中学時代にピッチャーで全国大会準優勝した新(あらた)真之介(しんのすけ)が,なぜか東大合格者数全国1位の超進学校に入学し,甲子園を目指すという話です.
「角運動量保存則を利用した等速円運動打法」を考案し,「強いのは野球のセオリーを作っているチームだ」という才女のヒカルさんが,打球の落下地点を知るための方法として,重力,摩擦抗力,揚力,粘性率,レイノルズ数などを考慮した流体力学の理論を話しました.
ヒカルさん「変数は,打球の水平面に対しての角度と速度と角速度.一応,抗力係数は0.6に設定してる.レイノルズ数がはっきりすればいいんだけど,信頼のおける実験結果が得られなかったから.計算上は105程度になるから,どっちみちナビエ-ストークスの方程式は使えない.(後略)」
ヒカルさんが画面を覗き込むようにしながらマウスをクリックすると,新たに浮き出たドットが,さらに複数の相対的にきれいな二次関数を描き出した.頂点を挟んで右側,つまり下り曲線が上り曲線よりも急角度だった.この数式を期待したのですが,このままでは複雑すぎるということで,その後,以下のように外的な力を無視し,単なる二次関数でボールの到達距離と時間を予測していました.話の流れからすると残念です.しかもその中の数式に1か所ミスがありました(読んだのは第3刷なので,その後訂正されているかも知れません).
ヒカルさん「初速度v0,水平面との角度θの放物運動する物体は,水平方向x鉛直方向yの二次元座標において,x=v0cosθ・t,y=v0sinθ・t-gt2 で表されるよね.ボールが到達する地点では y=0 だから,まずy式にそれを代入する.到達時間t2はもちろん0ではないから,式 t2=2v0sinθ/g が得られるでしょ.水平到達距離をx軸上のD点として,先に求めたt解をx式に代入する.だから,具体的には,D=v0cosθ・t2 を,v0cosθ・2v0sinθ/g に変換すると,これは v02sin2θ/g になるね.」式中の$g$は重力加速度9.8m/秒2,$t$は時間(秒)を表します.はじめの式 $$ y=v_0 \sinθ \cdot t-gt^2 $$ は,正しくは次式になりますね.$$y=v_0\sin\theta \cdot t-\frac{1}{2}gt^2\tag{1}$$この場合,速度は $$(\frac{dx}{dt}, \frac{dy}{dt})=(v_0 \cosθ, v_0 \sinθ-gt)$$ なので,これを$t$で積分すると,位置は次式になります(整式の積分なので高校数学Ⅱの知識でOK).$$(x, y)=(v_0 \cosθ・t, v_0 \sinθ・t-\frac{1}{2}gt^2)$$ この$(x, y)$から$t$を消去すると次式になります.$$y=\tan\theta \cdot x-\frac{g}{2v_0^2\cos^2\theta}\cdot x^2\tag{2}$$例え空気抵抗などを無視したとしても,相手がボールを打ってフライを上げた瞬間に,この計算をして外野手に知らせるなんて,超人的な能力ですね(笑).
なお,空気抵抗を加味した放物運動は,映画「ST赤と白の捜査ファイル」ですでに紹介しています.