、オバマ。キャメロン、オランド、安倍。メルケル、安倍、オバマ。でもオバマとオラン ドについて、一文めと二文めでは順序が逆になってます。どっちかが誤りです。オラ ンドと安倍についても、一文めと三文めで矛盾してます。まちがった情報はひとつだけなので、該当するのは一文めです。ほかの条件はすべて正しいので、到着したのは キャメロン、オランド、メルケル、安倍、オバマの順です」
水鏡推理IV アノマリー
Q3「ある音大で、ピアノが弾ける人はバイオリンも弾ける。 ピアノが弾ける人のなかにはトランペットが演奏できる人もいる。ギターを弾ける人にはハーモニカを吹ける人もいる。ギターを弾ける人は、バイオリンを弾けない」
「以下の四つのうち、いくつ正しいといえる? ギターを弾ける人はピアノを弾けない。ハーモニカを吹ける人のなかに、トランペットが吹けない人がいる。ハーモニカを吹ける人には、バイオリンを弾けない人がいる。 バイオリンを弾ける人には、ハーモニカを吹けない人がいる」
A3(Drag to see)「五つの楽器をそれぞれ弾ける場合と、弾けない場合。組み合わせればすべての可能性は三十二通りですよね」
「ピアノを弾ける人はバイオリンも弾けるんだから、まず八通りが除外されます。 ギターを弾ける人はバイオリンを弾けないんで、さらに八通りが消えます。残り十六通りのうち、ピアノを弾ける人のなかにトランペット吹ける人がいるから、二通りのうち少なくとも一通りは該当します。 ギターを弾ける人のなかにハーモニカ吹ける人もいるので、こっちも二通りのうち一通り以上ありえます」
「頭の中で図表が書けているのか」
「 はい,ほんとに紙に書くより自由に大きさを変えたり欄を増やしたりできるので便利です。ギターを弾ける人はピアノを弾けない。ハーモニカを吹ける人には、バイオリンを弾けない人がいる。正しいのはそれらふたつです」
普通に小説を読む時のように読み流すとさっぱり分からなかったので,あとでゆっくり考えてみました.Q1とQ2は比較的易しかったので,Q3を解説してみます.
条件は次の4つです.
(a) ピアノが弾ける人はバイオリンも弾ける
(b) ピアノが弾ける人のなかにはトランペットが演奏できる人もいる
(c) ギターを弾ける人にはハーモニカを吹ける人もいる
(d) ギターを弾ける人は、バイオリンを弾けない
ピアノ,バイオリン,トランペット,ギター,ハーモニカを演奏できる人の集合をそれぞれP,V,T,G,Hとします.条件(a)よりP⊂V,(b)よりP∩T≠∅,(c)よりG∩H≠∅,(d)より$G\subset\overline{V}$なので,ベン図で表すと次のようになります.TとHはそれぞれPとGに一部が重なりますが,どこまで広がるかは確定していません.
正誤を判断したいのは次の4つです.
①ギターを弾ける人はピアノを弾けない
②ハーモニカを吹ける人のなかに、トランペットが吹けない人がいる
③ハーモニカを吹ける人には、バイオリンを弾けない人がいる
④バイオリンを弾ける人には、ハーモニカを吹けない人がいる
①は,$G\subset\overline{P}$なので,常に正しい.
②は,下図の反例があるので常に正しいとはいえない.
③は,Hは$\overline{V}$と共通部分があるので,常に正しい.
④は,下図の反例があるので常に正しいとはいえない.
従って,正しいのは①と③のふたつになります.
◇
一方,小説中の解答(上のA3)は別の方法ですが,説明が端折られているので分かりづらかったです.分かり易い表(PDF)をつくって解説を試みました.それを見ながら続きを読んでください.
ある人が5つの楽器を演奏できるかどうかは,$2^5=32$(重複順列)通りのパターンがあります.
(a)よりピアノを弾ける人はバイオリンも弾けるから,「ピアノは弾けるがバイオリンは弾けない」という8(他の3つは演奏できてもできなくてもいいから$2^3=8$)通りのパターンはないので32通りから除外されます.
(d)よりギターを弾ける人はバイオリンを弾けないから,「ギターもバイオリンも弾ける」という8通りのパターンはないのでこれも32通りから除外されます.
残り16通りのうち,(b)ピアノもトランペットもできるのは2パターンのうち1つ以上,(c)ギターもハーモニカもできるのも2パターンのうち1つ以上あります.これら4パターンをA,BとC,Dとすると,A,Bから1つ以上,C,Dから1つ以上の組み合わせは,AC, AD, BC, BD, ABC, ABD, ACD, BCD, ABCDがあり,それらすべて①②③④の中で常に正しいものを調べると①と③の2つになります.
それにしても主人公はこれを図表なしで理解できるとはすごいですね.