2025年10月22日水曜日

小説 水鏡推理VII

松岡圭祐 2025年 講談社

判断推理問題

水鏡推理Ⅰ~Ⅵは以前ここに書きました.国家公務員一般職で,研究費の不正使用を調査する部署に所属する水鏡瑞希(みかがみみずき)が税金目当てのエセ研究開発のねつ造を見破っていくというシリーズで,今回は8年ぶりの書下ろし新作です.公務員試験で出されるような判断推理問題がいくつか登場しました.

同期女子2名があるK-POPグループについて話しているのを聞き,瑞希がそのメンバーの担当と年齢を当てる場面です.

「でさー」仁美は目を細めていた。「メンバーって、ひとりも年齢かぶってないよね?   十七から二十歳まで、四人がきれいに分かれてる
「そうだっけ?」文香が唐揚げを口に運びながら応じた。「サンウ推しだから、ほかはわかんない。でもジュノもヨンファも十七じゃなかったよね?」
「そりゃそう。ジュンギは十九だし」
「知ってるってば。ラップポジションは二十歳の・・・・・・ええと」
仁美がけらけらと笑った。「年齢とポジションがでてきて、誰だかわかんないの?  ダンスポジションは十八だよ?」
文香は真顔になった。「メインボーカルが十九じゃないってのは知ってる」
「リードボーカルは?」
「知らない」文香がそういうと、ふたりはまた笑い転げた。

ここまで読んで,一時読むのを中断して考えるという人は少ないでしょうね.直後の瑞希の答はこうでした.

「メインボーカルは十九じゃなくて、ラップが二十、ダンスが十八でしょ。消去法でメインボーカルが十七、リードボーカルが十九だとわかる。ジュノもヨンファも十七じゃないし、ジュンギは十九だから、また消去法で十七のメインボーカルはサンウ。仁美のスマホカバーに용화(ヨンファ)とあるから、十八のダンスは推しのヨンファ」
「なんや,スマホカバー見たんかい!」と言いたくなりますよね.それで仁美の推しはヨンファだと分かるのはいいとして,それが「二十歳のラップポジション」ではなく,「十八のダンスポジション」の方だということは,これまでのヒントだけでは分からないないのではないでしょうか.後になってゆっくり考えてみました.

ヒントを箇条書きでまとめると,
①4人の名はサンウ,ジュノ,ヨンファ,ジュンギ.17~20歳で異なる年齢
②ジュノもヨンファも17歳ではない.ジュンギは19歳 →なのでサンウは17歳
③ラップは20歳,ダンスは18歳で,メインは19歳ではないから17歳 →なのでリードは19歳

つまり,この同期女子2名の会話からは,メインボーカルは17歳のサンウ,リードボーカルは19歳のジュンギと分かりますが,仁美の推しがヨンファだからといって,ラップとダンスがジュノとヨンファのどちらなのかは確定できませんよね.

あるスーパーのパートタイムのシフトの話から,瑞希が目標とする人物が何曜日に働いているかを推理する場面です.

店長はレジのなかでノートを開いた。「ええと。うちでは男女でシフトが分かれていてね。募集してるのは平日。いま女性は武内さんと・・・・・・」
女性従業員のネームプレートには武内とあった。武内がレジに並んで入った。「田村さんと中山さん、原さんです。月から金で四人
ぶつぶつと店長が武内にいった。「週三ずつだな?」
「ええ。月金がふたりで木が三人
月金は同じメンバーで足りてるな? 火水も同じか?
いえ火曜には原さんが加わってたんじゃないかと・・・・・。わたしはいないのでよく知りませんが」
「あれが江国芳恵(偽名:中山)なのか?  なんでわかった?」
「平日は火水木の出勤だからです」瑞希は息を弾ませつつ早口に応じた。「月水金にふたり、火木に三人の出勤。月金は同じメンバーふたり。火曜の三人のうちひとりは原さんで、水曜は欠勤だけど、ほかのふたりは出勤。武内さんも水曜欠勤。条件を当てはめていけばわかるでしょ」
読み流しただけでは分からなかったので,条件を箇条書きにしてシフト表を作ってみました.
①月金と火水は2人が同じ.火は原を加えて3,水は2
②火は原がいて武内はいないので,他の2人は田村・中山
③すると月金は原・武内で,火水の原以外は田村・中山
④なので木は武内・田村・中山


というわけで,中山の出勤日は火水木になります.因みにこの日は武内が出勤しているので木曜日だったのでしょう.


瀬岐が問題を出して解けない瑞希に解説してやろうと,いいところを見せようとする場面です.
瀬岐がスマホの表示を読みあげた。「内科医のうち四人が各々ふたつずつ専門を掛け持ちしてる。年四回のシンポジウムに出席したけど、春は循環器内科医、呼吸器内科医、消化器内科医の出席。夏が消化器内科医、内分泌・代謝内科医、腎臓内科医秋は神経内科医、内分泌・代謝内科医、呼吸器内科医冬が神経内科医、血液内科医、アレルギー科医
瑞希は頭のなかに情報を刻みこんでいった。「掛け持ちの四人以外にも医師たちがいてシンポジウムに出席したんですね。それで?」
皆勤賞はひとりだけ。二回出席がひとり三回出席がふたり
「なるほど。問題はなんですか?」
三回出席したのは消化器内科医、循環器内科医、内分泌・代謝内科医の誰か。あるいは二回出席したのは血液内科医、腎臓内科医のいずれか。どれが可能性があると思う?」 

 瑞希は即座に答えてしまいます.考えた後で次の正解を見てください.(ドラッグすると見やすくなります)

「二回出席したのは、血液内科医と腎臓内科医のどっちでもないでしょう。だから消化器内科医、循環器内科医、内分泌・代謝内科医のうち、誰が三回出席したかですよね」
「早いな・・・・・・。なんでそう簡単に絞りこめる?」
「掛け持ちの四人のうち、四回出席したひとりが呼吸器内科医兼消化器内科医なら、春に重複してるから矛盾しますよね。支障がないのは消化器内科医兼神経内科医だった場合。この人が四回出席です。二回出席したのが誰なのかは特定できません」
「もうついていけなくなったな」
「確定できることにだけ的を絞ればいいんです。三回出席したのは呼吸器内科医と内分泌・代謝内科医ですけど、それぞれが兼ねてるもうひとつの専門分野は不明です。だけど問題に当てはめれば、内分泌・代謝内科医が三回出席。これが答えです」
「みごと正解だよ」

やはり文章だけでは分かりにくいので,表にして分かったことを箇条書きにしてみました.アルファベットは専門の頭文字です.(例えば消化器内科はSh)


①皆勤するには掛け持ちしている2つの専門に2回ずつ出席しなければならないので,専門は「Sh兼Si」しかない.
②3回出席するには,掛け持ちしている2つの専門のうちのひとつで2回出席しなければならないので,「NまたはKo」しかない.
③2回出席は多くの場合があって特定できない.
④問題文より「3回出席したのはSh、Ju、Nの誰か」で,②より「NまたはKo」だから,Nすなわち内分泌・代謝内科医が3回出席したことが確定する.

上の瑞希の台詞の中で,最初の「二回出席したのは、... 誰が三回出席したかですよね」は不要だと思いますがいかがでしょうか?

[参考]

<水鏡瑞希が満点の>「判断推理」って何?
https://kodanshabunko.com/suikyo/what.html#