Saturday, 27 April 2019

小説 秘密

2001年 東野圭吾著 文春文庫

置換積分

妻と娘がバス転落事故に遭い,妻が娘をかばって亡くなった.娘は助かったものの,心が妻のものに入れ替わっていたという衝撃的な状況の中で,夫がとまどいながらも妻のようにふるまう娘と一緒に暮らしていくという話です.
「えー,積分の証明問題かあ」
「ははあ,なるほど.これは結構難しいな.ええと,これはまずxの二乗イコールtと置いて,tをxについて微分してやるんだ」
$x^2=t$と置換して解く積分の問題で簡単なものをひとつ見てみましょう.$$\int2xe^{x^2}dx$$$x^2=t$の両辺を$x$について微分すれば,$2x=\frac{dt}{dx}$,$2xdx=dt$なので与式は,$$\int e^tdt=e^{x^2}+C$$となります.しかし,娘は医学部を目指す受験生ということなので,解き方を尋ねているとすれば,この問題は易しすぎますね.

少し難しいものならこんな問題があります.$$\int\sqrt{1+x^2}dx$$ただ,これを$x^2=t$と置換すると,解けなくはないのですが大変複雑な計算になってしまいます.また$x=\tan\theta$と置換しても解けますが,やはりかなり複雑な計算になります.少し難しい数学Ⅲの参考書には,知らないと絶対に思いつかないような置換 $x+\sqrt{1+x^2}=t$(実は$\exp(\sinh^{-1}x)$)が紹介されていますが,これでもやはり複雑な計算になってしまいます.

加法定理や微分公式などが三角関数(円関数)に似た性質を持つ双曲線関数を知っていれば,$x=\sinh t$ すなわち $x=\frac{e^t-e^{-t}}{2}$ と置換することで,もっと簡単に計算できます.$dx=\cosh t \ dt$なので,\begin{align}
\int\sqrt{1+x^2}dx&=\int\cosh^2t \ dt\\
&=\int\frac{1+\cosh 2t}{2}dt\\
&=\frac{1}{2}t+\frac{1}{4}\sinh 2t+C\\
&=\frac{1}{2}\sinh^{-1} x+\frac{1}{2}\sinh t\cosh t+C\\
&=\frac{1}{2}\ln \left(x+\sqrt{1+x^2}\right)+\frac{1}{2}x\sqrt{1+x^2}+C\\
\end{align}
この物語は娘の心が妻の心に置き換わったという話なので,著者はその中に登場させた数学の問題を「置換積分」にしたのでしょう(笑).

追記 2019/5/2

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映画の方には,娘の通う高校での数学の授業の場面がありました.極限に関する2つの条件を満たす2次関数を求める問題です.数学Ⅱを既習の人は解いてみてください.

正解は $f(x)=2x^2-7x+5$

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