Saturday, 2 March 2019

小説 千里眼 The Start

2007年 松岡圭祐著 角川文庫

効果量 平均値 標準偏差 平均の速度

航空自衛官をやめて臨床心理士になる過程で,顔の表情から相手の考えが分かるという特技を身につけた岬美由紀が,その卓越した知識と身体能力で,さまざまな問題を解決していくという話です.

効果量
専務理事は美由紀にたずねてきた。「スミスとグラスのメタ分析で、任意の治療効果尺度について効果量を算出するとき、その計算方法は?」
美由紀は彼らと向かいあわせに椅子に腰かけていた。幹部自衛官という職業を経ている以上、こういう場で緊張を感じることはない。
思いつくままに美由紀は応じた。「治療群の平均値から、未治療統制群の平均値を引き、未治療統制群の標準偏差で割ったものです」
統計学における効果量 (effect size) にはd族とr族の2種類があり,この小説に登場した効果量はd族に属しています.d族の効果量は,2つのデータの平均値の差を標準偏差で割ったもの,すなわち,平均値の差を標準偏差が1のものになるように換算(標準化)したものです.例えば,あるクラスで,1回目の数学のテストの平均点$\overline{x_1}$が50点で,標準偏差$s_1$が15点だった.成績を上げるため全員に補習をしたところ,2回目の同じようなテストの平均$\overline{x_2}$は60点で,標準偏差$s_2$はやはり15点だったとします.この補習の効果の大きさを数値で表してみましょう.

d族の効果量は次式で計算します.$$\frac{\overline{x_2} - \overline{x_1}}{s}$$データの量も標準偏差も変わらない場合は,$s=s_1$として,$$Δ = \frac{60 - 50}{15}\fallingdotseq0.67$$となります (Glass' Δ).一般に0.5より大きければ効果ありといえます.r族の効果量のひとつである相関係数は1を超えることはありませんが,d族の効果量は1を超えることもあります.

この例の場合の1回目のデータを統制群 (control group) といい,補習という「実験」をした後の2回目のデータを実験群 (experimental group) といいます.従って,上の台詞の中の「治療群」が実験群にあたります.

スミスとグラスは,過去の複数の研究成果を分析(メタ分析)し,この式で効果量を算出して心理療法に効果があること(効果量0.68)を示しました.

データの量は変わらないが標準偏差が異なる場合は,$s= \sqrt{\frac{s_1^2 +s_2^2}{2}}$ (Cohen's d),データの量も標準偏差も異なる場合は,$s= \sqrt{\frac{(n_1-1)s_1^2 + (n_2-1)s_2^2}{n_1+n_2-2}}$ (Hedges' g) として計算する方法もあります.

平均の速度
「同じ道を行き帰りするとして、行きが速度六十キロ、帰りが速度二十キロ。平均の速度は?」
「ええっと、あの………四十キロ」
「三十キロでしょ。よく間違える問題なの。あなたこそ気をつけて」美由紀は笑ってドアを開けた。
とっさにこう聞かれると,60km/hと20km/hを加えて2で割り,40km/hと答えたくなりますね.行きと帰りにかかる時間がどちらも同じだと思ってしまうとこのような間違いをします.例えば60kmの道のりを往復するとすれば,行きに1時間,帰りに3時間,合計4時間かかるので,平均の速度は,120km÷4h=30km/hとなります.

[参考]
効果量 - Researchmap
https://researchmap.jp/?action=multidatabase_action_main_filedownload&download_flag=1&upload_id=49827&metadata_id=25538

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