このブログの100作品目です!2017年 監督:
Marc Webb 脚本:
Tom Flynn
ガウス積分
亡き姉の子で数学の才能を持つメアリーを育てているフランクは,母から彼女に英才教育を受けさせるよう勧められますが,彼女を普通に育てようとして奮闘する話です.
大学の講義室の黒板に次の内容が書かれてあり,メアリーが間違いを指摘します.
Problem
Show that $\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{x^2/2\sigma^2}dx=\sqrt{2\pi}|\sigma|$
Hint: First show that
$\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\int_{-\infty}^{\infty}e^{(x^2+y^2)/2\sigma^2}dxdy=2\pi\sigma^2$
メアリー「You forgot the negative sign on the exponent.(指数に-をつけるの忘れてる)」
シーモア「Mary, why didn't you say anything?(メアリー,どうして言わなかったの?)」
メアリー「Frank says I'm not supposed to correct older people. Nobody likes a smart-ass.(フランクが年上の間違いを正すなって.嫌われるから)」
最後の"smart-ass”は字幕にありませんでした.直訳すると「賢い尻」ですが,「知ったかぶり」というような意味です.
メアリーは最初の式の $\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{x^2/2\sigma^2 }dx$ に-を付け足して $\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2/2\sigma^2}dx$ に訂正していましたが,その下の式の中の$(x^2+y^2)$の前にも-が必要です.
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ガウス積分 |
この証明すべき等式で$\sigma=\frac{1}{\sqrt{2}}$のとき,すなわち$$\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2}dx=\sqrt{\pi}$$を
ガウス積分といい,関数$y=e^{-x^2}$とx軸とで挟まれる部分の面積が$\sqrt{\pi}$=1.77245であることを示しています.この証明は他のサイトでも見つかりますが,この映画に出てきた$\sigma$のついたままの等式の導出を確認してみましょう.
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z=exp(-(x^2+y^2)) |
求める積分の値を $I=\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2/2\sigma^2}dx$ とおき,$I=\sqrt{2\pi}|\sigma|$を示します.
\begin{align}
I^2&=\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2/2\sigma^2}dx\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2/2\sigma^2}dx\\
&=\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2/2\sigma^2}dx\int_{-\infty}^{\infty}e^{-y^2/2\sigma^2}dy\\
&=\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\int_{-\infty}^{\infty}e^{-(x^2+y^2)/2\sigma^2}dxdy
\end{align} このとき,$I^2$は右上図の盛り上がった曲面とxy平面で挟まれた部分の体積を表しています.ここで $x=r\cos\theta$,$y=r\sin\theta$ と置換すると,\begin{align}
I^2&=\displaystyle\int_{0}^{\infty}\int_{0}^{2\pi}e^{-r^2/2\sigma^2}rd\theta dr\\
&=2\pi\displaystyle\int_{0}^{\infty}e^{-r^2/2\sigma^2}rdr\\
&=2\pi \left[ -\sigma^2 e^{-r^2/2\sigma^2} \right] _0^{\infty}\\
&=2\pi\sigma^2
\end{align}よって,この等式を示すことができました.$$I=\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2/2\sigma^2}dx$=\sqrt{2\pi}|\sigma|$$ところでこの式は,平均0で標準偏差$\sigma$の正規分布(ガウス分布)の$\sqrt{2\pi}|\sigma|$倍を表す式になっています.これを,平均μ,標準偏差σの正規分布を表す式に変形してみましょう.
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平均0で標準偏差1の標準正規分布 |
まず,確率密度関数の-∞から∞までの積分は1にならなければいけないので,両辺を$\sqrt{2\pi}|\sigma|$で割ります.$$\frac{1}{\sqrt{2\pi}|\sigma|}\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2/2\sigma^2}dx=1$$これを平均μになるように平行移動すると,$$\frac{1}{\sqrt{2\pi}|\sigma|}\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-(x-\mu)^2/2\sigma^2}dx=1$$となり,平均μで標準偏差σの正規分布を表す式に変形できました.