Saturday, 9 April 2022

映画 Marry Me

2022年 米国

sum  reciprocal  even  factor

婚約者の浮気を知って失望した人気女性歌手 Kat Valdez が,コンサート中に "MARRY ME!" と書いた看板をもっていた男性高校教師 Charlie Gilbert といきなり結婚すると言い出し,言われた方もOKしたことでいろいろな騒動が起こるという話です.

Charlie の授業中,白板に書かれた問題と生徒の解答です.

Find the sum of reciprocals of the even factors of 16
$\displaystyle \frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{8}+\frac{1}{16}=\frac{8+4+2+1}{16}=\frac{15}{16}$
これは「16の約数のうち偶数であるものの逆数の総和を求めよ」という問題です.16の約数は 1, 2, 4, 8, 16 で,そのうちの偶数は 2, 4, 8, 16 なので,それらの逆数をすべて加えると上の解答が得られます.

画面にあったその次の問題も解いてみましょう.
Find the sum of reciprocals of the even factors of 20.
これは解答がありませんでした.20の約数は 1, 2, 4, 5, 10, 20 で,そのうちの偶数は 2, 4, 10, 20 なので,その逆数の和は次のようになります.$$\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{10}+\frac{1}{20}=\frac{9}{10}$$
しかし,もっと大きい数になると約数の個数が増えるので,このやり方では大変です.そこで上手に計算する方法を考えます.例えば,$360=2^3 3^2 5^1$について考えてみましょう.約数の個数は$4\times3\times2=24$個もあります.約数の総和は$$(2^0+2^1+2^2+2^3)(3^0+3^1+3^2)(5^0+5^1)=\sum_{i=0}^{3}2^{i} \sum_{j=0}^{2}3^{j}\sum_{k=0}^{1}   5^{k}\tag{1}$$これは等比数列の和の積になるので,$$=\frac{2^4-1}{2-1}\cdot\frac{3^3-1}{3-1}\cdot\frac{5^2-1}{5-1}=1170$$この式(1)は展開すると24個の約数はそれぞれ $$2^i3^j5^k \quad (i, j, kは整数,0≤i≤3, 0≤j≤2, 0≤k≤1)\tag{2}$$と表せます.その逆数は$$\frac{1}{2^i3^j5^k}=\frac{2^{3-i}3^{2-j}5^{1-k}}{2^3 3^2 5^1}$$となるので,360の約数の逆数の総和は次のようになります.$$\frac{1}{2^3 3^2 5^1}\sum_{i=0}^{3}2^{3-i} \sum_{j=0}^{2}3^{2-j}\sum_{k=0}^{1} 5^{1-k}=\frac{1}{2^3 3^2 5^1}\sum_{i=0}^{3} 2^{i} \sum_{j=0}^{2}3^{j} \sum_{k=0}^{1} 5^{k}$$$$=\frac{1}{360}\cdot\frac{2^4-1}{2-1}\cdot\frac{3^3-1}{3-1}\cdot\frac{5^2-1}{5-1}=\frac{1170}{360}=\frac{13}{4}$$

さて,次に約数のうち偶数であるものの逆数の総和です.$360=2^3 3^2 5^1$の約数$2^i3^j5^k$の中で,$i=0$のときだけが奇数になりますから,式(1)から$2^0$を除いた次の式が,偶数の約数の総和になります.$$(2^1+2^2+2^3)(3^0+3^1+3^2)(5^0+5^1)=1092$$この式を展開すると18個の約数はそれぞれ式(2)と同じ$2^i3^j5^k$と表せますが,$1≤i≤3$になります.すると360の約数のうち偶数であるものの逆数の総和は次のようになります.$$\frac{1}{2^3 3^2 5^1}\sum_{i=1}^{3} 2^{3-i}\sum_{j=0}^{2} 3^{2-j}\sum_{k=0}^{1}  5^{1-k}=\frac{1}{2^3 3^2 5^1}\sum_{i=0}^{2}2^{i} \sum_{j=0}^{2} 3^{j}\sum_{k=0}^{1}  5^{k}$$$$=\frac{1}{360}\cdot\frac{2^3-1}{2-1}\cdot\frac{3^3-1}{3-1}\cdot\frac{5^2-1}{5-1}=\frac{546}{360}=\frac{91}{60}$$この方法なら,もっと大きな数でも約数のうち偶数であるものの逆数の総和を求めることができます.以上まとめて公式として書くと以下のようになります.

正の偶数 $n=2^k p_1^{k_1}p_2^{k_2}\cdot\cdot\cdot p_m^{k_m} \quad (k, k_iは整数,1≤k,0≤k_i,p_iは奇素数)$のとき,$n$の約数のうち偶数であるものの逆数の総和は,$$\frac{1}{n}\sum_{i=0}^{k-1}2^{i} \sum_{j_1=0}^{k_1} p_1^{j_1}\sum_{j_2=0}^{k_2}  p_2^{j_2}\cdot\cdot\cdot\sum_{j_m=0}^{k_m}  p_m^{j_m}=\frac{1}{n}\cdot\frac{2^k-1}{2-1}\cdot\frac{p_1^{k_1+1}-1}{p_1-1}\cdot\frac{p_2^{k_2+1}-1}{p_2-1}\cdot\cdot\cdot\frac{p_m^{k_m+1}-1}{p_m-1}$$
この公式を使っていくつか$n$の約数のうち偶数であるものの逆数の総和を確認してみましょう.

$n=16=2^4$のとき,$$\displaystyle \frac{1}{16}\cdot\frac{2^4-1}{2-1}=\frac{15}{16}$$
$n=20=2^2 5^1$のとき,$$\displaystyle \frac{1}{20}\cdot\frac{2^2-1}{2-1}\cdot\frac{5^2-1}{5-1}=\frac{18}{20}=\frac{9}{10}$$
$n=1080=2^3 3^3 5^1$のとき,$$\displaystyle \frac{1}{1080}\cdot\frac{2^3-1}{2-1}\cdot\frac{3^4-1}{3-1}\cdot\frac{5^2-1}{5-1}=\frac{1680}{1080}=\frac{14}{9}$$
$n=441000=2^3 3^2 5^3 7^2$のとき,$$\displaystyle \frac{1}{441000}\cdot\frac{2^3-1}{2-1}\cdot\frac{3^3-1}{3-1}\cdot\frac{5^4-1}{5-1}\cdot\frac{7^3-1}{7-1}=\frac{809172}{441000}=\frac{3211}{1750}$$このように数が大きくなると,約数のうち偶数であるものの逆数をすべて加えるより速く計算できます.

[参考]

Saturday, 2 April 2022

漫画 数字で遊ぼ。

2018年~ 絹田村子作 小学館

デデキンドの切断 ベクトル空間

抜群の記憶力だけで京都の吉田大学(京大がモデル)の理学部に現役合格した横辺建己が,入学後最初に受けた数学の講義をまったく理解できなかったことがショックでそのまま2年も留年してしまいますが,3年目からようやく友達もできてやり直し,その後数学科に進学して奮闘するという話です.

第1巻 第1話 極限は突然に

初日につまづいたからといって2年も留年するのはあまりリアルではないと思いますが,横辺建己にそこまでショックを与えたのはどんな内容だったのでしょうか.その入学後初日2時間目の講義は「微分積分学」で,デデキンドの切断を使って実数の連続性を示す準備となる,有理数の切断の話でした.

板書1
板書2

板書2の見えない部分を推測すると,次のようになると思われます.

$\exists a \in A \ s.t. \forall b \in A, \ b \leq a$  …①
または 
$\exists a' \in A' \ s.t. \forall b'$ $\in A', \ a' \leq b'$  …②
このとき切断(A, A')は,①のときは有理数aを定め,②のときは
有理数a'を定める
注意:①と②は同時に起らない

以上を分かり易く言い換えてみます.
(板書1)
有理数の全体$\mathbb{Q}$をその部分集合A(下組)とA'(上組)に分け(切断し),Aのどの元もA'のどの元より小さくなるようにする.
(板書2)
ある有理数が定まる切断は次の2通りのどちらかになる.
①Aに最大元$a$があり,A'には最小元がない.このとき有理数$a$が定まる.
②Aに最大元がなく,A'には最小元$a'$がある.このとき有理数$a'$が定まる.

③Aに最大元がなく,A'にも最小元がない場合,対応する有理数が定まらないので,実数を対応させることになります.実数の切断は①または②の場合しかないので,実数の全体$\mathbb{R}$が連続であるという話につながっていきます.

第2巻 第6話 酒と泪と男とベクトル

横辺建己が入学3年目になってやり直しを決意し,実在する書籍「理系のための線型代数の基礎」(永田雅宜著)のベクトル空間のところを読んでいます.

横辺「わ,わからない.ベクトルって矢印のことじゃないのかーーっ」 

a, b, cはベクトル,α,βはスカラー

矢印は物理で力や速度などに使われますが,ベクトル空間の一例にすぎません.一般には,足し算とスカラー倍ができて,上の8つの性質(最後の$1a=a$を除いて7つという場合もあり)を満たすベクトルの集まりをベクトル空間といいます.易しくいうと,$n$次元成分表示$(a_1,a_2,…,a_n)$と対応できるものの集まりはすべてベクトル空間になります.

例えば,$n$次元デカルト座標や$n$個のデータは$(a_1,a_2,…,a_n)$,複素数$a+bi$は$(a, b)$,上の多項式$x^2+2x+3$は$(1, 2, 3)$と表せるので,その集まりはすべてベクトル空間になります.なので,高校教科書では$\vec{a}$,$\vec{b}$のように上に矢印をつけますが,線形代数の専門書では矢印をつけず,太字で表すのが一般的です.

余談ですが,$n$個のデータが2つあって各々の平均との差(偏差)を表すベクトルを$\boldsymbol{a}$,$\boldsymbol{b}$とするとき,これら2つのデータの相関係数は次式で求められます.これは2つのベクトルのなす角の余弦になるので,正の相関が強いと同方向の$\cos{0°}=1$,負の相関が強いと逆方向の$\cos{180°}=-1$に近くなります.$$\frac{\boldsymbol{a} \cdot \boldsymbol{b}}{|\boldsymbol{a}| \ |\boldsymbol{b}|}$$

(参考)

実数の連続性(実数のデデキント切断)
https://wiis.info/math/real-number/definition-of-real-number/continuity-of-real-number/

ベクトル空間と基底
https://www.math.nagoya-u.ac.jp/~hisamoto/1W/hisamoto-1W17-03.pdf