2025年11月19日水曜日

小説 数は無限の名探偵

2022年 朝日新聞出版

数学の話題を集めた短編集です.

第1話 事件÷出汁=名探偵登場

はやみねかおる

中学2年生の飴野千歳 (あめのちとせ) が,数学の得意な同級生真島尽 (ましまじん) に数学の話で振り回される話です.

ますます首をひねるわたしに,真島くんは楽しそうに言った.
「どこがおかしいか,自分で考えないとぼくみたいな人間にだまされるよ」
いたずらっ子の笑顔で言った. 
結局この話の中に正解が書かれていなかったので,ここで確認してみましょう.数式のはじめの2行の右辺にある「$\cdots\cdots$」は,小数点以下に同じ数字が無限に続くという意味で,公比0.1の無限等比級数になります.その和は,$$0.1111111\cdots\cdots=\frac{0.1}{1-0.1}=\frac{1}{9}$$ $$0.9999999\cdots\cdots=\frac{0.9}{1-0.1}=1$$となって,右辺も1/9と1になります.しかし,その後の「1000000$\cdots\cdots$」とか「999999$\cdots\cdots$」という表現は,小数点なしで同じ数字が無限に続くという意味になって ∞ の状態になってしまうので,「両辺を1000000$\cdots\cdots$倍」するとか「両辺から999999$\cdots\cdots$を引く」ということはできません.ここがおかしいところです.

仮に,「$\cdots\cdots$」をとって「両辺を1000000倍」したとすると,$$1000000=9999999$$ではなく,$$1000000=999999.9999999\cdots\cdots$$となりますから,「両辺から999999を引く」と,$$1=0.9999999\cdots\cdots$$となって式の2行目に戻ってしまいます.


第4話 ソフィーにおまかせ

青柳碧人

ソフィー・ジェルマン素数 (Sophie Germain prime)

小中学生向け短編小説集のひとつで,フランスの女性数学者ソフィー・ジェルマンの13歳のころと現代の14歳の少女との時空を超えた友情のお話です.たまたまですが,同じ年に「天球のハルモニア」というソフィー・ジェルマンの少女時代を描いた漫画が発行されています.

「Pが素数で、(2P+1)も素数である場合、このPを『ソフィー・ジェルマン素数』という」 のだそうです。ソフィーが提唱したこの素数は、暗号理論において、素因数分解アルゴリズムの攻撃に耐えうる整数Nを決定するのにとても便利・・・・・・なのだそうですが、何を言っているのか、実は、書いている僕にもよくわかりません。(著者)

この文章の意味を考えてみましょう.まずソフィー・ジェルマン素数ですが,pも2p+1も素数であるとき, pをソフィー・ジェルマン素数,2p+1を安全素数 (safe prime) といいます.次の表の〇のような場合です.

                                             素数                                            2, 3, 5, 7, 11, 13, 17, 19, ...
                                             ソフィー・ジェルマン素数          2, 3, 5, 11, 23, 29, 41, 53, ....
                                             安全素数                                     5, 7, 11, 23, 47, 59, 83, 107, ...

上の文章中,「素因数分解アルゴリズム」 とは,「こうすれば素因数分解ができるという手順」 のことで,その 「攻撃に耐える」 ということは 「素因数分解されにくい」 という意味になります.

RSAという暗号を作る際,素因数分解するのが難しい巨大な数を使うほど解読されにくいということを利用します.
・大きな素因数を持つ数は素因数分解が困難
・大きな安全素数2p+1は,2pがpという大きな素因数を持つ(例えば上の表で,2p+1=107のとき,2pがp=53という大きな素因数を持つ)
なので,安全素数は 「素因数分解されにくい整数を求めるのに有効」,すなわち 「素因数分解アルゴリズムの攻撃に耐えうる整数を決定するのにとても便利」 ということになります.

ところで,Wikipediaの「ソフィー・ジェルマン素数」のページに,説明なしで 「2と3を除くソフィー・ジェルマン素数は6n−1の形の素数である」 と書かれています.証明してみましょう.

(証明) すべての整数は6m, 6m+1, 6m+2, 6m+3, 6m+4, 6m+5 (mは整数)と書ける
このうち3より大きい素数は6m+1または6m+5の形しかない
p=6m+1のとき,2p+1=2(6m+1)+1=12m+3 は3の倍数となり素数にならない
p=6m+5のとき,2p+1=2(6m+5)+1=12m+11 はmの値によって素数になる可能性がある
よって,2と3を除くソフィー・ジェルマン素数は6m+5(または6n−1)の形しかない (QED)

1995年にワイルズによって完全に証明されたフェルマーの最終定理 (Fermat's Last Theorem)は,「3以上の整数$n$について,$x^n + y^n = z^n$ を満たす0でない整数の組$(x, y, z)$は存在しない」 (以下FLT(n)と表す)という定理で,フェルマー自身が証明したFLT(4)については,ドラマ「フェルマーの料理」に出てきました.ソフィー・ジェルマンはソフィー・ジェルマンの定理を用いてFLT(p)のひとつのケースが真であることを証明したそうです.

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