Tuesday, 23 August 2016

ドラマ 受験のシンデレラ

2016年 NHK 原作:和田秀樹『受験のシンデレラ』(2008年小学館)

分数 三角関数 積分 実数 直円錐

人気塾講師五十嵐透が貧しい高校生遠藤真紀を東大に合格させようとする話です.1/2+1/3=2/5と答えた真紀に対し,お好み焼きを6等分して1/2+1/3=5/6を説明していました.

第3話
オープニングクレジット(Opening credits)にいくつかの問題が一瞬だけ表示されます.

①sinθ-cosθ=14となるとき,sinθcosθの値を求めよ.
この問題は,第4話から「sinθ-cosθ=1/4となるとき」に訂正されていました.高校数学Ⅱの三角関数の合成を習うと,sinθ-cosθ=√2sin(θ-π/4)と変形でき,この値の絶対値は√2より小さいことが分かりますから,sinθ-cosθ=14はあり得ません.たぶん,視聴者からの指摘があって訂正したのではないかと思われます.訂正された問題の正解は15/32になります.解いてみてください.
第4話

他にもかすかに問題が読み取れました.

②曲線y=x^2+x+2-2xと直線y=2mx+2で囲まれる部分の面積が最小値となる定数mを求めよ.
この曲線の式は同類項xと-2xがまとめられていないのが既におかしいですね.まとめると曲線y=x^2-x+2となりますが,このまま解くと面積の最小値が0(このときm=-1/2)になってしまって,間違いではないですが少しおかしな問題になります.

③実数t,x,y,zが下の条件を満たす.x,y,zのうち,2つが等しい値となるときのtの値を求めよ.
x+y+z=t
x^2+y^2+z^2=t^2-t+10
x^3+y^3+z^3=t^3-3t^2+4t+12
いろいろやってみましたが,すっきりした値が出ないので,zをyに置き換えてWolframAlphaに
solve x+2y=t,x^2+2y^2=t^2-t+10,x^3+2y^3=t^3-3t^2+4t+12
と入力してみたら,有効数字6桁のtの値が5つ出てきました.問題のどこかが間違っているような気がします.

④直円錐の頂点をP,底面の直径の両端をA,B,線分APの中点をQとする.このとき,点BからQに至る最短距離を求めよ.
これは具体的な値が与えれていないので,文字だけで計算することになります.母線APの長さをR,底面の半径をrとして,展開図の側面の扇形を考え,線分BQの長さを求めればいいですね.側面の扇形の中心角をθとすれば,θ=2πr/Rなので,△PQBの∠P=θ/2=πr/Rとなり,PB=R, PQ=R/2なので,余弦定理より
$BQ^2=R^2+\left(\frac{R}{2}\right)^2-2\cdot R\cdot\frac{R}{2}cos\frac{\pi r}{R}$
よって,BQの長さは次式になります.
$BQ=R\sqrt{\frac{5}{4}-cos\frac{\pi r}{R}}=\frac{R}{2}\sqrt{5-4cos\frac{\pi r}{R}}$

このドラマの原作者は東大卒の精神科医で,大学受験対策本や啓蒙書も多数執筆されていて,中には「なぜ数学が得意な人がエグゼクティブになるのか」とか「数学は暗記だ!」など,ちょっと気になる本も出されています.

(2017年1月3日追記)
最終回(2016年8月28日放送)の中で2017年1月15日センター試験「数学Ⅰ・数学A」の問題が少しだけ映っていました.もちろんフィクションなので本物ではありません.実際は,第1問から第3問が必答で,第4問~第6問から2問選択ですが,ドラマでは必答にすべき2次関数の問題が選択になっていました.読み取った問題を掲載しますので解いてみてください.

(ドラマの中の問題)
数学Ⅰ・数学A
第5問(選択問題)(配点 20)
2次関数
      y=-x^2+2x+1  …①
のグラフの頂点の座標は(ア,イ)である.また
      y=f(x)
はxの2次関数で,そのグラフは,①のグラフをx軸方向にp,y軸方向にqだけ平行移動したものであるとする.
(1) 下の(ウ)(オ)には次の⓪~④のうちから当てはまるものを一つずつ選べ.ただし,同じものを繰り返し選んでもよい.
      ⓪> ①< ②≧ ③≦ ④≠
2≦x≦4におけるf(x)の最大値がf(2)になるようなpの値の範囲は
      p(ウ)(エ)
であり,最小値がf(2)になるようなpの値の範囲は
      p(オ)(カ)
である.
(2) 2次不等式f(x)>0の解が-1≦x≦5になるのは
      p=(キ) q=(ク)
のときである.
(3) 2次不等式f(x)>1の解が-1≦x≦5になるのは
      p=(ケ) q=(コ)
のときである.

二次関数の最大値/最小値を求めたり,二次不等式を解くだけなら易しいのですが,このように,解が先に分かっていて元の関数の式を決定する問題は少し難しくなります.ドラマの中での主人公の解答は(カ)と(コ)が間違っていましたが,全科目900点満点中728得点だったので良かったですね.

(正解)
(1) (ア,イ)(1, 2)   (ウエ)≦1   (オカ)≧2
(2) (キ)1   (ク)7   (ケ)1   (コ)8

GeoGebraで正解を確認できるものを作ってみました.pとqの値を変えてみてください.
https://www.geogebra.org/m/CT4gKJvV

Monday, 22 August 2016

映画 Hidden Figures (予告編)

2016年 米国 Directed by Theodore Melfi, Distributed by 20th Century Fox

等辺 台形 二等辺 正四面体 4次方程式

まだ人種差別法が存在していた1960年代、NASA(アメリカ航空宇宙局)でマーキュリー計画に数学で貢献した実在のアフリカ系アメリカ人女性Katherine Johnsonたちを描いた映画です.2016年8月現在,まだ公開されていないので,予告編を見ただけでこれを書いています.
Katherine "equilateral, trapezoid, isosceles, tetrahedlon,....."
Teacher "I've never seen a mind like the one your daughter has."
最初の4語は,等辺,台形,二等辺,正四面体です.equilateral triangleなら正三角形,equilateral quadrilateralなら等辺四角形すなわちrhombus(菱形),isosceles triangleなら二等辺三角形になります.その次が,小学生の時の先生が両親にKatherineの才能について話した台詞です.飛び級していたのでしょうか,Katherineが高校生のクラスで,2次式×2次式=0という4次方程式を解く場面がありました.

$(x^2+6x-7)(2x^2-5x-3)=0$
$(x+7)(x-1)(2x+1)(x-3)=0$
$x=-7,\quad  1,\quad  -1/2,\quad  3$

日本語のタイトルは何だろうと思って探しましたが見つからないので機械翻訳してみると,「隠された数」「隠された図」などが出てきたのですが,figureには人物の意味もあり,栄光の陰で支えた人たちを描いているので,「陰で活躍した人たち」がいいのではないかと思います(検索したら中国語のサイトには「隐藏人物」と出てきました).

Tuesday, 9 August 2016

アニメ 山田君と7人の魔女 第1話

2014年 原作:吉河美希 製作:講談社(OAD)

ベクトル 微分積分

身体を入れ替ることができる不良生徒山田竜と優等生白石うらら,他に数名が超常現象研究部をつくって,同じ高校にいる7人の魔女探しをするという話です.冒頭でいきなり数学Ⅱの小テストの答案が現れ,できなかった山田竜を先生が叱っている場面から始まります.
先生「君は学校を何だと思っているのかね.この私立の名門,朱雀高校開校以来初めてだよ.毎日のように遅刻・早退を繰り返し,あちこちで喧嘩三昧,揚句,授業中に居眠りだと!? 山田竜!」
この小テスト,変なところががいくつかありました.
・小テストなのにやたら問題数が多い.
・「解答」と書くべきところがすべて「回答」となっている.
・どの解答欄も極端に狭い.
・なぜか横に緑茶の入った湯呑がある.
・数学Ⅱなのに数学Bや数学Ⅲの範囲の問題が出ている.
・しかも小テストにしてはけっこう計算の面倒な問題がある.例えば, 「次の曲線や直線で囲まれた部分の面積を求めよ」
(1) y=(x-e)logx, y=0
(2) (3) 略
(4) y=sinx, y=sin2x (0≦x≦π)
解いてみたらこうなりました.
(1) -1/4e^2+e-1/4(≒0.621)
(4) 5/2(=2.5)
(数学Ⅲを既習の人は確かめてみてください)
それにしても数学Ⅱの小テストなのですから,生徒の立場からすれば,出題範囲を越境しないでほしいですね.


Monday, 8 August 2016

小説 ラプラスの魔女

2015年 東野圭吾  (著) 角川書店

素数 ナビエ–ストークス方程式 ラプラスの悪魔
桐宮玲「もし,この世に存在するすべての原子の現在位置と運動量を把握する知性が存在するならば,その存在は,物理学を用いることでこれらの原子の時間的変化を計算できるだろうから,未来の状態を完全に予知できる――」
「ラプラスは,このような仮説を立てました.その存在のことは後年,ラプラスの悪魔と呼ばれるようになります.」
「ラプラスの悪魔」と呼ばれる知性を持つという主人公が女の子なので,このタイトルになったようです.数学では,ある物体の「現在位置と運動量を把握する」ということは「任意の点で導関数が満たす微分方程式を作る」ということを意味し,この微分方程式を解くことで,ある関数が求められ,それによってその物体の過去や未来の位置が計算できるようになります.

ナビエ–ストークス方程式は,流体(液体や気体など)の運動を表す非常に複雑な2階非線型偏微分方程式です. 「2階」は第2次導関数まで式の中にあるという意味で,「非線型」は「線型」でない,すなわち次の条件を満たさないという意味です.

        加法性: 任意のx,yに対してf(x+y)=f(x)+f(y)
        斉次性: 任意のx,αに対してf(αx)=αf(x)       

「偏微分方程式」は2変数以上の関数において,ある1つの変数について微分して得られる導関数を含んだ方程式という意味です.例えば,y=f(x)のとき,$\frac{dy}{dx}$はyをxで微分したもの,z=f(x,y)のとき,$\frac{∂z}{∂x}$はzを(x以外は定数と見做して)xだけで微分したものという意味です(∂は「ラウンド」とか「デー」などいくつか読み方があります).ナビエ–ストークス方程式は,難しすぎて未だに解決されず,クレイ研究所が「解けたら100万ドル」を贈るという懸賞付きの問題のひとつです.

ところで,$\frac{dy}{dx}$をもう一度微分すると,$\frac{d^2y}{dx^2}$になります.なぜ$\frac{dy^2}{dx^2}$ではなく,分子は$d^2y$で分母が$dx^2$と書くのかというと,$\frac{dy}{dx}$は$\frac{d}{dx}y$とも書けるので,$\frac{dy}{dx}$をもう一度微分すると,$\frac{d}{dx}\left ( \frac{dy}{dx}\right )$となり,分子はdが2個でyが1個,分母はdxが2個になるからです.(注)$(dx)^2$は$dx^2$とも書きます.$(AB)^2$を$AB^2$と書くのと同様です.